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マルボとキャス  作者: 苺堂本舗


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12/14

【第11話:素直】

DAY3


朝の教室は、いつになく騒がしかった。


落ち着かない足音と、くぐもったざわめき。



「誰がこんなこと……」

「ひどい……っていうか、怖すぎでしょ」

「どうせ、あいつらの誰かでしょ」


その“異常事態”の原因は明白だった。


――教室の、ほとんどすべての机に

白い花が挿された紙コップが置かれていたのだ。

…四つの席を除いて。


その四つの席は…

いじめの主犯と予想される3人の女子の席と

キャスの席。


「ねぇ、これマジでどういうこと?」

「私じゃないし!ほんとに知らないって!」

「なんでウチらの席だけ置かれてないの!?

 意味わかんない!」


焦りと怒りを隠せない3人組のうちの1人が、

キャスの方へ早足で詰め寄る。

「おい!なんのつもりだよ!これ!!

 ウチらが犯人だって言いたいの!?

  復讐か? おい、返事しろよ!」

勢い任せに、キャスの胸元を掴む。

その瞬間。


キャスが静かに、視線だけをゆっくりと持ち上げた。


「……離しなさいよ、ブス…」


「は?……あぁん?」


再び、キャスはゆっくりとした口調で、

だが確実に相手の“目”を見ながら言った。


「……だから、離せって言ってんのよ。このブス…」


その瞳の奥に宿る無感情な“意思”に、

怒鳴りつけていた女生徒は…

何かに飲まれるように手を離した。


近くにいた女子が声を上げる。


「キャスちゃんが……やったの?」


キャスはすぐに返事をしなかった。



数秒の間をおいて、唇をゆっくりと動かす。

「……聞こえない。全っ然聞こえない

 だって―あんたたち、死体でしょ?」


その問いかけに、教室の空気は止まったー

誰もが言葉を失い、

時計の針すら止まったかのような沈黙。


……そして、教室は一斉にざわめき始める。


「なにそれ!? どういう意味!?」

「キャスちゃん、そんなこと言う人だったの!?」

「花を全員に置くとか……マジで性格悪っ!」


そのなかで、1人だけ違う反応をする少女がいた。

あの“花瓶を置かれていた女の子”。


キャスからもらった髪留めで、前髪を上げ、

隠れていた瞳が、強くキャスを捉える。

彼女は、立ち上がり、震える声を絞り出した…


「キャ……キャスちゃんは……違う。

 違わないけど、でも……違う…」


「はぁ? 何言ってんの、意味わかんない」


3人組のうちの1人が、ゴミをその子に投げつける。


「少なくとも、あなた達3人とは違う!!」

髪留めの少女が振り絞り強く発っしキャスを見る。

その瞳には、確かな“感謝”と―“共犯意識”があった。


キャスが、椅子から静かに立ち上がる。

「……ふふっ、違うに決まってるじゃない?

 私は、特別なんだから♡」

その瞬間、すべての視線がキャスに集中する。

その注目を彼女は望んでいた。


(そうー…もっと見なさい。私を…)


「この教室、死体だらけじゃん。

 生きてるのは……あの3人とー

 髪留めの子と、私だけ。

 で、あんたたちは何なの?

 誰かの言葉に合わせて、口だけ動かして

 正義も悪もない。

 ……可愛くない。ぜんっっっぜん可愛くない!!」


キャスの声が響き、

教室の温度が下がっていく。


「花瓶を叩き割ったロゼ先生はさぁ

 最高に可愛かったわ。


 怒って、泣きそうで、ムカついて

 でも止めきれないくらい“本気”だった」


「で?あんたたちは何?

 誰かの顔色うかがって、合わせて、流されて……

 正しさも間違いも、自分じゃ決められないの。


 そんなの、くっそ可愛くない……!


 周りに操られてる人形?」


その瞬間――

ガラガラガラガラと教室のドアが開くー


ロゼが、ヒールの音を響かせて入ってくる。

口元には、意味深な笑みを浮かべて。


その顔は、いつものギャルではなく

一人の大人の顔ー

ロゼは黒板の前で足を止め、

キャスを見たまま、こう言った。


「……いいわよ。続けて。」


キャスは、右の髪束をひるがえし

ゆっくりと生徒たちを見渡す。


「さあ、かかってきなさいよ。

 “死体”って言われて

 “人形”って言われてムカついてるんでしょ?

 悔しいって思ったんでしょ? じゃあ、どうする?

 まだ“死体”でいるつもり?」


教室内は、言葉も音も止まった。


生徒たちが黙り込む。


(やっぱ、そう簡単にはいかないか……

 まぁ、予想通りか)

キャスは冷たい視線で、ロゼの前に立つ。

「子供のケンカに、大人が入ってこられたら…

 困るのよ…

 ハッキリ言ってー邪魔!!!!!

 ちょっと出て行ってくれる?」

冷めた口調で煽るように言い放つ。


「は? 何その言い方!

 大人をなんだと思ってんのよ!

 分かったわよ。

 あんた、終わったら指導室に来なさい!」

ロゼは怒りに震える唇を噛みしめながら、歩き出す。


すれ違いざま、キャスの手をそっと握った。

それは激励を込めた、熱いサインだった。


ガラガラガラガラガラ――



「さて…邪魔者は消えたわね。」


キャスは教卓に強く腕を叩きつける。

ガンッと静かな教室に響き渡るー


「ここまで言われて何もしないの?

