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人生迷走者  作者: 相川悠介
第一章
6/13

1ー6 「クナリ村の最期」

 誰かに肩を叩かれる。


「クロス、起きろ」


 うーん、眠いけど起きるか。

 ゆっくりと目を開け、椅子から立ち上がり、背伸びをする。


「うーん……おはよう」


「よく眠れたようだな。……早速だが、計画を実行する」


 朝早くから動くのって苦手なんだけど、今からやることが村の滅亡だからな。


「こっそり忍び込んで壊すの?」


「いや、村長に『水晶玉にクロスの血を流す』と嘘をついて、水晶玉を出させて、そこで俺がお前の血を使って壊す。騒ぎ出したらここから出て、シェイハ村に行け」


「分かった」


 分かったけど、シェイハ村ってどこだろう。

 聞くの面倒だし、森林に入らないで適当に走ってたら着くでしょ。


「あとこれを持っていけ」


 メモ帳と何かが入ったリュックを渡された。


「この中は?」


「食料や金が入ってる」


 メモ帳はズボンのポケットに入れて、リュックを背負う。


「逝ってくる」


「逝ってらっしゃい」


 最後の挨拶を交わし、父さんは血が入った注射器を持って、研究室から出ていく。

 特に思い出とかないし、悲しくならないな。


「しばらく暇になるし、メモ帳でも見るか。父さん、記録してるだろうし、この世界の魔物について知れる」


     ◇


 ケイルは、白衣のポケットに注射器を入れて、今の村長の場所へ向かう。

 歩いていると、村の人に話しかけられる。


「ケイルさん、クロスは見つかったんですか?」


「まだ見つかっていない。森林に入ってしまった可能性が高い」


「やはりそうですよね。皆、心配しています」


 会話をしていると、心に傷ができる。


「村長に薬を渡したいんだが、どこにいるか分かるか?」


「家にいると思います」


「分かった。感謝する」


 早歩きで村長の家へ向かう。

 話しかけられるたびに計画の失敗の可能性が高くなる。

 自分の決意が弱いという証だ。


「ケイル!クロスは見つかった?」


 スノムの声に立ち止まり、ケイルの心にひびが入る。

 妻をこれから殺すということに迷いが生じる。


「見つからない。俺も探したんだがな」


「そうなのね……」


 スノムにも罪があり、シェイハ村の人たちを殺した。

 そのことを本人から言われてないが、知っている。


「俺は村長の家に用がある」


「分かったわ。家で料理を作って待ってる」


 家に戻っていくスノムを見て、手を強く握り締め、迷いを消す。


(俺は守らないといけないんだ)


