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不完全ラズライト  作者: 深海船隻
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第七話 第二支配者

 

 エミの家は思っていたよりもずっと広大であった。いやエミの家というより柏邸と称した方が相応しいだろう。普通の家庭で育った自分とはまさしく次元というやつが違う。土地の値段だけでも黛家が一体何軒建てられることだろうか。

 加えて数年ほど前からこの豪邸に彼女はたった一人で住んでいるらしい。複雑な家庭環境が察せられたが無神経に聞くのは良くないだろう。エミにだって人に聞かれたくないことの一つや二つぐらいあるはずだ。


 樫添さん、萱愛と計画を発動した次の日から今日まで、私はこの家に住み込み続けている。親は色々と言ってきたが普段真面目に過ごしていたことが功を奏し、今のところは何とかまるめこめていた。やってることが極端なように見えるだろうが、少しでもエミに危害が及ぶ可能性は排除したい。全ては神楽坂藍里からエミを護るため。それだと言うのに……


「寒い、寒いぞ。このままだと凍えて死んでしまう」

「うるさいわねッ!!だったらもうちょっと早く走りなさいよッ!!」

「いや頑張るのは君の仕事だ、私を凍死させなくなければ頑張って引っ張りたまえ」


 現在、我々黛柏の両名は街の中を疾走している。

 いや正しく言うならば走る気のないエミの腕を引っ張り、私だけが死に物狂いで走っていた。


「なんでこんなクソ寒い季節にあんなことするかなぁッ!!」


 時は遡ること十分前。エミの家へ帰宅している途中、とある公園の前に差し掛かると彼女は突如私の腕を払って一直線に駆け出した。神楽坂と何か事を起こすつもりかと慌てて追いかけたが時は既に遅し。次の瞬間、既に彼女は飛び込んでいた。そこは真冬の極寒の噴水の中である。


 いや本当なんでそんなことするの?


 びしょ濡れの体を小刻みに震わせながら、「早く家に帰らねばここで死んでしまうぞ」と訳のわからない脅しをするエミをひっぱり走り、ようやく彼女の家の前にたどり着く。


「や、やっと着いたぁ」

「ふっ、今日も死ねなかったか。さすがは黛くんだ」


 柏はとてもいい笑顔でやれやれと両手を上げ降参する。心配している人の気も知らないで、全くこの女は性懲りもない。


「うっさいわね!さっさと風呂入りなさいよこの馬鹿!」

「はっはっは、そうだな。ありがとう」


 そして一呼吸おいて発せられる。



「黛くん」



 黛くん。その言葉が重くのしかかった。

 エミが私に対する呼び方を変えてから既に十五日が経過している。

 何度理由を聞いても君はもうルリではないからだとかわけのわからないことしか言わない。問い詰めるのも不自然であるから放って置いているがあまりいい気持ちはしない。確かに私はルリではなく瑠璃子であるのだが何だか釈然としなかった。


「うん」


 暗い思考に引きずられ生返事になってしまうも彼女が気にする様子はない。


「ん、君は入らないのかい?」

「いや私はちょっとすることあるから先にシャワーでも浴びてて。あといつも通り携帯」

「わかった」


 このことは私の心に小さなしこりとして残り続けていた。エミはいつもと変わらないのに私だけがなぜか心苦しい。携帯を受け取り家の中へとエミが消えたのを確認すると、押さえ込んでいた感情が露骨に顔の上に溢れ出す。


「なんなのよ……これもアイツがしゃしゃり出てくるからッ!!」


 苛立ちまぎれに道の端へ寄せてあった雪山に蹴りをお見舞いし、鞄の中から携帯を取り出すととある番号に電話をかける。


『はい、もしもし』

「もしもし萱愛。何か変わったことはあった?」


 電話の相手は萱愛小霧。エミの警護に協力してもらいたいと頼んだあの日から、彼には神楽坂藍里の周辺調査をお願いしている。

 戦いにおいて情報は命、相手を知ることは不可欠である。容姿と大体の年齢ぐらいしかわからないんじゃ話にならない。神楽坂の心の隙突き、【成香】を排除する方法を探る為にもあの女の情報は少しでも多く集めなくてはならなかった。


