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第3話 頬被りはそっと… 

「惣二! そん顔どしたっ!」

 「ノボとにらめっこしてた…ほっぺた膨らましてたら顔でっかなった…」

 「んなわけあっか!」

  かかの声が響いた。とっつぁ(父さん)はこちらを見ないであんにゃ(長男)と店で売り物の自転車につやをかけている。弟妹達は部屋の隅で雑誌を見ながら寄り添って惣二を見ている。書き物をしていた鉛筆を置いて、眉をハの字にしたかかが惣二の両腕をつかんだ。

 「惣二!してええこと、してはいかんこと、ええかげんにせえや!」

  細身だがしっかりしたかかの腕が惣二を揺らした。惣二はかかの目を見られない。かかに叱られ、惣二は身体を硬くしたが思っている倍以上揺れる。

 「教頭先生みえたて!…… ええか!あんげぇことした先生に明日ぜってえあやまれや!口だけではだめらて…ちゃんとあやまれや!」

 

 しばらく両腕を強く握り締め、惣二の目を見つめながら何か思いついたように何度か惣二を揺さぶった。かかは手を緩めて、頬を両手でそおっと触り

 「教頭先生もひでな…ずっとこんげ顔んなったら、ほっぺたつかみやすくなるらあ… 水で冷やさんと…」かかの目から力が抜け、惣二を柔らかく抱きしめた。ぽんぽんと背中を叩かれて惣二は力が抜けた…久しぶりにかかの匂いをいだ……

 「いらいらしてもな、自分の首しめてるみてなもんだかんな…相手ん人があより、自分がどんげぇ人かあ考えんとな…」

 

 かかは惣二に何度も顔を洗わせた。濡れた手拭いを顎から頭にかけて廻して、西瓜か頭かでも持ち歩けるように結んだ……惣二は神妙な顔つきをしている。

 「また寝る前に冷やさんと…」かかは惣二の顔を覗き込んでから、溜め息をつき思案顔でまた帳面の書き物を始めた。

 

 怪しい格好で惣二が店に降りると、とっつぁが笑いをこらえた小声で言った。

 「いやいーや……空気入れで顔膨らましたって言わんと…」

 「とっつぁまー…」

 「ペコペコしにいくろ、来ぇ」


 とっつぁは時々惣二を連れて町を歩く。

油差しと雑巾を持って、惣二と町の軒先にある自転車に油を差してまわる。みなとっつぁの店で買った自転車だが、買ってもらった後も勝手に油を差してまわる。

 「……とっつぁまー、油差したらお金もらえるんではないかのー?」

 「なあ…店れな、一日中座ってるこたぁねえて、あんにゃもおるすけぇ…自転車乗りたくなる人がの増える方がええがー…時々世間話でもしてな…ほれ、あれにペコペコしてこぇ」

 油差しの底を押すとペコッと鳴る。惣二は前からこれが好きだ。

 振り返ると、とっつぁの笑顔もペッコリと鳴ったようだ。


 春の風が道の砂を飛ばす……濡れた手拭いで顔を隠した少年がとことこと歩きまわり、春の日が暮れた。

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