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人生迷走者  作者: 相川悠介
第ニ章
29/39

2ー16 「それぞれの道の苦労」

 今日も今日とて、仕事だ。

 山積みの書類を見るたびに頭痛がする。


「受付嬢の苦労をよく分かっていなかったな。これほどの量を処理しているとは、俺も見習うべきだな。……給料を少し上げておいたほうがいいかもしれない」


 俺の仕事は協会長室に座り、受付嬢からの書類に目を通し、対策を考え行動することだけだ。

 受付嬢たちの仕事量からすれば、俺の仕事は楽なほうに分類される。


「今日も『疲労回復薬』を大量に持ってきたんだ。昨日よりも減らすぞ」


 溜まっている書類に手を伸ばす。

 受付嬢たちが休暇をとっている間、代わりに書類の処理をしている。


 冒険者たちからのダル絡みに加えて、徹夜で書類の処理は苦痛だろう。

 休憩をしているとき、倒れたということがあったらしく、原因はストレスによるものだったらしい。

 二度とそうならないように対策を考えたが、中々、思いつかなかった。

 協会長として情けないことだ。


 そう思いながら書類を処理していると、ここにある書類とは違うものがあった。


「なんだこれは?『研究会第二部隊の研究記録』?」


 『研究会』?

 それに『研究記録』とはなんだ?

 初めて聞く単語だな。


「『被験体13番と被験体17番の血液をダイラに注入。凶暴化し、研究員2名が圧殺された。残りの研究員3名がダイラを殺害後、血液を採取。被験体13番にその血液を注入。結果、異常なし。被験体17番にも血液を注入。結果、異常なし』……なぜ、こんな物がここに?」


 非人道的な奴らだな。

 被験体が人なのかは分からないが、魔物に血液を注入するとはな。

 それに、その魔物の血液を被験体に注入するとは、何を考えているんだ?

 殺戮兵器でも作る気か?

 そうだったら無視できないことだが。


 冒険者たちの中に『研究会』の者がいるのか、それとも拾ってきただけか。

 そもそも、この『研究会第二部隊の研究記録』というような怪しい物は、直接俺に報告してくるように言ったのだが、忘れてしまったのか?

 疲れていたなら仕方ないが。


「クロスは関係あるのか?……まさかな」


 あいつは自分の体に魔物の血液を自分の父親に注入されたと言っていた。

 その父親が『研究会』の者だったら、クロスは何か『研究会』について知っているのだろうか?


 とにかく、これはあとにしよう。

 今は書類の処理が優先だ。


「こんなにやっても終わる気がしない。……弱音を吐いてはダメだ。少しでも書類を処理しなければ……」


 『疲労回復薬』を飲んで、書類を処理する。


     ◇


 最後の女に手枷を付け終えて、拷問部屋から出る。


「テメェら、女相手だからって手加減するなよ。性的暴力は禁止だ。分かったら心の準備でもしてろ」


「「はい!」」


 返事をしたのは、アランを拷問したときの門番の2人だ。


 報告によるとアランは死んだ。

 死体を見に行ったとき、両目は潰されていて、地面は赤く染まっていて腹から臓物が落ちていた。

 拷問部屋じゃなくて死刑執行部屋に改名したほうがいいと思うがな。

 ここで拷問されて、生きた奴はいなかった。


 『自分が犯してきた罪を数えきれないほどのクズ』と報告書に書かれていた。

 もっと具体的に書いてもらいたかったが、まあいい。


「こいつら、何をしたんですか?」


「クロスの恋人を殺しやがった」


「はあ!?」


「マジか!?」


 2人は驚き、青筋を立てている。


「聞き出すのは、なぜ殺したのか。具体的に聞き出せ。分かったか?」


「「はい!」」


 ヤミネスを殺した3人の女は、それぞれ違う部屋にしておき、拷問は1人でできるようにしておいた。

 俺たちは拷問部屋に入り、拷問を開始する。


 テーブルには、アランのときと同じ拷問器具がある。

 どれを使おうか?


