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マルボとキャス  作者: 苺堂本舗


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8/14

【第8話:正体】

ー夜―


寝息と静寂に包まれる部屋の中で、


マルボは夢を見ていた。


ふわりと頭を撫でられる感触。


優しい手のぬくもり。


「かわいい いもうと だから……

 やさしく…… あいして……」


どこか、くすぐったい。


でも、あたたかい。



「……かぁ…さん……」


そのまま、マルボは静かに眠りへと落ちていった。



ー朝―


差し込む陽の光。


マルボがベッドから起き上がると

テーブルに一枚の紙が置かれていた。


「請求書:ロゼちゃんの美ボディ鑑賞料100万♡」


マルボは無言でそれを手に取り、

細かく破って、ゴミ箱へと落とす。


「ちょっと出てくる…」


「いってらっ〜しゃ〜い…」


キャスの寝ぼけた声に見送られ

マルボはフードを被り、静かに外へ出た。



ー裏路地―


「ゆ……ゆるしてくれ!!」


ナイフを振り回しながら後ずさる男。


マルボは一歩ずつ、歩を進める。

「許すも何も……決定権が俺には無いんだ…」


ナイフがマルボの腕を切り裂く。

「……ッつ」

「ああああっ…すまない!

 あああ、当てるつもりはなかった!なかったんだ!

 お願いだ!娘がいるんだ!家族が!!

 か、かね!金だってやる!!」


「いくらだ?」


「い…いい、1万……いや、10万でどうだ!!?」


マルボは一瞬、眉をしかめ――

(ロゼの美ボディを見たら100万…)

大きく溜め息をつきー


「あんたの命……激安だな。」


次の瞬間、

左手に持ったタオルで男の首を覆い、

右手でナイフをタオルごと――

深く、静かに突き刺す。


くぐもった呻き声。


垂れ流れる血液…


身体がびくつく。


十数秒後、完全に動きが止まる…


「3人目……完了」


パン… パン… パン……

静寂に響く、拍手の音。


「さっすがマルボく〜〜〜〜〜〜ん!

 パな〜〜い!もう神の所業〜♡」


ロゼが、背後から現れる。


マルボは壁にもたれかかり、目を伏せたまま言う。


「今は、そのテンションやめてくれ…」


「……それじゃ〜、落ち着いた大人のお姉さん風で」

ロゼはポニーテールを結び直し、

黒い手袋をはめる。


声色も、態度も、別人のように静かで冷たく変わる


「いつまで、続けるの?たかが妹1人のために……

 手を汚して、命を削って……」


袋を広げ、死体を淡々と詰めながら続ける。


「学生ごっこに付き合って、おままごとに踊って。

 可愛いおにぃちゃ〜ん♡って呼ばれて、満足?」


ズキン。

マルボの頭に痛みが走る。

手でこめかみを押さえながら、低く呟く。


「関係ないだろ……」


ロゼの声が鋭く、冷たくなる。

「こっちの世界にこれ以上踏み込んだら

 そんな傷じゃ済まなくなる。

 これは警告じゃない、忠告。

 あんたたちには“分相応”って言葉があるのよ。」


袋に詰め終えた死体に、ロゼは腰を下ろす。

その瞳はどこか揺れていた。


「冷めたスープ飲んで、パンを分け合って、

 ボロボロの服着て生きればいいじゃない。

 学校?リボン?ネイル?

 お姫様気取りの妹が

 生きてるだけで満足じゃないの……?」



沈黙。



マルボが目を伏せたまま呟く。

「これで……いいんだよ。俺は。」


ロゼは舌打ちをひとつ。


「……また、仕事頼む」

マルボは背を向けて歩き出す。


ロゼは、膝を抱えて座り込む。

「バカ……子供は、子供らしく……

 甘えてればいいのに……」

灰色の床にふたつーみっつと黒いシミを作るー


「うん!これは可愛い〜♡

 で、こっちのリボンをつけると〜……

 あ〜このキャスも可愛い♡」

キャスは鏡の前で自分を眺め、ポーズをとりながら笑う。

その明るい声が、部屋に響く。


──ガサ。


買い物袋をテーブルに置く音。


振り返るキャスの顔が一瞬でこわばる。


「い……い、いつからいたのよ!」

顔を赤らめ、マルボを睨むように問いかける。

「帰ってきたら、“ただいま”くらい

 言いなさいよね!!

 ……バカ!」


「……あぁ、ごめん」



静かにそう言うと、マルボはそのまま

シャワールームへ向かう。


その背中に、キャスの視線が刺さる………。

……確かな違和感……


キャスがわざとらしく明るくマルボに言う。

「マルボ?私、ちょっとアイス食べたくなったから買ってくるね?」


「アイスなら、まだあるだろ」


少し声がうわずりながらも、キャスは言葉を続ける。

「い…いちご!いちご練乳が食べたいの!!

 あと、可愛いキャスちゃんを

 街の愚民どもに披露してくるのよ!

