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5話

 「牛狩りや!!」

 「朝からなんですか暑苦しい」

 FWOの世界は現実と季節が同期しているので、本日8月3日は普通に暑い。

 「コウ君冷たいなぁ」

 「俺はまだ眠いんですよ…… 昨日あんなことがあって朝からそんだけ騒げるレイさんの方がおかしいんですよ……」

 「そんなこといわんでーな、おいしいゴハンを食べれば気分もきっとよくなるで?」

 「まあそこには同意します。昨日のレストランの料理何ですかアレ、野菜はアホみたいに茹でられてる上に味付けが無く、パンは死ぬほど堅いうえに味がしないわ……」

 たぶんあんな飯食って堅いベッドで寝て朝からレイさんみたいなテンションでいられる人はあまりいないんじゃないだろうか。

 「あーコウ君知ってた? あれ言ってしまえばマズいイギリス料理そのままなんだよね。だから、野菜は塩かけて食べればいくらかましになるで」

 「たとえ塩味がついててもあの食感は許し難いですけどね……」

 「とまあ、無駄話はここまでにしといて…… 牛狩りや! 牛はここ《ファーストキャピタル》東の《イースト牧場》におる。ベータの時は牛肉落としたんで、それ焼いて食えば激マズ英国料理よりかましになるやろ。まあ、あとは現地で説明するわ」

 レイさんはそういって、意気揚々と東門へ歩き出す。俺はそんなレイさんを追いかけるように《ファーストキャピタル》をあとにした。

 

 1時間ほど歩いたころ、いかにも牧場という感じの草原についた。周囲には赤い牛がたくさんうろついていたが、見た目に反して非アクティブのようで近くを通っても襲ってくるようなことはなかった。レイさんは近くに会った岩に腰かけ、説明を始めた。

 「よし、着いたな。ここが《イースト牧場》や、名前まんまやけどな。そこの家の中にいるおばちゃんから牛狩りクエスト受けれるから受けときや。で、その牛《レッドブル》の攻撃は2つ、遠距離なら突進、近距離なら角振りしてきよる。まあ、何やかんや言って弱いと言えば弱いしコウ君一人で狩ってみ? まだFWOで本格的な戦闘したことないやろうし。突進誘発して避けて後ろから刺せばほぼ大丈夫や! がんばりやー!」

 そう言われて、俺はサーベルを抜く。構え方なんか知らないので自然体で立っているだけなのだが、右手に持っているサーベルは心地よい重量感を感じさせた。

 

「せあっ!」

 気合を入れて、一気に距離を詰め、一度大きく切りつける。

 それを受けた赤牛が驚いたように振り向いたのを確認して、距離を開ける。

 遠距離に敵がいると認識した赤牛は突進のプレモーションに入り、今にもこちらに駆けようとしている。

 その赤牛の姿を見た俺は既存のMMOとVRMMOの戦闘の違いを遅まきながら理解することとなった。既存のMMOではプレイヤーはPCの画面を眺めながら戦闘を行い、多くの場合キャラクターの視点ではなく、上から見下ろすいわば神の視点で戦闘を行う。

  しかし、VRMMOにおいてプレイヤーは、キャラクター自身の一人称視点で戦う。既存のMMOなら小さく見えていたような雑魚モンスターでも、巨大に見える。

  それゆえ、その戦闘は単純に恐怖を呼び起こす。たとえ実際に攻撃を受けるのが仮想の体であり、痛みもほぼなく死亡しても復活できるという状況であっても、多くのプレイヤーにとって自分の体が攻撃されるのは嫌な感覚であろう。

 怒れる赤牛を前に、俺は恐怖で足がすくんでしまった。

 「ええっと…… 攻撃してスミマセン……」

 そんな謝罪を牛が理解するはずもなく、ぶもーという叫び声をあげながら突っ込んでくる赤牛によって、俺の体はなすすべなく吹き飛ばされた。

 「たたたた……レイさんこれ怖いです……」

 「にひひひ!まあウチもベータの時はだいぶ怖かったけどねー、慣れよ慣れ。はいはい、次の突進くるよー?」

 「うおわっ!?」

 奇声を発して今度は何とか突進をよけた俺は、ふたたび赤牛の正面に立つ。

 怖くない怖くないと自分に言い聞かせ、落ち着いて奴を見つめる。

 どうやら突進のプレモーション中に軸を外しても修正してくるらしい、とあたりを付けた俺は、牛の突進が始まった瞬間に大きく横に跳びのいてかわす。

 間髪入れず、突進をかわされてきょろきょろしている牛の背後めがけ、サーベル基本単発スキル《スラッシュ》を放つ。

 刀身が光をまとい、システムによって加速されたその一振りは、最初の切り払いと合わせて赤牛を絶命させるに足る十分なダメージを与え、一瞬後に赤牛はそのアバターを派手なエフェクトと共に散らした。

 「よっしゃ初勝利!!!」

 リザルトが表示され、わずかばかりの経験値とシルバーを得た俺は思わず叫んだ。

 「はいはい初勝利おめでとう。それじゃあ、本来の目的を思い出して本格的に牛狩りするよ!」

 俺を回復させながらそう言ったレイさんに従い、俺たちは本格的に飯を得るため、牛狩りを開始した。 


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