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人生迷走者  作者: 相川悠介
第一章
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1ー5 「被検体」

 やっと家に帰れると思った。

 でも、扉の先は家じゃなかった。


 薬草らしき植物や木の実らしき物がある。

 試験管、フラスコ、ビーカーとかの実験器具があるし、何かの実験室かな。


「実験室……父さんのかな。薬剤師だったっけ。薬作ってるんだよな。これは?」


 机に置いてあるメモ帳を持った瞬間、ガチャと鍵が開く音がして、扉が開き、父さんが入ってきた。


「クロス!?なぜここに?というか、鍵はかけてあったはずなのにどうやって入った?」


 父さんが説明を求めている。

 さーてと、どうしよう。俺って説明が下手なんだよな。

 まあやるだけやってみるか。


「まず、森林に入って、偽のクナリ村に迷い込んで、村長に会って――」


「村長に会ったのか!?」


 強く両肩を掴まれる。


「う、うん。それで父さんとクナリ村を滅亡しろって言われて」


「……そうか。そこまで話したのか」


 父さんは肩から手を離して、顎に手を当てて考え込む。


「あの、俺、起きてからまだ1日も経ってなくて、何がなんだか分からないんだ。情報量が多すぎる」


「……それを読んだか?」


 話聞いてない感じかな。


「読んでない。開いたとしても目覚めたばかりで文字は読めないんだ」


「……いや、そうとは思えない」


 なんで信じてくれないんだ。

 クナリ村の人たちっておかしな人ばかりだな。


「疑問に思うことがたくさんある。生まれてから10年も寝ていたのに、なぜ喋れるのか。なぜ歩けるのか。クロス、お前は何者だ?」


 それで信じていないということか。

 なるほど。

 んで、何者って質問をどう返すべきだが、普通に言っちゃうか。


「転生者」


「……」


 黙り込んじゃった。

 めっちゃ気まずいんですけど。


「……では質問だ。前世は人間だったか?」


「うん。名前は金木 巧。19歳」


「死因はなんだ?」


「病気」


「病気の名前は?」


「てんかん」


「……」


 父さんは再び黙り込む。

 俺が言ったことは全て事実。

 さあ、どう判断するのか。


「……転生者というのは本当らしいな」


 おお、信じてくれたか。


「19ということは、それなりの知識はあるのか。それなら、計画は早く進みそうだな」


 それはいいけど気になることがある。


「父さんはなんでクナリ村を滅亡しようって考えたの?」


「それは……自分でも分かってないんだ。クナリ村が嫌なのかもな。殺人者たちがいる場所なんていたくない」


 まあ気持ちは分かる。

 物騒な村だよ。


「先に謝ったほうがいいな。クロス、すまない」


 父さんは頭を下げた。


「なんで謝るの?」


「お前に魔物の血を流した」


     ◇


 この世界に生まれたばかりのクロスは一度も産声をあげることなく、静かに寝息を立てていた。

 そのことにスノムとケイルは焦りを感じていた。


「この子は生きているの?」


「……ああ、体に変わったところはないが、どうなっているんだ?」


 赤ん坊が産声をあげないなど聞いたことがない。


「目覚めるのを待つしかないな」


「そうね……」


 スノムはクロスの様子を見て何かあったらケイルに報告する。

 ケイルは仕事で忙しく、クロスの状態をあまり見ることがなかった。


 時が経つと同時にクロスの体は成長していく。

 何も食べず、何も飲まずに。

 排尿もせず、排便もせずに。


 スノムは何事もなく成長していっているクロスに安心しているが、ケイルは不気味に感じてしまった。


「クロスはなぜ起きない」


 本当に人間なのだろうかと疑う。

 

