1ー7 「追跡者」
血を出すために何か鋭い物がないか周囲を見渡していると、一人の少女が現れた。
かくれんぼのときの女子だ。
右手には、剣という物騒な物を持っている。
「やあ、クロス」
武器を持ちながら笑顔なのやめてほしい。
「水晶玉は壊したはず。なんで君は生きている?」
「クナリ村の人じゃないんだ。旅人なの」
まだ子どもなのに旅人か。
もしかして、あんな姿で実は大人だったりして。
「なるほど。クナリ村に来たのはなんで?」
「誰かさんにクナリ村の人たちを殺してきてって言われたんだ。まさか、水晶玉を壊しただけで死ぬとは思わなかったよ」
依頼かな。
その誰かさんは、クナリ村に恨みでもあったのかな。
「一応聞くけど、なんでそれを持ってるの?」
「なんでって。君を殺すためだよ」
分かってたよ。
最悪だ。
「見逃すって選択肢は?」
「ないよ」
やっぱりね。
今の俺の感情は、恐怖が9割、喜び1割。
死ぬかもしれない戦いなのに謎のワクワク感がある。
アニメや漫画とかの影響だな。
さて、どう戦うかだ。
血液操作は無理かも。武器になったとしても脆い。
ならば、格闘しかない。
でも、戦闘知識がないんだよな。
「さっさと終わらせよう。身体強化」
旅人が剣を持って、距離を詰めてくる。
しかも速い。魔法を使ったのかな。
今は避けるしかなさそう。
「よしょっ!」
脚に力を集中して後ろに跳んで避ける。
旅人が振った剣は俺に届かない。
俺と旅人の距離は約25メートルになった。
「すごい跳躍力。魔法……じゃなさそうだね」
旅人は眉を顰める。
自分でもあんなに跳べるとは思わなかった。
このまま避けて体力を消費させるか。
旅人は再び距離を詰めてきて、剣を振る。
それを紙一重で躱わす。
何度も繰り返していると、旅人は剣を振るのをやめる。
「君に魔法というのを見せてあげよう」
魔法か。テンション上がるね。
それは嬉しいんだけど、こっちに手を翳すのはやめてほしいかな。
とりあえず、もう一回脚に力を集中させる。
「慈悲などいらぬ、灰にせよ……」
旅人の手のひらに火が出現し、だんだんと大きくなっていき、一つの炎が完成する。
やっぱり魔法に詠唱って必要なんだ。
言ってること物騒だけどね。
「グノケート」
旅人が言い放つと炎の玉が俺に襲いかかる。
「うわっと!」
なんとか右に転がり、避けれた。
速度は速いが避けようと思えば避けれる速度。
炎の玉は、崩壊しかけている家に直撃して、家は破壊された。
「避けれるんだ。じゃあ、もう一回」
これって詠唱の間に攻撃できるんじゃないかな。
最初に脚に力を入れて近づき、次に右手を強く握り締めて拳で顔に一発。
試してみるか。
「慈悲など――」
今!
