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人生迷走者  作者: 相川悠介
第一章
9/14

1ー9 「チュートリアルクリア」

 視界に入ったのは、巨大な白い建物。

 なんか神秘的なものを感じる。


「教会……?」


 声が聞こえるほうに視線を移すとヤミネスさんが驚いた表情をして建物を見て「教会」と呟く。


 ヤミネスさんの後ろにも見覚えのない建物がある。

 二階建ての家かな?その右隣に巨大な四角形の建物がある。

 多分、倉庫。


 そんなことを思っていると、手に違和感を感じる。


「あれ?消えてる……なんで?」


 持っていたはずの服とタオルが消えていた。

 それと死体もなくなっていた。

 なんか怖いんだけど。


 それに廃墟化した村が、変わっている。

 地面にはひび一つない緑溢れる芝生、教会と思われる建物に二階建ての家、その右隣に巨大な四角形の倉庫と思われる建物。


 まるで、俺とヤミネスさんのためだけに()()が、創り変えたみたいだ。

 誰かは大体予想がつく。


「ヤミネスさん」


「あ、クロスさん、おかえりなさい。服とタオルは?」


「それが消えていて……それよりどうなってるのかな?ヤミネスさん、何かした?」


「ワタシは祈りを捧げていました。それ以外は何も」


 十字架を持って首を横に振っている。


「ちなみにどんな?」


「世界が平和になるようにと」


 祈りでこうなるのは都合が良すぎる。

 でも、それ以外にないよな。

 ダーウィンさんに聞いてみないと分からないけど、どうやって会えるのか。

 そもそも会うことができるのかが分からない。


「クロスさん?」


「ああ、ちょいと考えてた。それとヤミネスさん」


「なんでしょう?」


「建物は一つだけじゃないみたいだよ」


「え?」


 二階建ての家に指を向ける。

 ヤミネスさんは、指が向いている方向を見て驚く。


「いい、家?!それに倉庫……?」


「みたいだね。廃墟化した村がこんな綺麗になるなんてね。ダーウィンさんがしたのかも」


「ダーウィン様が!そうかもしれませんね!ふふっ!」


 十字架を持って俺に笑顔を向ける。

 その笑顔に癒されるよ。


「教会?に行ってみよう。どんな内装か気になる」


「分かりました!」


 テンションが高いヤミネスさんと教会と思われる建物に近づき、扉を開ける。

 建物の中には、右と左に長椅子が並んでいて、真ん中を通れるようになっている。

 その先には一つの段差があり、その中央に灰色の台座があり、その上にはヤミネスさんと同じ十字架が置いてある。

 うん。教会で間違いないね。

 前世で見た建物と同じ構造だ。


 魔物の血のおかげで視力も上がっている。

 いやー、便利だね。


     ◇


 気がつくと椅子に座っている。

 目の前にはダーウィンさんがクッキーを食べていた。

 あれ?さっきまで教会にいたはずなのに。


「え?ダーウィンさん?」


「やっほ。チュートリアルクリアおめでとう」


 ぱちぱちと手を叩くダーウィンさんに困惑する。


「チュートリアル?なんのことですか?」


「ボクの信者、ヤミネスちゃんとの合流だよ」


 ダーウィンさんはブドウジュースをコップに注いで、俺に差し出す。

 ゲームの世界じゃないのにチュートリアルなんてあるんだ。


「大変でしたよ。道に迷ったり、殺されそうになったり……戻ることはできなくなりましたね」


「戻る?……ああ、たしかに戻れないね。人間を殺してしまったから。でも、あれは仕方ないよ」


 人を殺した。

 それは後戻りはできなく、後悔することになり、その罪は消すことはできない。


「まあいいです。それより、あれはダーウィンさんがしたんですよね?」


「切り替えはやっ。で、あれっていうのは?」


 ブドウジュースを飲んで、笑顔でコップを揺らしている。

 とぼけてるなー。

 

