4話
あの大聖堂でのやり取りの後、俺とレイさんはNPCレストランで作戦会議をしていた。
時刻は午後7時、あのメッセージが届いてから1時間半ほどが経過したことになる。
「さて、まずどこから話そうか。ホントはこんな悠長にしてる暇ないんだけど…… まあ、とりあえずゴハン食べよか。腹が減っては戦はできぬ!」
そう言って、よくわからない野菜と堅いパンを頬張るレイさんだったが、こんな空気でマズいものは喉を通らないらしく、無理している感じがバリバリ出ている。
「このFWOではね、NPCも生活してるんよ。彼らも、ウチらと同じように朝出勤して夕方に帰るっていうね。そんでここからが大事、NPCの店は在庫に限りがあるんやね。NPC達もそれを食べて生活してる。周り見てみ?NPC達も結構ご飯食べてるやろ?」
そう言われるままにあたりを見回すと、そこには確かにプレイヤーに交じってNPC達が夕ご飯を食べていた。
「んでね?すべてのNPCショップの商品は在庫に限りがあるの。ベータの時は普通にお腹へったらログアウトしてゴハン食べればよかったけど、ログアウトできなくなったこの世界ではそういうわけにもいかん。そんで、お腹が減ると仮想の世界だとしても力が入らなくなったりっていう補正はあるみたいなんよ。そもそも、お腹へってもそのまま活動できる人は限られてるやろうし。そんで、NPCの在庫は、ログアウトできる場合のバランスのまま。つまり、どういうことかわかる?」
「えーっと……NPCショップの食糧の在庫はそのうち尽きる?」
「正解正解大正解! だからウチらは自分たちの分のご飯は自分たちで集めなあかん」
レイさんの言うことはわかる気もするし分からない気もするが、とりあえずご飯を食べるまで空腹感があったということは事実だ。そして、その空腹感を抑えて戦闘などをこなせるかと言われれば、それはNOだ。
「でも、飯を集めるって具体的にどうやって……」
「ふふん、それでウチのベータの時の知識が生きるのよ。この町を出て東の方に行くと牧場地帯があって、そこには狂暴化した牛モンスターがいっぱいおるんや。本当ならレベル5くらいにならんと辛いんだけど、チュートリアル終わったばっかのレベル3でも二人でうちがヒールしながらしっかりやれば狩れないことはない。日没以降はモンスターのパラメータ上がってて危険やから明日朝また中央広場集合やな。ログアウト不可になった以上、他のゲーム仲間はログインできないやろうし……」
その後もいくつかの懸案事項について話し、当分の方針として、何らかの手段で脱出できるようになるまでは、この世界を新しい現実世界と考えて生きていくべきだという結論で一致した。
そこまで話して、そろそろ時間も遅いしということでお開きとなった。
レストランから出て宿を探していた俺は、ふと空を見上げた。そこには、おそらく現実とは違うのだろう星空と、2つの月が輝いていた。それを見た俺は、ここが本当に現実世界ではないということをひしひしと感じた。
「もう向こうの世界帰れないかもなぁ…… まあ、ヒキニートみたいなもんだったし別にいいか……」
などとつぶやきつつ、適当な宿を見つけて部屋を借りた。
通りに面したその部屋からは、通りのにぎやかな喧騒が聞こえてきたが、窓から見えたカーソルはすべてNPCで、プレイヤーは一人もいなかった。
「そうだよな…… こんな時ににぎやかに騒げるプレイヤーはいないよな…… 明日から頑張ろう」
疲労感からよく眠れたがベッドはとてもかたく、「早いとこいい部屋見つけよ」とひそかに決心したのだった。
イギリス料理はマズい
さてコウとレイはどうする