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初投稿です、alieといいます。
拙作ですが、最後までお読み頂けると幸いです。
※多視点です。
※最後の方に分岐があります。その都合で同じ文章を繰り返す部分がありますが、御了承願います。
※ブラックモード推奨です。
では、どうぞ!
〜Guardian〜
…何で……?
何でそこにいるの、ここを知っている筈ないのに。
でも…来ちゃったからには…護らなきゃ。
「…絶対に…私と同じ結末は…辿らせません。」
そう呟くと、私は目一杯息を吸って、叫んだ。
「こんなところで…何をしていらっしゃるのですか!!」
…絶っっ対に、"彼ら"は護らねば。
それと、あの女の人は………
「まさか……ね。」
いや、私はあの二人を……
…一筋縄では行かなそうだ。
〜Impossiblity〜
「佑葵、良い情報があったよ!!」
とある金曜日。
そう言って俺、鷹野佑葵の元に寄ってくるのは、とある同じ大学の、とある同じサークルで活動している同い年の女、秋目琴穂だった。
俺たちの所属するサークルとは、簡単に言うとオカルト研究のサークルだった。まぁ、興味本位で心霊スポットとかに行くだけだが。
「今回はやばそうだよ佑葵…」
そういって目を見開き、ゴクリ、と唾を飲む琴穂。お前は小説のキャラかなんかか。
そして、ジャジャーン、とでも言わんばかりの勢いで、背後に隠していた紙を俺の顔の言葉通り、目の前に突き出した。
「近ぇよ、てか読めねぇよ。」
何故か俺が一歩下がり、紙を読む。
“行ったら二度と戻れない!?究極の恐怖スポット!”
見出しですら気持ちが悪いし、てかそもそもコピーだとしたらURLが無い。…手打ちか?いや、琴穂ならやりかねない。
…と、教室に一人の男が入ってきた。
「おお、鷹野と秋目じゃん。」
「あ、龍斗、新しいスポット見つけたんだ!これなんだけどさ……」
嬉しそうに話し始める琴穂。話し相手の男は萩原龍斗。オカルト研究サークルに所属しているのはこの3人と、あともう一人、園田美由という女子がいる。
ちなみに全員、同学年だ。
「でね、佑葵は良いって言ってたから今週末行こうと思うんだけど、」
…おい。
勝手に決めんな、勝手に。
「…悪りぃ、その日俺行けねぇわ。」
龍斗が行けない宣言。
「えー…じゃあ佑葵、二人で行こっか。」
「いや、予定変えろよ!」
思わず突っ込んでしまった。
「いやいや佑葵クン、自分は構わないんだよ?」
ニヤニヤしながら俺と琴穂を交互に見る龍斗。
「じゃあお言葉に甘えて、行こうよ、佑葵…?」
… な ぜ お 前 は 上 目 遣 い な ん だ よ ?
「…ったく…しゃあねぇな。」
俺は渋々、承諾した。
…その日はどうも、授業に集中できなかった。別に楽しみなわけじゃ…ない、ハズ。
〜Abnormalized〜
夕刻の6時を過ぎ、サークルの活動場所には俺と、琴穂だけが残っていた。
「あのね佑葵…今回私の調べた“霊蘇祠堂”は、山の神が祀られる祠で、生命の根源とも言われるくらいの場所…つまり幽霊の出やすい場所なんだ。」
「なるほど、確かにそれは結構興味深そうだな。」
「でしょでしょ!?」
異常にテンションを上げる琴穂。まあ俺らにとってこの手の話題は、興味の的でしかないから、こういう反応は至極普通である。
「でね、ここには幽霊とは別に…“凶獣”がいる、っていう話があるの。」
「それって…?」
「凶暴な獣…人殺しの化け物っていう風に言われてるんだよ。」
…気持ちが悪かった。
幽霊でも人為でもない何か…多分それに向けている感情は、"恐怖"より寧ろ"畏怖"と言った方が良いのだろう。
「とにかく、また明日、行ってみればわかるよ。」
じゃあね、と告げて部屋を出て行く琴穂。
その背中が闇の中に消えて見えなくなると、俺は小さく、ため息を吐いた。
「本当に…大丈夫かな…」
いつもと違い詳細を伝えてこない彼女に一抹の不安を抱きながらも、俺は信じるという結論に妥協するほか無かった。
だって疑ったところで、何にもならないだろ…?
…きっと俺たちは、その"危険性"について、もっと討論すべきだったのだ。
〜Doubting〜
明くる朝、俺と琴穂は2人の自宅の最寄駅に集合し、駅前で一緒に遊んだ。普通に平和な、どこぞやのカップルと何ら変わらない行動だった。
「なんか…佑葵とデートしてるみたいだね。」
…何故かそこしか記憶にないのが、とても悔しい。
夕方、そこから電車で3時間、俺と琴穂は霊蘇祠堂の最寄駅についた。
「うはー………田舎だねぇ…」
正面に広がる夕映えする山は、俺の心に残る不安を増幅させる様な佇まいだった。
「さあ、歩くよ佑葵!!」
「……………へ?」
「だーかーらーっ!歩くよってば!」
待て、もう既に3時間も経ってるんだぞ!?
こんな上に山まで登らされるなんて聞いてない。というか死んでしまうよ…琴穂サン…?