「……どこ?え?何これ……?」


 起きたらしく、今の状況に困惑している。


「目が覚めたか」


「ちょっと!これどういうこと!」


 これからうるさくなるってのに、始まる前からうるさくされるとイライラするんだよな。


「拷問だ。なんでそうなるのか、何か心当たりはないのか?」


「はあ?そんなのあるわけないじゃない。分かったなら早く帰して」


 これじゃあ、ダメだな。

 質問を変えるか。


「人を殺したことはあるか?」


「……何言ってんの?するわけないじゃない」


 動揺したな。

 ナイフを持って女に向ける。


「正直に言ってくれたら、指一本で許してやる」


「だから!してないって言ってるじゃない!証拠でもあるの?」


 証拠か。

 ヤミネスが殺されたってことだけは聞いたな。

 だが、死体は見当たらなかった。


「『結晶化の薬』を知ってるか?」


「し、知らないわよ!」


 声が震えたな。

 こいつら、『結晶化の薬』を飲ませたのか。

 だから、なかったんだな。


「それを飲んだ奴は体が結晶化して、砕け散る」


「だから?」


 むかつくぜ。

 右足の親指を斬らせてもらおう。


「何よ!何……ああああああああ!」


 絶叫が響く。

 女は声が高いから鼓膜が破けそうだ。


「はあ……はあ……な、なんで!」


「正直に言え。『結晶化の薬』を飲ませたか?」


「ないわよ!はあ……はあ……」


「恩人であるクロスって奴にはな、恋人のヤミネスって女がいたんだ。だが、そいつは殺されたらしいぜ。普通なら死体があるはずなんだが、見当たらなかったんだ。おかしいと思わないか?」


