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序章
「ねぇ、おじいちゃん。どうして蛍はちょっとしか光らないの。」
「蛍光灯みたいに光ったら風情がないじゃねぇか。」
「ふぜい?」
「儚いからこその美しさってのがあるんだよ。」
「…」
「5歳児にはわからねぇか。お前にもいつかわかる日がくるよ。」
そういって私の頭を撫でた祖父のシワだらけで皮の厚い手は今でも鮮明に覚えている。
「なぁ、蛍は好きか?」
「うん、ちょっとしか光らないけど好きだよ!」
その時の優しい眼差しも忘れてはいない。
ピピピ ピピピ
目覚ましを止めた。
懐かしい夢を見た。
そんな祖父は私が11歳の時になくなった。
末期がんだった。
余命なんぞとうに超え、まったく儚くなんかない死だった。
手足は骨と皮だけになり、頬はこけて、腹だけ水が溜まり膨れ上がっても、最期まで格好よい祖父だった。
それから更に16年後、私は医者になった。
何となく、医者になれは祖父の言葉の意味が分かる気がしたんだ。