「しゅっぱーーーつ!!」
隣で無限のエネルギーを発している女に思いっきり引っ張られ、俺の、行かない、という断固たる決意は簡単に破れた。もとより行かないなんて決断、許されないとはわかっていたけど。
…歩き始めて2時間あまり、辺りはすっかり暗くなり、俺の足は限界を迎えていた。
「ほら佑葵、へこたれない!」
「いや、もう本当にガチで無理…」
俺の方が体力あるはずなのに何で……と思って琴穂の顔を見ると、案の定笑顔だった。まだまだ余裕を感じるのが末恐ろしい。
オマエはガキか、と言いたい気持ちを飲み込んで俺は休憩を乞う。
「琴穂…マジで5分休ませて。」
「えー…しょうがないなぁ…5分だよ?」
そういって近くの岩に腰掛けた俺の横に座る琴穂。琴穂はこっちを見ると、何かを思い出したかのようにゆっくりと、話し始めた。
「佑葵とはさ、中学の頃から一緒だったよね。」
「ああ、思えばもう何年だろうな。」
言われると長かった。好きだった時もあったし、…付き合っていた時もあった。でも今はどっちかというと、いい友達…そんなつもりだ。もちろん下心がないか、と聞かれると……
「…………。」
「で、それでどうした。」
「いや、ただ長い付き合いだなーって。」
そこで会話が途切れ、しばらく続く沈黙。
……10分ほど経っただろうか。突然、琴穂がこちらへ寄りかかってきた。
「おいおい…そろそろ出………」
言いかけて、やめた。
琴穂は…寝ていた。…きっと口には出さなかっただけで疲れていたのだろうし、別に責めようとも思わない。
「そうだ…霊蘇祠堂について、少し…調べておこう。」
そう思って、琴穂をそっと膝の上に乗せて携帯を開く。
検索サービスを展開し、霊蘇祠堂、と検索をかける。
……………………………。
「…………無い……。」
…一つも、検索結果が出ないのだ。
「そんな筈は……」
そう思って様々な心霊スポットのサイトを転々としていくが、やはり、無いのだ。
…つまり最初から、霊蘇祠堂なんて存在しない。そう思う他に納得のしようがなかった。
「……うぅ…ん……?」
琴穂が起きたらしく、俺はすぐに携帯を閉じた。まるで慌てて事実を隠すように…
…ダメだ、絶対に琴穂を疑っちゃ…ダメだ。
「…起きた?」
「うん…ごめん、私寝てたみたい…」
「いや、大丈夫だよ、行こう。」
「…まあいいや、佑葵のヤル気が出たんならこっちも頑張らなくっちゃね…!」
また琴穂はこちらに無邪気な笑みを向ける。
…こんなのを見ても琴穂を疑う自分が否定できない。だからこそ…霊蘇祠堂なんてなければいいのに。もし一言冗談だよ、といってくれれば落ち着くだろうに……
…琴穂が足を止める気配はなかった。
…さらに山を登る。その最中で琴穂は、俺にある質問をしてきた。
「…佑葵はさ、霊蘇祠堂について調べたり…した?」
…怖い質問だった。果たしてこれにYesと解答していいのか。
「いや、特に調べたりは…してないよ。」
「…そう…だったらいいんだ。」
…やはり何か引っかかる。何かを隠している気がする。
「なあ琴穂…ちなみにあとどれ位で着くんだ?」
「え、あと少し…て言うかもう着くよ、霊蘇祠堂。」
そういって琴穂が指差した方向には、細い道が伸びていた。道の先は暗くて、…何も見えない。
俺らはその道に…足を踏み込んで行った。
……とある"目"が、俺らを捉えていたことに、俺らは気づかなかった。
〜Stamping〜
…どこからか、声が聞こえる。
何かの…呻き…声……だった。
「気味が悪いね…佑葵。」
「ああ。これが琴穂の言ってた…」
そう言いかけたとき、足元に何かが当たった…というか踏んだ。
石ころでも蹴ったのではないかと、ライトを下に向けた。
…そしたら、
「…うわああぁぁぁぁああッッ!!?」
…足元には…
………女の…"死体"が、転がっていた。
…凶獣、と言う言葉が脳裏を走る。しかし、その割に死体は…小綺麗だった。
「…死体………」
そう呟くと、琴穂も呟いた。
「…ねえ佑葵、私達さ……」
落ち着き払っていたが、その声は強ばっていた。
「…………囲まれて…ない…?」
周りを見回すと……俺らの周りを…無数の光が、獣の気配が………
「嘘……だ…ろ………?」
…俺らを、囲んでいた。
…どうしよう、どうしようどうしよう……!
(こんなところで…何をしていらっしゃるのですか!!)
…その女の声は唐突に、脳の中に直接響いてきた。
「…誰!?」
そう呟いたのは、琴穂だった。
「…琴穂にも、聞こえるのか?」
(…私は貴方達に話しかけているのです。)
…やっぱりそうだ。
「私達に…何か用ですか。」
ぶっきらぼうに回答する琴穂。
…っていうか、この声の主は何処に?
(私に…実体はありません。)
「…はァ?」
素っ頓狂な声をあげてしまった。
…そうだ、これは夢かもしれないと思って、目の前の琴穂にチョップする。
ベシッ……
「痛っ…なにすんのさ佑葵!」
「いや、夢かなと思って。」
「だったら自分にすればいいでしょ!」
……琴穂の逆チョップが飛んできて、俺は現実だとわかった。
(……大丈夫ですか?)
「…貴女は?」
(…まあ強いて言うなら、男の方が、踏んで…いらっしゃいますよ。)
…わずかに恨みのこもった口調でそう言った…ちなみに俺の足元には、先程の死体が。
「…悪ぃな。」
…てか良く見るとこの女、美人だな。
「……佑葵、あんまり不謹慎な事考えると…コロスよ?」
琴穂に釘を刺される。
…まだなんにも言ってねぇだろうが…これが女の勘ってやつか。
(変態男……ゴホン。)
…おいおいコイツまで…
(あ、申し遅れました、私はツキと言います。)
…ツキ…?
どこかで聞いたことありそうな響きを反芻していると、琴穂が話し出した。
「そっかー、ツキちゃん宜しくね!…私は………」
(秋目琴穂さんと鷹野佑葵さん…ですよね?)
「ッッ……!?」
…背中をなぞられた様な寒気が走った。
それは紛れもない、俺らの大好きなはずの"恐怖"によるものだった。
〜screaming〜
(………。)
…やっぱり、間違いない。
目の前の女、秋目琴穂には、"何か"が宿っている。そうでもなければ、私が二人の名前が一瞬にしてわかった理由の説明がつかない。いや…あるいは…
と言うのも、どうやら幽霊同士には、共鳴作用があるらしいのだ。(私を幽霊と呼ぶかは謎だが)
そして、その"何か"とは恐らく…この"祠堂の神"だ…。
さて、どうやって"祠堂の神"に勝つかな…。
(…私が言いたいことは三つです。そして質問には、全て事実を答えてください。)
…慎重に行かなければ…もし失敗したら全てが水泡に帰す事になる。
(一つ目…貴方達は今、私の作った凶獣を寄せ付けない結界の中に居ます、そして、私が私の"実体"に戻ると、結界が消滅し貴方達は凶獣に襲われます。)
無言で聞き入る二人。
(…二つ目。どのような経緯でここへ来ましたか?)
