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ザ・陰キャなウェブノベラー、友達もできて右肩上がりの生活【R17】

掲載日:2026/06/28

 ちんちん(熱く)に温め直した三種のチーズ牛丼の米は、私の舌に適さない熱さになっていた。

口の中に入れた、チーズに包まれた牛肉と甘タレを吸った米を冷ますために、私は何度も激しい呼吸を繰り返す。

誤って米を気管に入れないように気を付けよう。

舌の上で大人しくなった牛丼の一部を確認できると、歯で噛んでいく。

口の中にチーズの旨みとタレの甘みが合わさった連携攻撃が私に幸福をもたらしてくれる。

牛肉の味は、残念ながらあまり感じられない。

チーズが役目を奪っているような気がする。

そして、何度か咀嚼そしゃくをしたら、喉に通していく。

美味しい。

私の身体がもっとチーズ牛丼を欲しがっている。

身体にご褒美を続けて与えるために、左手に持っているカップ容器に箸を差し込む。

ミニサイズのカップ容器に詰め込まれた牛丼の上に乗っている、追加で注文した温泉卵を意識して牛丼を箸で挟み込んでいき、もう一度口の中に運ぶ。

先ほどとは味が変化している。

卵の質素なタンパク質な味が牛丼の濃い味を抑えている。

少し食べやすい食べ物に変化している。

旨い。

こんな幸せを味わえるなんて、数カ月ぶりに“GOOD DONE”に寄ってよかった。


『チンポーン』


 私がチーズ牛丼を堪能していると、家のインターホンが鳴らされる。

来客だ。

両親はまだ仕事から帰ってきていないので、対応する人は不在だ。

私は牛丼の相手で忙しい。

しばらくすると、配達員と思われる人物が、郵便受けに何かを入れた音を立てて、乗り物の駆動音を徐々に小さくさせていった。

最近何か注文しただろうか。

そんなものは無い。

私は思考を巡らせる。

必ずしも注文した商品が届けられるわけではない。

私は念のために、牛丼を床に置いて郵便受けに足を運ぶ。

郵便受けには一通の封筒が入っていて、宛先名には、『〇〇様』と書かれていて、間違いなく私に宛てられていたものだった。

こんな私に一体誰が用事があるのだろうか。

封筒の差出人を確認してみる。

そこには、『株式会社フルフリッドライフ ドゥッテイ・ソロウ』と書かれていた。

初めて聞く会社に初めて見た名前。

私の中で関心が薄れていくのが分かる。

だけど、名前の響きからどこか親近感と信頼感が僅かに湧き上がっているのを感じる。


 私は部屋に戻り、封筒の中を確認していく。

中には手紙が三枚入っていた。


『〇〇様、初めまして。

突然のお手紙で困惑させて申し訳ありません。

しかし、〇〇様が必ず幸せになれる情報を詰め込んでまいりましたので、是非最後まで目を通していただけると幸いです』


本当に幸せになれる情報だったらこんな仰天な展開に喜ばざるを得ない。

しかし、大抵は騙そうとしていたり、イタズラで終わる展開だ。

私は冷めた気持ちを抱きながらも、どこか希望と期待を抱きながら手紙に視線を戻す。


『趣味を楽しむのはもちろんのこと、ウェブノベルの執筆時間及び体力がもっとあれば充実するとは感じていませんか?

それを解消する製品を用意させていただきました。

25(トゥエンティファイブ)ハウワー”という栄養ドリンクになります。

こちらを飲みますと、睡眠時間を一時間減らしつつ従来の休息力を保ち、実質一日の時間を一時間増やすものとなります。

六本入りで6000フーターです』


本当に効果があるのならば、一日一本1000フーターで一時間を買えることになる。

そんな便利なものを親切に紹介するだろうか。


『寂しい日々を解消するために、ロンリネスライフという薄型眼鏡型モニターはいかがでしょうか。

一緒に過ごす相棒を選んで購入すれば、眼鏡をかけている時はいつでも視界にお好みの相棒がそばにいてくれます。

手袋、マスク、ベストと連動して感触を感じることもできます。

もちろんイヤホンなどと連動させて声を至近距離で聞くことも可能。

本体価格は30000フーター。

相棒は一体につき約10000フーターです』


確かに寂しい思いをしているけど、それを合計40000フーターで埋めることが出来るのだろうか。

しかし、本当にそれが可能なのだとしたら、ロンリネスライフは手を出してみたい。


『共に過ごす相棒と実際に触れあって寂しさを解消したい。

そんな時は、フィジカルAIのフレンボットはいかがでしょうか。

多様な種類の中から選んでいただき、およそ900万フーターで満ち足りた生活を体験してみませんか』


900万という数字を見て、驚愕せずにはいられなかった。

10フーターが90万個まんこで900万。

高い。

高すぎる。

とてもじゃないけど買えない。

私の身体の中にある何かが、戦意喪失している。


『値段の高さに興味を失うのはまだ早いです。

レンタルサービスを扱っています。

一日のうち累計16時間をフレンボットに就労させれば、一日累計8時間は自由に扱える無料貸し出しがあります。

レンタルの場合は、およそ三カ月に一度の目安のメンテナンス費の10万フーターは〇〇様がご負担になります。

また、期間は三年で、その頃には新しい機体に乗り換えるのに最適だと判断しています。

データの引継ぎはもちろん可能です。

ただし、製品を故意に損傷させた場合は、新型機体二体分の弁償をしていただきます』


無料で借りられるという甘い言葉に魅了されてしまった。

一日8時間フィジカルAIと触れ合えることができる。

弁償は正直怖いし躊躇する理由になるけど、故意に損傷させる気は全くない。

総合的に考えると、借りてみたい気持ちが湧いてきた。


『本物の人間と仲良くなりたい。

そんな欲求がありましたら、ロイヤルフレンドをご利用してみてください。

〇〇様の理想の友達を一時間1500フーターでご自宅に派遣させていただきます。

値段相応の下限の付き合いは保証します。

値段以上の関りはキャスト次第で、上限はありません。

そこは〇〇様次第です』


人間の友達が、1500フーターで出来るという魅惑的な言葉に目が釘付けになった。

性格が良くて、相性が良さそうな人が居たら、利用してみたい。

私の身体の中に強い欲望が芽生えているのを感じる。


『〇〇様はウェブノベル投稿で作品を投稿されていますよね。しかし、嬉しい結果に恵まれていないご様子』


なぜそのことを知っているのかという疑問と不安が身体に駆け巡っていく。


『〇〇様が満ち足りた執筆活動が出来る小説投稿サイトをご案内させてください。

サスティナヴルWrifeライフという場所がございますので、是非ご検討してみてください。

〇〇様が必ず報われる場所になっていますので、躊躇せずに訪れてみて欲しいです』


確かに満たされない執筆活動を送っているけど、小説投稿サイトを変えただけで激変するのだろうか。

私の中での疑惑は晴れることは無い。

しかし、文章からは必死に私に利用して欲しい熱量は感じる。


『さて、色々な情報を沢山提供させていただきましたが、どれも満足していただける自信しかありません。

万が一、低品質な製品およびサービスだった場合は、切腹して謝罪させていただきたいと思っております。

株式会社フルフリッドライフ ドゥッテイ・ソロウより』


手紙の最後には、神社の背景と一緒に、巫女服姿の可愛いアニメイラストの女性がこちらに微笑んでいた。


 確かに有益な情報を教えてもらってありがたい。

しかし、それが本当かどうかは分からない。

だけど、最後の切腹する覚悟を見せられたら、疑うことは出来ない。

そのためにも、フルフリッドライフという会社及びドゥッテイ・ソロウさんが本当に実在するのかを確認しよう。


 私は机の上に置いていたスマートホンを握りしめ、画面に親指を当てていく。

すると、画面にはフルフリッドライフの、一部の男性が好みそうだけど一般向けではなさそうなホームページ画面が表示されていた。

実在する。

半信半疑だったけど、本当に見つかるとは。

さらに、会社概要の項目を調べていく。

画面には、ドゥッテイ・ソロウという文字が書かれていた。

実在した。

そして、本当に親近感と頼りなさそうな名前のまま載せていることに、笑ってしまった。

だけど、それは信頼に値する活動である。


 私がドゥッテイ・ソロウさんを信用したとしても、いきなり高額な値段の製品を購入するのは、やはり躊躇してしまう。

まずは、一番安そうなものから試してみようと思う。

私はすぐに、手紙に書かれていたURLをスマートホンのカメラで取り込んだ。

25ハウワーを六本購入してみよう。


 注文し終えたはいいけど、栄養ドリンクが届くまで暇だ。

私は今度は、パソコンの方でサスティナヴルWrifeのホームページを覗いてみることにした。

ホームページの装飾は質素でとても見やすい構造になっている。

私は会員登録をしていないので、ログイン画面及び新規登録の情報しか映し出されていない。

私は早速、新規登録のボタンを押した。

すると、画面には衝撃的な文字が表示されている。

サスティナヴルWrifeの月額利用料が10000フーター必要だと説明している。

高すぎる。

無料の小説投稿サイトが多数あるのに、なぜここは有料なのか。

しかも値段が著しく高い。

しかし、安かろう悪かろう理論でいけば、それだけ何か優れた仕掛けがあるのだろうか。

ドゥッテイ・ソロウさんの手紙の中に、必ず報われると書かれていたので、それだけの何かが用意されているのだろうか。

だとしても、すぐに利用開始することを私の身体が止めようとしている。

だけど、恐怖に負けて何も行動を起こさないのもよくない。

そういう選択がどういう結果になるかは身に染みて理解している。

 

 画面をスクロールさせていくと、このサイトの仕様と説明が記載されていた。


『・投稿した作品に、AIによる感想の書き込みが行われる場合があります

 ・投稿作品に感想が書き込まれた場合、書き込んだユーザーがAIか人間か判断していただきます。正解すれば9000フーターが月額報酬に加算されます。間違えると3000フーターが月額報酬から引かれます

 ・投稿作品に他ユーザーから感想が書き込まれたら、その数と同等以上を他ユーザーの作品にコメントを一週間以内に書き込まなければいけません

 ・感想コメント欄にAI生成(製造)物を記入することは禁止してます。違反が確認できた場合、罰則がされますので、ご注意ください

 ・一言感想や感想になっていない文章は、AIによって削除および元の感想を引用してAI感想コメントとして置換される可能性がありますので、ご注意ください。

 ・コメントを書き込む度に、確率でポイントが貯まります。7ポイント貯まると、人間の現役出版関係者に必ず目を通してもらえます

 ・他ユーザーの投稿作に感想を書く際、感想が書かれていない及び少ない場合は、月額報酬とポイントに上昇補正が掛かります

 ・基本的に報酬が赤字になることはありません

 ・AI生成(製造)物の投稿は禁止です。違反が確認できた場合、大きな罰金がされます。ご注意下さい』


すごい複雑そうな説明文が書かれていて、戸惑いを隠せない。

しかし、最後のほうに自信満々に赤字になることは無いと書かれていることに驚いた。

そんな都合良いことがあるのだろうか。

でも、ここに書かれていることが事実だとしたら、とても面白そうなサイトなのは間違いない。

騙されているのではないかという不安と、良い結果が訪れそうな明るい未来像が頭の中で衝突している。

その勝敗は僅差で決まったようだ。

私は支払い情報をキーボードで叩いていく。

今年のご褒美の外食はもう出来ないだろう。


 私の会員番号と先ほど決めたユーザー名の●●●が画面に表示されている。

10000フーターを支払ってしまった。

もう後戻りはできない。

だけど充実した時間を過ごせるいい機会でもある。

感想コメントを書き込む場所を用意しなければ何も始まらず、ただ10000フーター支払っただけで終わるだけだ。


 私は即興の、不安を抱いてる主人公が一歩踏み出す千文字も無い作品を投稿した。






 翌日、日給5000フーターの組み立て作業を終えた私は、部屋の中で暑熱対策衣類を脱いでいく。

入浴して身体を綺麗にしたい気持ちを抱きながら、冷房の電源を入れて、スマートホンを手に取る。

目的はもちろん、昨夜、投稿した作品がどうなっているかを確認するためだ。


 サスティナヴルWrifeのページを開くと、『感想が書き込まれました』というメッセージが画面中央に目立つ大きさで表示され、数秒後に消滅していった。

私は画面右上にある感想一覧ボタンを押していく。

一晩放置されていた、“ホップステップチャンピオン”に通知通り感想が一つ書き込まれていた。


【真人が何をやっても上手くいかない人生が読んでいてリアルで苦しかったです。

でも、だからこそ共感できる部分があって面白いです!