さっき考えたことを実行する。
右脚に力を集中させて、思いっきり跳んで距離を詰める。
旅人は驚き、すぐに剣を振ろうとするが遅い。
「でいっ!」
変な掛け声で右手の拳を旅人の顔に一発。
旅人の首が約90度曲がり、ゴリッという音が鳴る。
「……え?」
旅人は手から剣を落として、後ずさり、石に躓いて後ろに倒れる。
初めて人を殴ったけど、あまり罪悪感とか感じない。
殺されそうになったからかな。
右手は痛くないね。
「うわー」
映画とかで見たことあるけど、リアルで見るときついな。
このまま動くわけないよね。
終わったことだし、地下室に行こう。
地下室の扉に向かっていると、後ろからまたゴリッと音が鳴り、振り向く。
「いやー、驚いたよ。君って人間なの?」
こっちが聞きたい。
旅人は首が戻っていて、剣を持って笑みを浮かべている。
正直、気持ち悪いと思った。
化け物よりも化け物じゃないかな。
「マジか」
「運がよかった。一回だけ使える蘇生魔法があって」
魔法って詠唱するものとしなくていいのがあるのかな。
にしても、蘇生魔法とかチートじゃないか。
「だるいよ。さっき死んどけば楽だったのに。なんで生き返るのさ」
「それは生きたいからだよ。それ以外に理由はある?」
ありそうだけど、思いつかない。
旅人は剣を構えて、さっきよりも速く距離を詰めてくる。
やっべ。間に合うかな。
胴体を守るように両腕をクロスして後ろに跳ぶ。
右腕を微かに斬られる。
「いっで!」
痛いけど、血液操作で武器が作れるようになった。
でも、脆いんだよな。
それにどんな武器で戦えばいいんだ。
剣だと血を大量に使うから無理だから、ナイフかな。
ナイフの戦闘での使用方法は目潰しぐらいしか思いつかない。
でも、ナイフ作るのに時間かかるし、同時に身体強化できないんだよな。
思考が上手く回らない。
「さっきみたいに反撃しないの?」
「いっ!?」
だんだんと余裕がなくなってきた。
避けても斬り傷がつく。
一旦、距離を取るために脚に力を集中させて跳ぶ。
傷から血が出てくる。
(この量なら早く作れるかも)
腕に多くの傷があり、血を右手に流すように操作する。
だんだんと血が溜まっていき、ナイフを作る。
傷は治っていき、傷口がなくなる。
「自分の血を武器に……傷は治っていく……不思議な体質だね」
旅人は感心するように言う。
治っても痛みはあるけどね。
「首を斬ったらどうなるかな!」
距離を詰めてくる。
待っててくれて助かった。
脚に力を入れて、こっちも距離を詰める。
旅人の剣を振る腕を掴み、旅人の左目にナイフを突き刺す。
「あっ!だあああああ!」
腕を離して、後ろに跳んで距離を取る。
旅人は剣を落として、両膝をついて左目に突き刺さっているナイフを引き抜こうとしている。
見ないほうが幸せなことってこのことなのかも。
めっちゃ痛そう。
「あああっ!いあああっ!……はあ……はあ……」
痛みに悶えながらナイフを引き抜いた。
左目から血が出て、体が思うように動かないのか立とうとしても立てない様子。
しかし、左目を押さえて、こっちに手を翳す。
その状態でも魔法使えるのかよ。
「慈悲など……いらぬ、灰にせよ……グノケート!」
声から殺意が伝わるのを感じる。
炎の玉が放たれるが、右横を通過していく。
標準が中々合わないらしい。
「終わりにするか」
今度は蹴りにする。
近づいてくると分かった旅人は剣を取るが遅い。
思いっきり飛び、空中で一回転して旅人の背後に着地して、右脚に力を入れて頭部に回し蹴りをする。
「だあっ!」
旅人の頭は飛んでいくのではなく、スイカ割りのように砕けて倒れる。
旅人の首から血が噴水のように流れて出て、返り血を浴びてしまう。
「きったね!……最悪だ」
服にも顔にも血がかかっている。
少し離れて、死体の状態を見る。
これでまた動いたら、怖いんだけど動きそうにない。
「死体はどうしようかな。えーっと……」
魔物に食べさせようにもいないんだよな。
それ以外にあるかな。
「じゃなくて、今は生存者に会わないとね」
でも、血まみれの姿で初めましては嫌だな。
汚いし、臭いしで相手も嫌がるだろうし。
川があったら水で洗いたな。
少し歩いてみよう。
「ほんっとボロボロだな。これからどうやって生きていけばいいんだ?」
住めそうな家は無いし、畑もダメになってる。
野宿は嫌だな。虫は苦手だもん。
あ、自分の体質のこと忘れてた。
聴覚を鋭くして、水が流れている場所を探そう。
「あっちか」
水の流れる音が聞こえるほうへ向かう。
すると、川があった。
「よかったー……冷たっ」
水を顔や腕などにかける。
中々血が落ちない。
時間がかかりそうだな。
「服は無理っぽい。洗剤があったらいいけど無いもんな」
とりあえず顔とかは洗えたけど、服はダメだ。
脱いで会うとか絶対に嫌だよ。
ただの変態じゃん。
「リュックの中に入ってるわけないか。仕方ない。生存者には悪いけど、この状態で会うことにしよう」
扉の前に着いてノックをする。
いきなり襲われないことを祈りながら。




