プロローグ
続きです。第二部というか第二巻というか。一読よろしくお願いします。感想評価ブクマしてもらうと喜びます(笑)
幼い頃に、一度だけ連れられたことがある。
賑やかな場所で、特別な空間だった。
父親の仕事の関係で招待されたのだ。父と母は興味がなかったが、付き合いで断る事が出来ず家族を連れてその会場に趣いた。
その日見た感動を、彼女は一生忘れることがないと確信した。
美しいという言葉で表現することさえ憚られる程の絶景。魔法というものが、こんな美しい景色を生み出すことを始めて知った。
芸術の中では歴史が浅く、軽視される事が多いそれは実際に見るだけでその全てを覆す。
視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚、その全てを刺激するそれは体全身で感じる芸術だった。
赤。青。緑。黄。紫。銀。様々な色が踊るように、舞うように弾けて流れて輝いて、宝石箱のような、あるいは宝石を散りばめたような光景が目を楽しませる。
浮遊した光が一粒、彼女の口に入って舌に触れた。
甘い。
宙を舞う妖精が歌い。
光の帯が観客に幸せの感触を運ぶ。
そして渦を巻く光が帯にぶつかり、光の雨が降り注ぐ。
甘い香り。酸っぱい香り。優しい香り。川かもしれない。海かもしれない。森かもしれない。風かもしれない。
色んな香りが情景を彩る。
次々と綿密に計算された魔法陣が幻想の世界を作り出していく。
中心にいるのは一人の魔法使い。
彼がこの世界を想像した創造主だ。
ああなりたい。心から、強くそう願った。
憧れは彼女の魂に篝火を灯す。
長いようで短い時間は心を強く打ち付ける。
言葉にならない感動は信じられないほどの盛大な拍手に代わった。誰もが同じ感覚を共有していた。
口々に言う。奇跡だ。と。
奇跡の瞬間。それは確かに存在していた。
あの景色を消して忘れない。
そして胸を突き動かすこの衝動を消して忘れない。
「私、絶対に――」