「…琴穂に此処の事を教えられて、それで、ここまでは電車と徒歩で来たんだ。…俺は此処の事を全く知らなかったから、道案内も全部琴穂だ。」
佑葵の回答はそうだった。
対する琴穂は黙っている。此処は何としてでも喋らせ、少しでも真実を洩れさせなければ。
(…何故ここを知ったんですか?)
「…私が一昨日、心霊スポットのサイトで見つけたんだ。」
…嘘だ。サイトは"存在しない"から、そんなんで知れる筈がない。
「…………。」
ダメだ。
(三つ目……私がこんな状態になったのは、ある"神"のせいです。その神はあちらにある祠を破壊すれば能力を失い、凶獣も大人しくなります。しかし、あの祠の周りは結界が張れないのです。だから、あそこは危険です。また、その"神"は……)
「…なあツキ…?」
佑葵が何かを言う。
(…何ですか?)
「…素直に助けてくれ、って言えばいいじゃねぇか。」
〜〜〜〜ッッ!!
それは、私さえも気付かない私自身の出す"SOS"だったのかもしれない。
「これは飽くまで俺の推測だが…ツキには、この世への未練があんだろ?」
(…そうです。)
「そしてお前が実体に戻れるのは、あの祠がある間だけ…しかもお前には凶獣の"恐怖"が植え付けられていて、かつ人間の脚力レベルでは祠までたどり着く前にまた意識を吹き飛ばされる、そんなとこか。」
ほとんど当たりだった。
(…でも、それだけでは駄目なんです。私は……)
「…そんなに"琴穂に憑いてる奴"が怖いのかよ?」
琴穂が驚いているから、きっと打ち合わせはしていない。確かに私は琴穂に憑依する"祠堂の神"を恐れている。それにしても…
…なんで、こんなに鋭いのだろう。
男とはもっと、鈍いというか適当というか、もっとこう…見ず知らずの他人になんて、優しくできないんじゃないのか。
(…そうです、彼女は祠を壊せばしばらく意識を失います、が、貴方にはそこまでする理由が無いはずです。)
…そうだ。私は助けにすがっちゃ…いけない。私が彼らを…
「人を助けるのに理由なんて要るのか?」
…勝てないなぁ、この人には。
戦ってもらいたいという気持ちに、従おう。
(…勝負は一瞬です。結界の外から祠に行くまでの距離はおよそ500m。それまでに凶獣に捕まる、あるいは包囲されれば、ほぼゲームオーバーと言っていいでしょう。)
…ああ、私も…素直じゃないのかな。
「ねえツキちゃん…私は…何をしたらいいの?」
(…ここに…待機していてください。そして、私が貴方を起こします。)
「…わかった。」
さて、私達と凶獣の、一大勝負が始まる。
「…よし、琴穂…ツキ、行くぞ!」
〜Surrounded(bad1)〜
…俺は全力で、祠のある方へと駆け出した。
…凶獣達の目が俺を捉える。
そして、凶獣達は血相を変えて走り出した。
「……速…過ぎないか…?」
…祠まで後30m程度。
前後左右から迫る凶獣に俺は…
…囲まれていた。
「は…はは……こんなんで、負けるか…。」
絶望…だった。
でも…やらなきゃ…琴穂とツキが…!
俺は前を阻む凶獣を飛び越える様に……
「…ッッ……!!」
…噛み付かれた…!?
足に走った痛みと共にバランスを崩し、凶獣達の中に崩れ落ちる。
そして俺は、凶獣達に囲まれた。
ガルルル……
血に飢えた獣の舌鼓。
ああ、せめて、せめて祠までは………
…獣が襲いかかってくる
手足、胴体が紅く染まる
琴穂…ツキ……………
…間に合わなくてごめん…
…………………………。
…凶獣に捕らえられた惨めな男の少し遠くで、結界を失った二人の女の断末魔の悲鳴が響いた。
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━━━━
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〜Too late(bad2)〜
俺は祠めがけて全力で駆け出す。
「こんなふざけた呪縛…俺が断ち切ってやる!!」
…目の前には凶獣が。
「クッ………少し回るしか…!」
そう、死ぬわけには行かないのだ。
…狂ったように襲いかかる凶獣を避ける。
…避ける、また避ける…クソッ…全然進まないじゃないか…!!
……少し離れたところから響く、獣の雄叫び。
…イヤな予感に首を横に振り、俺は再び祠に向かって走る。
…そして俺は、祠にたどり着いた。
そして、軽い恨みを込めて祠を…
「このッ……クソ野郎!!」
バキッ………
砕いた。
「…ハァ……ハァ……やっ…た……!」
周りの凶獣たちは消え、俺の周りは夜の静寂を取り戻す。
「…戻らなきゃ、二人に早く…会おう。」
俺は道を戻った。
……………嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ!!!
なんで…なんで二人とも…
「死んでるんだよ…!!!」
…ああ、そうか、俺が"遅すぎた"のか。
全部俺のせいだ、二人が死んだのは俺のせいだ俺ガ全ブ悪インダ…!!
…人を殺した罪は…人を以て償わなきゃ…。
「ごめんね琴穂…ツキ……今からそっちに行クカラ…。」
…恐ろしいほどの静寂の中で、呵責に溺れた男は自分の動脈を切って…
死んだ
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〜Blunder(bad3)〜
私とツキちゃんは、駆けていく佑葵を見ていた。
(佑葵さんはどうにも逞しくて憎いです。琴穂さんは佑葵さんの彼女なのですか?)