 しかし画面の向こうからの返事は芳しくないものであった。


『特にないですね。毎日規則正しく同じことの繰り返し、かなり遅い時間までバイトしていること以外は普通の子と比べて特に変わったことはないです。十四日からは放課後のことしかわかりませんが、黛さんが柏先輩を抑えている以上二人に接触がないことは確かです。電子空間を通じたやり取りまではわかりませんが』

「大丈夫よ。エミが一人になる時と寝る時には携帯は没収してるし、彼女の家にパソコンはない。しかも幸いなことに彼女の寝室外側からしか鍵が開けられないの」

『て、徹底的ですね……ってまたなんでそんな部屋』

「さぁ、エミのことだし密室に監禁されてなんのそのとでも考えてるんじゃないかしら」


 既に時は流れに流れて十二月二十二日。最初にエミと神楽坂が接触してから二週間以上が経つというのにびっくりするくらい何も起きていない。樫添さんが買い出しを引き受けてくれたおかげでクリスマス会の準備もだいぶ進んでおり、最近ではエミを見張ることよりも準備の方に心が向いてしまい、もしかしたら神楽坂は白なのではないかという考えまでもが頭をよぎり始めている。


「うん、本当にありがとうね萱愛。態々放課後まで」

『いいんですよ。普通の人なら付き合いとかがあるんでしょうが俺にはそんな資格はないんで……』


 その事について詳しくは知らない。だが風の噂を頼る限り、彼は故意ではないといえ親友を死に追い詰めてしまったらしいのだ。そしてその贖罪の為、萱愛はわざとそのことを周囲に打ち明け、全ての人間から敵意を向け続けられるという茨の道へと突き進んだらしい。事情を大して知らない身で口を出すのも憚れるし返事に困る。


「……うん、本当にありがとう。区切りとしてクリスマスが終わったら直接神楽坂に会いに行って真意を確かめる。その時は樫添さんと一緒にエミをお願い」

『で、でも危なくないですか?』

「いつかは終わらせなきゃいけないの」


 きっぱりと言い放つと萱愛も何かを察したのか、了解です、と一言付け加え電話を切る。


 通話が切れると重い体を引きずってゆらりと家の中に入る。正直疲れた。

 エミの身を護るため、もう二週間以上も休むことなく気を張り続けている。先ほどクリスマスを区切りとしたのはパーティーのことを考えたのではなく、神楽坂が黒だった場合持久戦を狙っているのかもしれないからだ。

 受け身になり続けていては獲物である私達はいつか消耗し尽くす。徐々に弱りゆく精神力と体力、多少のリスクを犯してでも攻勢に出なくてはいけなくなるリミットは近い。


 エミがシャワーを浴びていることを横目でチラリと確認すると廊下を曲がり彼女の部屋に入る。

 ベッドに寝転がりながら携帯を確認すると樫添さんから一件のメールが届いていた。何気なしに開いてみると「テーブルクロスの柄は何がいい?」とのこと。「なんでもいい」と適当に返すとすぐさま「これで最後なんだから真面目に考えてください」とお説教。


 クリスマスに不慣れな二人の少女で下準備を進めたところ、途中からやれあれが必要だった、やれこれも要るだと何度も買い物に行ってもらう羽目になってしまった。いや樫添さんには本当にすまないと思ってる。

 しかしそれもこれで最後、この間蔦屋でわざわざホームドラマを借りて予習したのだから最早やり残しはあるまい。


 ……正直、こんな時にこのようなことをしていていいのかという気持ちはある。エミが危険にさらされているかもしれないというのに催し物の準備などにうつつを抜かしていていいのだろうかと。