「村を創り変えたことですよ」


「そうだよー、ボクがした。チュートリアルクリアの報酬としてね。気に入った?」


「それはまだ分かりませんよ。教会に入ったらここに来たんですから」


 どうやってここに来ることができたのかは分からないけど、ダーウィンさんがなんかしたんだろう。


「教会に少し細工しておいた」


 予想的中。


「俺から会いにいけないんですか?」


「そんなにボクと会いたいの?照れるなあ〜」


 からかうように言ってくるダーウィンさんをジト目で見つめる。


「あの……」


「はいはい。答えるよ。キミからは会えない。ボクが気分でキミをここにってこと」


「なるほど……ダーウィンさんに会うには、教会に入ってダーウィンさんの気分次第ということですか」


 会う条件、難しいな。


「そうなるね。で、報酬は他にもあるよ」


 あれだけじゃないんだ。

 貰えるものは貰っておこう。


「他にも?なんですか?」


「戦闘知識に……」


「待ってください」


 人差し指を立ててるダーウィンさんは首を傾げている。


「どうしたの?」


「あのとき、俺が求めていたものを本当に渡しました?」


「あのとき……あー、あれね。ミスしちゃった」


 視線を逸らして苦笑いしている。

 神様もミスすることはあるのか。


「うーん……」


「安心して!今度は本当に渡せたから!戻ったら倉庫に行って!本当だから!」


 必死なのかテーブルをバンバンと叩いている。

 大きな音は苦手だな。


「分かりましたよ。でも、それも嘘だったら、あなたを信用しません」


「安心してよ。大丈夫」


 嘘をついているようには見えない。

 ブドウジュースを飲んで一息つく。


「話を戻すけど、報酬は倉庫に行ったら分かる。それで1番の報酬は……」


 1番の報酬?

 なんかワクワクしてきた。


「キミとヤミネスちゃんは20歳(はたち)になったら不老不死になる」


「……不老不死?」


 呆けている俺を見てダーウィンさんはドヤ顔をする。


「ボクに感謝してよね。不老不死なんて、そう簡単になれるものじゃあないから」


「えーっと……はい、ありがとうございます?」


 神様だからできることだろうけど、勝手に不老不死にさせられるとは思いもしなかった。

 喜んでいいことなのかな?


「不老不死のことはキミが言ってね。ボクからヤミネスちゃんに話しかけることができないからさ」


「言っておきます」


「ありがとう」


 他にも聞くことはあるけど分かるかな?

 神様だからってなんでも分かるわけじゃないと思う。


「クナリ村とシェイハ村について分かることはありますか?すぐに滅亡して情報量が少ないんです」


「分からない。他の人間に聞けばいいと思うよ」


 どうやら人間界には、あまり興味がない感じだ。

 それにしても他の人か。


 転生したばかりで、この世界について知らないことが多すぎる。

 だるいのは嫌だけど頑張ろう。


「ダーウィンさん、さっきから俺のこと、名前で呼ばないですよね。禁止されてることなんですか?」


 気になっていた。

 ダーウィンさんが俺の名前を呼ばないことに。


「気にしてたんだ。禁止されてはないよ。どっちの名前で呼んだほうがいいか迷ってるだけ」


 どっちていうのは、前世と今の名前か。


「キミはどう呼ばれたい?カネキ?タクミ?クロス?マイマイ?キミが選んでくれ」


 これは巧か?

 苗字で呼ばれるのはなんとなく嫌かな。

 クロスとマイマイだと、しっくりしない。


「巧で呼んでください」


「おー、分かった。タクミくんね。タクミくん……タクミくん……うん」


 繰り返し、前世の俺の名前を呟いている。

 何が「うん」なんだ。


「とにかく帰らせてくれませんか?報酬が気になりますし、ヤミネスさんを困らせたくないので」


「えー、もうちょっと話そうよ。ボク、暇なんだ」


 帰らせる気はないらしい。

 ダーウィンさんの気分だから自分の意思で帰ることはできない。


「他に話すことは……あ」


 ない。と言おうとしたが、一つ疑問が浮かぶ。


「おっと?何か思いついた?」


「……今は『勇者』と『魔王』が戦うことになってる時期なんですよね?」


「そうだね」


「それを無視して夢を見つけることに否定しますか?」


 その言葉を聞いたダーウィンさんは、目を閉じて考え込むように腕を組む。

 やっぱりダメか?


「しないよ。しないけど、今の時期だと難しいかもね。いつ人間と魔族で戦争が起こってもおかしくないから」


 ダーウィンさんは、目を開けて頬杖をつき、クッキーを食べる。

 否定されなくてよかったけど、難しいのか。


「ゆっくり見つけるといい。焦る必要はない」


 前世では見つからなかったもの。

 だけど、この世界で絶対に見つける。

 後悔しない、自分が幸せになる夢を。


「そうですね。頑張って見つけます」


「うんうん。じゃあ、そろそろ戻すね」


     ◇


 瞬きをすると教会の中。

 無事に戻ってこれた。


「クロスさん?」


 俺を心配するようにヤミネスさんが声をかけてくる。


「何かな?」


「あ、大丈夫そうですね。少しぼーっとしていたので、何かあったのかと」


「初めて教会を見たからかな。すごいなーって思ってただけだよ」


「そうだったのですね」


 なんとか誤魔化せた。

 ダーウィンさんとの会話は聞かれてない。


「次はどこに行く?」


「家は最後にして、倉庫に行ってみましょう」


「了解」


 俺とヤミネスさんは教会を後にした。

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