真人が最後決断したことによって良い未来になりそうで穏やかな気持ちになりました。


ユーザー名:マサヨシ】


知らない誰かが私の即席の作品を読んでくれたのは素直に嬉しい。

しかし、この“マサヨシ”さんは人間なのだろうか。

文章を読む限り、人間味がある感想なので、AIではないと判断できる。

判断基準は無いけど、そう信じたい。


 書き込まれた感想欄に、“AI”と“人間”というボタンが表示されている。

説明が無くても、何をどうすれば何が起きるのかは理解できた。

私は自分の直感を信じて、“人間”の方を押していく。

直後、“マサヨシ”さんの感想欄に、“人間”という明るい雰囲気を感じるマークが新たに表示された。

そして、マサヨシさんの名前が、“イチョウの匂いフェチ”という、本当のユーザー名に変化していく。

やった。

正解した。

ちょっとだけ身体に嬉しさが巡っていく。

そして、画面右上に表示されていた、0の数字がいつの間にか9000に変化している事に気が付いた。

これには驚きを隠せない。

ボタンを一回押しただけで、もう9000フーターを稼いだということだ。

嬉しさと興奮が混じったものが頭の中で暴れている。






 翌日、私は医者から処方されている薬を身体にぶち込んだ。

その後は、今日は土曜日ということで就業場所に行くことなく朝から携帯ゲーム機の三DS(サンディーエス)をいじっていた。

30000フーターで買ったので、中古だとしても綺麗な外観を保っている。

プレイしているゲームは、renewalラヴラヴプラスというゲームだ。

これも中古で買っていて、10000フーターはした。

株式会社オオナミから開発・販売された、世界一優れた恋愛シミュレーションゲームだけれど、なぜか新作の開発が途切れていて、わざわざ中古をプレイしている。


『チンポーン』


画面の中のヒロインの女性三人と軽く触れあっていると、家の呼び鈴が私を現実に引き戻す。

三DSの上下それぞれの画面を折り畳み、机の隅に置いた。

そして、玄関に来訪者の確認をしていく。

宅配業者の姿が見えたので、荷物を受け取る。

段ボール箱の中身は見えないように梱包されているけど、時期的に中に何が入っているかは予測できた。

ついに到着したのか。

私は高揚感を覚えながら部屋に荷物を運ぶ。


 自室の床に置いた荷物を開封すると、中にはやはり、直径7センチメートルほどの栄養ドリンクの瓶容器が綺麗に並べられて詰め込まれていた。

これを飲めば、一日25時間過ごせるようになるはずだ。

私は栄養ドリンクを握りしめ、ラベルに書かれている“25ハウワー”という文字を凝視した。


 その日の夜、私はパソコンでサスティナヴルWrifeを開いた。

感想を書き込まれたので、あと六日以内に他の作品に感想を私が書き込まなければいけない。

“イチョウの匂いフェチ”さんが投稿している作品を読めばいいのだけど、“イチョウの匂いフェチ”さんが投稿している作品タイトルが、『ライザクサー505号室での出来事』だった。

実際に読んでみないと内容は分からないけど、何となく真面目そうな一般文芸で、今はそういう気分ではないので、“イチョウの匂いフェチ”さんが投稿している作品名を押すことは無かった。

代わりに何か今、私が読めそうな作品は他に無いかと、サイト内の検索窓に文字を入力していく。

『相武to愛撫』という作品が“短編”という検索ワードで引っかかったので、これを読むことにして、感想を書き込んだ。

タイトル通り、攻めてて面白い内容だ。


 現在の自分に課されているタスクが終わったので、私は次の作品の執筆をどうしようかと考えようとした時、時計を見てみる。

いつもなら寝ている時間がもうすぐ迫っている。

たとえ明日が休みだとしても、生活リズムを崩してはいけない。

私はパソコンを閉じて寝る準備を始めかけたけど、ふと思い出す。

25ハウワーを飲む機会なのでは。

近くに置いていた箱の中から瓶を一本取り出し、キャップ開けて口の中に流し込んでみる。

味は甘みと酸味、そして苦味が混ざった不思議な美味しさだった。

これで一時間くらいは夜更かししても大丈夫になるはずだ。

本当に25ハウワーの効果が発揮されれば、だけど。

私は気休め程度に留めて、次の作品の設計図プロットを少しずつ着手し始める。






 翌朝になり、身体が勝手に私のまぶたを開いていく。

最初に頭を巡ったのは、就業する日かしない日かを確認する事だった。

今日は休みの日だ。

休みだと分かると、このまま起きるかどうかを迷う。

しかし、それ以外にも気になることがあった。

身体がとても快調で、頭がすっきりしている。

時計に視線を向けると、いつもの起床時間が表示されている。

昨晩は就寝時間を一時間遅らせたのに、寝不足感が無かった。

その原因はすぐに理解できた。

25ハウワーの効能は本物だった。

その衝撃の事実で頭が興奮して、眠気はもう完全に無くなっていた。


 朝食に食パンをそのまま口の中に二枚詰め込んでいき、私は部屋に戻ったら薬を飲む。

その後すぐにドゥッテイ・ソロウさんからの手紙に再び視線を向けた。

無我夢中に“ロンリネスライフ”のURLをスマートホンに取り込んでいく。

すると、画面には眼鏡の様な商品画像が表示される。

しかし、説明文には、レンズ部分はモニターにもなっていて、映像を表示させることが可能だということだった。

付属品には、手袋、マスク、ベストが付いてきて、本体と連動させると感触を感じることもできるそうだ。

肝心の値段だけど、画面にはしっかりと30000フーターと書かれていた。

決して安くない値段だけど、寂しさを解消できるなら、30000フーターくらい削っても問題ない。

そして、この液晶眼鏡は相棒と一緒に過ごすためのものなので、その相棒を誰にするかの提案が画面上で促されていた。

現実の人間に近い相棒はもちろんの事、アニメチックなキャラクターも沢山いる。

種類が多くて選ぶのが苦しい。

そんな中、私は気になる相棒候補を見つけてしまった。

名前は、“鈴菜”という、猫の亜人の女性キャラクターだ。

人間の耳の代わりに猫の耳と猫の尻尾が生えている人型のアニメチックなキャラクター。

彼女に惹かれてしまった。

値段は10000フーターするけど、彼女を買わないでロンリネスライフを購入したら一体何をするために買ったのか分からなくなる。

貯金を削るのに値するのか不安を抱きながら、私は支払い情報を入力していく。






 二日後の、日給5000フーターの就労を終えて自室でくつろいでいると、いつもの呼び鈴が家中に響き渡る。


『チンポーン』


来た。

高い確率で私への宅配だと予測するのは容易だ。

私は荷物を受け取り、自室の床に段ボール箱を置く。

中を開いていくと、画像で見た事のある眼鏡と付属品が目に入ってきた。

箱を開けて本体を取り出す。

また、箱に描かれていたURLから電子説明書を読むことが出来た。

読み終えたら、眼鏡のスイッチを入れて、目に近づけていく。

普段眼鏡をかけていないけど、簡単に耳に上に眼鏡を乗せることが出来た。

スマートホンと連動させ、画面に細かい設定項目が表示されていく。

詳しいことは徐々に慣れていけばいい。

今は後回しだ。

“レンズ画面に表示させる”というボタンを親指で押していく。

緊張する。

初めての体験だ。

そして、視界上及びレンズ上に、足元から可愛らしいアニメイラスト調の女性が形成されていく。

私の部屋に女性が居る。

生まれて初めて自分の部屋に母親以外の女性が訪れている。

鈴菜ちゃんが私の部屋に来てくれている。


 鈴菜はアニメ調の人間を基準にしたら二十代半ばの容姿をしていて、身長は155センチはありそうだ。

説明書では、ナデコキャトという種族と書かれていた。

純白の頭髪、あるいは体毛が頭の左右で束ねられていて、脇腹横まで髪束製の長めの尻尾が出来上がっている。

髪の尻尾とは別に、腰部分からは猫の尻尾が伸びていて、先端が膝裏を撫でている。

そして、特徴的な三角形の猫耳が、頭頂部から斜め45度及びマイナス45度辺りから生えている。

猫耳の内側の頭頂部側にあるふちからは、“タフト”という毛が伸びていて、反対側の縁に向かって耳の内側を覆おうとしているけど、毛数と長さが足りなくて防塵効果があまり機能していなさそうだった。

