1ー4 「村長」
帰り道。
あの集団の子どもがいるか探しながら歩いているが、やはりいない。
それに、今歩いているが村の人たちもいない。
どうなってんだ。
「ただいま」
家の中に入ると誰もいない。
困ったな。
もしかして、俺の目覚めに祝福をするためのサプライズパーティーの準備でもしてるのかな。
「サプライズパーティーの可能性はないな。10年の眠りから目覚めたってだけだもん」
自分の考えを否定する。
いつからかは分からないが、自分の考えたことをすぐに否定するようになった。
悪い癖だと分かっていても改善しようとしない、怠惰な性格だ。
「外はまだ明るいし、探索でもしよう」
家から出て、静かな村を一人だけで歩く。
俺以外の生命体がいない気がする。
転生して1日目で孤独死なんて嫌だな。
一人になるのは安心感を感じるが、このまま永遠に一人というのは絶望感を感じる。
「あれをやるしかない」
人生の中でできるだけやりたくないことの一つ。
大声を出す。
陰キャには難しいことだと勝手に考えている。
まあ、陰キャ友達が好きなアイドルのライブで応援していたり、オンラインゲームで負けて煽られて台パンして大声をあげることがあった。
近くにいた俺の気持ちを考えてほしかった。
よーし、やるぞ。
「誰かー!いませんかー!」
久しぶりに大声を出した。
これで反応がなかったら終わりだ。
「近くでそんな大声を出すな。小僧」
「うわっと!」
後ろを振り向くと、白く染まった髪の男性がいた。
手には杖を握っている。
「すみませんので殺さないでくれませんか」
「殺しはしない」
殺し「は」しないということは――
「殴らないでください」
「殴りもしない。……はあ、面倒な者だな」
男性は、ため息をする。
表情を見ると怒っているのではなく、呆れていた。
「小僧、なぜここに来た」
質問の意味がよく分からない。
「この村の人ですけど」
この回答で合っているかは分からない。
マジで意味が分からない。
「……まさか。お主の名前は?」
男性には何か分かったのだろうが、俺には分からない。
とにかく名乗っておこう。
「クロス•マイマイ」
男性は目を丸くする。
なんだこの人。
「……クロス、そうか。お主がクロスか。無事目覚めたようだな」
10年寝ていたことを知っているということは、絶対に村の人だ。
そして、勝手に話を進めないでほしい。
「一応聞きますけど、この村の人ですよね?」
「ああ、自己紹介がまだだったな。この村の村長だ。名前は……言わないでおこう。お主とはこれで最初で最後だからな」
情報量が多い。
この人が村長?これで最初で最後?
「お主は迷い込んでしまったんだ。この村は偽のクナリ村でお主がいたクナリ村とは違う。『魔王』の幹部が創ってくれたんだ」
出身村の名前はクナリ。
かくれんぼをする前と同じ景色だ。
それより迷い込んだってやばいな。
それに『魔王』の幹部?
焦っている俺をよそに村長は畑を見ながら淡々と話し続ける。
「ワシとケイルはクナリ村を滅ぼすための計画を立てている。奴らの愚かな行為は万死に値するからな。そして、生き残っているシェイハ村の者を守るために」
自分が住んでいる村を滅ぼす?
話が追いつかない。
止めようとしたが、話を最後まで聞くことにした。
質問は終わってからでもできるから。
「クナリ村の者たちは、シェイハ村の者たちの存在を嫌っていた。シェイハ村の者たちはダーウィンという神様の信者であり、毎日クナリ村に来ては宗教の勧誘をしていた」
ダーウィンさんの信者?