 しかしせっかくの機会なのだ。ここ最近疎遠がちであったエミとの関係をどうしても元通りにしたい。

 その為にはクリスマス会の準備にも一切手を抜くことはできないのだ。【成香】である神楽坂藍里の排除、そしてクリスマス会の成功。双方を持ってして初めてエミは私の元へ戻ってくるのだから。


 –——話を戻そう。


 先程樫添さんに言われた通り真面目に考えてみると、なんともエミにぴったりな模様を思いついた。だが名前をど忘れしたうえに、複雑すぎる為上手く口では説明できない。

 ちょっとメモに雰囲気描いて画像送るね。と送ると即座に、承知でーす。と返事が来た。


 筆記用具、筆記用具とエミの机を弄ると以前買った、いや正確には買わされた例のトナカイを模した間抜けなペン立てが目に入った。余りにも使いづらいので捨てようとしたのだがエミが欲しがったので今はここにある。

 相変わらずこの企画を通した奴の顔が知れない。ペン立てとした利用できる部分が全体の三分の一も無い上、何でできているかは知らないが無駄に重い。明らかな欠陥商品になんとも言えぬ微妙な気分になったが、他に鉛筆もペンも見つからないのだからしょうがない。ゆっくりと手を伸ばし角を模した茶色のペンを引き抜いたその時。



「五本……」



 ペンの本数が足りなかった。エミに渡した時は確かに六本屹立していたペン立てにはなぜか五本しかペンがない。私はこんなもの一度も使っていないし、エミも常に私に余計なことをしないよう見張られているのだから何かを書くような隙もないはずだ。

 なら何故ペンが減っているのか。最悪の可能性が頭をよぎり背中に一筋の嫌な汗が流れる。


「考えすぎよね」


 そうだいくらなんでも神経質になりすぎているのかもしれない。たかがペンの一本や二本無くなるくらい良くあることだ。

 しかしそれでも不安は抑えきれず、吸い寄せられるように足はトイレへと向かってしまう。懸念が杞憂に終わってくれることを願うも信じきることはできなかった。

 ガチャリと音を立てドアは開く。その如何にも開いてはいけないものを開いてしまったかのような音に苛立ちを覚えた。


 いくら豪邸といえどもやはりトイレは普通の家庭とほとんど変わらない。何かものを隠せるような場所は殆どないので大体のあたりはつく。


 便器の上に積んである予備のトイレットペーパーをじっと見やる。手を伸ばせばすぐに届くというのに真実を知るのが怖いのか無駄に動きは遅い。生唾で喉を二度ほど鳴らし、ようやくその手は眼前のトイレットペーパーを掴むに至った。


「ちっ、こんなことで何迷ってんのよ……」


 確かにもしもの事を思えば及び腰にもなる。だが現実は直視しなくてはならない、ここで妥協して逃げるようでは黛瑠璃子ではない。一度でも決断を渋った自分に腹が立ち、当てつけのように一思いに引き抜いた。



 胸のざわつきは最高潮を迎える。



 乱暴に振り回されたトイレットペーパー、その芯の中から何かが転げ落ちる。ひらりひらりと舞い降ち、カランコロンと間抜けに地を転げ回るは数枚のメモと一本のペン。疑惑は確信へと昇華し、心配は焦りへと躍進した。


「エミ!」


 嫌な予感は的中した。冷静になろうとしても動機は暴れまわり焦燥が止まらない。やはり彼女は私に何かを隠している。トイレットペーパーを壁に叩きつけ、メモを半ば握りつぶすように拾い上げると、ドアを蹴飛ばし浴室へと急ぐ。

 シャワーの音は聞こえるが、最早その程度で安心できるほど悠長な事態ではない。懸念した通りこちらも黒であった。問答無用で風呂場を開け放つもエミの姿は勿論着替えも姿を消していた。誰もいない空間でシャワーがただ湯を垂れ流しにしているだけである。


「クソッ、やられた」


 やはりエミは何か事を起こそうとしている。何か、いや間違いなく彼女は再び殺されようとしているのだ。

 エミが死ぬ。その言葉が反響し意味が染み込んでいくたび、どうしようもないほどの怒りと焦りで脳が沸騰していく。まるで自分が自分でなくなっていくかのような錯覚すら覚える。