「まさか、そんな訳ないよ…佑葵はきっともう、私をそういう目で見ていない。だから…違う。」
(…そんなの間違ってるッ!!)
突然の口調に少しばかり驚く。
(…私は…本当の思いを伝えるべきだと思います。)
「…………。」
(それに、貴方は今の距離を…自分の気持ちを犠牲にしてまで保ちたいのですか?)
…そうだ…よね。私が間違ってたのかな…。
「うん、わかった。ありがとう。」
(…私は当然の事をしたまでです。)
「…ツキちゃんって優しいんだね!」
(…そんな事無いです。)
あからさまに照れている。
きっと本体がいたら…可愛いんだろうけど。
そんなことを思いながら少し微笑みながら顔を上げると、少し遠くで凶獣の咆哮が聞こえた。
と、突然ツキちゃんの表情が変わった。
(……琴穂さん、)
「ん…何?」
(非常に残念なお知らせです。)
今聞こえた獣の咆哮、それは佑葵の走っていった方向から聞こえた。
…まさか…ね。
(…佑葵さんが…死にました。)
…嘘だ…!!!!
「嘘…でしょ…嘘だよね…?」
私は佑葵がいるであろう方向へ駆け出した。
(…待ってください!!)
私は制止の声も聞かず、闇を駆けていった。
…佑葵は見つからず、私は祠までたどり着いた。
「……………。」
祠は埃をかぶっていたが、"綺麗に"残っている。
「…佑葵…何処にいるの…?」
後ろから足音がして振り返ると、そこには…凶獣がいた。
…凶獣の口元は僅かに紅く染まっている。
「……テメェ等が殺ったのかよ…?」
私の中の何かが切れた。
「…殺してやる、殺してやる殺してやる…ッッ!!」
…………………………。
………そこから先の事は覚えていないが、気がつくと私は一人で、祠も跡形もなく壊されていた。
「…これじゃあどっかの人殺しの獣と変わらないね…ハハ……」
私は返り血塗れの身体で立ち上がると、佑葵を探しに、闇の中へ立ち上がる。
「絶対に見つけてあげる…待っててね…佑葵……」
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〜Too speedy(normal1)〜
佑葵は祠に向かって駆け出した。
「無事だといいね…。」
(きっと大丈夫です、彼はやるときはやりそうなので…多分。)
…随分不確定な言い回しだけどね。
でも、不思議と心配はなかった。
「ねえツキちゃん、ツキちゃんはどのタイミングで実体に戻るの?」
(そうですね…あんまり早すぎれば私達は死んでしまうし、遅すぎれば私が復活できませんもんね。)
…まあ現実的に見積もって、500mも進むのには二分はかかるだろう。
「大体…三分。三分がリミットだね…。」
(そうですね。三分たったら…私は実体に戻りましょう。)
今の経過時間がおよそ二分とちょっと。
順調に行けばもうすぐ、佑葵が祠にたどり着く頃だろう。
「ねえ、ツキちゃ……」
言いかけて突然、視界が歪んだ。
…何かの記憶が流入してくる。
情報が交錯する……現実と記憶の区別が曖昧になる。
「あ…ああ……」
情報整理が………追い…つかな…………
「…いッッ!?」
…目の前に、佑葵がいる。
「…琴穂、大丈夫か?」
「うん…ツキちゃんは…?」
周りにツキちゃんがいなかったので、私は佑葵に尋ねた。
すると、佑葵は頭をポリポリと掻いてバツが悪そうにして…言った。
「…悪ぃ、俺が祠を壊すのが早すぎて…消えちまった、みたい…だ。」
…そんな…結局私はツキちゃんの笑顔を一度も見れないまま…
(…佑葵さん、勝手に消さないでください。)
「ツキちゃん!?」
(はい…と言うか、私は本体に戻れなくなっただけです。)
「…だけっていう様な事じゃないだろ…」
(いや、私は…ここを出れればそれでいいんです。)
…ツキちゃんがここを出たいなんて、初めて言ったのではないか?
「…そっか。じゃあツキちゃん、一緒に降りようよ!」
でも…そうだとしたら馬鹿みたいに無邪気な私を見て、少しでも、元気を出してほしいと思う。
(はい、降りましょう!)
~After story~
ある日、ある昼下がり。
あたし…ツキはある大学の屋上にいた。
…実は山を降りるとある記憶が戻ったのだ。
「ツキちゃん…!」
屋上のドアを開けたのは琴穂だ。
「おう、ツキ。」
二人はあたしが見えていない。
(うん…はい。)
…そうだ、あたしは"敬語を使っている"んだったな。
…先程思い出した記憶とあたしの記憶には隔たりがある。
「ねえ、ツキちゃんはさ…どこか行きたい場所とかある…?」
…きっと、敬語を使わなくても、全てを話しても二人はあたしに優しくしてくれるだろう。
でも…まだ話す時じゃない。
(…はい、二人と行けるならどこでもいいです。)
話したら、きっと…あたしは"ある人物"に殺されてしまうから。
「おし、じゃあゲーセンでも行こうぜ!」
「…佑葵って本当に可愛げがないよね…。」
だからもう少しだけ、この優しさに浸っていたい。
(私は…ゲーセンでもいいですよ?)
「えー…ツキちゃん別に佑葵になんて優しくしなくていいんだよ?」
(いや、私そういった類の場所にほとんど行ったことがないので、行ってみたいんです。)
「じゃあ決定だな、行こうぜ琴穂、ツキ!」
あたしは二人のあとを憑いていく…長く続かないとわかっているこの時間が、悠久であって欲しいと願いながら………。
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━━━━━━
━━━━
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〜Our Life(normal2)〜
俺は祠に向かって駆け出す。
(目指すは一点のみ。他の障壁に一切の意識を向ける必要はありません。)
ツキの約束通り、俺は凶獣に目をくれない。
…凶獣が正面から来る。
「…意識を…向けるな…!」
俺は凶獣の群れにそのまま突っ込む。
…足元が俺の血のようなもので紅く染まるが、痛みは感じない。
…手に凶獣が噛み付いていて、血が溢れるようだが、痛くない。
「…何だ、これ?」
痛くないと言うかむしろ、変な話だが、感覚が無い。
質量が無いのではないかと思うほどに、腕や足は軽い。
…そしてそのまま俺は、一直線に祠へたどり着いた。
そしてそのままの勢いで祠を…破壊した。
「…ハァ…ハァ……」
こんなにも呆気ないのだろうか。
…ツキは"捕まったらアウト"とか言ってたのに…
「…まあいいや、行こう…。」
俺は何もいないのではないかと思うくらい"静かな"道を戻った。
その後俺はそのまま、琴穂とツキの元に着いた。
ツキが実体化しているから、俺は成功したのだろう。
「佑葵!」
「…やけに服が綺麗ですね。」
俺を労わないツキ……ん?
