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人生迷走者  作者: 相川悠介
第三章
35/39

3ー6 「遠征からの帰還」

 ソファに座って紅茶を飲む。

 家で飲む紅茶は、冒険者協会と違って疲れを取ってくれる。


「暇だな」


 休みといっても何をすればいいのか。

 協会長になってから、休日の過ごし方を忘れてしまった。

 冒険者の頃は、どこで何をしていたのか。

 スクアルドと一緒に依頼を受け、達成した後は屋台で食事、失敗したときは反省会をした気がする。


「どうしたものか」


 背伸びをすると、ポキッ、と体から音がする。

 1日ではなく、しばらくの間は休んだほうがいいかもしれないな。

 冒険者協会の扉には、鍵をかけてある。

 冒険者はいるが、依頼は受けていない。

 遠征している冒険者たちを待っているのだろう。

 もしくは、受付嬢待ちか。


「ルークは、しっかり指導しているだろうか……」


 ルーク。

 『超級』冒険者。

 『初級』から、パーティーは組まずに1人で依頼を受け、一度も失敗したことのない男。

 生まれ持った才能か、血の滲むような努力か。

 どちらかは分からないが、協会長の俺からして、素晴らしいとしか言えない。


 しかし、欠点はある。

 それは、あまり喋らないことだ。

 実力は評価しているが、社交性が足りない。

 他の冒険者たちとの会話はせず、1人で過ごしている。

 周りの冒険者からは、『孤独な戦士』という謎の二つ名で呼ばれている。

 恐れられてないのならいいのだがな。


 遠征で冒険者を鍛えてほしいと頼んだときは、快く引き受けてくれたが、心配だ。

 遠征中の冒険者は『超級』のルーク、『初級』の冒険者が10名いった感じだ。


 『中級』と『上級』には、行かせないようにした。

 ダル絡みが発生するからな。

 ルークは他人にあまり興味がないから、『初級』冒険者がダル絡みされていても黙って無視しているだけだろう。


「ルークの他にも『超級』はいるが、好き勝手に行動しているからな。『超級』になるとすぐに調子に乗る。ルークを見習ってほしいな」


 『超級』になると、自分は他人よりも特別な存在だと思い込んでしまう。

 ルークはまあ大丈夫だ。

 活動記録には、悪い点が無かったからな。


「『研究会』については、カイラムに頼むか」


 『研究会』についての情報はあれだけだ。

 カイラムは情報収集が得意で、金を出してもいい情報を無料で提供してくれる。

 今度、何か奢りでもするか。


「……誰だ?」


 扉を誰かが叩いている。

 せっかくの休暇を邪魔するとは許せないな。

 扉を開けると、息が上がっているスクアルドがいた。

 顔色が悪い。


「どうした?何かあったのか?」


「わりぃな。休みだってのに」


「構わない。それで?」


 スクアルドは深呼吸する。


「……門番の2人が殺られた」


「なんだと……?」


 ルークたちが殺ったわけではないよな?

 そうであってほしい。


「案内してくれ」


     ◇


 ラバウクへ向けて歩いている。

 後ろには『初級』冒険者たちがいる。

 男5人、女5人の10人。


「強くなった気がするぜ!」

「気がする?それじゃ、ダメじゃない?」

「早く依頼受けたいな〜」

「俺も俺も!」


 騒がしいな。

 早く家に帰りたい。


 それにしても、しっかりと『超級』冒険者として指導できたか不安だ。

 遠征先は遺跡だった。

 そこで、二つのパーティーに分けて、魔物を討伐させるという内容だ。

 監視役として、遠くから見ていて、危険と感じたら、俺が対処する。

 もちろん、魔法の使い方や武器の扱い方、戦い方などを教えた。


 最初はみんな、緊張して震えていたが、心が折れることはなかった。

 それだけは高く評価している。

 