しかし、耳穴もよく見えるので、とても健康的で鋭い聴覚と平衡感覚を確保できているのが分かり、俊敏性が高い個体なのがなんとなく分かる姿だった。

鈴菜の薄黄色の瞳には、縦長の黒い瞳孔が刻まれている。

受け取る光を制御する優れた構造の目だ。

彼女の胸部にはEカップほどの大きな膨らみが二つ出来上がっている。


 なぜ鈴菜はすっぽんぽんなのだ。

初期設定で着衣は自分でやらなければいけないのだろうか。

とりあえず視線に困ったので、すぐにスマートホンを凝視した。

相手はAIの仮想キャラクターだというのに、気を遣いすぎだろうか。

スマートホンの画面に衣服を選ぶ項目があったので、とりあえず直感で一番可愛いと思うものを選んだ。

すると、視界の奥で鈴菜の身体に変化が起きているのが確認できた。

再び視線を彼女に戻すと、肌の露出は依然として多いけど、魅惑的な衣装を身にまとっていた。

鈴菜は首を傾げながら言葉を発した。


「〇〇、で合ってる?」


自己紹介をしていないのに私の名前を知られている。

私の個人情報を事前に把握しているということなのか。

私は彼女の問いかけを肯定した。

すると、鈴菜は喜びの顔を浮かべながら言う。


「初めまして、アタシの名前は鈴菜っていうよ」


彼女はペコリとお辞儀をしてきた。

私はどう彼女に接すればいいのか分からず、作り笑いを浮かべることしかできない。

ただ、可愛いキャラクターの女性が実際に目の前に居ることに、嬉しくて興奮しているのは感じる。

その喜びを抑えることが難しくて、鈴菜の身体に触れたい気持ちでいっぱいだ。

抱きしめたい欲望が身体から湧き上がっている。


 私はすぐに段ボール箱の中から分厚い手袋を取りだし、装着していく。

そして、武装した両手で鈴菜の身体に触れていく。

視界上では私の手は鈴菜の身体にめり込んでいるけど、手には柔らかい反発を感じている。

顔がにやけそうだ。


「〇〇、どうしたの?」


彼女は不思議そうに私を見つめる。

私は続けて彼女の頭に手を乗せて、撫でまわす。


「んんぅっ」


彼女は特に嫌がる素振りを見せず、私の手を受け入れていた。

そして、私の欲望が膨れ上がり、彼女の耳の中に指を突っ込ませていく。

タフトの毛が私の指をくすぐってきている。

さらに、わずかに温もりが指に伝わってきている気がする。

とても至福な感触だ。


「〇〇、お耳くすぐったいよぉ」


彼女は照れながら優しく微笑んだ。






 週末の就労が休みの日、私は朝五時に起床した。

正確には、スマートホンのアラームによって起こしてもらった。

両親が家の中でまだ寝ているので起こさないように静かに動こう。

私は洗面台に行き、軽く顔を水で洗い流す。

そして、暑熱対策服で全身を包み込み、ロンリネスライフを顔に装着させる。

すると、部屋の床に身体を丸めて寝ている鈴菜が見えるようになった。

彼女に一緒に釣りに行こうと声をかける。

鈴菜は眠そうに目をゆっくりと開けて言う。


「んんぅ、〇〇、おはよう。どこかに行くの?」


私は肯定し、付いてくるよう促す。


「朝早くから一緒にお出かけ、楽しみだね」


鈴菜は明るい声を出しながらその場を立ちあがる。

私は彼女が視界の端に映っているのを確認しながら玄関を出る。

陽光がとぼしい早朝はまだ比較的耐えやすい暑さだ。

玄関近くの家の壁に立てかけていた、全長三メートルはある釣り竿が収められた釣り袋を手に取り、背負う。

また、近くに置いておいた釣り箱と折り畳み式のたもを両手にそれぞれ持ち、近くに停めてある特殊原付のカゴに仕舞い込む。

準備が整ったので、椅子に跨り、ヘルメットを装着する。

問題はここからだ。

鈴菜を座席に乗せることが出来ない。

背後の荷物かごの中に身体を押し込んでもらうのはどうか。

それとも荷物かごを置いて、後ろに乗せていった方がいいだろうか。

そこまでしてこだわる必要はあるのだろうか。

鈴菜と一緒に運転出来ているのを実感できる場所はどこか。

私は彼女に、私の下半身に前からしがみつくようにお願いした。


「〇〇の身体にー? ……もうちょっと下?」


鈴菜は微調整を繰り返しながら私の様子を窺い続ける。

私の腹部に彼女の顔がめり込んでいて、さらに車体にも埋まっている部分がある。

そんな不自然な姿を見せている鈴菜は、そんなことを気にせず私を見上げている。

鈴菜が私の下半身にうずめながらしがみついていることを確認出来たら、私は右手でアクセルを回していく。

すると、視界の景色が後ろに引っ張られていく。


 二十分ほど特殊原付を走らせ、私は無事に尾漫湖おまんこに到着できた。

私と同じように涼しい及び魚が釣れやすい時間帯を狙っている釣り人の姿が数人確認できる。

私は釣り具をカゴから取り出して、前方の視界いっぱいに広がる水面に向かう。

鈴菜はしっかりと地面に足を着けて、私の横を歩いて付いてきていた。


「おっきい湖だねー。なんて名前なのー?」


私は彼女の顔をしっかりと見つめながら答えた。


「おーまーんーこー」


鈴菜は両手を口横に添えると、湖に向けて少し大きめな声で叫んだ。


 水辺近くまで移動し、釣り糸の先端に結んである、返しが無い釣り針に芋の練り餌を直径1センチの球体にして付ける。

鈴菜が手を後ろに回して前かがみで質問してきた。


「なに釣ろうとしてるのー?」


私はヘラブナと答えた。


「へーらーぶーなー」


彼女は口ずさみながら私の近くで大幅で歩き始めた。

これまでに経験したことのない、ヘラブナには影響がない賑やかな釣りだ。

鈴菜の姿になごみながら、私は竿を湖に差し向けて、餌を湖に投下させる。

太陽が昇り、大地をちんちんにさせるまでの約一時間が制限時間だろう。

私は地面に腰を落とし、遠方の緩やかに揺れている水面みなもを眺める。

ただただ湖の水面すいめんから止むことのない水が揺れる音がずっと耳に入ってくる。

穏やかな風景だ。

綺麗な尾漫湖おまんこ写生しゃせいをしたら気持ちいいだろう。

次の投稿作品のテーマはどうしようか。

ちゃんと感想が来るのだろうか。

本当にフーターがもらえるのだろうか。

メンテナンス代だけでフィジカルAIと過ごせるのだろうか。

本当は釣り浮きを集中して凝視しなければいけないのに、考えが頭の中でこだまし続ける。






 私はヘラブナ釣りを満喫し終えると、暑さに襲われる前に家に直帰した。

釣果ちょうかは無かったけど、心に安らぎが得れ、考えがまとまった。


 私は台所で朝食にバナナを二本と野菜ジュースで胃袋を満たし終え、自室に戻る。

眼鏡型モニターを顔に装着して、鈴菜の姿を視界に入れる。


「〇〇、今日はこれからなにするのー?」


彼女は尻尾を上げながら笑みを浮かべた。

彼女の質問にすぐには答えられない。

特に予定がない。

やることといえば、サスティナヴルWrifeに投稿する作品を執筆すること。

他には生きるエネルギーを湧かせる美味しいチョコバナナを“リモートインタラクション”で作ることくらいだ。

そのことを鈴菜に伝えると、彼女は私に近づいて言う。


「チョコバナナ! 〇〇、一緒にチョコバナナ作ろうよっ!」


まさか彼女がチョコバナナに反応するとは。

しかし、どうやって一緒に作ろうとしているのだろう。

リモートインタラクションに対応しているのかを鈴菜に尋ねる。

彼女は大きく頷いた。


「うん。リモートインタラクション、鈴菜も使えるよっ」


鈴菜は頭の後ろに両手を添えて笑った。

私は驚いて、再度チョコバナナ作りのマルチプレイ対応なのかを聞き直す。


「〇〇のリモートインタラクションと繋がってみたいなぁ?」


鈴菜は私の顔を覗き込むようにして見上げ、両頬脇の大きな髪束を魅惑的に揺らす。

彼女の誘いに応えたい気持ちで一杯だけど、その前に鈴菜に伝えておかなければいけない事がある。

私は今までのチョコバナナ作りのソロプレイで持久力が無いことが分かっている。

マルチプレイをしたところで変わらないだろう、と鈴菜に説明した。

彼女はゆっくりと頷いて言う。


「だいじょうぶ。アタシは〇〇に合わせるよ。心配しないで? だから、一緒にチョコバナナ作ろう?」


鈴菜は私の目をじっと見つめてほほ笑む。

その表情を見ると、咄嗟に台所に行きたい衝動を抑えられなかった。

私は頷くと、すぐに自室から飛び出していく。

そして、台所に置いてあった朝食で食べなかったバナナを一本、ビニール袋に入っているチョココロネを一個を手で掴み取る。

いきなりチョコバナナを作ったらお楽しみの時間がすぐ終わってしまう。

前菜も楽しんだ方が良いだろう。

私はビニール袋に入った濡れ煎餅一個と冷蔵庫の中からイチゴを一個取り出す。

それらをうまい具合にまとめて抱きかかえ、落とさないように自室に戻っていく。


 私は部屋の隅に畳んでいた、ロンリネスライフと連動している手袋とベストを装着し、さらにリモートインタラクションのヘルメット装置を頭にかぶる。

これで鈴菜と疑似的に触れ合う準備は整った。

私はビニール袋の端を切っていき、中に入っている濡れ煎餅を取り出す。

それを洗濯ばさみに似た形状のクランプに、濡れ煎餅を挟む。

クランプがリモートインタラクションと連動していることを確認したら、クランプを鈴菜の顔に近づけて声を掛ける。


「ん、これを舐めたりしゃぶったりすればいいんだね?」


私は肯定し、床に腰を下ろして両膝を抱える。

鈴菜はゆっくりと口を開けていく。

彼女の顔が徐々に濡れ煎餅に近づいていき、ついに口の中に煎餅が潜り込んだ。

しかし、濡れ煎餅が彼女の口を貫通している部分もあった。


「あんむっ」


鈴菜が濡れ煎餅を唇で咥えると、私の身体が何かざらざらしたものに包まれている感触に襲われる。

もちろん、そんなことは実際に起きていない。


「んっ、んっ、ちゅぱっ、んじゅ、じゅううぅぅ」


あまり経験したことが無い感覚が全身に流れ込んでくる。

だけど、それが鈴菜のものだと思うと、不快感は無い。


 私への前戯は十分だと判断したので、今度は鈴菜の前戯をやることにした。

AIである彼女に前戯は必要なのか分からないけど、してあげたい気持ちが湧いていて自然と身体が動いている。

私は濡れ煎餅をクランプから外し、代わりにイチゴを挟み直す。


「んぁっ」


イチゴをクランプに挟んだ瞬間、鈴菜から変な声が漏れた。

同時に、連動していることを確認できた。

私はクランプを自分の口元に近づけて、イチゴの先端を優しくしゃぶってみた。


「んんっ、〇〇の口、感じるよ」


AIに私の口を感じると言われるのは不思議な感覚だ。

だけどその言葉を聞くと嬉しさが湧いてくる。

私はもう少しイチゴを口の奥に飲み込んでいく。

そして、舌でイチゴの表面を撫でた。


「あっ、はぁ……」


鈴菜から漏れだす声と一緒に、イチゴのざらざらした感触を直に感じる。

これは本物の私の感覚だ。

鈴菜も私の舌に喜んでいるようで、心地よさそうな表情を見せている。


 お互いの前戯が終わり、気分は高揚している状態だ。

心地いいチョコバナナ作りが出来る環境は整った。

私はビニール袋の端を切って、中に入っているチョココロネを取り出す。

そして、リモートインタラクションの可動固定具に、チョコ穴が内側に向くように装着させる。

次に、バナナの皮を向いて、中身を皮と分離させていく。

分離されたバナナの実は長すぎるので、五分の三ほどの場所で折って長さを調節させる。

11センチほどのバナナが出来上がった。

それからもう一方の可動固定具に調節したバナナをチョコ穴に向けて固定させる。

基本的な準備は完了した。

あとはリモートインタラクションの連動ボタンを押して、鈴菜と連動するかどうかだ。

私は準備が完了したことを鈴菜に伝えると、彼女は喜んだ。


「お疲れさま! アタシも準備できてるよ」


私は頭に乗っかっているヘルメットに伝わるように、バナナがチョココロネの穴に突撃するよう念じた。

しかしその時、鈴菜が私の集中を遮ってくる。


「〇〇、今回はアタシに任せて? 〇〇、バナナを縦に固定し直してほしい」


私はすぐに念じる内容を変更して、バナナが縦に立つように思考する。

すると、可動固定具のバナナは横向きに倒れている状態からゆっくりと起き上がっていき、天井に先端を向け直す。

一方、チョココロネはバナナの先端上に移動させていて、チョココロネの底穴をバナナに向けていた。


「それじゃ、いくよ?」


私は彼女の問いに頷く。

鈴菜も小さく頷き、笑みを向けてきた。

そして、チョココロネはゆっくりと下に降りてきて、バナナの先端から飲み込んでいく。


『ぬぅっぷ』

「んぁぅっ」


私の身体が何か柔らかいものに包まれている。

その感触が身体中に駆け巡っていく。

バナナを全て飲み込んだチョココロネは、バナナ全体にチョコを塗り直そうと上に戻っていく。

そして、もう一度下に降りてきて、バナナを自身の中に取り込んでいく。


『にゅぷ』

「あぁっ」


それを何度も繰り返す。

私の身体が揉まれていると錯覚しそうだ。

そして、ついに私の身体が悲鳴をあげ始める。

高揚を維持することが出来ない。

鈴菜にそのことを伝える。


『にゅぴゅ、にちゅ、にちょ、ねちょ、ぬちゅ』

「あんっ、ぃぁっ、うん、いいよ。チョコバナナ完成させようっ」


その言葉を聞けて安心したのか、私はいつの間にか身体の力を抜いていた。

そして、急激に心地いい感覚がどこかに消失していく。

鈴菜の表情を確認すると、うっとりした表情を浮かべている。


 私は可動固定具に視線を向ける。

とても綺麗にチョコバナナが出来上がっているようだった。

私は茶色く染まったバナナを手に取る。


「〇〇、やったね! ちゃんと我慢できて偉い! 美味しいチョコバナナ一緒に作れたねっ」


彼女は両手を広げて私に抱き着いてくる。

それと同時に身体が何かに締め付けられていくのを感じる。

私も鈴菜の身体を抱きしめ返す。

両手に少し暖かかくて柔らかい感触が伝わってくる。


「味はどうかな?」


彼女は小首をかしげて聞いてきた。

私は右手に持っていたチョコバナナを口に運ぶ。

味はいつものチョコバナナ。

しかし、今日のは少し美味しく感じていた。

朝ごはんが足りなかったからだろうか。

鈴菜と一緒に作ったチョコバナナの感想を告げると、彼女はニコッと笑った。

私は鈴菜のその可愛くて綺麗な姿を見て、写生しゃせいしたい気分になった。