…俺の服は………
…少しも汚れていない。
「……俺は凶獣に噛まれたりした筈なんだが…?」
「…本当ですか?」
「…わざわざ嘘をつく理由なんてないだろう?」
「そう言う意味ではないです。…私が言いたいのは…凶獣の存在の事です。」
…さっぱり意味がわからない。
でも確かに凶獣には重さが…無かった。
「…つまりツキちゃんは、凶獣は祠堂の神によって見せられた幻覚だった、と?」
「あるいは、私達の恐怖からみたものだとも。」
「…いや、それなら俺の手からの出血は……」
「そのまんまだよ、佑葵。佑葵の見た血は、佑葵自身の恐怖そのものだった、そう…説明がつくでしょ?」
…何か違う。少なくともあれだけ夢中だった俺に"恐怖"など感じる余裕は…なかったはずだ。
「俺に恐怖を感じる余地なんて…」
「…夜は危険です。山を下りましょう。」
議論を打ち切るように、ツキが下山を促す。
「そうだね、佑葵、ツキちゃん、下山しよう。」
ここで一度、議論は打ち切られる事となった。
最寄りの駅まで来て、俺はツキにある質問をした。
「ツキはこれからどうするんだ?」
「え…あ、私は自分の家に帰り…ます。」
…何故か不自然だった。
「わかった。送れるのはここまでだな。…ツキ…じゃあな。」
「…はい、お元気で…あ、最後に一つ良いですか?」
「いいよ。」
「…私の名前、実は懐姫と言うんです。」
…何故このタイミングで…
「…記憶が戻ったからです…でももうお別れですね。…ありがとうございました…そして、…さよなら。」
それだけ言うとツキ改め懐姫は、ドアの閉まりかけた向かいの電車に吸い込まれていった。
「これだけの経験があったんだ、ツキは自分の人生をしっかり送れるだろうよ。」
「…そうだね…帰ろっか、佑葵。」
「…ああ。」
やっと悪夢が終わったんだ…そう思いながら俺らは、終電になりかけている電車に乗り込んだ。
…翌日。園田美由が学校を欠席した。
「園田さんは…妹さんが亡くなられたため、欠席です。」
…園田に妹なんていたのか。
━━さよなら━━
…咄嗟に、何故かツキの記憶が脳裏をよぎり、背筋が震える。
「…先生、園田さんの妹の…名前ってわかりますか?」
…そう聞いたのは、琴穂だった。
………琴穂も同じことを思って……
「園田さんの妹…?」
…頼む、あの名前だけは…出ないでくれ。
彼女は自分の人生を……
「確か懐姫さん…だったはずよ。」
━━━━━━━━
━━━━━━
━━━━
━━
〜Sister(true)〜
俺は祠に向かって駆け出す。
(目指すは一点のみ。他の障壁に一切の意識を向ける必要はありません。)
ツキの約束通り、俺は凶獣に目をくれない。
…凶獣が正面から来る。
「…意識を…向けるな…!」
俺は凶獣の群れにそのまま突っ込む。
…足元が俺の血のようなもので紅く染まるが、痛みは感じない。
…手に凶獣が噛み付いていて、血が溢れるようだが、痛くない。
「…何だ、これ?」
痛くないと言うかむしろ、変な話だが、感覚が無い。
質量が無いのではないかと思うほどに、腕や足は軽い。
…そしてそのまま俺は、一直線に祠へたどり着いた。
そしてそのままの勢いで祠を…破壊した。
「…ハァ…ハァ……」
こんなにも呆気ないのだろうか。
…ツキは"捕まったらアウト"とか言ってたのに…
「…まあいいや、行こう…。」
俺は何もいないのではないかと思うくらい"静かな"道を戻った。
その後俺はそのまま、琴穂とツキの元に着いた。
ツキが実体化しているから、俺は成功したのだろう。
「佑葵!」
「…やけに服が綺麗ですね。」
俺を労わないツキ……ん?