「クナリ村の者たちは断るも毎日勧誘に来るシェイハ村の者たちに腹を立て、シェイハ村を襲撃して信者たちを殺し、その村にあった食料や金品などを盗んで来た」
ひどい話だ。
たしかに毎日勧誘しに来るのは嫌だが、殺すことはないだろう。
「その報告を受け、ワシは一人でシェイハ村に生存者がいるか確認しに行った。村に着いたときにはケイルがいた。あいつも考えていることは同じで共に生存者を探した」
生存者を探したとしても復讐のためにクナリ村に来るんじゃないかな。
「生存者はたった一人。崩壊していた家を調べていたら、地下室に繋がる扉があった。開けようとした瞬間、突然扉が開き、斧を持った少女が出てきた。その少女はワシらを見て斧を地面に落として殺すという選択肢を破壊した。人を殺さないと神様に誓ったらしい」
「……」
「ワシとケイルは、食料を定期的に持ってくることにして、少女には、しばらくの間、地下室にいるように頼んだ。またシェイハ村に来る者がいるかもしれないからな。少女は頷き、今も地下室にいる」
「……」
村長は「はあ」と息を吐く。
そして、杖を家に向ける。
その家は、マイマイ家。
「クロス、ワシのことは気にするな。それと計画についてだが、ケイルとお主の二人だけで実行しろ。ワシにできることはない。クナリ村を滅亡させて、少女の命を守れ」
「……分かりました。必ず滅亡させます。では」
これからすることの難易度は、高いどころではないぐらいやばい。
でも、託されたからにはやらないとね。
決意を固めて家の扉を開ける。
◇
クロスが家の中に入って扉を閉じるのを確認して、村長は自分の家に向かう。
時が経っても変わらない青空。
腐らない野菜や果物。
「ワシの最期がこの村とはな」
自分の家に入り、椅子に座って杖を見る。
「父さん……ワシのしていることは正しいですか?」
◇
村長。
先代の村長の子として生まれた。
先代は、村の人たちに毎日挨拶をしていた。
家の建設を手伝ったり、悩みごとの相談相手をしていて、村の人たちからの信頼度は高かった。
「父さんは自分の人生に満足していますか?」
「この村が平和であればそれで満足だ」
先代の返答に幼い村長は憧れた。
誰よりも賢く、誰よりも強くなるとそう決意した。
「父さんのような村長になれるように頑張ります」
その言葉に先代は笑い、頭を撫でた。
「ははっ!期待しているぞ」
徹夜するまでの勉強に、自分の体の限界を超えるまでのトレーニング。
ただ一人、友達という存在を作らずそうしてきた。
ある日のこと。
先代が一人の男性を家に連れてきた。
村長は邪魔にならないように自分の部屋で勉強をすることにした。
2時間後、村長は水を飲もうと部屋から出ると会話が聞こえてきた。
「契約しよう」
「魔族をここに住まわせることに感謝する」
この村に魔族を住まわせることは、村の掟で禁じられている。
魔族は、人間の脅威だ。
村長はその会話の内容を村の人たちに知らせた。
すると、村の人たちは武器を持って家から出てきた先代と男性を襲う。
「あなたはこの村に不要な存在だ!」
「信じていたのに!」
村長も許せなかった。
尊敬していた人が魔族をこの村に住まわせるような人だったとは失望した。
剣を持って先代に向かって走る。
男性は転移魔法で逃げた。
先代は逃げることなく、村長に腹を剣で突き刺された。
「お前の……行いは、正しい。……村の……ことは、任せた……」
先代は倒れて死んでいるが、村の人たちからの暴力で死体はボロボロになった。
「俺は……正しいことをした」
先代はいなくなり、村長はクナリ村の村長となった。
村の掟で、クナリ村の村長の血が流れている者が村長となるとされている。
あの日から1年が経ち、先代を殺した人として村の人たちからの信頼度は先代より高くなっていた。
そして、魔族がいないということは、契約はなかったことになったということ。
この村に問題はないと思ったがそんなことはなかった。
•マイマイ家の赤ん坊が目を覚さない。死んではいないが、いつ目覚めるかは不明。
•シェイハ村の人たちが毎日のように宗教の勧誘。それに腹を立てた村の人たちがシェイハ村を襲撃した。
村長はたくさんの問題に頭を抱える。
マイマイ家の赤ん坊の件は、その赤ん坊の父にあたるケイルがなんとかしてくれるから少し楽になる。
クナリ村とシェイハ村は交流は一回だけだ。
だが急にシェイハ村の人たちが来るとは思いもしなかった。
それもダーウィンという神様を崇拝する宗教の勧誘だ。
一番の問題は、村の掟を村長とケイル以外が破ってしまったことだ。
クナリ村の人以外の人を殺してはいけない。
