3ー3 「宴前」
宴の時間までここにいても、やることないんだよね。
突然パキッ、と音がする。
音がするほうを見ると、クラックの足元に赤い破片が落ちている。
「壊しちゃった。ごめんなさい……」
俯いて謝ってくる。
別に壊しても問題ないよ。
「いいのいいの」
顔を上げたクラックは笑顔になる。
アルトは、ため息をしている。
「武器を持ってくる。それらを再現してみてくれ。少し興味が湧いた」
貧血になるんだけど、断ったら面倒になるよな。
「ボクも持ってくる〜」
クラックはアルトの後を追って行った。
武器って、訓練場の隅とかに置いてあると思ったけど、そうじゃないのか。
自分の武器が奪われる可能性があるからかな?
「あの的って、物理でも壊せるのか?」
試してみるか。
右手のひらを見ると、傷口はなくなっている。
血は付いてるけどね。
右腕に力を入れる。
「ていっ」
的に拳をぶつけると、バキッ、と音がして的が砕け散った。
へえー、物理でも壊せる。
若干痛いけど。
壊れた的が元通りになっていく。
どんな仕組みか気になる。
蹴りはどうなんだろう?
壊せるかな?
右脚に力を入れる。
「よしょっ」
回し蹴りをすると、的は木っ端微塵。
自分の体が怖くなってくるよ。
的は再び元通りになっていく。
ガタガタ、と音が聞こえる。
アルトが荷台を持って来た。
クラックは荷台に乗っている。
「持って来たぞ」
「やっほー」
荷台には、剣や槍などが置いてある。
あれを全部血で再現するって?
ダルすぎ。
「これを再現してみてくれ」
アルトは鞘から剣を抜き、地面に置く。
ナイフのときよりも血の消費量、多いよな。
「分かった」
右手を強く握り締めて、血を出す。
刀身や柄などをしっかり見て、血を操作する。
少しずつだが、血が剣の形へ変化していく。
「これが血液操作……」
「血が動いてる!」
集中して血を操作すると完成した。
剣の柄を掴み、深くため息をする。
やっべ〜。
めっちゃ疲れた。
「血が剣になった!すごい!」
クラックが強引に赤い剣を取る。
両膝をついて、項垂れる。
「疲れた……」
「次はこれだ」
アルトが槍を地面に置く。
嘘でしょ?
だあー!やってやろうじゃないか!
倒れたら、アルトのせいにすればいいからね!
右手だけじゃ効率が悪い。
左手のひらからも血を出すか。
左手を強く握り締めて、血を出す。
両手を合わせて、少しずつ引き離す。
肩幅ぐらいの長さになり、棒の両端を掴む。
そして、血を流し出して、槍と同じ長さにする。
左の先端を鋭くして、完成。
「ほい」
「次」
アルトに渡すと、今度は斧が置かれた。
そんな風に、休憩なしの血液操作が続いた。
◇
作った鎌をアルトに渡す。
「これで全部。ご苦労だったな」
地面に倒れる。
やっと終わった〜。
どれだけの時間が経過したかは分からないけど、一時間ぐらいは、かかったんじゃないかな。
「試し斬りしていい?」
赤い剣を持ったクラックは笑顔だ。
俺で試すんじゃなくて、的だよね?
「いいよ。壊しても怒らないから安心して」
「ありがとう!わーい!」
ゆっくりと起き上がって、クラックを見る。
起き上がるのに一苦労なぐらい疲れた。
「よーし、ていっ!」
クラックが的に向かって赤い剣を振ると、パキッ、と砕けた。
的には、傷一つ付いてない。
初めて作ったのもそうだけど、脆いな。
「あちゃー、次は斧!」
砕けた剣もどきを放り投げて、赤い斧を持ち、的に向かって走り、振り下ろすが、パキッ、と砕ける。
「脆いね!」
事実だけど、そんな大声で言わなくてもいいじゃないか。
俺の心も砕けそうだよ。
クラックは次々と赤い武器を的に使っている。
槍、鎌、鉤爪、メリケンサックなど。
だが、全部簡単に壊れてしまう。
俺の努力の結晶が儚く散っていく。
「本当に脆いな。戦いに役立つのか?」
容赦ないね。
すっごい冷たい。
「ゴブリンと戦うことがあって、そのときは赤いナイフで倒せた」
「本当か……?」
疑い深いな!