 エミを殺すだと。許せない、そんなこと断じて許してなるものかッ。

 

 ただでさえ頭に血が上り切っている不安定な状態。そこにけたましい着信音が鳴り響き黛の精神を無神経に逆撫でした。大方いつまでも返信が来ないのを樫添さんが不安に思ったのだろうが、今は冷静に対応できる状態ではない。


「チッ、こんな時にッ!!もしもし悪いけど樫添さん今はそれどころじゃッ!!」

「お久しぶりです。黛瑠璃子さん」


 声を荒げる黛に対し、透き通るように冷たく静かな声。

 ブチリと、脳の血管が数本まとめて引きちぎれたかのような気がした。すぐに気付いた。忌々しい敵の顔がくっきりと頭に浮かび上がる。この声が誰のものか忘れることがあろうか。


「神楽坂藍里……」


 完全に繋がった。突然のエミの失踪にこのタイミングでの神楽坂の登場。もう言い逃れは出来ない、間違いなくこの女は私の敵だ。


「やっぱりアンタが一枚噛んでるってこと?エミをどうする気、返答次第じゃただじゃ済まさないわよ」


 ドスの効いた威圧的な物言いにも神楽坂はどこ吹く風。


「柏さん、いや恵美さんは今私の元へ向かっています」

「アンタやっぱり【成香】か!エミを殺す気か!?」

「黛さん私とゲームをしませんか?」

「はぁ?」


 思わず素っ頓狂な声が出てしまう。ゲーム、もしかして神楽坂はエミの命をそんなくだらない余興の為に犠牲にしようとしているのか。

 堪忍袋の尾が引きちぎれそうになるがここで感情的になっても意味はない。今は出来るだけコイツから情報を引き出すのが先決だと必死に自分に言い聞かせる。


「どうしました?」

「質問に質問で返すなってアンタ親にしつけられなかったのかしら?」

「私とあなた、どちらが恵美さんの支配者に相応しいか賭けをしようと言ってるんです。私が恵美さんと合流出来れば私の勝ち。先にあなたが恵美さんを見つけることができたならあなたの勝ち。簡単でしょう?」


 私の挑発など反応する価値も無いとばかりに神楽坂は淡々と述べる。だが一つの言葉が引っかかった。正直、怒りを通り越して呆れてしまう。この女は何を馬鹿げた事を言っているのだ、無謀で荒唐で滑稽な妄想だと鼻で笑う。


「支配者?笑わせないで欲しいわ。殺すのならともかくエミがあなた如きに支配されるとでも?冗談のセンスが無–––––」

「できますよ」


 そこには一瞬の迷いも無かった。だというのに違和感しか感じない。自信に満ち溢れているのとは少し違う。例えるなら地面を指差しながらここは日本だと宣言しているような感覚。当たり前の事をさも当然に言う。神楽坂にとって自分がエミの支配者となるのは宇宙開闢以来の法則のレール上、概念レベルで絶対であると断言しているかのように聞こえた。


