プロローグ
ラノベ作家目指して修業中の者です。拙い文章ですが一読よろしくお願いします。完結まで書き終えているので、定期的に更新していきます。書き終えて、イマイチだけどどこがイマイチなのか自分で判断出来なかったので、意見とかアドバイスとか感想とか待ってます。追記:縦書きフォーマットで読むのを推奨します。
仲間は死んだ。
残ったのはただ一人。
彼、ただ一人だった。
分厚い雲に覆われた空には、視界を埋め尽くす程の魔法陣が展開されている。
降り注ぐ。
叩きつけられる。
雨のように、あるいは流星のように。
魔法が、次々と。
味方であった死体をただの肉片に変えていく。
詠唱しているのはただ一つの化物。
鬼神。
鬼という種族の中でも、長く生き。神秘に触れ、人々に語り継がれ。そして神性を得て神にまで上り詰めた存在。
それが容赦なく蹂躙してくる。
「楽しい、楽しいゾ、ニンゲンっ!」
歓喜するように鬼神は詠う。
楽しくなんてない。こちらは必死だ。
三重の魔法陣を展開し、並列に詠唱する。
防御魔法、移動強化魔法、そして領域魔法を手早く詠唱して一秒でも長く生きることを繰り返す。
これで地上に設置した紋章は百を超えた。
その全てが領域魔法だ。
数時間の戦闘で設置した彼の希望だった。
戦闘が始まったのは十時間ほど前だ。
十時間前までここは美しい景観を誇る森だった。
生き物に溢れ、木々が生い茂り、花が咲き誇り、大きな泉が輝いていた。
それがたった十時間で夥しい数の肉片で地上を染める荒野に変わったのである。
それが鬼神の強さと危険度を確かに表していた。
上が鬼神討伐を命じた時、彼は反対したのだ。
危険すぎる。触らぬ神に祟はない。と、しかしそれが聞き入られることはなかった。
その結果がこれだ。
生き残っているのは自分ただ一人で、数百人いた討伐隊はたった一つの神に殺される。
彼の命もこのままでは長くはない。
まさに劣勢であった。
叫ぶ。喉を枯らしながら彼は必死に。
魔法を放つ。
彼は強い。
彼が知る限り、彼の純粋な戦闘力は人間では十番目以内には確実に入っていた。
それでも圧倒的に届かない。
鬼神は遊んでいた。
弄び、この戦いを楽しんでいた。
その笑みを、まずは止めさせる。
「笑っていろよ、鬼神。……笑っていられるうちになっ!」
起動させる。
百を越える。
その紋章を。
領域魔法は確かに発動して、鬼の顔は引きつった。
「おい、……本番はこっからだ」
少年の名は【アリウス】その当時、僅か十と三年しか生きてはいない。
それが、戦いにおいて右に出る者はいないと称される化物を圧倒していた。
それでも三十分後、立っていたのは鬼神だった。
アリウスは肉片で染まる大地で横たわっていた。その体に左腕はない。
先程、鬼神に引き千切られたのだ。
「おいおイ、腕一本程度で瀕死とはニンゲンとは不便だナ」
腕一本程度とは言ってくれる。こちらはその腕から大量の血液を吹き出して死ぬ寸前なのだ。
薄れる意識の中、金髪の美しい少女を見た。
幻覚なのだろうか。
そして目が覚める。
薬品臭い室内。白を基調とした淡い内装。静かな、とても静寂した空間。
見覚えがある。
ここは病院だった。
どうやらアリウスは病院の一室にあるベッドで横になっているらしい。
右腕を見る。そこには管やよくわからないケーブルが取り付けられており、まともに動かせそうになかった。
よく見れば足や胸も同じような状態だった。
恐らく治癒系統の魔法を体内に直接送り込む装置なのだろう。
窓を見れば陽の光が優しく差し込んでいる。どうやら、時刻は昼頃らしい。
外の景色は緑一色だ。
山奥の病院に入院しているのだろう。
ベッドに備え付けられた机には花瓶と花が添えられていた。
店で買うような上等な花束ではない。外に見える森から綺麗な花を幾つか見繕い、適当に花瓶に突っ込んだ感じだった。
そして窓の反対側を見る。
そこには幻覚の少女がいた。
いや、これが夢でなければ幻覚ではなく本物の少女なのだろう。
「やっと目が覚めた――」
待ちわびたように、心を弾ませるように、少女は言う。
ほんの少しだけ、頬を桜色に染めて。
美しい金髪が、とても印象的だ。
「君は?」
何故生きているのか、ここはどこなのか、あれからどうなったのか、それらの疑問を差し置いてアリウスは彼女にそう問うた。
「それよりも、これ」
そう言いながら彼女はアリウスに一通の手紙を差し出した。
「これは?」
「ヒゲボーボーの、えっと名前なんだっけ? あ、そうだ。チョクゾクのジョーシって人が渡してくれって。とても、大切な手紙だって」
「なんだろ」
アリウスは手紙を自然な動作で受け取る。
受け取りながら首を傾げるが、違和感の理由が分からなかったので気にしないことにした。
片手で手紙を開けるのは苦労したが、手伝うと申し出てくれた彼女の親切を断って一人で開けた。
内容を読む。
読んで崩れ落ちた。
心が、折れた。
生きる目的を失った。
そこで、アリウスは一度死んだのだ。