面倒な奴だって思われてない?
項垂れていると、クラックが頭を撫でてきた。
「ごめんね。クロスさん。アルト兄さんは、すぐ疑う性格なんだ。面倒だよね」
「うぐっ!否定できない……!」
服を掴んで、歯ぎしりをしている。
自覚してるんだ。
「あと、全部壊してごめんなさい。せっかく頑張って作ってくれたのに……」
「言ったでしょ。怒らないから安心してって。それと、2人には感謝してるよ」
「何かしたか?」
「いろんな武器を再現させてくれたこと。何かあったときに、作れるようになったからさ。ありがとね」
血液操作の練習を全然してなかったし、武器っていっても、家にはナイフぐらいしかなかったから。
マジで助かった。
「人間に感謝されるとはな」
呆れたように言うアルト。
まだ、関係に壁があるか。
その態度が気に食わなかったのか、クラックは頬を膨らませている。
「素直じゃないんだから。嬉しいくせに」
「嬉しくない!」
「本当はそう思ってるんだよ。クロスさん、安心して」
「分かった」
「分かるな!」
そんなこんなで盛り上がっていると、ジェノさんが来た。
「随分と楽しそうじゃないか」
「ジェノ様!」
「ジェノ様〜」
アルトは片膝をつく。
クラックはジェノさんに抱きつく。
ジェノさんは、クラックの頭を撫でる。
「この武器はどうした?」
「アルトとクラックが、俺の血液操作の練習用に持ってきてくれたんです」
ジェノさんはアルトとクラックが頷いているのを確認して、俺を見る。
「貧血になってないか?」
「なってますね」
呆れた表情を浮かべるジェノさん。
これ以上、血を出したら倒れることが分かる。
「無理をするな。これから宴だというのに」
「準備は終わったんですか?」
「あと少しだ。薪が足りなくてな。アルト、クラック、お前たちの家にある薪を使わせてくれるか?」
「大丈夫です」
「は〜い」
「俺はクロスと話があるからな。2人にしてくれ」
「分かりました」
「了解です〜」
アルトとクラックは、荷台に武器を置き、クラックは荷台に乗り、アルトが荷台を引っ張って行き、訓練場をあとにする。
「話ってなんですか?」
「ここに『魔王』様と他の幹部がくる」
申し訳なさそうな表情で言う。
会いたくないんだけど。
緊張で胃が痛くなるよ。
「なんでですか?」
「宴を開くときは、『魔王』様を誘わなければならないんだ。勝手に宴を開いたら、『魔王』様の機嫌が損ねるからな。最悪の場合、暴走する」
どんな『魔王』だよ。
ガキか?
「『魔王』様は分かりました。でも、幹部は?呼ぶ必要ありますか?」
「『魔王』様を誘う途中に会ってしまってな」
「仕方なく誘ったと?」
ジェノさんは頷く。
帰りたくなってきた。
「他の幹部っていっても、全員じゃないですよね?」
「全員来る」
こんなことになるなら倒れておけばよかった。
「帰っていいですか?俺がいなくても、宴は開けます。それに俺がいるって言ってないでしょう?だから……」
「お前がいることを言った。『魔王』様が会ってみたいとのことだ」
額に手を当てる。
頭が痛くなってきた。
貧血によるものじゃない。
ストレスだ。
「誘いを断っておけばよかった」
「すまない。俺が勝手なことを口にしてしまったばかりに。反省はしている」
「後悔はしていない?」
「よく分かったな」
反省しているだけでも十分かな。
ため息をしながら、ゆっくりと立ち上がる。
「こういうことは、二度としないこと。これを約束してくれれば、許します」
「ああ、約束しよう。安心しろ」
ジェノさんと握手をする。
安心できないんだけど。
俺の中のジェノさんのキャラが崩壊してきてる。
「ジェノ様〜、クロスさん、宴の準備が完了しました」
クラックが訓練場に入ってきて、俺に抱きついてくる。
人に抱きつくのが好きなんだね。
頭を撫でると、「えへへ〜」と笑う。
癒しキャラだ。
どこかのアルトとかいう奴と全然違うな。
「クラック、案内してくれ」
「は〜い」
クラックは俺と手を繋ぐ。
俺たち3人は訓練場をあとにする。




