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マルボとキャス  作者: 苺堂本舗


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11/14

【第10話:無知】

学園生活も2ヶ月が経ち

桜も散り、花びら数と反比例し

ふたりもその生活に慣れ始めていたー


それは周りの生徒達も同様で

慣れ始めたからこそ形が変わっていくー



DAY1


鏡に映る自分を見つめて、キャスはふっと笑った。

「うん、今日の私も……可愛い」


制服の襟を整えて、クマの髪留めを少し傾けて―

確認。


「この角度……うん、完璧♡」

指で頬をなぞる。

つやのある肌に、にっこりと映えるアイライン。


「よしっ」


ガラガラガラ――


「お……お、おはよっ」


キャスの声に、教室が静かにざわめいた。


何人かの女子が振り返って、笑顔で手を振る。


「おはよ〜キャスちゃん!」

「その髪留め、可愛いね〜」


「えっ……あ、ありがとっ」

ほっとした笑みで答えるキャス。


ふと辺りを見ると、教室の中央の机に目が止まる

その机にはガラスの花瓶が飾られていた。


「あの花……可愛い…♡」


小さくつぶやいた声に、周囲の空気が一瞬変わる。


笑っていた女子たちが、何とも言えない顔をして

それぞれの席に戻っていった。


目の前を一人の女生徒が通り過ぎ―

花の机に、静かに座る。


その瞬間、どこからかクスクスとした笑い声。


教室には、目に見えない「微妙な空気」が包んだ。



ガラッ!

「おっはよーーーっ!! 今日も〜朝から元気ぃ〜?」

ロゼが教室のドアを開け、いつもの調子で入ってきた。


ヒールの音を鳴らしながら、歩き出す。

「それじゃ〜恒例の出席と……って、あん?」


ロゼの声が一変した。


ヒールの歩調が早く強まり、滲み出る怒りのオーラ…


そして中央の机の前で立ち止まる。



カン……


花瓶をつかみ、振りかぶり

床に思い切り叩きつけた。


パリン――!!


教室に鋭く響き渡る音。

割れたガラスが床に飛び散る。



沈黙…静寂…



「誰?誰だ?誰がこんなクソダリィことした?」


静まり返る教室で、ロゼの声だけが響く。


その手は震え、怒りを沈めるために近くの机に

拳を叩きつける。


「やったやつに伝える。おまえは、クズだ。

 生きてる価値なんてねぇよ、クソだ…」


花瓶のあった席の女子が立ち、ロゼの腕を引いた。



「せ、先生……もういいです……いいんです…」


けれど、ロゼの目には涙まじりの怒りが浮かび

ーー止まらない。


「出てこれねぇんだろ? そうだよな?

 誰かを傷つけねぇと安心できねぇ

 自分が誰かの上にいるってー

 価値がある人間だってー

 こんなことしないと証明もできねぇ

 哀れなクズなんだもんな?

 楽しいか?こんなことが楽しいのか?

 だとしたら気持ち悪りぃ趣味だなぁ!!!!


 この花瓶の意味がわかってた奴は

 なんで何もしなかった…?


 胸糞わりぃ……帰るわ…」



スッと背を向けたロゼは、ドアに手をかけて一言。


「……掃除。あんたがやっといて。じゃ」


ガラガラガラガラガシャン!!!



静寂が落ちた教室。

1人の生徒が口を開ける

「……誰だよ、マジで」

この一言を皮切りに声が重なっていくー

「てかロゼ先生、怖っ……」

「俺がなんで掃除……」

「マジでこわすぎ!」

「で?誰がやったの?」


ざわざわとした声の中で

キャスはぽつんと立ちすくんでいた…


周囲の視線を探り、戸惑いながら隣の生徒に聞く。


「ね、ねぇ……ロゼ…ロゼ先生。

 なんであんなに怒ってたの?」


「え……キャスちゃん、本当に分かってないの……?」

しぶりながらも生徒は答えた。


「あ〜いうのってね……

 学校で亡くなった子の席に飾るの。

 えっと…つまり、あれは―“死んだ”って意味……」


キャスは花のあった席を見た。

そこに座る、前髪の長い女子と目が合う。


ピク……!