…俺の服は………
…少しも汚れていない。
「……俺は凶獣に噛まれたりした筈なんだが…?」
「…本当ですか?」
「…わざわざ嘘をつく理由なんてないだろう?」
「そう言う意味ではないです。…私が言いたいのは…凶獣の存在の事です。」
…さっぱり意味がわからない。
でも確かに凶獣には重さが…無かった。
「…つまりツキちゃんは、凶獣は祠堂の神によって見せられた幻覚だった、と?」
「あるいは、私達の恐怖からみたものだとも。」
「…いや、それなら俺の手からの出血は……」
「そのまんまだよ、佑葵。佑葵の見た血は、佑葵自身の恐怖そのものだった、そう…説明がつくでしょ?」
…何か違う。少なくともあれだけ夢中だった俺に"恐怖"など感じる余裕は…なかったはずだ。
「俺に恐怖を感じる余地なんて…」
「…夜は危険です。山を下りましょう。」
議論を打ち切るように、ツキが下山を促す。
「そうだね、佑葵、ツキちゃん、下山しよう。」
ここで一度、議論は打ち切られる事となった。
……山を下っていると、ツキちゃんが突然震え始めた。
「…ツキちゃん、大丈夫?」
「…大丈夫…です。」
……大丈夫な訳無いか。
「ツキちゃん、素直に話して。」
「…思い出したんです。霊蘇祠堂なんて場所も凶獣なんて生物も、最初から存在していない…。」
「じゃあ俺らの居た場所は…」
「場所自体はあっても、名前が霊蘇祠堂じゃなかった……全てはあたしの姉が……いや、順を追って話しましょう。」
そう言うと、ツキちゃんは自分と自分の姉について、話し始めた。
━━━━あたしの記憶の中に両親は居なくて、代わりにいつも居たのは姉だった。口数は少なかったが美人だったし、あたしにすごく優しかった。
…そんな姉との当り障りのない日々…それは当たり前で、でもとても…掛け替えのない物だった。
…あたしが中学一年になって間もない頃、友達ができず学校が嫌になっている時期があった。
そんなときに姉はあたしの額に額をつけて、あたしにおまじないをかけてくれて、それでいつも上手く行っていて…思えばあれもある種の"洗脳"だったのだと思う。
そんな中であたしは中学二年になり、友達も出来てきて、そして初めて他人に恋をした。その人と会うだけで嬉しかったし、話すだけで幸せだった。
そして、決意をしてその人に告白しようと決めた日………彼は交通事故によって死んだ。
…それからあたしはしばらく、まともに人と会話も出来ないくらい沈んでいた。何をしてもつまらない日々は、中学の最初の頃を彷彿とさせるような感覚で、そこで少し、姉のことを思い出した。あたしはその夜、姉の元に泣きついた。
…その感覚はとても暖かくて、懐かしくて…あたしはその日から徐々に立ち直っていった。
姉はあたしに優しくするとき、いつも、
「貴女はちゃんと名前も、意思も持っている立派な人間なんだよ、過去はいつまでも引きずる物じゃないんだよ。」
と言っていた。
確かにあたしには…懐姫と言う名前があるのだから━━━━
「…懐姫…どこかで聞いたことが…」
「…私もある気がする。」
「ある気がするんじゃなくて、あるんです。…続けます。」
━━━━その日を境に姉は、ちょくちょくあたしの部屋に来るようになり、その度にあたしに"おまじない"をしてくれた。
しばらく続けるとあたしは…頭と身体の異変に気づくようになった。
…時々無意識に行動していたり、意思の通りに体が動かなかったり。
…そして、あたしが中学三年になって、授業を受けていたとき、突然意識が飛んで……
…気がついたら、あたしはあたしのベッドに、鎖で繋がれていた。
「あら、おかえり懐姫。」
「…お姉ちゃん、悪ふざけは良いからほどいて。」
「…別にふざけてなんかいないわ、ただ…ある実験の実験台になってもらいたくて。」
お姉ちゃんの目には…光がなかった。
「……お姉…ちゃん…?」
「ふふ…絶望する顔も可愛いね懐姫。そんな悲しそうな顔するの、いつぶりだろうね。」
駄目だ。これはあたしの知っている姉じゃない。
「ところで懐姫、私がいつも言ってたこと…覚えてる?」
「…貴女は名前も意思も持っているんだから、立派な人間なんだよ…でしょ?」
「正解。…じゃあ私が懐姫から、名前も、意思も奪ったら…どうなっちゃうんだろうね?」
「…ッッ………!!」
自分でも青ざめたのが、はっきりとわかる。
「…いや、まあ奪う事が実験…なんだけど、まずは洗脳からだよ…。」
そういって、姉はあたしの額にそっと触れた。
………その瞬間、あたしは求めてもいない安心感に包まれた。
「大丈夫。貴女が心配すべき事なんて、何もない。」
…姉の手は絶え間なく、あたしの額に触れ続ける。
…姉は優しかった。
…いつでも正しかった。
「……安心していいのよ…」
…じゃあ今回は、正しくないのか?
…ソンナ筈ハ…無イデショウ…?
…その瞬間からあたしの脳ミソは、思考も、意思も放棄して…姉の姿を捉えるだけの"道具"になった━━━━
「あたしの記憶はここまで。元より敬語なんて使うタチじゃないし、あたしはツキなんて名前でも…なかった。多分二人のことは佑葵君と琴穂さんって呼んでたんじゃないかな。」
そう話すツキちゃん…いや、懐姫ちゃんは、何か違う雰囲気を纏って……
「…懐姫…?」
そうだ…そうだ。思い出した……!!
「…ふふ、そうだよ。」
意味ありげに笑う懐姫…
「…あたしは━━園田懐姫だよ。」
〜Lost things〜
園田懐姫…確か、同じサークルにいる園田美由の妹だ。
時々サークルに来ていて…私は彼女の事を懐姫って呼んでたんじゃないかな。
…そして、そうだとしたら…懐姫を洗脳していたのは……
「…美由だよ。あいつはあたしから名前も意思も…存在価値さえ奪おうとしたんだ…!!」
「まあ懐姫、落ち着けって……」
そう、佑葵が制止に入る。
「…落ち着いてるよ…でも、ヤツはあたしに付け込む為に…あたしの好きだった人も…殺した。」
「…どうやって…」
「美由には巧みな話術の他に……意思を操る"特別な力"があるの。」
…言うなれば霊的な能力…と懐姫は付け足す。
「話術に関しては…佑葵君は琴穂さんを疑うように日頃から仕向けてたみたいだし、琴穂さんは霊蘇祠堂について教えられたんじゃない?…覚えてないかもしれないけど。」
…言われてみれば…私は何故霊蘇祠堂を知ったのか、全くわからない。
…佑葵も渋い顔をしてるから、多分思い当たらないのだろう。
