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不完全ラズライト  作者: 深海船隻
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序章 黛瑠璃子は完全を求める

 

 クリスマス(英: Christmas)は、イエス・キリストの降誕(誕生)を祝うミサである。12月25日に祝われるが、正教会のうちユリウス暦を使用するものは、グレゴリオ暦の1月7日に該当する日にクリスマスを祝う。


 キリスト教に先立つユダヤ教の暦、ローマ帝国の暦、およびこれらを引き継いだ教会暦では日没を一日の境目としているので、クリスマス・イヴと呼ばれる12月24日夕刻から朝までも、教会暦上はクリスマスと同じ日に数えられる。


 なお、キリスト教で最も重要なミサと位置づけられるのはクリスマスではなく、復活祭である――――って、こんなこと調べて一体何になるのか。いくら深夜だからって迷走しすぎである。


 その夜、黛瑠璃子まゆずみるりこは自分のノートパソコンとかれこれ一時間ほど睨めっこをしていた。

 凝り固まった肩をほぐしながら、ふと窓の外へ目をやる。

 温かい室内とは対照的に窓の向こうは極寒の体をなしている。雪がしんしんと降り積もる様子は、見ているだけで身震いしたくなるほどだ。


  ――――あぁ駄目駄目。もう十二月入ったんだから流石に動き出さないと。


 いくら暖房を入れてるとはいえこの季節だ。

 正直さっさと切り上げて早く布団に包まれたいのだが、そういうわけにもいかない。


 電子画面に表示される時刻をチラ見すれば、後十分程で午前二時となる。

 長い針がてっぺんに行ったら流石に寝よう。

 そう心に決め、気怠げにマウスを滑らせると、なんか「クリスマス初心者のためのガイドブック」とかいうあからさまなサイトが目に入ってきた。

 碌でもないものと察しながらも思わず開いてしまう。


「……はあ、世の女性様はこんなモノ見て喜んでるの、信じられない」


 開幕早々男を落とすためのテクニックベスト10やら、今年トレンドのモテファッションなどといった頭の悪そうな記事のオンパレードに心底ウンザリする。

 外面だけ整えて築いた関係など所詮騙し合いにしかならないというのに、何をこんなに必死になってまで自分を着飾うとするのだろうか。

 文句をつけながらも流し読みしてみるが、すぐにクドイまでの絵文字にイラっとしブラウザを閉じた。


「どいつもこいつも聖夜そっちのけで性夜のことばっか……これじゃあ時間の無駄ね」


 投げやりにシャットダウンをクリックし、電源が落ちるのを確かめもせず、そのままベッドへと倒れこむ。


  ――――クリスマスか。


 黛瑠璃子はクリスマスを知らない。

 いや知識として知ってはいるのだが、具体的な経験はというとほとんど無きに等しい。

 小さい頃は両親がしこたまご馳走を拵えて、それらしく祝ってくれたような記憶はあるが、まあ所詮はその程度である。


  黛ぐらいの歳になると気の合う友人達と集まり、クリスマスを口実にどんちゃん騒ぎをするのが世間で言うところの青春というヤツなのだろうが、生憎彼女はそのようなことに興味も縁も一切なかった。


 そして当然、()()()()と過去形にしたのは、今は普通に興味も縁もあるからである。


  ――――エミ、ふふふふッ。


  思わずにやけ顏にもなる。

  柏恵美。今の黛には彼女がいる。

 今まであらゆることに興味を持てなかった自分が、唯一惹かれ友達と認めた存在。友情なんて単純な言葉で表現していいものかは分からないけれど、少なくとも彼女が良き友人であることに違いはない。


  まぁ、あの変人っぷりが見ていて飽きないというのもあるのだろうが――――一番はやはり恵美のそんなところが好きなのだ。


  自分の立場や体裁を守る為に汚い嘘をついたり、表では仲の良い風を装っておきながら、裏では平気で悪口を言ったりする人間を、黛はこれまで数え切れないほど見てきた。

 だが、そのような人間の醜い部分、俗に言う上辺というやつが彼女には一切存在しないのだ。

 殺されたがりに関してはドン引きでしかないが、そういう誠実な面に対しては人間として尊敬していると言っても過言ではない。


 ――――友達なんてものが、まさかこんないいものだったなんてね。


 これまではつまらなく思ってきたこともエミと一緒にいるだけで何だか楽しく感じてくる。そんな不思議な魅力を彼女は持っているのだ。


  エミをこの手中に収めるまで、何度も陰惨な修羅場をくぐるはめにはなったが、全く惜しいものではない。エミが死なずに済んだのならば黛はそれだけで満足できる。


  と、ここで終われば美談で話は済むのだが、しかし黛瑠璃子も人間だ。親しいものとはさらに親しくなりたいと思うのが世の人の情である。


  しかしここで一つ問題がある。いや問題などという簡単な言葉で片付ける気はない。これは黛瑠璃子の存在の根本に関わる重要案件なのだから。


  ――――率直に言うと、最近エミが冷たい。


  冷たいと言っても、それほど露骨に避けられているわけではないのだが、以前と比べれば交流の機会は確実に減った。折角同じ大学に入ったというのに逆に疎遠になるとはどういうことだ。


  それでも、それだけなら全く会っていないわけでもないので、ただ単にタイミングの問題だろうと諦めもつくのだ。

 しかし、第二にエミが最近自分のことを見てくれていないような気がする。

 ただの被害妄想のように聞こえるかもしれないが、それは確かな違和感であった。エミと二人で話しているにも関わらず、彼女の意識が別の何かに向いてしまっているように感じるときが最近多々ある。


 理由はわからないが、正直死ぬほど辛い。

 折角手に入れた唯一無二の親友が、今までのどうでもいい人間関係のように雲散霧消してしまったらと思うと気が気でない。


  そこで何か特別な催し物を通じて彼女との距離を縮めたいと思い立ち、今まで完全にノーマークであったこのクリスマスとやらに目をつけたのである……が、進捗は頗る悪い。


「今までずっと一人でいたのが一人で考えても埒が開くわけないわね。もう今日は諦めて寝ましょ」


 流石に夜更かしが過ぎたのか瞼がすさまじく重い。考えなくてはならないことは多いが今はとにかく惰眠を貪りたい。

  もぞもぞと分厚い布団に潜り込めば一瞬で全身は心地よい熱に包まれる。一度を瞳を閉じてしまえば其れ迄、次の瞬間には寝息がたち、朝まで途切れることはなかった。




※序盤のクリスマスに関する記述をwikipedia「クリスマス」の項目より引用しています。

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