第四話
キサラギが手を挙げたのを見て恵はもう一度、アキハも含めて見比べる。
「じゃあ、ギルマスはアキハ君でいいかな」
疑問形ではなく肯定だったということは断るわけにはいかないのだろう。
「ギルマスは俺でいいけどサブマスはどうする。おまえがするのか?」
恵は大きく肩をすくませて、何かを言おうと口を動かし声を発する前に、キサラギがほんの少し早く、
「アキハがするならサブマスなら私がします」
と言った。
アキハが驚いて何故だ、と聞こうとするとキサラギは気配を察してか、またもほんの少し早くキサラギが言葉を挟み込む。
「異論は認めません」
「い、いや、別に反対するつもりはないけど……なんでだ?」
やはりアキハも男で、いきなり女の子が自分と一緒にリーダーを務めるといわれるとなにかと期待してしまう。
しかも、クエスチョンに対するアンサーが
「ここでは言えません……」
ときたら、やっぱり想像してしまうだろう。
アキハが反応に困って口をパクパクしていると、恵が話を進める。
「じゃあ、首尾よく今後することと、ギルマスとサブマスが決まったからさ、≪東国の樹城≫に行かないとね」
≪東国の樹城≫とは、いまアキハ達がいる東の街の中心にある巨大な城だ。
東西南北にある、四つの街にはそれぞれコンセプトがあり、東の街は≪樹≫、西の街は≪石≫、北の街は≪水≫、南の街は≪砂≫と言った風な感じになっている。東の街はコンセプトが≪樹≫なだけに自然が多く、多少、和の雰囲気も入っている。
そして、それぞれの中心にある城ではギルドの結成やイベントクエストの受注、初期アバターの出現場所となっている。
つまり、アキハ達が新しくギルドをつくるには≪東国の樹城≫に行かなければならない。
「あ、ああ、そうだな。さっそく行こうか……」
アキハが答えると、それを待っていたかのように恵が先陣を切って歩きだす。それをソウ太郎が少し小走りで追いかける。横に並ぶと、ソウ太郎は恵に何かしら話しかけている。
遅れてアキハが歩きだすと、キサラギが話しかけてくる。
「アキハ、本当によかったんですか?」
先ほどのこともあり、アキハはややどぎまぎしながら返事をする。
「え、えっと……何のことですか……?」
突然のアキハの敬語にキサラギは一瞬首を傾けるが、すぐに気を取り直しアキハの問いに答える。
「ギルマスのことです。二年前のあれ以来、アキハがどこのギルドにも入ってないことは知ってます。ギルドに入ることすら抵抗があるのに、ギルマスになるのはもっと抵抗があるでしょう。……アキハにだけそんな辛い思いをさせるわけにはいきません。二年前のあれは私のせいなんですから……」
「そのことなら別に良いよ。もちろん二重の意味で。俺はそこまで気にしてないって前にも言っただろ」
そう言いながら、アキハは肩を落とす。キサラギが二年前のことでアキハを気遣ってサブマスになったということは、キサラギがアキハに気があるためにサブマスになったという妄想は儚く散ってしまったということなのだから。今から考えると、アキハに惚れる要素なんて一つもないのだが。
「そうですか……」
「アキハ君、キサラギさん、なにしてるんだい?早く来なよ。置いてくよ」
少し遠くから恵が大きな声でアキハ達を呼ぶ。
気づけば立ち止まって話していたらしい。
「悪い。今行く」
アキハも大声で返す。
******
それから二週間経ち、場所は東の街から歩いて2時間ほど離れた夕日が照らす草原をアキハ達四人はひし形に近い陣形を組みながら歩いていた。
実はまだ、この四人はギルドをつくっていない。
あの後、≪東国の樹城≫にギルド結成をしに行ったのだが、思わぬ壁が立ちはだかった。それはギルドハウスだ。ギルドをつくるにはギルドハウスを作らなければならないらしい。ギルドハウスの相場は平均百万ギル前後だが、四人の持ちギルの総額でも足りない。安くなら十万ギルのギルドハウスもある。しかし、十万だと部屋数も少なく、とてつもなく狭い。
本来ギルドハウスは、その大きさに比例しギルドメンバーを増やすことができるだけで、あとはギルドメンバーの溜まり場となるぐらいしか用途がないものだ。だから広さなど気にしなくてもいい要素だった。
