3話
「あ、レイさんちょっと待ってください。なんかメッセージの着信が……」
「うん、ウチにも来た。なんやろね」
そんなことを言い合いつつ、メッセージ一覧を開く。
「新着メッセージが一通、運営からですね……」
そのメッセージには、「現時刻を持ってFWOからのログアウトは不可能となります。」という短い文章が刻まれていた。
「これどういうことだ? ログアウト不可能?わけ分かんねえぞ」
「文面通りに取れば、私たちはもうログアウトできないってことだろうけど……」
レイさんはそういってメニューを操作する。
「うん、ほんとにないね。自分でも見てみ? ログアウトボタンが消えとる」
そううながされメニューを確認すると、確かにこの世界からの唯一の脱出手段であるログアウトボタンは消失していた。周囲を見れば、ログアウトできねえぞ!などという怒号が飛び交っている。どうやら全プレイヤーにあのメッセージは送られたらしい。
「確かに消えてますね……ってええええ!? マジでログアウトできないのかよ…… 腹減ってきたから飯食いたいのに!」
と、今の状況が信じられない俺は少し空気を和らげようとしたが、それに対する例の返答はいたって落ち着いたものだった。
「コウ君、これそんな悠長な問題やないよ。うちが中学生くらいの時かな、ゲームに閉じ込められてデスゲームっていう小説が流行ったんよ。これ、その小説内の状況とめっちゃ似てる」
「デスゲーム? それはどういう……?」
俺のその問いに、レイさんは押し殺した声で答えた。
「HPが0になったら現実の自分も死ぬってことよ」
その返答に、俺は大いに驚いた。もしこのゲームの中で死ねば現実の俺も死ぬ……?
その絶望した感情が顔に出ていたのだろうか
「大丈夫大丈夫! その小説の中では、って話だから。FWOがそれと同じようにHP尽きたら現実で死ぬかどうかはまだわからんやん! そや!死んだらどうなるんか復活の大聖堂見に行けば良いんよ!」
復活の大聖堂は、名前の通りこの周囲のフィールドで死んだプレイヤーが復活するポイントとなっている建物だ。
「あー、そうですね。死んだら現実で死ぬなら誰も復活して来ないし。復活できるならたまに復活者がいるはずですね」
「そゆこと。すぐそこだから急いでいくよ」
そう言ってレイさんは全速力で走っていった。
「あっちょっと待ってくださいよ!」
という俺の声は届くことなく、諦めて彼女を追いかける羽目になったのであった。
なんとか大聖堂につくと、そこには俺やレイさんと同じことを考えたのであろうプレイヤーたちが数十人ほどいた。
「へー、同じこと考える人けっこうおるもんやねえ」
「そりゃまあ、気になることは気になるでしょう…… 大多数の人はまだログアウト不可能ってだけでパニック状態みたいですけどね」
そんな会話をしながら、誰かが復活してくるのをしばらく待ったころ、レイさんが口を開いた。
「おっ、コウ君見てみ? どうやら死んでも現実で死ぬって線はなさそうよ」
そう言われて復活の魔法陣のほうを見ると、まばゆい光とともに一人のプレイヤーが姿を現した。それを見た周囲のプレイヤーの間には安堵の空気が広がっていった。
そして、この復活を他よりも人一倍喜んでいる集団に話を聞くと、近くのフィールドでパーティ狩りをしていた彼らはログアウト不可というメッセージが来て動転した隙にモンスターにやられてしまった一人が心配で見に来たとのことで、死ぬ瞬間と復活の瞬間をともに見ていたということになる。つまり、ゲーム内で死ぬと現実で死んだり、脱出できたりするわけではないということが確定したわけだ。
「ふむ、情報提供ありがとう。それから、周りにいるみんな! 今の話は聞こえたかな? FWO内で死んでも普通に復活は可能ってことを可能な限り多くの人に伝えてほしい! 死んでも復活できるとなれば少しはみんなの空気感も和らぐと思う!」
そう語ったレイさんは、とても堂々としていて、流石リーダーといった感じであった。