第33話 無理ら…無理らいやー…
秋が終わろうとしている。一日の始まりと終わりは寒さにすくみ、空の厚い雲が動かなくなった。
とっつぁの報せが届いてから、皆言葉が少ない。知らず誰かの腕にしがみつき背中に被さり、寄り添って眠り、朝は涙の跡を残す。
いつもかかが最初に立ち上がる。立ち上がる前に小さく息を吐いて。
皆の手をさすり背中をさすり、頭を胸に抱いてやる。頬を撫で坊主頭を撫で涙を拭いてやる。けれど、かかの手をさする人はもういない。かかは子供達の空腹が全てだ。
この年は米の大凶作で食糧難が続いている。かかもあんにゃも惣二も仕事を探しているが見つからない。蓄える食糧がめっきり少なくなった。
これから四ヶ月分の食糧と炭、燃料は必ず確保しないといけない。かかや子供達は食材と一緒に藁半紙を沢山手に入れてきた。藁半紙を二百枚以上。一枚に一日分の小麦粉や団栗の粉、芋や銀杏などを包む。六人分を一包みは難しい。まずは大体これくらい…から始める。
「……たけ兄い…そんげえいっぺこと包み過ぎらて…無理らー…」千恵子が武に意見した。十一歳の子供でも分かる。
「そいがて六人分らて…無理らいや…」
「あとでかかに決めてもらうて…そんげえらとすぐに終わってしまうて」
「…無理ら…無理らいやー…おれぜってえもっと探してくるすけっ!」
武が厚着になってリュックを持って出て行った。当てがあるわけではない。
とぼとぼと歩きまわって武は五十嵐つぁまの家にたどり着いた。玄関の前で何も出来ずにしばらく立っていると、後ろで「おめさん…衛藤さんとこの…どしたあー? 」五十嵐つぁまのおかかが声をかけてくれた。歳はいってるが声や喋りが伸々している。武はうまく説明出来ない。
「……なんか…お手伝え…出来ませんかのー…」いつもの武の声ではない。
「……そいがー…おめさんとこもやー……たいてん(大変)ねぇかったねぇ…ちょっこし待っていろやー」言葉の端々が丸い。奥から皿に蒸した小さな芋を2つと湯呑みに白湯を持ってきてくれた。
「なー…ほんとにやー…米もねしなあ…腹満たすもんがどこもみーんなカツカツらもんのー…せつねえがー……力仕事してもらってものーお返しのもんがねえがのー…」とおかかは小さな芋を十個ほど持たせてくれた。
帰り道、武は気持ちの置きどころが無かった。なぜ涙がこみ上げてくるのか分からない。何もしないで芋を貰った。これから先こんな事は続かない。どうしたら食べ物が手に入るのか、不安の塊が胸を占めた。