しかし、ここがゲームならいざ知らず、現実となった今、広さはギルドハウスを買う時点でかなり重要な要素となった。特に、女性を含むアキハ達の場合は広さはある程度必要だ。
足りないギルを貯めるため、いらない装備類を売ってやっと六十8万ギルになった。四人が生活でき、さらに余裕を持てるぐらいの環境の整ったギルドハウスは八十万ギルはかかる。あとの足りないギルは、狩りで貯めるしかないため、危険を冒してフィールドに出ている。
二週間フィールドに出続け今日、倒したモンスターのドロップしたギル、アイテムの総額と所持金を合わせると七十五万ギルになるだろう。
そして、この二週間はかなりきつかった。いちいち街に戻る手間を省くため、一週間分の食料とその他アイテム類を買いだめし、なれない野宿をしたのだ。精神的な疲れはかなりの物になる。
しかし、二週目になるとだいぶ慣れたのか、アキハの後ろを歩く三人の疲れの色はだいぶ薄くなった。いまでは、笑い声すら聞こえてくる。早くギルドハウスを手に入れてゆっくりと休ませてやりたいと思う。
しかし、アキハの思考は突然の物音にさえぎられる。
「ん?どうしたんだい、アキハ君?」
恵の問いにアキハは後ろを振り向かず答える。
「聞いても、身構えるなよ。声も出すな」
と前置きをしつつ、
「三百メートルぐらい先、誰かいる。たぶん、五、六人」
アキハの聴覚から得られる、情報を後ろの皆に伝える。
後ろの皆が息をのんだような気配がする。
「俺の耳じゃ正確な数が分からないから、恵、頼む」
<マジシャンズ・ワールド>では、プレイヤーアバターに種族というものが存在する。人間族、エルフ族、ドワーフ族、猫人族、狐人族、人狼族、の六種類だ。それぞれの種族にシステム的な優越はない……はずだった。しかし、ここが現実となった今、種族特有の特徴が生まれた。
アキハの人狼族は、五感、特に聴覚に優れている。そして、恵のエルフ族は、自然と心を通わせることができ、自然の声を聞くことができる。
アキハが三百メートル先の人の存在に気づけたのは人狼族の特徴のお陰だ。
「近くの植物に聞いてみたけど、アキハ君の言う通り三百メートル先に人がいるみたいだよ」
「やっぱりか……敵かどうかわからないけど、一応心構えをしといてくれ。もし戦闘になったら……まあ、いつもどうりで」
******
身構えるな、と言っておきながらアキハも少しばかり緊張してしまう。
もうすぐ、人が潜んでいるはずの場所だ。
「――っ!?」
突然、目の前の茂みから何かが二つ飛び出してきた。
しかし、人狼族の優れた五感で飛び出してくる気配は分かっていたので瞬時に反応する事が出来た。なめらかな動作で腰に手を回し、刀を二振り勢い良く抜き、飛び出してきた何かの動きを止める。
飛び出してきた何かは、人だった。
「襲いかかってくるってことは、やっぱりPKか……」
PK……MMO-RPGではよく聞く単語の一つでプレイヤーキルの略称だ。つまり、プレイヤーがプレイヤーを故意的狩る行為だ。
「ほぉ、あんたなかなかつえぇなぁ。オレたち二人の不意打ちを防ぐなんてよぉ」
語尾を異様なほど伸ばして話している男とその隣の男は見たところ<祓魔師>のようだ。
押し込まれそうになり、少し力を込める。
「ううっ……くそっ!」
その瞬間、相手が力を抜いて後ろに下がったためバランスを崩して膝をつく。それを狙ったかのように茂みの向こうから火属性の魔法が飛んでくる。
直撃の瞬間、アキハの足元から巨大なツタ状の植物が生え、アキハの体を持ち上げる。
恵の魔法だ。
恵の職業<森呪使い>はその名のとおり、自然を操る職業だ。基本は味方のサポートや、<森呪使い>の特技の≪痛撃追加魔法≫を使って味方の攻撃に追加ダメージを加えることが主だが、応用技や普通に覚える魔法に防御魔法なんかもある。
今、アキハを助けた魔法も防御魔法の応用技だ。
「助かった、恵」
短く礼を言い、自分の体を持ち上げたツタ状の植物から降りる。
そこを狙いまた、あの二人組が攻撃を仕掛けてくる。