 み〜んな振り返って、“可愛い”って言うのを

 感じてくるわ!ふふふ〜♫」


「……そっか。気をつけてな」


「……じゃあねっ」

玄関のドアがバタンと閉まり

部屋の中は、音も温度もすべて、凍りついたように静まり返る。


マルボはシャワールームに入り

全力で蛇口を捻る


恐る恐る傷にお湯をつけると

ビリビリと滲み床には赤い水が滴り落ちる…


上腕から流れる血をぬぐうと

その傷跡に針をあてた。


慣れない手つきで、震える指で糸を通し

肌に突き刺す…



「……いてぇよ……」



針が肉を裂く。血が、ぬるく垂れる。


そして、モツうヒト針…



「いてぇって……」


…ヒト針…


「うっ……あぐ……」


唇を噛みしめ、涙がこぼれる。

「いてぇって言ってんだろ!!!!」

ガシャアアアアン!!!

手元の金属トレーが跳ねて

シャワールームに響き渡る。


マルボは肩を震わせて、声を殺して泣いた。




「……いてぇって……」




絞り出すような言葉と、終わらない痛み。



キャスは玄関のドアのすぐ外で

膝を抱えて座っていた。


指先でそっと、床に落ちていた一滴の血をなぞる。


そのまま震える指で、地面に

「バカ」

と、書く。


涙は、地面に落ちる前に両手で拭った。




シャワールームから出てきたマルボは

部屋をぐるりと見回す。


(キャス……まだ戻ってないか)


鏡を見る。

目の端には、涙の跡。


(大丈夫。いつもどおりだ……俺は、いつもどおり)


深呼吸して、落ち着こうとする。

そしてふと視界の片隅に違和感。


(あれ?……俺の脱いだパーカーって……?)


シャワールームを確認する。


…ない…


……ない…


どこを見ても、探しても……ない…



次の瞬間、マルボはドアに駆け寄り

靴を履き、外へと走り出す――


玄関扉の血で書かれたバカの2文字にも気付かずにー




息が熱い。


口の中に、鉄の味が広がっている。


走る、走る、走る――


全身を駆け巡る焦燥感に背中を押されながら、

フードを被り、夜の路地をひたすらに駆け抜ける。


──辿れ。


辿れ、この先に必ず、いる。

石畳を蹴る足音が止まる。


そこは、人気の無い裏路地の最終地点。


路肩に立つひとりの人影。


その人物を、無言で見つめる。


フードを深く被ったまま、ただ、じっと。


「……なに? 謝りにでも来たの?」

静かに声を発したのは―ロゼだった。


「それとも、逆上して私を殺す?……」

フードの影からは、反応がない。


「……相変わらず、無口なのね。

 そんなんじゃモテないわよ、マルボ」


無言。



「……はあ……分かった。

 もう、あんた達兄妹のことには口を出さない。

 仕事も回す。

 盗みでも詐欺でも殺しでも、なんでも」



その時――

ロゼの襟元を、細い腕が掴んだ。

「っ…」

掴む手は震えていた。


ロゼは動揺しながらも、その手を見つめる。

「そんなに……キレてるとは思わなかった。

 ……ごめん…ごめんね…

 でも……私……ただ、心配で……」


その言葉とともに、ロゼの声が震える。

「マルボも、キャスも……

 可愛くて。すごく、可愛くて……

 可愛い弟と妹だと思ってて……」


襟を掴んだ手の力が緩む。


ロゼはそのまま、しゃがみ込むように

地面に膝をついた。


「いつの間にか……家族、とは言えないけど……

 愛情が芽生えてたのかな?

 大人なのに、2人に依存し始めてて……」


夕闇の中、ロゼの頬を涙が伝う。


「危なっかしくて、壊れそうで……

 2人のことを、見ていられなかった……


 助けなきゃって……

 ……ごめんね。

 つらい思い、させて……


 私にもっと力があれば……

 お金があれば……」


目の前にいたフードの子供が、すっと立ち上がる。


ロゼの顔を、真っ直ぐに見て言い放つ。



「……許さない…」


ロゼの目が揺れる。


ロゼが耳を疑う…。



「やめろ! キャス!!」

後方から走り寄る、マルボの叫び。


ロゼはハッとし、目の前のフードをそっと下ろした。


そこには

涙でぐちゃぐちゃになった

キャスの顔が現れた。



「…許さない!!」


「…許さないんだから!!!!」


キャスが声を荒げる。


マルボが手を伸ばすが、わずかに間に合わない。

その瞬間。

キャスは、ロゼに飛びかかる。


マルボが叫ぶ。


「だめだ! キャス、やめろ!!!!」




……ぎゅっ。




キャスはロゼに、しがみつくように抱きついた。


「なんで……どうして……どうしてロゼなのよ!!」


ロゼは驚きながらも、震えるキャスを、ゆっくりと、抱きしめ返す。


「私……ひとりだけ、のけ者なんて……やだよ……!」


涙が止まらない。


キャスの指が、ロゼの服をぎゅっと掴んでいる。


「私……ロゼのこと、殺そうと……」



「……ごめんね。キャス」



ロゼの声は、キャスよりも少しだけ震えていた。



「もぉ……やだ……今のキャス、絶対可愛くない……」


その言葉に、ロゼが吹き出す。

「ふふっ、なにそれ」


キャスも、つられて笑い。

ロゼの指先がキャスの涙をぬぐう。



「今のキャスは……世界一可愛い♡」



マルボが、ゆっくりと、二人に歩み寄って言う。

「……ほら、2人とも…帰るぞ」


ロゼが目を伏せて、うなずいた。


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