2ー15 「曇る心、晴れた心」
必死になってヤミネスちゃんを探す。
2人の恋を妨害する人は許せない。
勝手に恋愛関係だと思っているだけかもしれないけど、それでも応援したいんだ。
他人の幸せを見るのが好きな僕は、あの2人が幸せになる未来が見たい。
「どこにいる……?揺れ?」
地面が少しだけ揺れてる?
発生源は服屋からのものだ!
全力で走っていると、服屋が見えてきた。
そして、その裏から出てきたのはクロス君だけ。
いなかったのかな?
「はあ……はあ……クロス君、ヤミネスちゃんは……?」
「……」
暗い顔をしていて黙ったまま。
嫌な予感がする。
右手には十字架、左手は強く握り締めている。
十字架?クロス君は十字架を首に下げてる。
その右手にある十字架って、まさか。
「クロス君――」
「俺が間違ってた」
掠れた声。
間違ってた?どういうこと?
「……え?間違い?何を……?」
「あなたの言ってた通りだったんです」
話が見えてこない。
深呼吸させればいいのかな?
「落ち着いて答えてくれ。ヤミネスちゃんはどこ?」
「……いないです。どこにも」
バカな!そんなはずは、ないでしょ?
何かの冗談に決まってる!
「いやいや、まさか……」
「おーい」
この声はチェイ君?
声がするほうに振り向くと、3人の女性を縄で縛って持ってきている。
この人たちってヤミネスちゃんといたよね?
気絶してるのか、目を閉じている。
「その人たちは?」
「すげえ焦って走ってたんだよ。でな、手にこれがあって、怪しいと思って気絶させた」
「『結晶化の薬』?なんで……」
嫌でも気づいてしまった。
『結晶化の薬』を飲んだ者は、死を回避することは不可能だ。
クロス君を見ると、左手から血が出ている。
「なあ、ヤミネス……は……」
「君が思っている通りだよ。彼女たちに飲まされた。それ以外に考えられない」
「……冗談じゃなさそうだな」
クロス君の視線は3人の女性たちに向けられている。
睨んではいないが怒りを孕んでいる。
左手からの出血は止まる様子はない。
「クロス君、また倒れるから……落ち着こう」
「……」
僕が言うと拳を解き、出血は止まって傷口もなくなっている。
「人間って怖いですね」
持っている十字架を見て、ため息をするクロス君。
何を言えばいいのか分からない。
それはチェイ君も同じで何も言わない。
この空間だけは静寂が包んでいる。
◇
怒りと悲しみが混ざっている。
憎悪なのかな?
なんとも言えない感情で、何をどうすればいいのか分からない。
なんで女性ということだけで信じてしまったのか。
安心できるから?そうでしょ。
自問自答しても意味がない。
「よう、テメェら!どうしたんだ?」
威勢のいい声をかけられる。
聞き覚えのある声だ。
声がするほうに視線を移すと、見覚えのある男性がいた。
「……あなたは、あのときの……」
「なんだなんだ?お通夜状態みたいだが、なんかあったのか?」
「えっとね……」
カイラムさんは躊躇っているらしく、中々、言えないようだ。
これ以上、黙ってても仕方ない。
「ヤミネスさんが亡くなりました」
「クロス君……」
大丈夫、と言ったら嘘になるけど、いつまでもこんな状態じゃ、ダーウィンさんに怒られると思うし、俺自身の人生が充実しない。
ごめんね、ヤミネスさん。俺は薄情なんだ。
前世で、葬式に行っても涙を流さず、ただ呆然としていたような人間だ。
だから、涙を流す代わりに、なんとも言えない感情を抑えるように、ただ手から血を流して、嘆いているということだけは伝わってほしい。
「ヤミネス……?ああ、決闘のときにいたな。……それで、ヤミネスを殺したのは誰だ?」
「その人たちです」
気絶している女性3人を指差す。
「へえ、どうする?テメェには恩がある。望むならこいつらを拷問するが……」
なんで殺したのかを知りたい。
それが分かったら十分だ。
「……お願いします」
「分かった。……ゆっくり休めよ」
肩を叩かれる。
慰めの言葉をありがたい。
それだけでも気が楽になる。
そういえば、この人の名前聞いてなかった。
「……あなたの名前は?」
「スクアルド。それが俺の名前だ。覚えておけ」
スクアルドさんは、女性3人を抱えて歩いていく。
絵面だけ見ると、ただの変態のように見えるだろう。
人間は、それを見てそう思ってしまう生き物なんだ。
「帰りましょう。疲れました」
「……そうだね」
◇
家の中で貰った物を整理する。
荷物の半分はカイラムさんが一緒に運んでくれた。
この量を1人で持っていくのは無理だ。
「怒られるかな?」
一通り終えて、家を出て教会へ向かう。
見放されるのかな?失望されるのかな?
そんな不安が襲ってくる。
「はあ……よし」
扉を開けて教会の中に入る。
瞬きをした瞬間、ダーウィンさんが目の前にいた。
やっぱりこうなるよね。
それで、なんで服装が変わってるんだ?