「操る力は…何に対してでもできる。たとえ対象が人であっても、物であっても……ある一つの物体を中心として、"広範囲の不特定多数の物体の意思を操る"。あたしの好きだった人を殺した時は何かをトリガーに車の運転手に幻覚を見せてたらしいし、霊蘇祠堂の時には…祠をトリガーに凶獣全てを見せていた。」
「だからあんなに軽かったのか…いや、だったら俺の手に付いた血は…」
「幻覚だよ。立ち止まらせて、心でも食べようとしてたのかな。」
…懐姫はなんでこんなにも明瞭に、淡々と話せるのか。
「簡潔に言うと、二人の今日の午後に感じた感情の殆どは嘘だった、そう考えてもいいと思う。…あの山自体全部、効果範囲だったみたいだから。」
………もう、目の前には駅があった。
…もし、全部嘘だったんなら佑葵との時間の気持ちは…偽りだったのかな。
「…じゃああたしは家に帰ります。」
「懐姫、待てよ…」
呼び止めたのは、佑葵だった。
「…ちょっとだけお前の家…お邪魔するぞ?…美由は絶対許さない。」
「…来なくていいよ、あたしは一人でも…美由との決着を…」
「……無理すんな。」
………顔をあげた懐姫の目からは…一筋の涙が頬を伝って落ちた。
「……ごめんなさい……でも……二人を巻き込むわけには……」
「別にこれは懐姫だけのためじゃない。…俺たちのプライドもあるんだ。」
「二人の記憶を改竄したのは、美由。二人をありもしない霊蘇祠堂に呼び出したのも、琴穂さんに"祠堂の何か"取り憑いている、と思わせていたのも…美由。だけどね…二人は何も奪われていないし、何も失っていない。…だからわざわざ……何かを失いに来ないで…。」
「……………。」
何も言い返せない…
…なぜなら、それは美由を一番良く知っている人間からの忠告だったし、何より彼女の願いを裏切るのは…
「…じゃあ懐姫は何を失ったんだよ?」
「…さっきからあれだけ……」
「今のお前は名前も、意思ももってんじゃねえか。」
…完全な論破だった。
しかし…どうしてここまで、佑葵は強い口調を使うのか。
…考えていると、懐姫が口を開いた。
「…ハハハ…やっぱり佑葵君には勝てないよ…鋭さでも、優しさでも。」
懐姫はそのまま続けた。
「…いいよ。…いいけど、絶対に何も失わないでね。」
「…ああ、絶対に失わないし、失わせない。」
佑葵と懐姫が乗り込んでいく電車に、私も乗り込んだ。
〜House〜
…電車に揺られる事、小一時間。私達は"園田"と書いたプレートの貼られている家の前に着いた。
「…二人とも、入るよ?」
カチャリ…
小気味よく響く開錠音に、私達は息を呑んだ。
「ただいま…」
中に入ると、内装はとても綺麗で、何となく…不気味だった。
「おかえり…懐姫。」
部屋の中から聞こえた声は、紛れもなく美由のものだった。
「お邪魔するぞ、美由。」
「お邪魔しま〜す。」
ほかに聞こえた二つの声に驚いたのか、しばし沈黙のあったあと、声が帰ってきた。
「鷹野と琴穂…だよね、いらっしゃい。」
私達は、美由のいる部屋に入った。
………なんだこれは。
いや、特に…何かがおかしい訳ではない……けど、あまりにも暗すぎやしないか…?
と言うか、美由の目の前にあるパソコン以外の光がない。
「ッッ………!」
戦慄する懐姫。…彼女にとってどれだけ、この部屋は怖いのだろう。
「…貴方達にとっての、運命って何?」
…そう、美由がこちらを見ながら呟く。
「私はね、運命って…必然だと思う。私が貴方達に出会ったのも、私が懐姫の姉であることも、今しがた貴方達があの山を抜け出してきた事も…全て。」
「なッ………!?」
なんで美由は………いや、もしかして全て"予測"していたのか…?
「…けどね、私はきっと運命を変えることが出来ないんだ。だから誰かに変えてもらうしかない。」
……要するに私達は"運命"の元に動かされた、"駒"だった、と。
「貴方達は本来…死ぬ筈だったのよ…でも、生き延びてしまった。」
押し黙る一同。
そんな空気を破って反論したのは、意外にも懐姫だった。
「…それが、あたし達の運命だったんだよ。美由は運命を変えられないし、あたし達の運命に干渉することもできない。」
「… そ れ が 答 え ね ?」
言い切ると同時に席を立ち、こちらに歩み寄ってくる。
そして美由は懐姫の首筋を触った。
「ッッ……!!」
一瞬…の出来事だった。
懐姫は恨みのこもった目で美由を睨みつけた後…その場に崩れ落ちた。
「てめぇッ…!!!」
「懐姫を殺されたくなければ、私に近づくな。」
……懐姫は、美由の事を"優しい姉だった"と言っていた。それなのに…
「…そんなの…酷いでしょ、美由!…貴方は懐姫を何だと思っているの!!」
「…大事な妹だよ。」
「じゃあなんで……」
「なんで…強いていうなら、懐姫が役者として不要になったから。」
役者?
…まさか懐姫は最初から美由サイドの人間…
と、咄嗟に懐姫の言葉が頭をよぎる。
━━美由には巧みな話術の他に……意思を操る"特別な力"があるの━━
そうだ…美由には私達を錯乱させる方法が、幾らでも…あるんだ。
だったらやはり美由は私達の事を……
「まあいいわ…わざわざ此処に来てくれたたんだから、おもてなし位しないとね。」
こっちに歩み寄ってくる美由の手には…スタンガンが握られていた。
…さっきはあれで懐姫を……!
「お前…懐姫をなんだと思ってんだよ!!!」
佑葵が美由を掴みにかかる。
その瞬間……
バチィッ……!
佑葵の身体が大きく傾き、地に伏して痙攣した。
「あのね琴穂…私は懐姫にスタンガンなんて当ててないわ。」
…だってこのスタンガン、殺傷能力があるんですもの。
そう…付け加えた。
…佑葵の身体はピクリとも動かない。
「ふざ…けないでよ…ッ…!」
「大丈夫。貴方達の大好きだった懐姫はちゃんと私が…"道具"として可愛がってあげるから。」
そういってスタンガンをバチバチと鳴らして美由は…こちらに歩み寄って来ている。
「…やめて……やめてよ…」
ゾワゾワと這い上がってくる恐怖に…私は何も出来ないまま後ずさりしていた。
「…じゃあね…琴穂。」
そういって美由は振り上げたスタンガンを……
…振りおろした。
「うっ……ッッ……ああああッ!!!」
全身に走る激痛に揺らぐ意識の中で私は…美由に迫るひとつの影を見た。
〜Intention〜
あたしの混沌としていた意識は、琴穂の悲鳴によって醒まされた。
……助けなきゃ!!
