第四十一話 五階層の怪物
三階層に入ると、さっきまでとは雰囲気が変わっていた。石の通路はそのままだが、壁は崩れているところが多く、天井も低い。歩くだけで足音が響く。なんとなく嫌な感じがする。
少し進むと、いきなり天井から何か落ちてきた。巨大な蜘蛛だった。イエリスに飛びかかろうとしている。だがその瞬間、フェリの剣が横から走り、蜘蛛の体は簡単に切り裂かれて床に落ちた。
速い。本当に速い。
フェリがいなかったら、今の一撃でイエリスはやられていたかもしれない。
「まだいる」
フェリがそう言った瞬間、壁の影から石の魔物が出てきた。ガーゴイルだ。岩みたいな体をしていて、かなり硬い。グランが盾を前に出して受け止めるが、爪がぶつかるたびに鈍い音が響く。
「グラン、押さえろ!」
俺が叫ぶと、イエリスが氷の槍を放った。槍はガーゴイルの胸に当たるが、完全には貫けない。
『巻き戻し』
さっきの動きじゃダメだ。順番を変える。
今度はグランが盾で体勢を崩した瞬間、フェリが横から斬りつけた。ガーゴイルの首が砕けて崩れ落ちる。
三階層はこんな感じだった。魔物の数は多くないが、一体一体が強い。しかも罠も多い。床が崩れたり、毒針が飛び出したり、天井から石が落ちてきたり。俺は何度も巻き戻した。
頭が少し痛い。使いすぎかもしれない。でも使わないと死ぬ。
それでも少しずつ進んで、なんとか三階層を抜けた。
だが四階層はもっとひどかった。
通路がやたら入り組んでいる。迷路みたいだ。同じ場所を何度も通っている気がする。しかも魔物が急に出てくる。オークや大きな狼、それに見たことのない魔物までいた。
正直、かなりきつい。
フェリがいなかったらここまで来れなかっただろう。
途中で何度も死にかけた。狼に囲まれたときは完全に終わったと思ったし、オークの斧が頭に落ちてきたときは視界が真っ赤になった。
全部巻き戻したけど、記憶だけは残る。
正直、疲れてきた。
「この迷宮、変だな」
グランがぽつりと言った。
「強すぎる」
イエリスもそう言う。
俺も同じことを思っていた。一階層からおかしかったが、ここまで来るとさすがに普通じゃない。
魔物が強すぎる。
それでも、なんとか四階層を突破した。
そして五階層に降りた瞬間だった。
空気が重い。
体が自然と緊張する。
「……来る」
フェリが小さく言った。
その直後、遠くから重い足音が聞こえてきた。ドン、ドン、と地面が揺れる。
暗闇の奥から、巨大な影が現れた。
最初は岩の塊かと思った。でも違う。動いている。体は岩みたいに分厚く、腕には大きな爪がついている。目だけが赤く光っていた。
「嘘だろ……」
グランが呟く。
フェリは前に出た。剣を構える。
フェリなら大丈夫。そう思った。
次の瞬間だった。
魔物の腕が振り下ろされた。
速い。
フェリが剣で受け止める。だが衝撃が強すぎた。
地面が砕け、フェリの体が弾き飛ばされる。
「フェリ!」
壁にぶつかる音が響く。
フェリは床に落ちたまま動かない。
血が広がっていく。
頭が真っ白になる。
フェリが……やられた?
そんなはずはない。
でも、フェリは動かない。
目の前の魔物がゆっくりとこちらを見る。
そして一歩踏み出した。
この迷宮には、まだ俺たちが知らない何かがいる。
フェリが、動かない。