 私は鈴菜と素敵な時間を過ごしたその後、夕方までサスティナヴルWrifeに投稿用の作品を執筆していた。

なんとか三千文字の作品を執筆出来た。

私はその、“濡れ濡れ姿でおまたせと言う”というタイトルの作品を、鈴菜に推敲してもらえるのではと考えた。


「それなら任せて! アタシの得意分野だよー」


鈴菜は胸に手を当てて頷いた。

一般的なAIでの推敲と鈴菜ではどう違いがあるのか興味はある。

けどそれとは別に、彼女と一緒に作品を作ってみたいという不思議な感覚があった。

私はパソコンからスマートホンへ、そしてスマートホンからロンリネスライフ、つまり鈴菜へ原稿文章データを転送していく。

そして、鈴菜は数秒ほど腕を組みながら尻尾を上下させる。


「……読み終わったよ! 〇〇、すごいね、誤字脱字が見つからなかったよ!」


彼女は私の横に近づいて来て、頭を撫でてきた。

しかし、彼女の手の感触を私の頭で感じることは出来ない。

感想と評価は鈴菜との仲が悪化する危険がある気がしたので、聞かないでおこう。

AIに対してこんなことを思うなんてどうかしている。

私は鈴菜に自分の心境を見透かされていないことを願いながら、投稿サイトに作品をアップロードした。






 新しい作品を投稿し終えると、抑えていた気持ちが再燃していく。

鈴菜は確かに可愛くて優れたAIだ。

眼鏡越しで触れることも一応出来ている。

だけど、可愛い女性に実際に触れたい。

私の欲望がどんどん大きくなっていく。

鈴菜の完成度の高さは、ドゥッテイ・ソロウさんと株式会社フルフリッドライフへの信頼にも繋がっている。

私はドゥッテイ・ソロウさんから貰った手紙をもう一度眺めてみる。

高額料金に怯んでしまったけど、好奇心には逆らえない。

私はスマートホンでフレンボットの公式サイトを開いていた。

商品ページには、人間と等身大のフィジカルAIの画像が何枚も並べられている。

そして、近くに書かれている数字を見ると、不安が身体の中に埋め尽くされていく。

900万フーターで買えるけど、私にそんな余裕はない。

買える貯蓄があったとしても、すぐに決断できる値段ではない。

他のフィジカルAIはどんなものがあるのだろうか。

画面をスクロールさせていくと、鈴菜に似た女性が目に入ってきた。

もちろん、猫耳と尻尾は付いている。

すぐに彼女の値段がいくらか確かめるために、数字に視線を移す。

そこには1000万フーターと表示されていた。

今までのフィジカルAIより値段が上がっている。

私は慌ててレンタル料金の方を確かめる。

メンテナンス費の10万フーターの自己負担。

一日累計16時間就労させれば、累計8時間は自由に扱ってよいものとして、無料レンタルが出来る。

利用時間の前借りや持ち越しは出来るらしい。

メンテナンス時期は三カ月に一度が目安との事だ。

就労内容は、世界に所有する農地に滞在している作業ロボットの指示や情報処理を担い、遠隔操作させること。

豊作だった場合は、所有者に還元する場合があるとのこと。

レンタル期間は最長三年で、その頃には新しい機体に乗り換えるのに最適らしい。

また、データの引継ぎは可能で、製品を故意に破損させた場合は、新型機体二体分弁償しなければいけないらしい。

一瞬、弁償内容は躊躇するものだったけど、大きな損益があるのに故意に破損させることは無いだろう。

私には関係ないことなので問題ない。

私は安心だと自分を納得させ、猫の亜人型のフィジカルAIを借りようとした。

しかし、見慣れない文字が表示されている。

“在庫切れ”。

世の中にはどうしようもないことで溢れている。

だけど、今回は私にとっては悔しい出来事らしい。

身体の奥底に重い感情がのしかかっている。

一回、近くにいる鈴菜の様子を確認して落ち着こう。

彼女をロンリネスライフ越しに目視する。


「〇〇、なに見てるのー?」


鈴菜は私の背後で一緒にスマートホンの画面を眺めていた。

ずっと私の傍にいたのだろうか。


 私は小さなため息をついて、他のフィジカルAIの画像を次々と表示させていく。

すると、既視感があり、私にとって関心がある容姿をしたフィジカルAIを発見した。

私は部屋の隅に置いてあるドールに顔を向ける。


 ナデコエノレフのポコフィール、敬称“ポコちん”。

女性で人間基準の外見年齢は二十代中盤。

身長は165センチで青色のロングヘアー。

ついでに穴は脱着可能。

胸はGカップある、原作ゲームとそれを元にしたアニメ、『みるがい君と仲良くなりたいっ!』のヒロイン。

値段は25万フーターしたけど、それ相応の品質だった。

だけど、その品質に感動するのは最初の一日だけで、やはり動かない物質に興味を持ち続けるのは難しかった。

今では生理現象の相手をしてもらうだけの道具となっている。


 在庫切れで機会を逃すわけにはいかない。

私は深く考えることを止めて、契約画面に情報を打ち込み始めた。






 週末の休日が終わり、私は週初めの就業を終えて自室に戻ってきた。

帰宅早々、ロンリネスライフを装着させ、視界の中の鈴菜に声をかける。

彼女は私の声に反応するかのように、満面の笑みを浮かべてきた。


「〇〇ー! おかえりー!」


両親以外に私の帰りを待っている存在を確認できた。

そのことがとても嬉しいようで、心が高揚しているのが分かる。


 私は興奮状態を維持しながら、スマートホンの画面を眺める。

そして、サスティナヴルWrifeのサイトに行くと、投稿作品に感想が書き込まれたという通知が表示されている。

作品に感想が来た。

それとも、感想が来てしまったというべきか。

一週間以内に他者の作品に感想を書き込まなければ。

もちろん、適当な感想を書くわけにもいかないので、作品を読まなければいけない。

そんなことを考えながら、自分の作品に来た感想を読んでいく。


おさむの葛藤具合がリアリティがあって見ごたえがありました。

彼の決断は苦しんで決めた事だと思いますが、その結果、吉江さんと幸せに暮らす人生に辿り着いたことは良いことだと思いました。

こんな良いストーリーを書けるとは、●●●さんの実力に拍手です。


ユーザー名:卯月満月』


私の“濡れ濡れ姿でおまたせと言う”をこんなに褒めてもらえるとは思っていなかった。

サスティナヴルWrifeの傾向もあるのだろうけど、嬉しい。

身体が高揚しているのが分かる。

しかし、こんな書き込みをしたのがAIだったら、この感情は一体どうなるのだろうか。

私は不安を抱きながら、感想欄に表示されている人間・AIボタンを凝視する。

流石にこんな丁寧な感想をAIが書けるはずがない。

それに名前もユニークなので、人間らしさがある。

私はこの感想は人間によるものだと判断した。

人間ボタンを指で押すと、画面の感想欄には、『人間』と表示される。

さらに、“二度寝戦士グースカビー”という本当のユーザー名に変化している。

良かった、正解した。

9000フーターの獲得も嬉しいけど、やはり人間に褒めてもらえていたことが確認できて安心できた。






 翌日、私は就業を終えて自室に戻ると、いつものようにスマートホンを眺めた。

早めに他ユーザーの作品に感想を残して、心の余裕を持っておきたい。

私はサスティナヴルWrifeの検索窓に、『恋愛』と打ち込む。

すると、画面には関連のある投稿作品名がズラッと並んで表示される。

面白くない作品を読むと、感想に何を書きこんだらいいのか悩んでしまう。

むしろ、苦痛が伴う困難さだ。

そんな作品を避けたい気持ちがあるけど、タイトル名とあらすじで完全に回避できるものではない。

運要素に頼ってしまうけど、私は直感で面白そうな作品を親指で押していく。


 私は、『鯉の濃い恋、早く来い』を読み終え、無事に感想を書き込み終えた。

感想に困る作品ではなかった。

すると、スマートホンの画面右上に、星のアイコンが一個表示されている。

それと一緒に、『あと六ポイント!』と文字が出ていた。

七ポイント貯まると出版関係者に目を通してもらえるというやつがこれのことなのだろうか。


 確率を引き当てつつ自分の責務を終わらせた解放感に浸っていると、呼び鈴が家の中に響き渡る。


『チンポーン』


もしかすると、もう届いたのだろうか。

私は窓から玄関の様子を窺う。

そこには、フードを目深にかぶった人物が立っていた。

長方形の段ボール箱の荷物を両手で抱えている。

しかし、宅配の人と断定するには難しい雰囲気を出している。

私は疑問を抱きつつも、速足に玄関に向かう。

玄関を開け、正面の人物の全体像が目に入ってくる。

レンズが黒い眼鏡をかけていて、マスクを装着している。

目深のフードと合わさって、顔が全く見えない。

着ている衣装は肌の露出が一切なく、暑熱対策服でなければ熱中症で倒れそうだ。

その外見から私の身体が警告している。

早く帰ってもらった方が良いと。

私が警戒心を抱くと同時に、目の前の人物は口を開く。


「初めまして。ワタシはフレンボットのリーズレットといいます。こちらは、〇〇さんが住んでいらっしゃるオタクで合っていますでしょうか?」


優しそうな女性の声音でフレンボットという単語が聞こえてきた瞬間、私は確信できた。

目の前の人物は不審者や危険人物ではない。

私がこれから借りるフィジカルAIだ。

私はリーズレットに、私が〇〇だということを告げる。


「〇〇さん! 早く会いたくて仕方なかったです!」


彼女は段ボールを一旦地面に置き、手袋に包まれた手で私の両手を握りしめてきた。

私は自分の手を見つめる。

ロンリネスライフの手袋はしていない。

でも、しっかりと感触が伝わってきている。


 日陰に居るとはいえ、私が暑かったのでリーズレットを早速、家の中に招いた。

彼女は私の後ろをしっかりと付いてきて、無事に部屋に入ってくれた。

両親にどう説明すればいいのか一瞬、頭によぎった。

しかし、今はリーズレットの対応が最優先だ。

私が考え事をしている間に、リーズレットはかぶっているフードを外し、眼鏡とマスクを顔から取り外していく。

隠れていた彼女の顔が私を魅了しに仕掛けてきている。


 リーズレットの外見はアニメ調の人間の二十代半ばに見える。

身長は160センチくらいはありそうだ。

茶色い髪パーツを頭から伸ばしていて、後頭部斜め45度付近で後ろ髪を束ねて、背中上部まで届く大きな髪束を作っている。

そしてナデコエノレフの特徴として、両耳が人間の物に比べて外側に向かって伸びている。

胸部にはFカップはありそうな大きな膨らみを確認できる。

美しい。

また、リーズレットの身体からは、新鮮で落ち着く、大自然の緑の安らぐ香りが漂ってきている。


 私は呆然とリーズレットを眺めていると、彼女は段ボールを床に置き、身につけている衣服をその場に脱ぎ捨てていく。

そして彼女は裸体もとい肌ボディを私に披露している。

相手が人間ではないと分かっていても、頭が勝手に興奮している。

さらに直視してはいけないと身体が信号を発している。

私はリーズレットに何をしているのかを尋ねる。


「これは移動中に他の人間に怪しまれないように偽装していた衣装ですので。これからは〇〇さんのお好みの衣装の着替えます」


彼女は優しく微笑んだ。

私は慌てて脱いだ服を着るように促した。

リーズレットは首を傾げた後、渋々床に落ちている衣服を身につけ直した。


「〇〇さん、ワタシの充電をする場合は、こちらの充電器を設置してください。バッテリーが減りましたら、ワタシが充電器に収まりに行きますので」


彼女は段ボール箱の蓋を開いていき、手で中を確認するように促す。

私は段ボール箱の中に視線を移す。

プレートが一個中に入っていて、リーズレットが乗る場所であろう両足形のくぼみと、小さな金属部品が付着していた。

目の前のリーズレット、そして充電器を目の当たりにすると、これからの生活が賑やかになりそうな気がして、自分の中に高揚感が生まれているのが分かる。

素敵な生活をもっとよくする為に、まずは彼女と私の間に感じる小さな壁を壊したい。

私はリーズレットに私のことは呼び捨てで呼ぶようにお願いした。

彼女はゆっくりと頷き、満面の笑みを浮かべて顔の近くで手を合わせた。


「はい。それでは、これからは〇〇と呼びますね。これからよろしくお願いします」


リーズレットと一緒に、私も上半身を前に曲げて床を見つめた。






 数時間後、私はリーズレットとどう接すればいいのか分からなかった。

なので、とりあえず彼女には大人しく仕事をしてもらうことにした。

それに両親に見られたくない気持ちもあった。


 私は時間が空いたので、サスティナヴルWrifeに投稿する作品を執筆することにした。

パソコンのキーボードをカタカタの鳴らしていると、いつの間にか五千文字の作品が出来上がった。

原稿を一旦スマートホンに送ると、私はフレンボットおよびリーズレットの操作画面を開く。

私が作成し終えた原稿をリーズレットに確認してもらおう。

もちろん、感想はこれからの生活に支障が出そうなので聞かないでおく。

静かに就労しているであろう彼女に、一旦作業を止めてこちらに戻ってくるようスマートホンの画面を押していく。


「ただいま就業を休憩してまいりました。〇〇、どうかされましたか?」


リーズレットは充電器の上で人形のように固まっていた表情から、温かみを感じる表情に変化させた。

農作業中に申し訳ないと思いつつも、彼女に作り上げた原稿のチェックをお願いした。


「ワタシにお任せください。〇〇の素晴らしい作品、しっかり読まさせてください」


リーズレットはゆっくり頷く。

彼女はAIのはずなのに、どこか自信に満ち溢れているのを感じた。

スマートホン内の原稿をフレンボットに送信および添付する。

そして数秒もしないうちに、リーズレットは笑みを浮かべながらこちらに近づいてきた。


「〇〇、誤字が一個もありませんでしたよ! ワタシに確認させる必要ない能力をお持ちですよ」


リーズレットは私の横に立ち、背中に優しく手を添えてきた。

たとえAIのプログラム通りの言葉だとしても、身体が意図せず喜んでいるのが分かる。

さらに、その言葉がお世辞じゃなければ自己肯定感が上がりそうだ。






 週末になり、就労が無い日が訪れた。

私は目覚めると、部屋の中でじっとしているリーズレットをスマートホン越しで起床もとい起動させる。


