6話
ゲームにおいて、安全な倒し方と効率的な倒し方は別であることはままある。
先の戦闘で、赤牛の動きを見切った俺は、牛が非アクティブであることを利用して、初撃でほぼ決着をつける戦いを行った。
すなわち、一気に距離を詰め、《スラッシュ》で攻撃。
それによって牛が一瞬のディレイを受けた隙にもう一撃通常技を浴びせるという戦法だ。
最初の一匹こそ恐怖で足がすくんでしまったが、10匹倒すころには慣れてきてスムーズに狩れるようになった。
ヒーラーであるレイさんが一緒に戦っているというのもあるだろう。たまに俺がダメージを受けても、《ヒール》によってすぐさまHPは全快する。
レイさんはレイさんで、治癒スキルをとって火力が低いぶん、飛行を使って高所から突き刺すことでカバーしている。
そんな狩りを1時間ほど続けただろうか。
「こいつで50!」
そんなレイさんの掛け声とともに、俺たちは狩りをやめて、岩のところまで戻る。
「いやーコウ君おつかれ!肉いっぱい手に入ったからこれでしばらく焼肉かな!飽きなきゃだけどね!」
「味付けって塩と胡椒くらいしかないからほぼ確実に飽きますよね……」
「激マズ英国料理と焼肉交互に食べれば飽きないよ! まあとりあえず食べてみようか!」
そう言ってレイさんは岩から飛び降りて歩き出す。
「食べてみるってどこで……?」
「ん? ここでだけど?」
レイさんは牧場主の小屋を指さし、どんどん歩を進める。
「あの、いくらNPCとはいえ人の家にいきなり入るのはハードル高いんですけど……」と、コミュ力の低さを露呈する俺だったが、レイさんはそんな言葉を無視して上がりこむ。
「おっちゃん、ちょっと台所借りるでー!」と陽気そうなおじさんのNPCに声をかけ、何やらウインドウを操作したレイさんは、その言葉通り台所で肉を調理し始めた。
「へー…… 宿屋以外のNPCの家の設備も借りれるんですね……」
「せやよー さすがにここから《ファーストキャピタル》まで行くのはお腹減るしな。なんならここに部屋借りるんもできるけど、それはそれで街遠くて不便やし」
そんな解説をしながらレイさんがてきぱきと料理を進める間、手持ちぶさたとなった俺は牧場主らしいおじさんと世間話をしていた。
曰く、数年前から牛が狂暴になり、肉をとるのが難しくなったので通りすがりの冒険者たちに狩りの依頼をしているということらしい。
表に立っているおばさんから依頼を受けた際とほぼ同じ話しか聞けなかった俺はがっかりしたが、相手をしてもらったおじさんが嬉しそうにしているのでまあ良しとしよう。
おじさんの笑顔を見ていると、NPCと話しているという感覚が薄らぎ、本当に人と話しているように感じてしまう。
そんなふうに時間をつぶしていると、どうやら料理が出来上がったらしい。
「はい!焼肉! まだ料理スキル低くて単純な料理しか作れんのや…… 適当に塩と胡椒振って食べてな!」
そんなふうに言われて肉を口にした瞬間、肉の歯ごたえと塩コショウの味が広がった。
「うめえ! レイさんこれウマいっす!」
「にひひひ!そりゃなによりで」
気が付くと俺はほぼすべての肉を一人で食べてしまっていた。
「あ…… レイさんの分残ってない……」
「いーのいーの! 私は自分の分は完成品をとってあるから気にしない! さて、ここで相談なんだけど、コウ君が食材を集めてウチが料理する。この分担でどうや? ウチはヒーラーやからあんまり食材集めるのも早くできへんし、コウ君は料理スキル取ってないやろ?」
その申し出をもちろん承諾し、以降分担して食事を用意するということになった。
遠距離での連絡手段に乏しいこのゲームにおいて、待ち合わせというのは大変なのだが、日没後にレイさんが《ファーストキャピタル》で借りている部屋に集まるということにし、朝ごはんの分までまとめて作るということになった。
内心、「あれ?これ通い婚じゃね?」と思わないこともなかったがスルーして、ギブ&テイクが成立したことを感謝するべきだろう。
そうやって、当面の食糧問題について解決した俺たちは、今日はそこから別行動して情報の収集にあたることに決めた。
一段落