キャスの中のセンサーが反応する。


その子の元にキャスは真っ直ぐに向かい

目の前で止まる。


「……」


じっと見上げてくるその子の前に立ち

キャスは自分の髪留めを外した。

そして、その長すぎる前髪をやさしく分けて―

髪留めで留める。


「あは♡やっぱり……可愛い」


「え……えっ?」

真っ赤になるその子の顔。


「それ、あげる。キャスには、もう必要ないから♡」

「そ……それは……えっと……」

「大丈夫。キャスは、何つけてても可愛いから」


「…………ありが、と……」


照れくさそうに俯くその子を見て、キャスは笑った。


「その反応もずるい〜!

 キャスまでキュンってなっちゃう!」


教室が、凍りついていた。


キャスはようやく気づく――

笑いも、声も、もう誰も向けてくれないことに。



その日は、それ以降

誰もその女子には話しかけなかった。


すれ違う視線は避けられ

挨拶は宙に溶けて消えいった。



そしてまた次の朝が来るー




DAY2


「うん、今日のキャスも……可愛い♡」

いつもの様に鏡の前で朝の支度をするキャス


制服の襟を正して、2つに結んだ髪を揺らす。

リボンを整えて、横顔を確認。


もう一度、ゆっくり目を閉じて。

「……うん。可愛いよ、キャスちゃん」


最後に、ヘアピンを耳元につけて……

鏡越しに、部屋の奥に目をやる。


「ねぇ、マルボ〜。私って、やっぱ可愛い?」


ソファで本を読んでいたマルボが

視線を上げずに答える。


「あぁ……うん、まぁ……」


「はぁ……それだけぇ?」


「そろそろ行くか」

本を閉じ、カバンを背負う


「…ロゼ、まだ怒ってるかな?」


「まぁ〜…アイツなら大丈夫だろ

 それより…」


「それより?」


「いや、なんでもねぇ…いくぞ」




ガラガラガラ――


「お、おはよ〜」

キャスが教室に足を一歩踏み入れた瞬間

空気が凍りついた。


耳が痛くなるほどの静寂――


誰も返事をしない。誰も振り向かない。

まるで、自分が“いない”かのような感覚ー


違う。ちゃんといる。ただ、見られていないだけ。

キャスの視線が、自分の席に止まる。



……花瓶。そして一輪の白い花。



「う〜ん……」

しばらく眺めてから、そっと手を伸ばす。


花をつまみ、小さくちぎり取ると――

自分の髪に、ピン代わりに差し込む。


空になった花瓶は、そっと机の下へ隠した。



「なにあれ、やば……」

「自分が可愛いとでも思ってんの?」

「今日も〜キャスちゃん可愛い♡って?マジで草〜」


後ろから聞こえる、ヒソヒソとした嘲笑。


キャスは静かに隣の席の子を見る。

――視線が合った瞬間、ぱっと逸らされる。


(敵は数人……味方はゼロ。あとは、空気……)


後ろを振り返る。

教室をぐるりと一周、静かに見渡す。


何もかもを理解する。


(あの子と、あの子……あと、あの子もね)


誰にも見られないように、口元を上げる。

(……いいこと思いついちゃった♡)




家に帰りキャスは着替えながらロゼに打ち明けると

キッチンにいたロゼの怒鳴り声が壁を揺らす。


「はぁ!? 花が置かれてた!?

 アイツら、マジ……ナメてんの!?

 明日ボコしてやる!!」


キッチンから湯気と怒気が立ち込める。


キャスは慌ててキッチンまで駆け寄って

続きを話した。


「ちがうちがうっ!

 ロゼがキレそうだなーって思って

 花瓶は私がこっそり隠したの

 キレて欲しくなかったから」


ロゼの眉間にシワがよる

「えっと〜…どゆこと?

 昨日、あの子かばってたんでしょ? 例の地味っ子

 それと関係あるの?」


キャスが首をかしげ

「えっ? なに? かばう? なにそれ〜? え??」


キョトンとした表情でさらに言葉を繋ぐ

「え〜だってさぁ〜?私には関係ないし。

 あの子も他の子たちも、いじめとか

 そんなんどうでもいいのよ。

 だって私、“可愛い”にしか興味ないし〜♡」


「出た出た〜キャス節w

 自分以外どーでもいいって超お姫様ムーブ♡」

ロゼはクスッと笑いながら、コーヒーをかき混ぜる。


「まぁでもさ〜

 今回のはマジでクソだと思ったから〜……」


ヒソヒソと話す2人。


声は聞こえないけれど――

その目は、確かに“企んでいる”。



部屋の隅。静かに本を伏せたマルボが

ぼそりとつぶやいた。


「……嫌な予感しかしねぇ」


ーーーDay3に続くーーー

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