ワイシャツの上に黒いセーターを着て、黒い長ズボンを穿いている。
「えっと……?」
「似合ってないかな?着てみたかったんだ」
腕を組んで微笑んでいる。
話しにくいな。
ヤミネスさんが亡くなったことに悲しんでないのかな?
「ヤミネスさんのことなんですけど……」
「知ってるよ。言わなくていい。今日は、キミの曇った心を晴らすために呼んだんだ。いくつか考えてあるよ。何からしようか」
近くにあった箱の中を漁っている。
楽しそうだ。
ヤミネスさんの死を気にしてないように見える。
神様だからかな。
人が亡くなってもどうでもいいと思ってるのかな。
「ジェンガは好き?」
「……まあ、はい」
テーブルにジェンガを積み立てている。
椅子に座って、それをぼーっと見ている。
「よーし、負けたほうのバツゲームはどうしようかな?脱衣は……やめておこう。う〜ん、黒歴史を言ってもらおうかな!」
期待してるところ悪いけど、そんなにないと思う。
バツゲーム?
あんまり思いつかない。
イタズラしてみようかな。
「俺は……秘密にしておきます」
「気になるな〜、教えてよ〜」
抱きついてきた。
いい匂いがする〜。
「秘密です。それと負けちゃいますよ」
「え……?」
テーブルが揺れてジェンガが崩れる。
何もしないで勝った。
ダーウィンさんは唖然としている。
「ボクの負けなの?」
「崩したのダーウィンさんじゃないですか」
「ノーカウントは?」
「ダメです」
肩をすくめて、ダーウィンさんを見る。
目を合わせるのが恥ずかしいのか、視線を逸らしている。
「バツゲームです。怒らないでくださいね」
「怒る……?」
椅子から立ち上がり、ダーウィンさんの両肩を掴んで、ケモ耳に顔を近づける。
「大好きです」
そう囁き、ダーウィンさんの顔を見る。
真っ赤になっていて、目が泳いでいる。
「……え、えへへ。そうなんだ〜。タクミくんったら冗談が上手いね〜」
反応がかわいい。もう少し攻めてみるか。
「マジです。大好きです」
「なっ!ちょっと!本気になっちゃうから!待って……」
まだいける。
「ダーウィンさんが大好きです」
「……ほ、本当なの?本当にボクが好きなの……?」
上目遣い。
うっ!かわいすぎ!
美少女のダーウィンさんがそれをしたら、反則でしょ。
それにしてもチョロいな!
他の男性にやられても、そうなってたんじゃないか?
答えはどうしようか。
ダーウィンさんが演技してる可能性はある。
失礼だと思うけど言わせてもらう。
「さあ?どうなんでしょう?」
そう答えると、抱きついてきて胸に顔を埋めてきた。
力強いな。
「神様であるボクの心を弄んで……ひどいじゃないか。ボクじゃなかったら、どうなってたか分からないよ?」
「ダーウィンさんが大好きなのは本当ですよ。もしかして、フラれたんですかね?」
胸から顔を離して、目を合わせてくる。
やりすぎたか?
「そ、そんなことないよ!ボクもタクミくんのことが大好きだよ!本当の本当に大好き!」
大胆な告白!
マジで恋に落ちた感じ?
これで「冗談でした」なんて言えない。
ダーウィンさんのことが大好きなのは、本当だ。
半分冗談で言ってみたんだけど、やばいな。
「神様が人間に惚れるなんて、前代未聞ですね。ダーウィンさんは本当に神様なんですか?」
からかってみると、かわいらしく頬を膨らませたダーウィンさん。
「失礼な!ちゃんと神様だよ!なんだと思ってたのさ?」
「乙女心を持った神様に近い存在?」
「何それ……」
呆れたようにため息をしている。
実際にいそうなんだよな。
「神様をからかうのはダメだからね?分かった?」
「分かりました。それと、ありがとうございます」
「えっと?」
なんだか心の曇りが晴れたような感じがする。
「言ってたじゃないですか。曇った心を晴らすって」
「あ〜、言ってた言ってた。どういたしまして」
微笑むと、ジェンガを箱の中に入れ始めた。
意外と早く終わったな。
教会に戻る前に何か聞こうかな。
滅多に会うことないから。
「8年も経過してたって聞いたんですけど、なんで教えてくれなかったんですか?」
片付け終えたダーウィンさんは椅子に座ると、頬杖をついて微笑む。
「キミたちが20歳になったら、サプライズでお祝いしたかったんだ。ダメだった?」
サプライズか。
どんなものか気になるけどいいや。
「1年経過してたら、教えてほしかったです」
「分かった……タクミくん、20歳になったら不老不死だからね?それまでは、無理しないように」
「気をつけます」
「うん。あまり自分を責めないでね。それと、殺人はほどほどに〜」
瞬きをすると教会に戻った。
優しい神様でよかった。
さてと、これからどうしようかな。