「私が……その女を殺したって?」


 まだダメか。

 適当にアランの名前を出してみるか。

 あいつ、女に人気だったからな。

 中身は腐ってたがな。


「知ってるか?アランの奴、ヤミネスに恋してたらしいぜ」


「だからあの女を……あ……」


 鎌をかけて正解だな。

 見事に引っかかってくれたぜ。


「なんだ?言いたいことがあるなら言え。遠慮しなくていいぞ」


「……分かったわよ!全部言ってやるわ!あの女が目障りだったのよ!私のアラン様なのに!だから、『結晶化の薬』を無理矢理飲ませたのよ!」


 ただの嫉妬か。

 それで殺すことがあるんだな。


「最初から言えば、斬ることはなかったんだが?」


「悪かったわね!とにかく、全部言ったんだから、早く……」


「許すとでも?」


「……は?話が違うじゃない!」


「人を殺したんだ。テメェみたいな嫉妬で殺す奴を放っておくと危険だと思ってな。テメェ、楽して死ぬと思わねえことだな」


 こんな奴は殺しておくべきだな。


「いや!誰か!助けて!」


「うるせえんだよ」


     ◇


 拷問部屋から出ると、すでに門番の2人が待っていた。

 早いな。

 いや違う。俺が遅かったのか。


「お疲れ様です」


「結構時間かかりましたね。何かあったんですか?」


「何もねえよ。腕が鈍ってたんだ。早速だが報告を頼む」


 門番の1人が一歩前に出る。


「拷問したところ、友人から頼まれて手を貸したとのこと。以上です」


 頼まれたのか。

 だが、共犯者だということは間違いない。


「分かった。次」


「はい。こちらも同じく頼まれたとのこと。以上です」


 なるほど。じゃあ、俺が拷問した女が主犯だったってことになるのか。


「……報告する。女は嫉妬でヤミネスに『結晶化の薬』を飲ませて殺害。以上」


「嫉妬で……?」


「『結晶化の薬』を飲ませたのか……」


 アランが絡んでいなければ、こんなことにはならなかったんだよな。


「テメェらには、死体の処理を頼む。俺は冒険者協会長に報告してくる」


「分かりました」


「了解です」


 階段を上り、地上へ出る。

 血の匂いが服に染みついている。

 着替えねえとな。


 女3人を連れて行く道中に周囲からの視線が痛かった。

 男だったら、どうなってたんだか。

 そう思いながら、自宅へと向かう。


 なるべく人と会わないような道を歩いていく。

 拷問したあとはいつもここを通っている。


「今日もお疲れ」


 自分を労いながら二階建ての自宅に入る。

 着替えて、洗剤薬が入っているスプレー缶を振り、脱いだ服にかけて、ハンガーにかける。


「明日でもいいんだが、奴らが帰ってくると、あまり会えないからな」


 冒険者たちは、遠征に行っているらしい。

 フィンはその間、仕事でもしてるんだろうな。

 報告するついでにフィンに飯でも奢るか。


 自宅から出て、冒険者協会へ向かう。

 扉を開けると、誰もいない。

 フィンは協会長室にいると思うな。

 階段を上り、扉を叩く。


「フィン。いるか?」


「スクアルドか?」


 なんか死にそうな声してんな。

 鍵開いてるし、入るか。


「報告があってだ、な……フィン?」


「どうした?あと少しで終わりそうなんだ。少し待っててくれ……よし……終わった……」


 解放されたかのようにテーブルにうつ伏せになる。

 テーブルには、大量の書類に『疲労回復薬』が数本。


「そこまでしなくてもよかったんじゃないか?」


「協会長として、これぐらいの、ことは……な……それで、どうした?」


「久しぶりに2人で飯食いに行こうぜって思ってな。その様子だと無理か?」


「お前から誘ってくれたんだ。断るわけない」


 立ち上がって、ふらふらと俺に近づき肩に手を置いてきた。

 顔色が悪いな。

 これほどの量の書類を処理したなら、そうなるよな。


「俺の奢りだ」


「それは、ありがたいな」


     ◇


 いつも行っている飲食店に入る。

 席は空いてるな。

 カウンター席でいいか。

 空いてる席に座ってメニュー表を見る。


「何がいい?」


「酒と串焼きで頼む」


「遠慮するな。言っただろ?俺の奢りだって」


 だが、フィンは首を横に振る。


「あれを飲みすぎたからな。あまり空いてないんだ。せっかく誘ってくれたのに悪い」


「謝ることはねえよ。俺も同じにするか。……酒を二つと串焼き二つ」


「おう」


 店主に頼み、すぐにテーブルに置かれた。

 早いな。


「フィン……おい、フィン」


「ああ、悪い。んぐ、はあ……」


 うとうとしていて、今にも寝そうだった。

 目を覚まして酒を飲んで、項垂れている。


「いつから、そうなってんだ?」


「冒険者たちが、遠征してからずっとだ」


「フィン、とりあえず休め。働きすぎだ。過労死するぞ」


「そう、だな。倒れたらダメ、だよな……」


 酒を一気飲みしたフィンはテーブルに突っ伏す。

 相当疲れてんな。

 このままだと寝ちまいそうだな。


 酒を一気飲みして、串焼きを平らげる。

 話したいことがたくさんあるんだがな。


「串焼きが冷めるぞ」


「串焼き……悪い。スクアルド、頼む」


「へいへい」


 代わりに串焼きを平らげる。

 こんな美味いもんを食べないなんて損してるぜ。


「報告があるって言ってた気がするが……?」


「今聞いても、忘れるんじゃないか?明日にしよう」


「ダメだ。明日、冒険者たちが帰ってくるかもしれない。報告を」


 声を潜めるか。

 聞かれたら面倒だ。


「アランの拷問の件だが、自分の犯した罪を覚えたいなかったらしい」


「だろうな。それでアランは?」


「死んだ」


「やはりな」


 深くため息をするフィン。

 大体予想はしていたようだ。


「まだあるんだ」


「なんだ?」


「ヤミネスが死んだ」


「……何?誰に殺された?クロスは大丈夫なのか?」


 声は荒げてはいないが、パニック状態だ。

 両肩を掴み、落ち着かせる。


「殺害したのは、3人の女。拷問したら、ヤミネスに嫉妬していて、無理矢理『結晶化の薬』を飲ませたらしい」


「そうか……ちなみに、その3人の女は?」


「俺が拷問した女は死んだ。他は……死んでるだろう」


 あいつらのことだ。

 殺したに決まってる。


「クロスは?」


「……どうだろうな。分かんねえ」


 やけになって暴走しないといいんだが。


「……報告してくれてありがとうな」


「いいってことよ。これからどうするんだ?」


「変わらず仕事……は、やめておこう。しばらく休む」


「しっかり休めよ?」


 支払いを済ませて、飲食店から出て、フィンと分かれる。

 冒険者だった頃の話をしたかったが、別の日にすればいいか。

 二度と会えなくなるってわけじゃないからな。


「クロス……大丈夫だよな」


 クロスを心配しながら自宅に向かう。

これで一応、ひと段落です。

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