あたしの身体は既に…動き出していた。
「美由ッ………!!」
そしてあたしは美由の背後から、美由の頭を……
殴り飛ばした。
「え…………!?」
ある種の驚きの声を上げた美由は、そのまま前につんのめった。
「ハァ…ハァ……」
…衝動的といえどあたしは…姉を殴ったんだ…
そして倒れた美由が身を起こす。
「やってくれたね懐姫……」
そういって美由が上を睨むと…上からトゲのついた釣り天井が落ちてきた。
ガシャーン…!
…釣り天井はあたしを貫く事なく、地面に落ちて消滅する。
「…へぇ、懐姫…あんた覚悟はできてるんだね…?」
「あたしは…あんたの言う事なんか聞かないッ!!」
…決めたんだ…あたしは…
「あたしは意思も名前も…ちゃんと持ってる…あたしの人生は、運命は…あたしが決める!」
そう、固く固く決意したんだ。
…そして、それを聞いた美由の目は…
…かつて見たことの無いほど、怒りに…染まっていた。
「実験は失敗、予想も大外れ。しかも被検体の妹にぶち壊されるなんてね…あんまりその気はなかったんだけど、アンタも殺してやるよ。」
…そしてスタンガンを持って…美由はこっちに突っ込んできた。
あたしは身体能力では負けない…冷静を欠いた美由の攻撃なんて、絶対にかわせる…!
バチィッ…!
…素早く体勢を低くしたあたしの髪の上ギリギリを、放電しているスタンガンが通過する。
そして、あたしは美由の懐に潜り込み…美由の顎に拳を突き立てた。
「なっ………!」
美由は平衡感覚を失い、その場でバランスを崩す。
恐らくしばらくは起き上がる事さえできないだろう。
「ハァ…ハァ……」
「…懐姫は…なんでそこまで行動できるの…?」
仰向けに倒れた美由が言う。
「…これがあたしの運命なんじゃないかな、あたしは運命なんてもの、偶然の集まりでしかないと思うけどね。」
「…そう。」
と、一言だけいうと、美由は観念したように目を瞑った。
「……救急車…」
佑葵君と琴穂さんを…そう思った矢先、天井が崩れだした。
…横を見ると、青筋を浮かべた美由が笑みを浮かべながらポケットからスイッチを取り出し、押し終わったところだった。
「…ははははははははははははははははははははははは、せめてアンタらの人生くらい、運命くらい…狂わせてやる!!」
…濁りきった美由の目は、完全に焦点が合っていない。
…狂ったかあるいは………
…あたしは、美由を見つめたまま、一歩も動かなかった。
~after story~
俺は病院で目を覚ました。
「…大丈夫、佑葵?」
そう言って俺の顔を覗き込んできたのは、琴穂だった。
…琴穂の話によると、俺らはあの時、死ぬほどに危険なスタンガンを食らったらしい。
そして懐姫は…発見されていないそうだ。
「美由は恐らく鉄格子の中か、精神病院か…そういう所にいるよ。」
「…なあ、懐姫はどこに行っちまったんだよ?」
「だからわかんないって…」
その時、病室のドアが開いた。
…そこには、懐姫が立っていた。
「…佑葵君、琴穂さん…大丈夫?」
「「懐姫!!」」
思わず声が揃う。
「あたしはあの後、美由を連れて警察へと行ってたんだ…でね…」
…しばし目を瞑り、黙り込む懐姫。
そして、その後開いた懐姫の目には、…光がなかった。
「あたしにも発現したみたいなんだ…超能力。」
…そう言い終わると同時に、病院中に爆発音が響いて…
…天井が崩れ落ちてきた。
目の前の、姉を失った少女は…
…天井を見つめ、薄ら笑いを浮かべていた。
……いかがでしょうか。
とりあえず、キャラ紹介です。
鷹野佑葵
正義感のある男。頭の回転が速く口喧嘩には強いが、頭に血が上りやすいため挑発的な相手には弱い。
凶獣に囲まれたとき足に走った痛みは、美由が事前に仕掛けた罠によるもので、凶獣からの物理的なダメージではなかった。
秋目琴穂
元気な性格の女。自由な性格のため、団体行動には向かない。美由から霊蘇祠堂について聞かされ、行くように無意識のうちに仕組まれていた。
綺麗、というよりは性格も含め可愛いと言ったタイプ。
非常に観察力に長けており、物の些細な変化に気づくことが多い。
琴穂は最後の病院を崩した懐姫が洗脳されていた事を逸早く察知し、病院を抜け出している。
園田懐姫
ツキ。姉である園田美由によって洗脳され、苗字と名を消されたが、苗字と"な"を消して、ツキという名前だけが記憶に残っていた。
高校一年だが、やんちゃな感じの少し幼い印象。
記憶の戻った後、敬語を使わなくなったのはそのせい。また、一人称も私からあたしに変わっている。
最後に超能力が発現した、とあるが、懐姫は"物を破壊する力"を持ったため、病院の崩壊は実際に起こったことである。
園田美由
巧みな話術を持ち、また、意思を操る力を持っている。
今作の黒幕に当たり、妹、園田懐姫を洗脳し偽物の記憶を刷り込み、また、サークルの三人の心理誘導を行う。
また、力を使うには力の元となる物体が必要で、そこを起点に力は発動する。
印象は可愛いというより、美人、と言った感じで、纏う雰囲気が冷徹な印象。
琴穂に最初に霊蘇祠堂の事を教えたのは美由だが、琴穂は心理誘導によってそれを忘れている。
最後はスイッチを押して家を崩したように見えたが全て幻覚で、その事は懐姫にバレていた。
……と、まあこんな感じでしょうか。
それにしても寒いです。布団から出られません。
そして試験とか、本当最悪です。学校行きたくない。
まあ何はともあれ、これで本当に終わりです。読んでくださってありがとうございました。
これからも定期更新したいと思っているので、どうぞ御贔屓に。