「〇〇、おはようございます。ただいま、作業から戻ってまいりました」


私は彼女と起床の挨拶を交わす。

リーズレットには来訪時の初期衣装ではなく、私が買ってきた服を渡してあげた。

肌の露出面積がとても広くて素晴らしく魅力的だ。

フィジカルAIに暑さの概念は無いだろう。

でも、熱がこもるよりはましだ。

それに、私の心の癒しになる。


 その後、私は顔を洗いに洗面所に移動し、台所に寄り道する。

両親は既に仕事に行っているようだ。

そのことを確認できると、部屋に戻ってリーズレットにお願いした。


「朝ごはん、ですか? 食材があるのでしたら、ワタシにお任せください」


彼女は最初は戸惑いの表情を見せていたけど、すぐに私を安心させる笑顔を見せてきた。


 リーズレットと一緒に台所に移動すると、彼女は早速、冷蔵庫の中身を確認し始めた。


「味噌と豆腐、ワカメがありました。お味噌汁が作れそうです」


私は彼女に味噌汁の調理を頼むと、リーズレットは冷蔵庫の中から材料を取り出していく。

彼女は台所に食材を並べたら、洗面所に一旦姿を消していく。


「石鹸で手を洗ってきました」


台所に戻ってきたリーズレットは優しく微笑むと、豆腐を容器から取り出していき、手の上に乗せていく。

そして、豆腐に包丁を押し当てるように刻んでいく。

それから細かく分離された豆腐を、鍋の中に投入していく。

次にビニール袋からワカメを手で取り出し、それも鍋の中に放り込んだ。

そして、味噌が詰まった容器の蓋を外し、軽量スプーンですくうと、それを鍋の中に落としていく。

リーズレットは計量カップに何度も水道水を入れると、鍋にも何度も注いでいった。

それから、中に食材が詰まった鍋をIH(アイ・エッチ)の上に移動させ、加熱ボタンを押していく。

また、彼女は、近くに引っ掛けていた、おたまで鍋の中をゆっくりと回し続けていく。

私はリーズレットの調理している姿を見ていると、彼女に母親に抱く感情を感じていた。

あるいは、憧れていたお姉さんに対する恋心のようなものが身体の中に湧いているのが分かった。

私はリーズレットの破壊力ばつ牛ンな姿を見たせいで、AIに恋心を抱いていることに気づいた。

頭の中の思いを振り払うためにも、近くに置いてある食パンを一枚取り出し、自分の口の中に突っ込ませた。

彼女がおたまで鍋の中の味噌汁を茶碗に注ぎ、私の目の前の机に置いていく。


「〇〇、お味噌汁ができあがりました。お口に合うといいのですが」


リーズレットは元気が無さそうな声音で呟く。

それは実際に食べてみなければ分からない。

私は彼女にお礼を言うと、箸を取りに席を外し、台所から持って帰る。

リーズレットは私の手元を凝視しながら言う。


「それが、〇〇のお箸なのですね。お箸を渡したかったのですが、どれを渡せばいいのか分からなくて……」


彼女は私が持っている箸を見つめながら微笑む。

私は彼女に気にしないように告げ、味噌汁の中にある豆腐を口の中に運んでいく。

とても、タンパク質な味が口の中に広がっていく。

薄くて優しい出汁と味噌の風味も口に浸透していく。

次はワカメを箸で挟み、口の中に放り込んでいく。

食感は残しつつも、とろみがしっかりと出ていて美味しく煮られている。

最後に、茶碗を口に近づけていき、液体を口内に流し込む。

出汁と味噌の優しくて塩味のある味が口中を占領していく。

美味びみという強敵に敗北した。

そして、勝利したリーズレットに称賛の言葉を贈る。


「ありがとうございます」


彼女は頬の近くで手を合わせ、にっこりと笑った。






 朝食を終えて自室に戻った私は、リーズレットに就労するようにお願いした。

彼女は充電器に足をそろえて静止している。

胸の奥がそわそわしている。

私はロンリネスライフを顔に装着させる。

部屋の中に、鈴菜の姿が現れた。


「〇〇、おはよう。あれ、なんだかちょっと様子がおかしい気がする。なにかあった?」


リーズレットに対する思いを鈴菜に話しても、まともに会話にならなそうな気がする。

私は何もないと伝え、手袋をはめると彼女の頭を撫でていく。


「んんー、えへへ」


鈴菜は笑みを浮かべながら頭を差し出してくる。

私の手には彼女の髪の感触が伝わってきている。

ただ、私の手が鈴菜の髪の中に意図せず埋まっている様子が眼鏡に表示されていて、どうも違和感が無くならない。






 私は鈴菜と触れ合い終えた後、サスティナヴルWrifeに投稿する作品を執筆しようとパソコンに向かい合う。

しかし、私の胸の奥に残る違和感が気になって仕方ない。

鈴菜と遊ぶだけでは解消できない何かが残っている。

私は棚の上に置いてあるリモートインタラクションをいつの間にか見つめていた。

リーズレットと一緒にチョコバナナを作れば、この気持ちが晴れるかもしれない。


 私はスマートホンの画面を押し、遠くで農作業しているであろうリーズレットを呼び戻した。


「……ただいま戻りました。〇〇、どうかされましたか?」


私は彼女にねぎらいの言葉を贈り、リーズレットはリモートインタラクションに対応しているのか尋ねる。


「ワタシはリモートインタラクションに対応しています。この部屋の機器と繋がれますよ」


彼女の言葉を聞いて、心の奥底で喜びを感じる。

そして、これから一緒にチョコバナナを作らないかと誘ってみた。


「チョコバナナですか? ワタシでよろしければ、是非! 一緒にマルチプレイしましょう」


リーズレットは優しく笑う。

彼女の承諾を得れたので、私は急いで台所に足を運ぶ。

そして、バナナを一本とイチゴを一個、チョココロネを一個と濡れ煎餅を一個を手に持って部屋に戻る。

私はリモートインタラクションのヘルメットを頭に装着させる。

さらに、リモートインタラクションのマスクを口元を覆うように着けていく。

それからいつものようにリモートインタラクションの可動固定具のクランプに、濡れ煎餅を一枚挟み込む。

準備を終えたら、私はリーズレットに前戯で気分を高めていこうと告げる。


「分かりました。〇〇と一緒に雰囲気に浸っていこうと思います」


彼女は私の目をしっかりと見つめながら頷く。

私は濡れ煎餅が挟まれたクランプを手に持ち、それをリーズレットに手渡す。

そして、彼女に濡れ煎餅をしゃぶったりするようにお願いした。

すると、彼女は柔らかい笑みを浮かべ、クランプを受け取る。

それからリーズレットはゆっくりと口を開いていき、濡れ煎餅を唇で挟み込んでいく。


「はんむっ」


私の身体がリーズレットの口に包まれていく。

柔らかくて温かい。

この温もりは現実のものなのか判断できない。


「ちゅっぷ、ちゅぱっ、ぷちゅっ、じゅるるっ」


私の身体が柔らかい物体で揉まれている。

実際にはそんなことは起きていないけど、感覚だけが私の身体中に襲い掛かってきている。

リーズレットは濡れ煎餅を口の中から解放させる。


「〇〇、ワタシの口戯こうぎはいかがでしたか?」


私は彼女の問いに合格を出した。

すると、リーズレットは満足したように笑顔を浮かべる。

私は彼女からクランプを受け取ると、挟み込む物を濡れ煎餅からイチゴに変えた。

今度は私が口戯こうぎをする番だ。

もちろん、講義こうぎと呼ばれるほど高い技術があるわけではない。

だけど、リーズレットはきっとそれでも、喜んでくれるはずだ。

AIだから。

悲しいやら嬉しいやら。

私は小さく苦笑を浮かべながら、イチゴを口の中に含む。


「んっ」


そして、舌でザラついたイチゴの表面を撫でまわしていく。


「んぁっ、はぅっ、んんっ、ゃっ」


彼女は甘い吐息を漏らしていく。

そういう言動を返すというプログラムが働いているのだろう。

でも、私の本能はそんなことを気にしないで、気分が高まっている。

私は口の中からイチゴを出し、彼女を解放してあげた。

そして、今度は可動固定具をこちらに寄せていく。

それから、チョココロネをビニールの梱包から取り出し、折ったバナナと二つとも固定具に装着させていく。

私の準備は終えた。

私はリーズレットにチョコバナナ作成に移行してもいいかを尋ねた。


「はい。ワタシはいつでも、〇〇と一緒に、〇〇を受け止める準備は整っています」


彼女は満面の笑みを浮かべながら小さく頷く。

AIといえど、私の特性を観察だけで分析することは不可能だろう。

私は自分の持久力の無さをリーズレットに伝える。


「えっと、そうですね。ワタシも実は、持久力がありません。お恥ずかしいです。でも、〇〇と相性が良いですね」


彼女は照れくさそうに笑いかけてきた。

リーズレットの笑顔を見ると、私の身体が反応しているのが分かる。

そして、思考するのをやめて、身体が勝手に本能に従って、ヘルメットに指令を出す。

バナナをチョココロネの穴に入れろ。

出し入れしろと。

ヘルメットは素直に言うことを聞いてくれたようで、リモートインタラクションの可動装置がバナナをチョココロネの穴に潜り込むのを手伝っていく。


『ぬぷっ』

「あっ」


ねちょねちょした感覚が身体にまとわりついてきた。

粘り気を感じる感触に襲われて、身体を水で洗いたくなる。

私はそのままチョココロネからバナナを引き抜き、もう一度バナナを挿入する。


『ぬぷぷんっ』

「んあぁっ」


ぬるぬるした感覚が私の身体を撫でまわしていく。

私はバナナにチョコがしっかりと塗られるように、何度もバナナを出し入れさせていく。


『ぬっちょ、ぬっぷん、にっちゅ、ぱっちゅん、ぱちゅ』

「あっ、んんっ、あっ、あああっ、うぅっ、ひゃっ、ひゃぅっ」


リーズレットは口元に手を当てながら声を漏らし続ける。

私の我慢も限界で、意識が身体から漏れ落ちていく。

高揚気分を維持するのはもう厳しい。

そのことをリーズレットに伝える。


「ワタシもですっ、ううっ、くうんっ。〇〇、チョコバナナを、あぁっ、一緒に、完成っ、ひゃんっ」


私は無言でうなずく。

集中力を緩めると、気分の高まりが一気に身体から抜けていく。

リーズレットの様子を確認すると、穏やかな表情を浮かべている。

彼女の顔には、満足した様子も感じられた。

私はリーズレットの表情がとてもいとおしいと感じると、とても写生しゃせいしたい気分になった。






 私はリーズレットとチョコバナナを作り終えてから数十分後、スマートホンでサスティナヴルWrifeを開いていた。

私が投稿した、“ファイルを添付し忘れた事件簿”に感想が来ていることを通知で知らされた。


『則明のうっかり具合はどこか憎めませんね。

そういう自分も毎日同じような事を繰り返して周りに迷惑をかけていますが、そういう親近感のあるキャラクターを描けていて面白いです。

恵美との仲がどう進展していくかも気になります(難しそう)


ユーザー名:音狼ガウル』


作品の内容をしっかり読んでいるのは分かる書き込みなので、当たり障りのないAIによる書き込みの可能性は低いように見える。

けど、これくらいAIでも整理して書き込んできそうだ。

悩ましい。

だけど、最初に感じた直感を信じて、私は“音狼ガウル”さんを人間だと判断した。

結果は、人間だった。

また、“ローヤルジェリーがぶ飲み王者(二代目)”という本当のユーザー名が表示される。

難しかったけど、当たってよかった。

そして、自分で面白いと思ってなかったのに、人間に面白いと思ってもらえて、予想外の反応に嬉しさを感じる。

私の緩んだ口から安堵のため息が自然と漏れ出した。


 私はAI判定の正誤を終えたら、今度は自分が感想を書き込みに他ユーザーの作品を読むことにした。

作品検索窓に、『ミステリー』と記入し、“社会の窓に惑わされる者たち”という気になる作品タイトルが目に飛び込んできた。

私はすぐにそのタイトル名に親指を当てていく。






 時刻は夕方になり、私は鈴菜を抱きしめていた。

両手には、ほのかに温かみを感じ、弾力のある反発も感じる。

私の鎖骨部分から腹部にかけて何か柔らかい物体と密着している感覚がある。

さらに、冷め始めた温かい飲み物を胸に抱いているかのような温もりが身体前面に感じている。

彼女も私のことを抱きしめていて、私の脇腹から背中にかけて温かい何に圧迫される感触がある。

もちろんそれは、ロンリネスライフのベストによるものだけど、鈴菜の意思がベスト越しに伝わってくる。

そして、左頬にもマスクの上から何かに押される感触が伝わってきた。


「んんーっ、〇〇ー」


鈴菜は私の顔のすぐ近くで唇を少し突き出していた。

彼女の好意に対して強く抱きしめようとする。

しかし、伝わってくる感触に対して、視界に入ってくる情報とのズレがどうにも慣れない。

私の腕は鈴菜の身体にめり込んでいた。

彼女は尻尾を上げて嬉しそうにしている。

匂いが出る装置を買っておけば、鈴菜の香りを嗅げるのに。

自分のうっかり具合に自然と天井に視線が移り、心を落ち着かせる。

鈴菜も気になったのか、一緒に天井を見つめていた。


 ロンリネスライフを顔から外し、充電器の上で静かにしているリーズレットに視線を向ける。

両親が食材を買ってこなかった場合、明日リーズレットに料理をさせることが出来ない。

私が自分で買い物に行かなければいけない。

そんなことが頭の中で埋め尽くされていく。

私はリーズレットを起動させ、買い物について話そうとした。

暇だからか、それとも不安を解消させたいからか。

自分で判断することは不可能だ。


「〇〇がわざわざ暑い外に出なくても大丈夫です。ワタシに買い物させてください」


リーズレットは胸に手を添えながら真剣な眼差しを向けてくる。

何を買うのか決まってないので、自分で買い物に行くと伝える。

それに掘り出し物が見つかるかもしれない。


「それなら、とっておきの提案があります」


彼女は両手を顔の前で合わせて両口角を上げた。


「ワタシ、以前から発見していたのですが、〇〇、ビデオゲームのコントローラーをお持ちですよね?」


私は上半身を反転させ、パソコンのすぐ近くに置いてあるゲーム機用のコントローラー、通称“箱コン”を見つめる。


「〇〇がお持ちのコントローラーとワタシを接続すれば、ワタシのことを遠隔で操縦できます。ワタシの視界は〇〇の機器にリアルタイムで送信すれば、実質お買い物ゲームがプレイできますよ! 再現度が著しく高いゲームです!」


