36/36
第三十六話 聞き込み
市場で野菜を売っている男に話を聞いてみた。
でも、男には、十年前に戻ったという感覚はないらしい。
生まれてから今まで、ずっと同じ時間を生きてきたと言う。
——戻った記憶がないのか。
それとも、戻ったのではなく、十年前の町が今に現れているのか。
......いや、たぶん違う。戻った記憶がない、そっちのほうが正しい。
えっ......
男が、また話している。
俺は何もしていない。また、勝手に戻ったのか?
言っていることは同じ。でも、声が震えていた。男はずっと俺の目を見ていた。
俺はその男に背を向けてその場から離れた。
——ドサッ
イエリスとグランがなにか言っている。
頭から聞こえた鈍い音。自分の目に映る赤い液体。
痛い......殺されかけたのか。誰に?今は考えるな、まずは巻き戻しだ。
戻らない。
どうして。
戻れ。
戻れ、戻れ、戻れ——!
戻ったのか。今はまだ安心できない。
急いで後ろを振り返る。
「イエリス、後ろ!足と手を。」
咄嗟にイエリスに助けを求めたが正解だったみたいだ。
斧を持った男だった。
さっきまで、俺と目を合わせていた、あの野菜売りだ。