「凄いわね。自己評価に溺れて溺死してる人間なんて始めて見たわ」

「いいえ虚勢でも過大評価でもありませんよ」


 間が生まれる。神楽坂藍里はとっておきの切り札を突きつけるように深く言葉を噛み締めこう言った。



「私にはその能力がある」



 ……拍子抜けした。何を言い出すかと思えば所詮は【成香】に頭を喰われたただの器か。そうだと納得してもあまりの脈絡の無さに軽い目眩がした。


「今更実は電波でしたで言い逃れしても遅いわよ」

「面白いこと言いますね。それでのるんですか?それとも柏さんの事は諦めますか?」

「のるにきまってるでしょ。その代わりこの茶番が終わったら永遠に私の視界から消えてもらうわよ」

「ふふ、勝つこと前提ですか。強気ですね。わかりました万が一黛さんが勝った場合はこの街を去ることを約束しましょう」

「別に約束なんてしてくれなくてもいいわよ。二度と私達にちょっかい出せなくなる程度にトラウマ刻み込んであげるだけだから」

「承知しました。今丁度一七時三十分、それではスタートです。位置の関係上、早くしないとどんどんあなたが不利になりますよ。それでは健闘を祈ります」


 【成香】からの宣戦布告はそこで途切れる。静寂の中で冷たい炎は静かに揺らめき暴発する。


「何がしたいのよアイツッ……」


 思わず怒りに任せ携帯を叩きつけそうになるが、なんとか思い直しその場にしゃがみ込む。ゆっくりと深呼吸をし沸騰した頭を少しずつ冷やしていく。

 落ち着け。別に怒れば事態が解決するわけじゃない。今、そしてこれから何をするべきなのか考えろ。あの程度の挑発でペースを乱されるな、私らしくもない。

 息を吸いただ吐く。思考の熱が冷めていく。無駄な感情は体外に排出され、そこには余計な雑念の消えた純粋な脳だけが残る。仮説、作戦が頭に浮かんでは消え、浮かんでは消えて行き徐々にその純度を増していく。


 冷静沈着な性格、優れた状況把握能力に思い切った判断力。そして何より手段を選ばない容赦のなさと底無しの執着心。ただの普通の少女黛瑠璃子を、支配者ルリへと変わらしめた部分をこれまでの平和な日常より非日常へと引きずり出す。


 賭け自体は悪くない展開だ。意図が読めない上明らかにこちらが不利な条件だが、絶対有利の高台から勝手に同じ土俵に降りてきてくれた以上これを利用しない手はない。


 罠の可能性も高いが、それならそれも考慮に加えた上で出し抜けばいいだけの話だ。こちらは数年がかりで駆け引きを学んだ玄人、それに比べ相手は所詮狂気に頭を喰われただけのド素人だ。今は余裕ぶれていても、泥沼に持ち込めれば必ず経験と慣れ差で圧倒できる。


 一つ不安なのはやはり目的が見えないことであった。今までの【成香】は皆基本的にエミの殺害を第一に行動していた。だが神楽坂藍里は違う。支配者などという曖昧な括りにこだわる上に、一言もエミを殺すと口にしていない。そしてなによりエミを殺したいだけならわざわざこんな回りくどい提案をするわけがない。どちらかと言うとエミより私を主体として動いているように見える。私を先に排除し、楽しみながらエミを殺したいとでも思っているのだろうか。


 止めだ、分からないことは考えたって分からない。

 一先ずエミを見つけるより、居場所が既に割れている神楽坂の方を抑えたほうが確実である。

 柏邸を飛び出し萱愛に連絡をしようとすると携帯が鳴りそこには彼の名が写っていた。足早に駆けながらこれをとる。どうやらあちらも異常事態に気付いたらしい。


『もしもし』

「萱愛。今神楽坂はどこ」

『はい。あの人よくわからないんですがいつものバイトとは別の方角へ向かっていったんで一応報告を。あっ、今は三丁目の商店街の近くです』

「分かったわ今すぐ追ってくれる?」


 ん。と一声溜めると萱愛の声色は差し迫ったものへと切り替わった。


『やはり何か起きたんですか!?』

「エミが動き出した。このまま合流されたら彼女は神楽坂に殺されるかもしれない。あんたにはあの女を抑えて欲しい」

『は、はいッわかりましたッ!!黛センパイは?』

「私はエミを追う」


 エミを助けることができるかそれとも無残に殺されてしまうのか。神楽坂との、そして最後の【成香】との決着はこれからの数十分で決まる。

 絶対にエミを殺させたりなんかしない。もう一度必ず護りきる。覚悟を決めた次の瞬間、目的地へ向け黛の脚は大きく跳ねた。


 何が探し出せだ。エミの考えてることがこの私に分からないとでも思ったか。これはかくれんぼではない、ただの純粋なスピード勝負である。


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