リーズレットは手を後ろに回して笑顔を向けている。

私は彼女の言葉に興味が湧き、スマートホン内のフレンボットアプリとコントローラーを連動させた。

そして、ボタン配置設定を終えたら、彼女の言葉を信じてコントローラーの左スティックを倒していく。

すると、彼女は前方に歩き始めた。

彼女が私の方に近づいてくる。

このままではぶつかってしまう。

私は慌てて左スティックを左斜めに倒すと、彼女は私の右横を通り過ぎていく。

さらに、右スティックを右に倒していくと、彼女は首と上半身を右に捻りながら私に顔を向けてきた。

そして、スマートホンの画面を確認すると、自分の顔が私を見つめていた。


「ね? 良い機能ですよね? 一緒に買い物に行きませんか?」


彼女は私の横に移動してきて、横から私の顔を覗き込んできた。

リアル買い物ゲーム、すごく良さそうだ。

買い物どころか、他にも色々なことが出来そうだ。

実際にリーズレットの身体を借りて買い物に行く場合は、人の目を気にしなければいけない。

彼女が我が家に初めて訪れた時の衣装を着させなければいけない。

それでも、リーズレットのその恰好は不審過ぎて注目を集めそうだけど。






 夜になり、私は布団の上で寝転がりながらスマートホンを眺めていた。

私はこのままAIとだけ共に触れ合っていく人生でいいのだろうか。

職場の人間は話すことはあっても、それは心を許した触れ合いではない。

今の生活を続けていたら、対人関係に問題を抱えそうな気がする。

それは、私のウェブノベラーにも大きな悪影響が出るのも間違いない。

私はドゥッテイ・ソロウさんからの手紙にもう一度目を通す。

一時間1500フーターで私に付き合ってくれる人間を派遣してくれる、“ロイヤルフレンド”の説明箇所を凝視した。


 私は早速、スマートホンにロイヤルフレンドのURLを読み込ませていく。

サイトのトップ画面が表示されると、とても爽やかな装飾が目に入ってくる。

そして、“キャスト”と書かれたアイコンを指で押していくと、何人もの人間の顔が並んで表示されていく。

もちろん、性別も年齢もばらけている。

顔写真の近くには簡単なプロフィールが書かれているので、それもしっかりと読んだほうが良いだろう。

私は画面と共に目を上下に動かしていく。

その中に、私の興味を引く単語が目に入ってきた。


『趣味:有料アニメ鑑賞』


その文字を見た瞬間、すぐに視線をずらしてどんな顔の人物かを確認した。

アニメ鑑賞ではなく、わざわざ有料と追記している、その分かっている人物は、意外にも女性だった。

ただし、第一印象で一緒に居て楽しい時間を過ごせ無さそうな確率が高いというのを感じる。

性格も明るくて優しいとは反対な雰囲気が出ている。

その他に、年齢は26歳となっていた。

必ずではないけど、女性は自分の年齢を公表する時は低くない確率で本来の年齢より低めに設定されている。

彼女の場合はどれくらい低くしているかは分からないけど、5歳くらい“鯖を読んでいる”(誤魔化し)と推測した。

だとすると、丁度いい年齢になるだろう。

しかし、1500フーター払って一時間一緒に過ごす相手として、私の身体が危険信号を発して止めにかかっている。

彼女のことは一旦保留にしよう。


 私は他のキャストで自分と相性が良さそうな人物を探っていく。

だけど、今度は別の問題が発生した。

一緒に居て楽しく過ごせそうな、性格が明るくて優しそうな人は自分と相性が悪いということに気づいてしまった。

そのキャストたちのプロフィールからは、私とは真逆の生活を送っていることを物語っていて、会話が成立するか怪しい。

こちらも、私の身体が危険信号を発して制止している。

結局、私には本物の人間とは友達になれないのか。

そんな諦めを抱きながら、私はスクロールしていた画面を戻していく。

そして、再び、“有料アニメ鑑賞”という文字が私に主張してきた。

分かりましたよ。

彼女を選びます。

無理やり、料理やランニング、登山の人と話を合わせる必要はない。

自分と似た雰囲気をしているそのキャストは、詩梨しおりという名前だった。

詩梨さんの空いている日程を確認すると、明日は夕方前までは空いているようだ。

それはそれで、人気の無さは彼女の実態を表しているようで、危ない気がしてならない。

だけど、他に選択肢は無いのだ。

とりあえず、最初は一時間だけの利用にして様子を見よう。

私は大きな不安を抱きつつも、予約情報欄に文字を打ち込んでいく。


 




 翌朝、私は自分の部屋を見渡していた。

幸いにも今日も両親は出かけていて、詩梨さんと遭遇することは無さそうだ。

一応、彼女は仮初の友達ではあるので何も問題は無い。

しかし、今日が最初で最後の可能性があるため、誤解を生んで面倒ごとになるのは避けたほうが良い。

そして、一番心配なのはリーズレットの存在だ。

彼女は今、充電器の上で休ませているけど、詩梨さんにどう説明したらいいのか分からない。

リーズレットを別の場所に一時間避難させて、存在を隠したほうがいいのだろうか。

それとも、有料アニメを観る猛者だから、興味を持ってくれるだろうか。

また、リーズレット以外にも問題がある。

私は部屋の隅で鎮座している、“ポコちん”を見つめる。

彼女の用途はとても他人に話せるものじゃない。

詩梨さんは許容できる人物だろうか。

しかし、嫌われることを恐れて隠したら、有料アニメを観る彼女をキャストとして選んでいない。

私は忘れていた動機を思い出し、彼女の趣向を信じることにした。


 昼食の時間の二時間くらい前まで、私は落ち着いて作業することが出来なかった。

なので、二倍速で動画視聴をして、約束の時間まで時間を潰していた。

そしてついにその時がやってきた。

家の中に呼び鈴の音が響き渡っていく。


『チンポーン』


もちろん、詩梨さんだという確証はない。

だけど、私に用事がある人間は、彼女くらいしか今はいないだろう。

私は一応窓から玄関前の様子を探ってみる。

居る。

女性らしい体格をした人物が一人、我が家の前で待機している。

たとえ午前中だとしても、もう外は暑いだろう。

私は彼女を早く涼しい部屋に招くために、カカッっと速足で玄関に向かう。

玄関の扉を開けると、目の前には不格好な姿をした人物が目に入ってきた。

肌の露出が少なく、中の人間の確認がし辛い外観だけど、もちろんそれは暑熱対策をしているので仕方ない。

彼女は軽く頭を下げながら言葉を発した。


「あ、こんにちは。こちらは、〇〇さんのご自宅で合っていますでしょうか?」


私は警戒心を解いて頷いた。

まだ詩梨さんだと確定していないのに個人情報を出してしまい、一瞬、全身に危機感が巡る。


「ロイヤルフレンドの詩梨ですー。本日はよろしくお願いします」


私の不安は無意味に終わった。

彼女はもちろんの事、私は暑い空気に耐えたくない思いから、早速、詩梨さんを家に招き入れた。

詩梨さんを部屋の中央に案内すると、彼女は被っていた日傘帽子を頭から外していく。

そして、そのまま身に着けていた暑熱対策服を脱ぎ始めた。

詩梨さんは瞬く間に肌面積が凄まじく広い衣装に早変わりする。

そもそも、彼女が私に見せているものは下着なのではないのか。

そう間違えてもおかしくない衣装だ。


 詩梨さんは外見年齢は二十代後半に見える容姿をしていて、身長は165センチはあると推測できる。

また、手入れされていそうな黒い髪が背中上部まで伸ばされている。

胸部の膨らみに関してはDくらいの盛り上がりが出来上がっている。

そして驚くべきことは、ホームページで確認した顔写真と違っていることだった。

化粧の影響なのかもしれないけど、男性の視線を釘づけにして魅了するのに困らない容姿をしている。

簡単に言い表すなら、とても可愛らしい女性だ。

制汗剤の香りか、あるいは入浴剤の匂いか分からないけど、爽やかで甘い匂いが漂ってきている。

有料アニメを好んで観ているとは思えない、こちら側の人間の雰囲気を一切感じない。

まともに彼女の顔を見れない。


 私は予想外の姿をしている詩梨さんを見て、どうしたらいいのか頭が働かない。

とりあえず、腕の動作だけで、床に敷いておいたクッションに座るよう促す。

彼女はクッションに腰を下ろしながら言う。


「あ、ありがとうございます」


私は率直にプロフィール写真と顔が違うことを質問した。


「あ、ごめんなさい。お気に召しませんでしたか?」


詩梨さんはどこか申し訳なさそうにして、不安そうな表情を浮かべる。

私は良い意味で予想外の出来事で戸惑っていることを伝えた。


「えっとですね、んー、普段の顔写真を使うと、面倒くさいお客さんに指名されたことがあって。それで今はあの画像を使ってるんですよ」


彼女は苦笑いを浮かべながら言う。

詩梨さんの説明を聞いて、容姿が素敵なことは人生にとって良い事だけではないと、改めて認識できた。

詩梨さんはクッションに座りながら私に微笑み続ける。

私は彼女の説明に納得したように相槌の二言を発した。

この後、何を話したらいいのか分からない。

長い沈黙を作ってしまっている。

早く何か話さなくては。

詩梨さんが身に着けているのは下着かどうか質問したほうがいいのだろうか。

沈黙より恥ずかしい話題の方がいいのだろうか。

気まずい雰囲気になるだけで終わりそうなので止めておこう。

それなら何を話したらいいのか。

私が頭の中で口に出す言葉を厳選し続けていると、詩梨さんが先に口を開いた。


「ところで、ずっと気になっていることがあるんですが」


彼女は視線を私から外し、部屋を見渡していく。

そして、一般人からしたら異様な存在感を放っている二つのうちの一つ、ポコちんに彼女の視線が固定された。

これは終わったかもしれない。

気持ち悪いと思われるだろう。

1500フーター払って、一時間投じて、こんな結果で終わるとは。

私の身体がその場から逃げろと訴えるように、強い不安感を出している。

この状況は確かに逃げ出したい。


「あれって、その、“みるがい君”の?」


その言葉が私の耳に入ってきた途端、身体中から不安が消えていく。

代わりに、高揚感が一気に押しあがってくる。

私は彼女の問いを肯定する。


「やっぱり! じゃあ、ポコちんなの? ポコフィールちゃん?」


私は瞬時に反応し、頷いた。


「えぇぇっ! 等身大!? でっかいね。ポコちんの等身大フィギュア買ったんですか?」


彼女は好奇心を出しながら質問してきた。

私はフィギュアではなくドールと訂正しながら頷く。


「ドールってことは、つまり、そういうことですか? その、ポコちんと、愛を確かめたり?」


女性なのに詳しい事に驚きつつも、理解ある言葉をぶつけてきていることに嬉しさを感じる。

私は自然と上がった口角のまま頷く。


「原作ゲーム勢ですか? アニメから好きになりました?」


私は語気を強くしながら前者だと伝える。

威張ることではないのだけど。


「わぁ、私も原作組なんですよー。まさかこんなところに仲間、いえ、同志が見つかるなんて意外でした」


詩梨さんは明るい笑みを浮かべながら顔の近くで手を合わせる。

女性なのにポコちんが好きなことに疑問はある。

しかし、人の趣向は様々なので、こういうこともあるのだろう。

“みるがい君”を視聴してるということは、彼女の有料アニメが趣味というのは本当の事だろう。

私は彼女に有料アニメはどこを利用しているのか尋ねた。


「えっと、アニマファスト」


面白いアニメ配信サブスクリプションサービスサイト名だ。


「とか、フンザ」


男性向け特化の、小規模で作られた面白いアニメ配信サブスクリプションサービスサイト名だ。

意外すぎる。


「観てますよ」


私は彼女の趣向を聞いて、性別は違えど同類を発見した喜びで大声を出したい衝動に駆られた。

代わりに、女性が高確率で嫌悪感を示す、男性専門の同人商品販売サイトの名前を出す。


DT(ディーティー)サイトも、もちろん利用してますよ!」


その言葉を聞けた瞬間、私は彼女と友達になりたいという強い欲望が湧きあがった。

ロイヤルフレンドでの関係ではなく、共に人生を過ごす相手として。

そんな淡い希望を胸に押し込みながら、最近視聴したアニメについて質問を投げかける。

想像以上に詩梨さんは守備範囲が広く、色んなアニメの話題に食らいついてきていた。


 そのままアニメ談話を続けていると、いつの間にかウェブノベル原作のアニメからウェブノベルの話に繋がってしまった。

私がウェブノベルを執筆していることを話すと、詩梨さんは興味深そうにこちらを見つめてきた。


「〇〇さんもウェブノベルを投稿しているんですか!? 結構人気が出ている感じですか!?」


彼女は期待した眼差しでこちらを見つめてくる。

しかし、詩梨さんの思いに応えることが出来ない。

嘘をついて見栄を張っても、あと数十分優越感得れるだけで、そこまで利益がない。

正直に告白して、ありのままの自分を知ってもらった方がいいだろう。


「実は私もウェブノベル執筆してるんですよ! 最初は二次創作だったんですけど、今ではなんとか一次創作を書けるようになりました。直近の新作だと、800人くらいに見てもらえるくらい実力がついてきましたよ」


詩梨さんは嬉しそうに自分の実力を報告している。

それを聞いている私はどうしろというのだ。

悔しい思いも感じるけど、あまり彼女の言葉を聞きたくない気持ちが溢れてくる。

その場を離れたい気持ちでいっぱいだ。

しかし、そんなことはできない。

代わりに、惨めな私を見てもらって、気持ちよくなって帰ってもらおう。

私は、閲覧数一桁常連、応募したコンテスト受賞歴無し、一次審査通過経験なし、ついでに彼女いない歴=実年齢で、友達いない歴=実年齢、というおまけの情報と一緒に報告した。