 だから“死体”だって言ってんのよ!

 こんな小さくて、可愛い女の子にさえ

 刃向かえないの?



 ゾンビくらいにはなってみなさいよ!!!!!」



その言葉は、鋭い棘のように

教室の空気を切り裂いた。


突然、花が入っていた紙コップが

勢いよく飛んできて、

キャスの頬をかすめ黒板に当たる。


ーバシンッー


一人の生徒が震える身体を小刻みに揺らしながら

震え声で叫ぶ。


「わ、わたしは死体じゃない……!」


キャスはクスッと笑みを浮かべ、囁くように言った。


「合格。」

「あんた、なかなか可愛いじゃん!」


投げつけてきた女子に

キャスは無邪気な笑顔を返す。


「あら? ひとりが始めたら

 みんな同じことするんでしょ?

 あんたたちはそういう人間なんでしょ?

 ほら、どんどん投げてみなさいよ。

 感情込めて…


 溜まってるんでしょ?」



「うるせぇ、チビが!!俺だって……!!!」

水の入ったカップが勢いよく飛んできて

キャスの髪を濡らす。


濡れた髪をかき上げ、キャスは冷たい目で返す。

「俺だって、何よ?」


「俺だって助けてやりたかったんだ。

 花瓶を避けてやるくらいは…

 できたかもしれないって……」


ふふ。キャスは微笑んだ。

「合格〜。ほら、他の量産型はどうなの?

 日和ってんの? それとも…

 可愛いキャスちゃんに見惚れてる?」


「ざけんな!!!」

「私の気持ちもわからないくせに!」

「そんな簡単じゃないのよ!」

ーバシャッ、バンッ、ビシャッ―

次々に飛び交うカップの水が、

キャスの髪、顔、制服を容赦なく濡らしていく。


髪先からは水滴がポタポタと落ち、

ブラウスは肌が透けるほど濡れていく。


「だいぶ可愛くなってきたじゃない……

 ほら、もっと見て。

 私で頭の中いっぱいにしなさいよ。」


「なんなんだよ……お前……」

力なく投げられるカップ。


「私だって、自分を押し殺したくない……!」

握りしめたカップが潰れ、水が零れ落ちる。


「みんな……みんな弱いんだよ……」

膝をつき、震えながら涙を流す女子。


キャスは中央に立ち尽くす花瓶の子に静かに尋ねた。


「あんたは、どうなの?」


身体を小刻みに震わせながら、少女は答える。



「私は……私は……キャスちゃんが…羨ましい……」



教室中が息を飲む。


「なんで?

 なんでこんなことができるの?

 こんなことしても

 キャスちゃんに得があるわけじゃないのに……

 キャスちゃんだけ……背負わなくていいのに……」


キャスはスカートの裾を掴み、染み込んだ水を絞る。


「あ〜あ〜……びしょびしょ……」


そして…深くため息をつき…


「背負う?

 全然わかってない……

 腹が立つだけ。


 取り繕ったこの世界が気持ち悪い。

 自分だけが被害者だと思ってるあんたたちが



 ただただ気持ち悪いだけ……」



「寂しい? 悲しい? 苦しい?

 キャスちゃんが慰めてあげよっか?


 ふふふ……そんなの反吐が出る。」



「やりたいならやればいいし、

 言いたいなら言えばいい。


 わかってんでしょ?

 何が悪で何が正義かくらい。」


キャスはちらりとマルボを見て微笑む。


「私は……私は負けないし、曲げない。

 私の大好きな人が曲がらないから。

 だから……可愛くいられる。


 守られるのが当たり前じゃない。

 勇気を出すのは怖い。

 でも、やらないと可愛くない。

 言わないと可愛くない。

 可愛い自分でいたいから

 私は誰にも曲げられない


 だから止まらめたって私は自由にやる!」


 キャスは花瓶の子を見つめ、笑顔で尋ねる。


「びしょ濡れの私も可愛いでしょ?」


花瓶の子は涙混じりの笑顔で答えた。


「さいっこうに可愛い!!!」



「ほら……見てよ、床!」


生徒たちがキャスの足元を見ると、

飛び散った花びらが床中に散乱している。


「お花畑みたいで可愛いでしょ♡」


その瞬間、キャスに向かって

一斉に謝罪の言葉が飛び交う。


(マジで疲れたけど、うん、みんな可愛い。)



「で、そこのブス3人。

 自分の可愛くなさに気づいたでしょ?


 ここ、片付けておいてね♡

 私、ロゼ先生に呼ばれてるから♫」


呆気にとられた3人が素直に頷く。



ー指導室ー


ロゼとハイタッチを交わすキャス。


「キャスの作戦は、これで成功なの?」


オレンジジュースを注ぎながら聞くロゼに、


「たぶん、成功してる。」


「お姫様、爆誕って感じ?」


2人は笑い合い、ささやかな勝利を祝う。


教室に戻ると

生徒たちは満面の笑顔や泣き顔でキャスを迎えた。


「キャスちゃんって何者?」

「私、キャスちゃんにハマりそう!」

「キャスちゃん、ごめんね!」

「キャスちゃん、私も変わりたい!

 キャスちゃんみたいに!」


生徒の頭を優しく撫でながら、マルボを見るキャス。


マルボはため息をつき、

その反応にキャスは頬を膨らませながらも

右手でこっそりピースサインを送った。


「うん。み〜んな、めちゃくちゃ可愛い♡」


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