しかし、またその攻撃はアキハの体を傷つけることはない。
ソウ太郎が間に入り左手の盾で攻撃をはじいたのだ。
「させませんよっ!!」
ソウ太郎の気迫に二人は少し後ろに下がる。
これはソウ太郎の特技、≪ホーリーハウル≫だ。
<祓魔師>の壁用特技で敵の注意をひいて味方に被害が出ないようにする特技だ。
「やっぱり、師匠みたいにノーダメージは無理みたいだなぁ」
「大丈夫です。私が回復させますから」
先読みして詠唱を終えてたキサラギがソウ太郎に回復魔法をかける。
キサラギの職業は、<吟遊詩人>でこのパーティ唯一の回復職だ。<吟遊詩人>の魔法の特徴は詠唱時間が長く、効果範囲が広いということだ。詠唱時間が長いため扱いずらいところがあるが、キサラギは先読みして絶好のタイミングで回復をしてくれる。
「ソウ太郎、30秒頼む。恵はソウ太郎のカバー」
「分かりました」
「わかった」
アキハは後ろまで下がり詠唱を始める。
アキハの職業は、<召喚術師>で召喚獣を召喚して仲間のサポートをする職業だ。<召喚術師>は特殊魔法職の中でも最も、汎用性が高いのが特徴だ。
「来いっ、ジンッ!」
三十秒の詠唱を終え召喚獣を召喚する。必要なのは詠唱だけで名前を呼ぶ必要はないのだがそこは乗りというものだ。
目の前に現れた魔法陣が光り、その中心に反りのある片刃の剣を持った赤茶色の魔人が現れる。
「ソウ太郎っ、少し下がれ!恵、≪痛撃追加魔法≫いけるか?」
「準備できてるよっ」
「よし、じゃあかけてくれ」
その声とともに、アキハの周囲に緑色の発光体が三つ浮かぶ。
「ジン、行くぞっ!」
それに答えジンは、走り出したアキハの後をついていく。召喚獣は簡単な命令なら聞くので、アキハの命令に対してしっかりと答えてくれる。
ソウ太郎の横を走り抜け目の前のすれ違いざまに二人を攻撃をする。その際、アキハが使える数少ない剣技スキルを使い、周囲を飛んでいた発光体のうち二つがはじけ飛びアキハの攻撃に攻撃力を追加する。ジンもすれ違いざまに一人に攻撃を加え二人のうち、片方のHPが0になる。
最大限に加速し茂みに隠れていた<妖術師>に一気に近づき、会心の一撃を加える。一撃の後にHPを0にする。そこには、もう一人<妖術師>がいたことが予想外だったが慌てず、攻撃を加える。
≪痛撃追加魔法≫がもう切れていたが、<妖術師>は紙切れ同然の防御力なのでジンと一撃ずつの攻撃で沈ませる。
残り三人、と振り返るとソウ太郎が<祓魔師>にとどめをさしていた。
パーティ編成的に残り二人は回復職だろう、と予想を立てていると、少し離れた茂みから、二つの影が飛び出し一目散に逃げ出していく。
アキハは逃げる人間を追ってとどめを刺すほど鬼ではないので放っておくことにする。
「ふぅ、終わったな……」
「返り打ちに出来てよかったね。それに、落として行ったアイテムとギルあつれば八十万いくんじゃないかな?」
「そうだな……でも、疲れたな……やっぱり人間相手ってのは精神的にきついとこあるな……早く街に帰って宿でも借りるか」
どもです。逢楽太です。
お久しぶりですね。待って頂いた方お待たせしました。今回は初の戦闘です。気合い入れて徹夜して書きました。自分で言うのもなんですけど、良い出来じゃないですか?最初に比べれば……
一カ月ぶりに書いたので過去の投稿を読み返してたんですけど、恵のセリフ多くないですか?たぶん今一番多いですよね。
っていうか、恵が一番しゃべらせやすいんですよね。
それで、これから大事なお知らせです。
ブログを見てくださっている方は知ってると思いますが、これからは『電脳嫌いと電脳少女の電脳探偵』の一章が終わるまで、『マジシャンズ・ワールド』は更新しません。
ホントにすみません。
理由は、自分がそこまで器用じゃないからです。
ホントにすみません。
がんばって『電脳嫌いと電脳少女の電脳探偵』を早く終わらせて、更新再開できるようにしますので、それまでは『電脳嫌いと電脳少女の電脳探偵』を読んでおいてくれると嬉しいです。
それではそろそろお暇を……
これからもよろしくお願いします。
感想お待ちしています。ノシ