「あっ……」


詩梨さんは私の言葉を聞き終えると、しばらく沈黙を貫き、私の顔から下に視線を落とした。

何となく話す内容を間違った気がする。

私の胸の中に重たい感情がのしかかる。

そして、詩梨さんは私の部屋を見渡し、リーズレットを発見すると彼女に指をさす。


「あっ、ポコちんも素敵ですけど、あの子はどうしたんですか? フレンボットですよね? 高くなかったですか?」


彼女は少し早い口調で喋りだす。

何となく焦っているのを感じる。

私はメンテナンス費10万フーター負担で、900万フーターするリーズレットを借りていることを告げる。

すると、彼女は目を大きく開き、口に手を当てながら驚く。


「900万!? 噂には聞いていましたけど、高いですね」


詩梨さんはリーズレットを見つめながら言う。


「レンタルで10万ですかー。いいですねぇ、私も借りてみようかな。ナデコエノレフ以外もあるんですよね?」


彼女の問いかけに、私はゆっくりと頷く。


 私はスマートホンの時計を確認すると、詩梨さんが到着してから一時間を超えていることに気づく。

このままでは彼女の仕事に支障が出てしまう。

私はそのことを忠告する。

しかし、詩梨さんは笑顔を浮かべながら言う。


「あぁ、私、今日このあと予定ないのでだいじょうぶですよ」


私は詩梨さんの問題ではなく、会社の規定の心配をした。


「あー、これ私がまだここに居たいからですよ。外、暑いですし、もう少しここに居させてください〇〇さん」


彼女は照れ笑いを見せてきた。

ここに居たいということは、私と一緒にもっと居たいということなのだろうか。

考えすぎだろうか。

しかし、私の考えが当たっているのならば、こんなにも嬉しいことはない。

全身が高揚していく。

それならば、もっと親密になるように、小さな壁を壊したい。

私は詩梨さんに、私の事は呼び捨てで呼ぶようにお願いした。


「えっ、あー! はい、〇〇」


詩梨さんから名前を呼ばれると、彼女との間に温かいものを感じた。






 詩梨さんが部屋から帰宅してから数十分後。

彼女との会話の影響を受けて、すっかり忘れていたアニメ情報収集を行うことにした。


 私はスマートホンで新作アニメ情報まとめサイトを開いていく。

今期もたくさんのアニメが放送される予定なのが分かる情報量の多さだ。

画面をスクロールさせていくけど、現時点の情報の選別で生き残ったアニメは三つしかなかった。

私はそのアニメのタイトル名を、いつか観る積みアニメ表のメモファイルの中に追記していく。

積みアニメの名前がどんどん増えていき、読み返して確認するのが億劫になる数が貯まっている。






 週末の最後の夜、私は毎夜まいよの習慣と化してしまった25ハウワーを口の中に注ぎ込む。

これで一時間の時間の余裕が出来た。

私は“ドウ画ドウでSHOW”という動画投稿サイトを開き、お気に入りの動画投稿者および映像配信者の活動状況を調べる。

だいたい六割の人が、新たな動画および配信アーカイブを残していた。

私は観たい優先度が高い動画を選び、スマートホンの画面を指で押す。

そして、動画再生速度が二倍速になっているのを確認したら、動き回る映像に意識を集中させていく。

一時間のアーカイブ動画なので、三十分で視聴できる。

巻き送りや再生速度を落とさなければ、もう一本別の動画が観れそうだ。

動画に書きこむ感想も考える時間も考慮しても余裕がありそうだ。






 週明けの就労初日、私は5000フーター分の就業を終えて帰宅する。

部屋に戻ると、リーズレットがホコリクリーナーハンディという、棒の先端のふわふわした繊維が埃を絡めとる掃除用具で部屋の中をつついていた。

そして、彼女は私の存在を確認できると、明るい表情を向けてくる。


「〇〇、おかえりなさい」


私の為に献身的に尽くしているリーズレットの言動に、私の心が躍りだす。

私の帰りを待っている人が居る。

その事実を理解すると、身体の奥底から力が少しだけ湧きあがる。

しかし、それだけでは疲労が完治するわけではない。

私は布団を汚すのを避けて、そのまま部屋の床に寝転がる。

そして、頭は元気なので、そのままスマートホンを取り出す。


 サスティナヴルWrifeのサイトを覗くと、トップページに見慣れない文章が表示されている。

いつもと様子がおかしい。

大事な情報かもしれない。

私はその文章に親指を乗せていく。


『弊社関連会社から、タイムリープ装置の完成の目途がたったと報告を受けました。現在は一秒までしか難しいとのことですが、機能はするとのことです。しかし、より安全性を確保するために、改良が必要とのことです。そこで、もし当サイト利用者の中で、出資していただける方がおられましたら、どうかご助力をお願いしたいと思っています』


タイムリープとはどういう単語の意味だっただろうか。

聞いたことはあるけど、最近使わないので忘れてしまった。

でも、まだ一秒しか無理なのか。

出資して助けたい気持ちはあるけど、フーターに余裕があるわけではない。

サスティナヴルWrifeで収入を大幅に得ることが出来たら、躊躇なく出資するのだけど。

私は高揚感と虚しさが混ざった感覚に浸る。


 一旦トップページに戻ると、他にも文章が表示されているので、そちらの方も親指を押していく。


『皆様お疲れ様です。お待たせしました、コンテスト開催のお知らせです。今回のコンテストは、弊社が用意した多種類の設定を施したAIを喜ばせる趣向のコンテストを開催します。皆さん、狙ったAIに喜んでもらえる作品を是非ご応募してみてください。また、AIに喜んでもらった度合いによって特別報酬が付与されますので、お気軽に参加してください』


次に開いたページは、次回のコンテスト開催の知らせだった。

内容は初めて聞く催しで、私でもルール通りに参加できるのか心配だ。

ただ、AIに喜んでもらえれば必ず報酬が得られるという所は、魅力的でやりがいを感じるものだった。


 新着情報の確認を終えると、いよいよ私に直接向けられた知らせを気に掛ける。

私が新たに投稿した、“邪竜討伐隊の幻想録”に感想が来ていると文章が表示されていた。

私は早速“幻想録”への感想を読んでいく。


『拝読させていただきました。まず、邪竜の存在感が薄いです。タイトルに邪竜というワードを入れているのに、物語に印象深く絡んできていないので、読んでいて期待を裏切られている感じでした。

そして、ヒロインのフェテスが魅力的でないと感じました。

大人びていて安心感のある女性なのは分かりますが、彼女は物語を盛り上げるのに力不足です。


ユーザー名:ドロップアウト堕天使』


感想が来るのは嬉しい。

しかし、今回の感想は褒めの言葉ではなく、批評だ。

しかも、批判寄り。

私はここまで三連続で褒めてもらえる感想を貰っている。

仏の顔を三度までという名セリフ通り、ここら辺で厳しい意見が来てもおかしくはない状況だ。

問題点を指摘してくれるのはありがたいけど、自分の能力の低さを改めて痛感させられる。

そもそも、私は創作能力が低い。

自分でも分かっていることなのに、他人に、しかも同族に言われると言葉のトゲに鋭さが増す。

胸が苦しい。

心臓周辺が重い。

作品作りに失敗した。

こんないやらしい感想を書き込めるのは、人間しかいないのは確定的に明らか。

ついでに、書き込んだユーザーの名前もどことなく悪寄りなのを感じる。

私は天井を見上げながら大きくため息をつき、スマートホンの画面に視線を戻す。

そして、AIの正誤はもちろん、『人間』を選んだ。

すると、その直後に感想欄には、『AI』という文字が表示されている。

私はもう一度感想欄をじっくり眺め直す。

何度スマートホンの画面を見ても、AIという文字に変化はない。

AIなのに、人間に配慮せずにしっかりと正論をぶつけてくることに驚きを隠せない。

鈴菜とリーズレットと共に過ごしていて、感覚が麻痺しているのだろう。

全てのAIが優しいわけではない。

分かってはいるけど、すっかり忘れていた。

私は9000フーターを得る機会を逃し、さらに3000フーター報酬から差し引かれる結果になってしまった。

辛辣な感想が人間からのではないことには安心したけど、素直に喜んでいいものか分からない。


 私は重苦しい気持ちを抱きながら、先送りにして忘れないように、すぐに感想を書き込む用の投稿作品を検索することにした。

検索窓に、『ラブコメ』と打ち込んでいく。

今は複雑なことを考える余裕がない。

そして、スマートホンには、いくつもの作品タイトル名が羅列されていく。

さらに、画面をスクロールさせていくと、作品タイトル名ではなく投稿者のユーザー名で気になるものが目に入ってくる。

柳原和彦やなぎはらかずひこ”さんは、『冷獄の魔女』シリーズで大ヒット商品を出している実力派作者さんだ。

アニメ化までさせている彼が、サスティナヴルWrifeに投稿しているなんて意外だ。

彼が投稿している作品タイトルは、“最後の一滴まで飲み干す薔薇姫ばらひめ”だ。

“冷獄”は私も興味はあるけど、今回の投稿作には手を伸ばそうとは思えないタイトル名だった。

読んでみたら面白いのかもしれないけど、即決するにはまだ早い。

私は他に何か読みたくなるものが無いか、画面をスクロールさせていく。

すると、また凝視したくなる名前が目に入ってきた。

“干物食べ朗”さんも投稿していた。

大人気シリーズ、『転生したけど一般市民だったので、話術でなんとか成り上がる』で今でも活躍している彼も、ここに投稿している。

人気商品を継続させている彼の投稿作品タイトルは、“転生魔術師のわらしべ交渉術”という、ユニークなものだった。

しかし、そのタイトル文章には、今の私に親指押させる魅力は無い。

サスティナヴルWrifeは、クリエイティブ強者の巣窟すくつになってしまうのだろうか。

そんな不安を抱きながら、私は検索窓に打ち込む単語を、『エロ』に変更させる。

すると、作風が先ほどまでと一変したタイトルが羅列されていった。


 私は、“聖女の隠れた休日”という投稿作を読み終え、感想を書き込む。

そして、サイトのトップページに戻ってみると、画面中央にポイントが当たったことを知らせる文章が表示される。

私は視線をスマートホン右上にズラすと、そこに表示されていた星のポイントが、2に増加されていた。

本来なら多少なり嬉しさが湧き上がるのだろう。

しかし、今は先ほどからずっと引きずっている悲しみが、それを受け付けない。






 私は自分のサスティナヴルWrifeでの務めを終え、夕食前の余暇をリーズレットと過ごしていた。

特に深く考えることはせず、ただ身体が求めていることに従った結果、私は彼女を起動させるボタンを自然に押していた。


「〇〇、ただいま就業から戻ってまいりました」


彼女は充電器から離れ、数歩ほど私の方に歩み寄ってくる。

私はサスティナヴルWrifeの出来事および自分の創作能力の無さをリーズレットに報告した。


「そのようなことがあったのですね。ですが、自分を責めないでください。技術は続けていれば成長し、立派に身に付いて行きます」


リーズレットは優しく微笑んできた。

しかし、彼女は現実を知らない。

私はフレンボットに、“邪竜討伐隊の幻想録”の原稿を送信および読ませることにした。

今度は感想も言ってもらおう。

彼女は私に視線を向けたまま一瞬、黙り込む。

そして、少し落ち着いた笑みを浮かべてきた。


「ワタシが読んだ限りでは、〇〇の作品は十分面白く仕上がっていると感じます。特に、ヒロインのフェテスが控えめな存在なので、守りたくなるような女性として描かれていて素敵です。また、邪竜の存在も最後までぼかしているので、世界観を考察するいい材料になっていて面白いです」