「今は仕事を」


 冒険者に薬草採取の依頼を頼む。


「今は仕事を」


 冒険者が「何かに使えるんじゃないか」と魔物の血が入った瓶を渡してきた。


「今は仕事を……」


 クナリ村の村長とケイル以外、シェイハ村の人たちを殺してしまったらしく、生存者を探すためにリュックの中に食料を入れて、一人でバレないようにシェイハ村に行く。

 村長も来て、たった一人の生存者を見つけた。

 少女に生きてほしいと願い、食料を渡す。


「……ケイル、クナリ村を滅亡するのにお前は賛成するか?」


 村長の問いに迷いなく頷く。

 疲れているのか自分でも分からずに頷いた。


「しかし、条件があります」


「なんだ?」


「クロスだけは生き残るようにさせてください。あいつは、まだこの世界を見ていない。それに、クロスがクナリ村を滅亡させる鍵ですので」


 なぜか謎の考えを口にした。


 夜、ケイルは注射器で魔物の血が入っている瓶から血を採取して、クロスの右腕に注射器で魔物の血を入れる。


「……はっ!俺は?……まさか、そんな……」


 若干血が残っている注射器を見た後、クロスを見て青ざめる。

 魔が差して、自分の子どもに魔物の血を流してしまった。


「俺は……俺は……」


 取り返しのつかないことをしてしまった。

 決して許されることではない。


「……傷がない」


 気づいたことがある。

 クロスは注射器を打っても何も感じることなく、静かに寝ている。

 採血や注射を打った後は血が必ず出るのだが、治りが早いのか傷がない。


「血の影響?……いや、そんなはずは……」


 そして、二度と戻れないところへ踏み込んでしまった。

 それは、いろんな魔物の血をクロスに入れること。


「これで起きてくれるならば、冒険者に依頼を!」


 それから、冒険者に薬草採取のおまけとして魔物の血を持ってくるようにしてもらい、誰にもバレないように1日1回クロスに魔物の血を入れる。


「これもダメか……次が楽しみだ」


 楽しくなってしまった。

 クロスの目覚めよりも人間が魔物の血を取り込んだらどうなるのか。

 もしかしたら、最強の存在になるのではないか。


 何回も何回も何回も何回も、とクロスの体に魔物の血を入れ続ける。


 そして、10年が経過してクロスが目覚めた。

 喋ることも行動も可能になっている。

 魔物の血の影響なのか、それとも別の何か。

 とにかく起きてくれてよかったと安心する。


 研究室に戻って薬を作る。

 クロスが起きたのならば、魔物の血はもう必要ない。

 だが、念のために残しておくことにした。


「薬の調合をしなければ……」


 作業に戻るとガチャと扉が開く。


「失礼する。お前がケイルだな」


 一人の男性が入ってきた。


「誰だ!鍵はかけたはずだが……」


「俺は『魔王』様の幹部の一人。お前に届ける物がある」


 急に『魔王』の幹部が来るとは思わなかった。

 警戒しながら、『魔王』の幹部に渡された紙を見る。


「……これは?」


「村長からの計画書だ」


「なぜお前が?」


「村長に頼まれたんだ」


「……そうか」


「では、これで失礼する」


 何か仕掛けてくると思ったが、『魔王』の幹部は転移魔法でどこかへ去っていった。


「村長はなぜ『魔王』の幹部と……これは厳しいが不可能ではないな」


 計画書を見て眉を顰める。

 クロスが目覚めた今、計画の成功率は高くなった。


     ◇


 俺の体に魔物の血。

 うーん、これって血液操作に影響するのかな。


「最高じゃん。ありがとう」


「え?」


 父さんは頭を上げて間の抜けた声を出す。


「いやー、感謝感謝」


「なぜ喜ぶんだ?魔物の血だぞ」


「それでいいんだよ。あのとき、走っても疲れなかったのは血のおかげかもしれないし」


「待て。詳しく頼む。何メートルぐらいだ?」


 俺からメモ帳を取り、ズボンからペンを取り出す。


「約50メートルで汗一つかいてなかった。なんなら、速く走れた気がした」


 メモ帳に書いていく父さん。


「なるほど……やはり血の影響か?」


「どんな魔物の血を流したの?」


 そういえば、魔物ってどんなのだろう。

 やっぱりゴブリンとか、オークかな。


「結構な種類の魔物の血を流した。10は超えている。100まではいってない」


 それぐらいで抑えられてよかった。

 100以上だったら大変だよ。


「え、そんなに?例えば?」


「リベータという魔物。特徴は移動速度が速い。姿は狼に近い」


「それの血の影響で足が速くなったのかな」


「そうかもしれない。他にもある」


 メモ帳を渡されてページを開く。

 文字は読める。よかった。


「ダイラ……腕力が高く、盾で守っても吹き飛ばされる」


 多分だけど、ゴリラかな。

 その他にもたくさんあり、結論から言うと強い。

 使いこなすことができればね。


「よく集められたね」


「それは冒険者に依頼したからな」


「そっか……父さん試したいことがあるんだ。いらない物ってある?できれば硬い物」


「あるが……何をするんだ?」


 錆びた鉄を渡された。

 それを強く握るとバキッと音が鳴り、割れた。


「これは……想像以上だ」


 父さんは鉄の破片を拾って呟く。

 俺より父さんのほうが喜んでいる。


 あともう一つ試すこと。

 鉄の破片で自分の手のひらを軽く切る。

 ヒリヒリして痛い。

 傷口から血が出てくる。


「クロス、何を……」


「ちょっとね、できるかな」


 痛みを堪えて今日使ったナイフの形を思い出し、それを再現するように血液を操作する。

 血液は少しずつナイフの形に変わっていく。


「それは……血液操作か?」


「正解」


 赤色のナイフを父さんに渡す。


「すごいな。だが……」


 父さんは少し力を入れると赤いナイフは砕ける。

 普通のナイフと違って脆い。


「使うの初めてだったからかもだけど、脆いんだよ。それに、使いすぎると貧血になる」


「欠点はあるが、興味深い能力だ」


 意外と難しかったが、血液操作ができるという確認ができてよかった。


「さて、クナリ村の滅亡計画だが、簡単なことだ」


 村を滅亡するのって簡単なんだ。


「何をすればいいの?」


「村長の家にある水晶玉を壊す。それだけだ」


 簡単すぎじゃないか。


「水晶玉?」


「その水晶玉には、お前以外のクナリ村の人の命がある」


「待ってよ。じゃあ、父さんも……」


 父さんは椅子に座って項垂れる。


「ああ、お前の考えている通りだ。それより、どうやって壊すかだが、お前の血を俺の体に入れる。おそらくだが、人間ではない何かになる」


「……化け物になる覚悟はあるの?」


「もちろんだ」


 父さんは立ち上がり、注射器を持って俺の右腕から採血する。

 少し痛いが我慢する。

 採血が終わり、注射器を抜くと、血が出るはずだが、傷が早く治っていく。

 再生能力かな。


「明日、計画を実行する。それでいいか?」


「いいよ」

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