 今の『初級』は、前と比べると弱い。

 もしくは、前が強かったのかもしれない。

 どちらにせよ、『初級』でも魔物を倒せるぐらいの実力を身につけてもらわなければならない。

 楽な依頼ばかりで、実力がつかず、魔物と遭遇したときに怖気付いて殺されたということがあったらしい。


 冒険者は、そんな簡単になってはいけないと思うんだがな。

 他の職業が見つからなかったのなら仕方ないが。


 そう考えていると、門が見えてきた。

 あと少しで帰れる。

 しばらくは休もう。

 歩いていると、門の近くには二つの死体があった。


「なになに?死体……?」

「あれって門番の……じゃないか?」

「ええ……?」


 その近くには、スクアルドさんとフィン協会長がいる。


「スクアルドさん!フィン協会長!」


 2人を呼ぶと、こっちに気づいた。


「久しぶりだな、ルーク」


 肩を叩かれる。

 この人なりの挨拶だ。


「遠征ご苦労だったな。みんなはどうだ?」


「前よりかはマシになったかと。……これは誰が?」


「分からない。だが、警戒はしておけ。この街に侵入した可能性がある」


「……分かりました」


 門を通り抜ける。


「こええ……」

「気をつけないと……」

「魔族かな……?」


 『初級』の会話が聞こえる。

 魔族か。

 それはあるかもしれない。

 俺たち人間にとって、最大の敵だ。

 油断してはいけないな。


「みんな、ご苦労。じゃあな」


 手を振り、家に向かう。


「ありがとうございました!」


 『初級』冒険者たちから感謝の言葉をかけられる。

 こういうのも悪くないな。


     ◇


 隣を歩くスクアルドの表情は暗い。

 それほど、あいつらがそれほど大切だったのか。

 あの2人の死体は、別の門番たちが処理をしている。


「スクアルド、人間はいつか死を迎える」


「フィン……?」


「冒険者だった頃、お前に何回も言われた」


「よく覚えてるな……」


 冒険者だった頃、俺たちが洞窟で魔物を討伐をしていたとき、1人の冒険者が助けを求めてきた。

 俺たちは頷き、案内してもらった。


 辿り着くと、3人の冒険者が血を流して倒れていた。

 そこには、魔物――ダイラがいた。

 その頃の俺とスクアルドは、まだ『中級』になったばかりで、ダイラとの戦いが初めてだった。


 怖かった。

 3人の死体を見て、自分もそうなるのか?

 その恐怖を消すように背中を叩かれた。

 スクアルドは恐怖を抱いていなかったようで、1人でダイラを相手にしていた。

 攻撃を紙一重に躱し、ダイラの首を刎ねた。

 そのことに呆然としていた俺を洞窟の外に連れ出して、肩を叩かれた。


『フィン、人間はいつか死を迎える』


 その言葉で冒険者がどれだけ危険な職業なのか改めて理解した。

 冒険者は死を覚悟しての職業だ。

 だからといって、冒険者をやめないほど、俺の心は頑丈だった。


『フィン、人間はいつか死を迎える』


 その言葉を何度もかけられた。

 だから、冒険者を続けられた。


「何年も生きていると、大切な人は先に亡くなっていくことがある。突然病気が発症したり、通り魔に殺されたり……これが初めてではないだろう?」


 スクアルドは目を閉じて、深呼吸をして目を開ける。


「そうだったな。ああ、その通りだな」


「これから飲みに行くか?今日は俺の奢りだ」


「いいのか?」


「金はたくさんある。好きなだけ飲め。相棒」


「よっしゃ!ありがとな。相棒!」


 肩を組まれて、飲食店に向かう。

 元気になってくれてよかった。


 飲食店に入り、カウンター席に座る。


「好きなだけ頼め」


「お言葉に甘えて……酒を二つと串焼き2本」


「おう」


 少なくないか?

 遠慮しているのだろうか。


「もっと頼んでいいんだぞ?」


「一気に頼むと食べきれなくなるからな」


「なるほど」


 テーブルに置かれた酒と串焼き。

 グラスを持って、合わせる。


「「乾杯」」


 お互いに一気飲みをして、グラスをテーブルに置く。

 酒は一気飲みがいいな。

 串焼きを平らげ、スクアルドは酒とステーキを頼む。


「んぐ……たはあ〜」


 酒を飲み、ステーキを食べている。

 俺はさっきので十分だ。

 それに、酒は3杯でダメになるからな。

 スクアルドは酒に強いから大丈夫だろう。


「フィン、本当にありがとな」


「どういたしまして」


 スクアルドが満足するまで、隣で座る。

 相棒だからな。

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