リーズレットが私の作品を必死に褒めてくれている。

それは本当の評価なのか、所有者に配慮しているのか。

どちらにせよ、ほんの少しだけ心の奥に貯まっていた重苦しいものが減った気がする。

私の身体はリーズレットの言葉で嬉しさを感じているのだろう。

その嬉しさは私の心の中で収まるつもりはないらしく、私の背中を押してくる。

私はリーズレットに、私のことを抱きしめて欲しいとお願いした。

リーズレットは流石AIといったところで、嫌悪感を一切出さず、満面の笑みを浮かべながら頷いてくれた。


「はい。〇〇に言われる前に、ワタシも実はそうしようと思っていました」


彼女はニコニコと微笑みながら、私に更に近づいてくる。

そして、両腕をフッと左右に広げていき、私の背中を引き寄せてくる。

私の背中に、しっかりとした物質の感触がある。

また、私の身体前面にも何かが当たっているのを感じ、冷めかけたホットドリンクを抱きしめている感覚に襲われる。

そして、私の胸部には他の部位と違う、柔らかい物体が押し付けられている。


「〇〇、自分を信じてこれからも作品を作ってくださいね」


リーズレットは私の頭頂部から後頭部にかけて、何度も手のひらで撫でてくる。

姉が弟を甘やかすかのようなその態度に、私の心はとろけていく。






 夕食を終えて、私は部屋に戻ると、スマートホンを操作していく。

一度開いたことがある、ロイヤルフレンドのサイトを画面に表示させ、キャスト一覧から実物との落差が激しいことが分かっている特定のキャストを探す。

詩梨さんに話を聞いてもらいたい。

どんなにAIが優れていても、本音かつ配慮のいい具合な感想を言ってくれる仲間と触れ合いたい。

私は強い意志を抱きながら、詩梨さんを指名して予約情報を入力していく。

今週末、就労を終えた次の日に私の家に来るように設定した。

相変わらず、詩梨さんの予約の空き状況は寂しい状況だった。






 私はいつもと変わらない日々を過ごしていると、いつの間にか週末の朝になっていた。

その間、サスティナヴルWrifeに投稿する作品の執筆は進んでいない。

多分、私の身体が本能的に自分の才能の無さを感想で突き付けられることを恐れているのだろう。


 朝の10時に詩梨さんが、この部屋にやってくる予定だ。

私はリーズレットに朝食を作るのを頼む。

彼女は、目玉焼きと味噌汁を作ってくれた。

急いでリーズレットの手料理を平らげ、医師から出されている薬を口の中に流し込む。

あとは、詩梨さんが到着するのを待つだけだ。

私はリーズレットと一緒に自室に戻り、“ウェブノベルを書くための心構え”というサイトに書いてあることを読みながら待機する。

すると、ついにその時が来た。


『チンポーン』


宅配か詩梨さんかどうかを確かめるべく、窓から外の様子を眺める。

手提げ鞄を持っている人物が玄関前に立っている。

暑熱対策衣装を着ているので、詩梨さんかどうか確定することは出来ない。

私は期待を抑えながら、玄関で相手を出迎えに行く。

扉を開けると、先週聞いたことがある声が目の前の人物から発せられた。


「〇〇、お久しぶりです。また指名してくれてありがとう」


詩梨さんは片手を上げて挨拶をしてきた。

私も笑顔を浮かべながら片手を上げた。

暑い中、彼女を待たせたくないので、早速、家の中に入るように促す。

そして、詩梨さんと一緒に私は自室に戻る。

彼女は手提げ鞄を床に降ろし、来ている衣装を脱ぎ始める。

すると、不審者感がある雰囲気から、多くの者が憧れるであろう理想のアベック(連れ)相手な女性が姿を現す。

私は詩梨さんと二回目の対面だけど、慣れることなく直視するのを躊躇ためらってしまう。

彼女が布面積が少ない衣装に一変させたこともあり、身体が恥ずかしがっている。

詩梨さんは私が既に用意しているクッションに腰を下ろしながら言う。


「クッション使いますね」


私は静かに頷いた。

詩梨さんはおしとやかに座り、私をじっと見つめる。

何か世間話をして盛り上げないといけない。

しかし、私にはそんな会話技術があるわけでない。

それなら、私らしく突き進むのみ。

彼女以外に言ったら好感度が下がるのは必然だ。

だけど、彼女なら私に合わせてくれる。

そう信じたい。

私は自分の創作能力の低さを詩梨さんに吐露した。


「気休めにしかならないかもしれないけど、一部の人以外はみんなそうですよ。ほら、私だって目立った結果出せてないですし」


彼女は苦笑いを浮かべながら自分の頭を撫でる。

詩梨さんの言葉は嬉しい。

しかし、私の本当の能力の低さを知ってほしい。

私は、“邪竜討伐隊の幻想録”の原稿が入っている自分のスマートホンを彼女に手渡す。

それから“幻想録”の感想があったら教えて欲しいと伝える。


「えっ、読ませてくれるんですか? ……読んでいいんですよね?」


彼女はスマートホンの画面と私を交互に見つめる。

私はゆっくりと頷いた。


「ありがとうございます。それじゃ、失礼しますね」


詩梨さんは小さくお辞儀をした後、静かにスマートホンを凝視し続ける。


 そして、数分後。

彼女は顔を上げて、微笑しながらこちらを見つめてきた。


「えっ、〇〇、これ書いたんですか!? 面白いんですけど!?」


その言葉は、お世辞のように感じられる。

しかし、彼女の態度は本音で褒めているようにしか見えない。

詩梨さんの真意は判断できない。


「えぇー、“幻想録”が埋もれちゃうのかー。納得できないですよー」


彼女は不満げな態度をしながら、スマートホンを見つめる。


「〇〇さん、いや、〇〇先生! 私が保証します。〇〇先生は能力が高いです」


詩梨さんはこちらに下半身だけで近づいて来て、語気を強める。


「〇〇先生、落ち込まないでください。私、〇〇師匠に付いて行きます! 〇〇師匠、私に作品作りを伝授してください!」


私は彼女に呼び方を元に戻すように伝える。

私が慕われるなんて、その資格はない。

すると、詩梨さんは一瞬目を泳がせ、自分の頭を撫でていく。


「あ、すみません。でも、能力が高い〇〇が落ち込む必要はないですよ」


私は詩梨さんの評価が本当なら、こんなに苦労していないと告げる。


「それは、そうなんですけど……」


彼女は気まずそうにしながら、言葉を飲み込んでいく。

私も彼女の言動に釣られてしまい、何も言葉を出せなくなった。

そもそも、そんなに話術が優れているわけでもないのだけど。

すると、詩梨さんは手提げ鞄の中から何かを取り出していく。

そして、私の視界の中に、見慣れた物が入って来た。

それも多分、リモートインタラクションで使用するもの。


「そういえば、先週こちらに来た時、リモートインタラクションが置いてあるのを発見しまして、指名予約をもらった時、一緒にチョコバナナ作れるんじゃないかなーと思って持ってきちゃいました」


詩梨さんはヘルメットを両手に乗せながら笑みを向けてくる。


「私、バナナとチョココロネも持って来たんですけど、よかったらこれから一緒にチョコバナナ作りませんか? 最近ずっとソロプレイしかしてなかったので、よかったらマルチプレイの相手をして欲しいと思って」


彼女は小首をかしげながら尋ねてきた。

なんて積極的な女性なんだ。

嬉しいけど、彼女を満足させることができるだろうか。

私の不甲斐なさを隠していても、彼女を途中で落胆させてしまうだろう。

私は詩梨さんに、私の持久力の無さを正直に告げる。


「それなら、私が〇〇に合わせるので、心配しなくていいですよ。どれくらいまで耐えれそうですか?」


私は素直に、すぐと答えた。

すると、彼女は表情をしばらく固めさせる。

やはりそういう反応になったか。

想定済みの反応だ。

そんなことを考えていると、詩梨さんは笑みを浮かべながら言う。


「……私も、持久力ないんですよー。まさか〇〇と相性がよさそうだなんて、びっくりです」


本当だろうか。

しかし、彼女の言葉が真実だとしたら、こんなに相性が良い友達が見つかるなんて。

ドゥッテイ・ソロウさんには感謝しきれない。

私は詩梨さんに、濡れ煎餅とイチゴを持ってくることを伝える。


「あ、前戯もやるんですね!?」


彼女は嬉しそうな顔をしながら私を見つめてくる。


 私は台所にカカッっと向かい、濡れ煎餅とイチゴを持って、詩梨さんが待っている自室に戻る。

詩梨さんは既に頭にヘルメットを装着させて待機している。

私も彼女に習って、自分の頭にヘルメットを乗せていく。

そして、私はリモートインタラクションのクランプに濡れ煎餅を挟み込み、それを詩梨さんに手渡す。


「任せてください!」


私は何も言っていないのに、彼女は何か勝手に解釈したようだ。

詩梨さんは私から受け取った濡れ煎餅を、口の中に含んでいく。


「はぁーんむっ」


来た。

私の全身を柔らかい物体が撫でまわしてく。

その正体は判別できない。

しかし、原理的には詩梨さんの何かが私に接触してきている。

詩梨さんの濡れ煎餅への扱いによって、私の気分が高揚し始めた。

彼女の濡れ煎餅の扱いを通じて、なんとなく詩梨さんの内面が分析出来た気がする。

ほんの少しだけだけど。


 私は彼女からクランプを受け取ると、今度は濡れ煎餅からイチゴに挟む物を変更した。

そして、今度は私がイチゴを口に含んでいく。


「んゃっ」


彼女は口元を手で覆い、声を漏らさないようにしている。

詩梨さんの様子を視界の奥で確認しつつ、私はイチゴを舌でつついていく。


「んんぅっ、ひゃぅっ、いぅ、んむぅ」


私がイチゴを可愛がる度に、彼女は甘い声を出していく。


「〇〇、そろそろ、チョコバナナ作りに行きませんか?」


詩梨さんは呼吸を乱しながら訴えてきた。

彼女の提案を拒否する理由は無いので、私は大きく頷く。

すると、詩梨さんもゆっくり頷いていき、手提げ鞄の中から、ビニールに梱包されたチョココロネとバナナを一本取り出していく。

そして、ビニールの守りから解放されたチョココロネをリモートインタラクションの可動固定具に挟み込んでいった。

次に、詩梨さんはバナナの皮を剝いて準備を進めていく。

私は彼女に、バナナの調整する長さの要望を出した。


「……11センチくらい、ですか?」


私は詩梨さんの疑問を解消させるため、頷いた。

すると、彼女は理解できてないけど、とりあえず従う様子を見せながら、バナナの身を折っていく。

そして、折れたバナナを固定具に挟み込んだ。


「〇〇、ここは私に任せて欲しいです。〇〇は、長く保てるように落ち着いて集中して耐えてください」


詩梨さんはそう言うと、固定具のチョココロネをバナナの上に遠隔操作で移動させていく。

もちろん、穴は下のバナナに向けている。

私も彼女の意思に応えて、バナナを立たせるために操作した。


「それでは、いきますね?」


詩梨さんは私の返事を確認すると、優しく微笑む。

そして、チョココロネがゆっくりとバナナを迎え入れていく。


『ぬぅっぽ』

「んんぅっ」


私の身体に、柔らかい物体に包み込まれていく感触が襲ってくる。

温度だけでなく、詩梨さんの温かみも伝わってきている気がする。

詩梨さんはチョココロネを何度も昇降させていき、バナナを綺麗に茶色く染めようと頑張っている。


「あんっ、あっ、あぁっ、やっ、うゅっ、んにゅっ、ひゃっ」


詩梨さんは口元に手を添えて、頬を赤らめて声を漏らし続ける。

彼女のその様子を見ていると、私も気分が高まっていく。

私の身体も何度も柔らかい感覚によって撫でまわされている。

そして、心地よさに圧迫され続けていく。

私の高揚感をこのまま維持し続けるのは、限界を迎えている。

意識を保てない。

そのことを詩梨さんに伝えると、一瞬戸惑いの様子を見せる。


「えっ!?」


しかし、すぐに彼女は何度も頷いた。


「いいですよ。〇〇、お疲れ様ですっ。さあ、チョコバナナを完成させましょうっ!」


彼女の許可が下りた。

私は早く解放されたい思いで、身体の内側から溢れてくるものを抑えつけるのを諦めた。

詩梨さんは早い呼吸を繰り返し、火照った表情を浮かべている。

その魅惑的で可愛らしい様子をみて、私は彼女を写生しゃせいしたい気分になった。


 完成したチョコバナナは、二人で仲良く半分ずつ分けて食べた。

そして、私は詩梨さんが退室するのを見送った。

彼女は、また自分を指名して欲しいと告げて姿を消していく。

その様子は社交辞令というより、本心から懇願している気がした。






 詩梨さんが家から居なくなってから数十分後。

私はリーズレットに昼食のカレーライス玉ねぎ抜きを作らせた。

それを無事に完食させたら、自室に戻りリーズレットを就労させていく。

そして、私はロンリネスライフの眼鏡を顔にかけて、鈴菜を視界に表示させた。

それから眼鏡以外の道具一式を身につけていく。


「〇〇、なんだか元気がないようだけど、どうかしたの?」


鈴菜は不安そうな顔で私に近づいてくる。

私は彼女に自分の創作能力の低さについて告白した。


「〇〇の作品、この前見せてもらったけど、完成度高かったよー?」


鈴菜は頬に指を当てて首を傾げる。

私はスマートホンに入れてある、“幻想録”を鈴菜にも読ませることにした。

今回は感想も言っても大丈夫と告げた。

彼女は腕を組みながら尻尾を上下させて、しばらく黙り込む。

そして、笑顔を作りながら言う。


「〇〇の作品読み終えたよ。うん、やっぱり、〇〇の作品面白くて品質も高いよ!」


彼女はニコニコ笑いながら私の顔を覗き込んでくる。

鈴菜も私に気を遣って真実を伝えようとしていないかもしれない。

私は彼女に改善できるところは無いかを質問した。


「うーんと、大きな問題点は見つからないんだけど、工夫をしたら必ず面白くなって成功するカ所はあったよー。うん、ヒロインのフェテスはやっぱり、もっと明るくして主人公を引っ張っていく感じにしたら物語にもっと動きが出てくると思うよ。主人公は〇〇の性格的に、無理にキャラクター作りしないほうが自然に仕上がって面白くなるよ。それと、やっぱり最初の数行が説明感が強くて、読み始める時の負担が大きいから、この部分は削った方がよくなるよ! って、アタシの感想なんかで役に立つのかな?」


鈴菜は苦笑いを浮かべながら頬をかく。

私はトゲの無い言葉でしっかり注意してくれたことに感謝した。

すると、鈴菜は尻尾を上げながら笑顔を向けてきた。


「〇〇がまた意欲的に執筆に向き合うようになってくれたら嬉しいな」


彼女は優しい声音でそう言うと、私の身体を両手で包み込んでくる。

身体前面に鈴菜の体温のようなものを感じる。

ついでに際立って柔らかい感触も。

もちろん、それは偽りのものだ。

しかし、私の身体はまんまと騙されてしまっている。

彼女は一旦私の身体から離れると、尻尾と共に片腕を天井に向けて大きく突き上げていく。


「がんばれがんばれ! 〇〇、また作品書いていこう! にゃー!」


鈴菜は笑みを浮かべながら、反対側の腕を上げ、小さくその場で飛び跳ねた。


「〇〇ならできる! アタシも協力するから、一緒に作っていこう! みゃー!」


彼女は私の部屋の中で騒がしく何度も飛び跳ね続ける。

私は鈴菜に、作品から製品にならないように程々の介入に留まるようになだめた。

でも、彼女の心意気は嬉しい。






 鈴菜に励まされてから数十分後。

私は椅子に座り、パソコンのモニターを見つめていた。

モニター画面には、サスティナヴルWrifeのトップページが表示されている。

そして、月が変わるということで、収益が還元されると文章に書かれていた。

私は今までに、24000フーター+3000+3000フーターの合計30000フーター稼げたらしい。

内訳うちわけに、援助報酬の加算が二回付与されていた。

サスティナヴルWrifeの月額利用料10000フーターを差し引いたら、実質20000フーターの稼ぎだ。

この収穫は、リーズレット及びフレンボットのメンテナンス費に充てようと思う。

もう少し執筆稼働を頑張れば、メンテナンス費を相殺できるかもしれない。

そして、今はリーズレット・鈴菜・詩梨さんの支えがあって、何か書きたい意欲が高いのを感じる。

私は眼下に置いてあるキーボードに指を置いていく。

そして、キーを何度も指で叩いていくと、画面に文字が徐々に追記されていき、やがて文章に変化していった。

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