重苦しい安寧 1
夕食を食べ(メニューはブレンダが作ったコウモリのステーキだった。案外旨かった)、寝床についた。
土田とジャックがそれぞれ寝袋に包まり、ブレンダが巡回に出た。
怖いほど静かな夜だった。ランタンがジャックの顔を照らしていた。
「明日、狩りに出ようよ」
「殺りに往くんか?」
「うん。そろそろこの世界から抜け出したい」
「出たら何するんや?」
聞くと、ジャックが珍しく黙った。
哀しそうな顔をして、暫くの沈黙の後に、喋った。
「真っ当な生活を送りたい」しゃがれた老婆のような声だった。
「……。」
土田は察し、これ以上深入りしない事にした。
「……あはは、気を遣ってくれてるの?ありがとう」
「過去の事は聞かん」
「ふうん……優しいねぇ」
ジャックの寝袋が一定のリズムを刻んで上下する。
呼吸。死んで辺獄に堕とされたが、まだ息をしている。
生きている。必ず生きてここを出る。
「……ブレンダまだかなぁ」ふとジャックが呟いた。
「何や、ワレ」
「エヘヘ。君が巡回替わってる間にエッチするんだ」ジャックが邪悪で官能的な笑みを見せた。
土田は衝撃で一瞬大きく退いた。だが、その後冷静になった。
ジャックとブレンダは遠い昔から組んでいたらしい。ならばそういう関係になってもおかしくはない、と。
わざとらしく咳払いをしてから返した。
「……まぁ頑張りや」
「でもね……ブレンダとするの、ちょっと慣れちゃった」ジャックが寝袋から這い出た。
「……キサマ、一体何考えて……」
台詞の途中、土田のふくよかな腹に半裸のジャックが乗っかってきた。
「挿れるのもいいけど、……たまには挿れられたいな……」
人生最悪の悪寒が土田を襲った。
生前、度重なる組の抗争で数々の命の危機を経験してきた土田だったが、今、それらを凌駕する程の強烈な悪寒が走った。
「アハハ、怖い?大丈夫。僕のテクで気持ち良くしてあげるからさ」
その時、土田の本能が叫び、腹上のジャックを払いのけた。
「何じゃあキサマ!!イカレか!!ワリャア!!」
「怒ってばっかだね」
「当然じゃ!!」寝袋から飛び出る。息が荒いでいた。
そこに巡回から返ってきたブレンダが。
「貴方、何してんのよ」土田を睨み付けていた。
土田はジャックの件を話そうとしたが叶わなかった。
ブレンダが鬼の形相で怒号を飛ばした。
「私のジャックに何してんのよ!!変態!!ゲイ!!」
土田はブレンダが誤解しているのを悟り、弁解を始めた。
面白そうにそれを見るジャック。
「オイ、違うとるぞ!ワシは……」
「襲おうとしたんでしょ!!」
よう知らんが、こんまま行きよったら殺られる……。
土田は自分の寝袋の傍に置いてあった日本刀に手を伸ばした。