 クロスとシェイハ村にいる少女を考えて歩く。


 •クロス……転生者。血液操作という能力があることに驚いた。


 •シェイハ村の少女……シェイハ村のたった一人の生存者。ダーウィンという神様を信仰している。


 歩いていると村長が自分の家の掃除をしている。

 村長はケイルに気づくと笑みを浮かべる。


「ケイルさん、何用ですか?」


「……水晶玉にクロスの血を流したいんだ」


 少し躊躇った。


「そうでしたか。では、お入りください」


「……」


 村長の家に入る。


「今、持ってきます」


「……ああ」


 村長が持ってくる間に注射器を自分の左腕にクロスの血を迷うことなく流す。


「がはっ!」


 立つことすら難しくなり、片膝をついて吐血する。

 脳が、心臓が壊れそうな痛みがケイルを襲う。


「がぼっ……」


 吐血は止まらなく、大量の血が床を赤く染めていく。


「ケイルさん!何が……ケイルさん!」


 村長が水晶玉を持ってケイルに近づく。

 ケイルの体からバキッと音がする。


「があああっ!うあああああああ!」


 もはや人間ではない何かになろうとしているケイル。

 全身が巨大化し、背中から巨大な2本の腕が出てきて、肌色は赤く染まる。

 村長の家は崩壊する。


「ケイル……さん?」


 水晶玉をしっかりと持ち、後ずさる村長。

 ケイル――否、化け物の真っ赤な視線は水晶玉を捉えている。


「これが狙いか!」


「シイイィハアアアアアアアア!」


「身体強化!」


 村長は水晶玉を持って、化け物の股の間を素早く通り抜けて逃げる。

 村の人たちは、化け物を見て戦慄している。


「な……んだよ?あれ……」


「はは……意味わかんねえ……」


 村長はそんな村の人たちに大声をあげる。


「皆!武器を持て!あの化け物を倒すぞ!」


 村長の言葉に迷う村の人たち。


「村長……あれはなんですか?あなたの家から――」


「ケイルさんだ」


「なっ!どうしてあんな化け物に?」


「クロスの血を自分に流したんだろう。そして、狙いはこの水晶玉だ」


 それを聞いた村の人たちは剣や弓などを取り、化け物の前に立つ。


「村長!あなたはそれを持って逃げてく――」


 化け物の手が男を潰す。

 村長は青ざめながら走っていく。


「は、はや――」


 武器を持っても攻撃しないと死ぬ。

 震えて攻撃できない。


「シイイィハアアアアアアアア!」


 化け物の拳が村の人たちの命を消す。

 さっきまでいた村の人たちは家に吹き飛ばされたり、潰されたりしていた。


「うあああああ!」


「やだやだ!死にたくない!」


 化け物を見て、逃げる村の人がいる。

 その抵抗は無駄なもので化け物に殺される。

 家を破壊し、村の人たちを殺し、水晶玉を壊すまでそれを繰り返す。


「シイイィハアアアアアアアア!」


 咆哮をあげ、隠れている村長を見つける化け物。

 村長は岩陰に隠れている。


「ケイルさん……なぜなんだ……」


 岩陰から化け物の様子を見る。

 化け物の近くの家には子どもたちが隠れている。


「お前が戦えよ!」


「はあっ!?なんでだよ!」


 剣を押し付け合っている。


「じゃあ、私が戦ってくるから。皆、ここに隠れてて」


 少女が剣を持って、家から出ると、家は化け物の拳で潰されて、子どもたちの体の一部が村長の横を通り過ぎていく。


「ひどい!なんてことを……」


 少女が村長がいる岩陰に走ってくる。


「村長、すみませんね」


「え?な、何を……うぐっ!」


 少女は村長の顔を蹴り、村長は持っていた水晶玉を落とす。

 少女は剣を落として、水晶玉を化け物に向けて投げる。


「ほいっ!」


「何をしているんだ!」


 化け物は水晶玉に気づき、水晶玉に拳を強く打つ。

 すると、水晶玉は砕けて村長は倒れ、まだ生き残っていた村の人たちも倒れる。


「シイイィ……」


 そして、化け物も苦しみから解放されたかのように倒れる。


「さてと……」


 ()()は剣を拾って、一人の少年が走っていった場所へ向かう。


     ◇


 空間にひびが入る。


「ケイル、クロス……感謝する」


 村長は、偽のクナリ村が崩壊していくのを見て、目を閉じて倒れる。


 ――クナリ村は滅亡した。


     ◇


 化け物――父さんの咆哮が弱くなっていくのと同時にクナリ村の全員の心臓の鼓動音が停止した。

 人間の第五感の一つである、聴覚を鋭くすることで確認することができた。

 魔物の血のおかげだ。

 メモ帳を見ているときに、いつ出てもいいように聴覚を鋭くしていた。

 しかし、欠点があり、聞こえてくる音が多すぎて、脳を壊そうとしてくる。

 調整が難しかった。


「クナリ村は滅亡したか」

 

 そして俺はひたすら走っている。

 リュックの重みは感じず、汗一つかくこともない。

 メモ帳にシェイハ村までの道が書かれていた。


「早くしないと……なんか来てるな」


 自分の心臓の鼓動音ではなく、誰かの鼓動音が後ろから聞こえる。

 一つだけだが、嫌な予感がする。


「とにかく、脚力を高めるか。自分の体を上書きするように……」


 さらに速く走るために、力を脚に集中させて加速する。

 思った以上に速く、自分でもびっくり。


「あともう少しかな」


 走っていくと見慣れない場所に着いた。

 建物は全て崩壊していて、畑も荒されていて、廃墟だと思った。

 走る速度を少しずつ遅くしていき、聴覚を鋭くする。

 鼓動音が聞こえてくる。


「……ここ?」


 歩いていき、一つの扉の向こう側から聞こえてくる。

 リュックを下ろして、ノックしようとしたが、後ろから来る人をどうにかしないといけないらしい。


「血液操作で勝てるかな……不安だ」 

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