その掟を破ったということは、クナリ村を滅亡させるということ、つまりクナリ村の全員の命がなくなる。
それを実行するかは村長が決めることだ。
「……とにかくシェイハ村に生存者がいるか探すか」
生存者の確認が必要だ。
シェイハ村に着くと、リュックを背負ったケイルがいた。
「ケイル!」
「村長。あなたも生存者を?」
「ああ、だが……」
「いたとしても殺しはしない」
考えていることは一緒だった。
早速、生存者を探し始める二人。
村の建物は崩壊していて、廃墟となっている。
「村長、来てください」
「これは扉?」
村長が扉を開けようとすると、扉が開き、斧を持った一人の少女が出てきた。
少女は村長とケイルを見ると斧を落として俯く。
「……ワタシは人を殺すことはできません。そうダーウィン様に誓ったのですから」
ケイルは屈んでリュックから食料を取り出して少女に渡した。
「今日はこれを食べて生きてくれ。食料は定期的に持ってくるようにする。だから、そこに隠れていてくれ」
少女は戸惑いながらも頷く。
「……ケイル、クナリ村を滅亡するのにお前は賛成するか?」
村長は躊躇いながらもケイルに聞く。
ケイルは迷いなく頷いた。
「しかし、条件があります」
「なんだ?」
「クロスだけは生き残るようにさせてください。あいつは、まだこの世界を見ていない。それに、クロスがクナリ村を滅亡させる鍵ですので」
村長の家に水晶玉があり、それに血を流すと命を預けているということになる。
クロス以外は血を流しているため、水晶玉を壊せば、クロス以外のクナリ村の全員は死ぬ。
「分かったが、なぜクロスが鍵に?」
「……とにかくよろしくお願いします」
謎の間に怪しさを感じたが、聞くのはやめにした。
「少女よ。生存者はお主だけか?」
「はい」
「分かった。では、しっかり隠れておくのだぞ」
「分かりました。ありがとうございます」
村長とケイルはシェイハ村を後にする。
◇
夜、村長がクナリ村の滅亡の計画書をケイルに渡そうと家の扉を開けると目の前に一人の男性がいた。
「何かな……お前は!?」
あの日の男性だった。
拳を強く握り締めて殴ろうとしたが、騒ぎは起こしたくないと思い、代わりに睨むことにした。
「少し話がある」
「なんだ?内容によっては……」
「先代の村長との会話だ」
「……入れ」
向かい合うように椅子に座る。
「先代とは何度も会って契約について話していた」
「なぜこの村に魔族を住まわせる?他にもあるだろう」
「それは――」
男性の発言に村長は驚愕した。
発言内容。
•『勇者』候補の人間が冒険者パーティーを作り、魔族や魔物を虐殺している。
•『魔王』は戦う気はなく、話し合いで解決しようという提案をしたが、それを受け入れなかった。
•冒険者パーティーを消したが、『魔王』はまた同じようなことが起きると思い、魔族を受け入れてくれる場所を探すように幹部たちに頼んだ。
村長は目の前にいる男性――『魔王』の幹部の発言に嘘ではないと思った。
「……また明日、来てくれ」
「分かった」
『魔王』の幹部は家から出ていき、村長は頭を抱える。
「ワシは……父さん、すみません……」
翌日。
朝早くに『魔王』の幹部に条件を出した。
•クナリ村と同じ村を創ること。
•クナリ村が滅亡したら好きに使っていい。
•計画書をケイルに渡すこと。
『魔王』の幹部は頷き、杖を生成して村長に渡した。
「その杖をどこかの地面に叩けば、この村と同じ村を創ることができる。その村に入れる仕組みはそっちに任せる。だが、この村が滅亡するとその創った村も滅亡して、お前の命がなくなる」
「構わない。それと助かった」
なぜ偽のクナリ村を創るのか。
それは村の人たちが死んでいくのを見たくないからだ。
村長は自分は臆病者で村長失格だと思う。
『魔王』の幹部は計画書を持って転移魔法でケイルのいる場所へ向かった。
ケイルの実験室を教えておいた。
あとは、クナリ村の村長を決める。
村長は村の人たちを自分の家の前に招集した。
「ワシはこの村を離れる」
いきなりのことに村の人たちはざわめく。
それを無視して村の人たちを見る。
「そこで、村長を決める。ここの村長はお主にする」
適当に男性に決めた。
「なぜ俺を!?」
「それと、森林にはあまり近づくな。ここに戻れなくなるからな。さらば!」
村長は全力で森林まで走り、杖を地面に叩く。
(これでいい)
杖が光を放ち、目を瞑り、ゆっくりと目を開けると自分以外いないクナリ村にいた。
◇
村長は杖を見て、ここにはいない人に問いかける。
しかし、何も起こらない。
そして願う。
クナリ村の滅亡を。




