2ー13 「敗者の最期」
立会人――フィンさんは、黙ったままだ。
もしかして、どっちが勝者か、まだ決まってないの?
沈黙はやめて。怖いよ。
「勝者、クロス!」
俺のほうに手を向けて言う。
観客席からは、歓喜の声があがっている。
あれでいいんだ。短い戦いだったのに楽しめたの?
あれを戦いと言っていいのか微妙だけど。
赤いナイフを地面に放り投げると砕け散る。
結構、血を消費したはずなんだけど?
まあ勝てたからいいか。
こっちは満身創痍で、呼吸するのが精一杯だ。
胴体を触ると傷口は無くなっている。
相変わらず早い自然治癒力だな。
「ま、待ってください!こんなの認められません!」
「勝負はついた。敗者は黙ってろ」
必死に抗議したが、無意味だったらしい。
フィンさんが近づいてきて、手を握ってくる。
「感謝するぞ。本当に感謝する」
「手……汚れてますよ?……はは……」
そんなことは気にしないと言わんばかりに手を握る。
やっべ。ダルくなってきた。
手を離して、俺から少し離れる。
「さて、勝者クロスの望みを叶えよう!敗者アランの拷問だ!」
その声には、嬉しさが混ざっているような気がした。
後ろから二つの鼓動音が聞こえて振り向く。
あれって、あのときの門番?
「よう、あのときはありがとな!」
「あとは俺たちに任せな」
横を通り過ぎ、アランさんに近づく二人。
俺は『コンバットナイフ』を拾い、軽く一振りして血を払い、鞘に納めて歩く。
「僕は認めない!」
その言葉に反射的に振り向く。
歯ぎしりをしたアランさんは、手を翳す。
淡い青の粒子が集まり、一つの槍となる。
嘘でしょ!?俺、動けないよ!
槍は門番の間を通り過ぎ、俺の胴体を貫く。
「ぐはっ!」
痛い痛い痛い痛い!
運よく心臓は避けられたけど、ヤバい。
膝をついて、槍を抜こうとする。
「ぐっ!げほっ!……はあ……はあ……げほっ!」
吐血しながらでも、なんとか槍は抜けたけど、胴体の穴から血が出てきて、貧血どころじゃ済まない。
自然治癒力で治るけど、さっきより遅い。
「テメェ!何してんだあ!」
「ゴミクズ野郎が!」
激怒した門番の二人は剣を抜いて、アランさんに近づく。
再び、さっきの槍を発射しようと青い粒子が出現した、そのとき、円盤がアランさんの腕を斬った。
「あああああ!僕の腕がああああああ!」
斬られた部分を押さえて蹲る。
あの円盤って、カイラムさんの?
誰かが俺を支えてくれる。
「クロスさん!」
涙を浮かべたヤミネスさんがいた。
柔らかいものが当たってるからドキドキする。
なんてバカの感想。
「死には、しないから……」
安心させるように言おうとしたけど、ダメだな。
死なないよね?ただ意識がなくなるだけだよね?
「ヤミネスちゃん、クロス君にこれ飲ませて!」
「ここは俺たちに任せろ」
頼もしい声が聞こえる。
カイラムさんとチェイさんか。
「失礼します」
「むぐっ」
強引に何かを飲ませられる。
苦いのを我慢して飲み干した。
何を飲ませられたんだ?
「げほっ、げほっ」
「傷が治ってる……!」
少し楽になった。
胴体にあった穴が無くなっているのが分かる。
薬か?
動けるかな?
脚に力を入れて立ち上がるが、全身に痛みが走り、倒れそうになったところをヤミネスさんが支える。
「無理しないでください!まだ安静に!」
「そう、だね。……はあ……ちょっと、眠らせて……」
ヤミネスに体を預けるようにして、目を閉じる。
あー、疲れた。
◇
まさか、ここまで腐っているとはな。
本当に救いようがない奴だ。
首に手を当て、気絶させる。
「っ!……」
「アランを拷問部屋へ」
「「了解」」
門番の二人は、アランを拷問部屋へ連れて行く。
振り返り、クロスに近づく。
傷口は無くなっているな。
死んではいない。気を失っているだけだ。
「カイラム、助かった」
「マジで危なかった」
「はあ……」
冷や汗をかいているカイラムと、心底安心したように、ため息をするチェイ。
クロスを優しく抱いているヤミネスは涙を流している。
それほど大切な人なのだろう。
女を泣かせるとは、罪な男だな。
「本当に勝つなんて、すごいな。最初は焦ったよ」
「普通の人では、できない勝ち方だった。あのとき、止めていなくて正解だったな。フィン」
「考えがあると言っていたからな。……だが、死を覚悟しないとできない戦法だったとは……」
アランは『身体強化』の魔法を即座に発動し、クロスを斬り、勝ったと確信した。その油断した隙を利用したクロスは股間に強力な蹴り。
この戦法は、クロスにしかできないかもしれないな。
気になるのは、血でナイフを作ったことだ。
カイラムたちから聞いた通りだった。
それに傷口も無くなっていた。体質も気になるな。
本人が起きたら聞いてみるか。
「フィン!」
久しぶりに聞いた声だ。
「……スクアルド」
元『上級』冒険者で、今は拷問官だ。
昔、冒険者パーティーを組んでいた。
それぞれ夢を見つけて、それっきり会う機会がなかったが、観客席にいたのか。
「遅れてすまねえな。人混みがすごくてな……こいつはひでえな。あ?傷がねえぞ?どうなってんだ?」
クロスの体を観察している。
誰もが、そういう反応をするだろう。
「お前は拷問官だろう?クロスはこっちが対処する。アランは門番に預けておいた」
「こいつ、クロスっていうのか」
「どこかで会ったのか?」
「路地裏でな。なーにが童貞だ」
「「ぶふっ」」
カイラムとチェイが吹き出し笑う。
「童貞……?」
「なんか知らんが、童貞って名乗ったんだ。意味分かんねえだろ?」
髪を掻いて、呆れたように言う。
おそらく、二度と会わないから名前を言わなかったのか?
「早く拷問部屋に行ったらどうだ?あの門番たち、血の気が多いから、お前がいないとアランが死ぬぞ」
こいつがいたとしても、死ぬかもしれないがな。
拷問部屋に行ったら、生き残る可能性はないだろう。
あそこから出られた奴を聞いたことがない。
「クロスと話したかったが、仕方ない。じゃあな」
走って拷問部屋へ向かうスクアルド。
久しぶりの再会でもう少し話したかったが仕方ない。
「もう一日ぐらい、どこかの宿で休んだらどうだ?」
「本当なら、今日帰る予定だったんだけどね」
「クロスが心配だ。明日、出発する。ヤミネスもそれでいいか?」
ずっとクロスを抱いているヤミネスは頷く。
離そうとしない様子。
どうしたものか。
「ヤミネスちゃん、宿屋に行こう。そこでクロス君と休憩したらどうかな?」
「……そうですね」
掠れた声で返事をして、カイラムがクロスの体を持つ。
「フィンは、どうするんだ?」
チェイが聞いてくる。
このあと?そんなの決まっているだろう。
「仕事だ」
◇
とある建物の地下。
相変わらずジメジメしている。
足音が鳴り響く。
拷問部屋に入る。
そこには、門番の二人がアランを吊るしている。
右腕は斬られていて、左手首に手枷が付けられている。
アランは、まだ気絶しているようだ。
「手慣れてんな」
門番の二人に話しかける。
二人は俺に振り向くと、苦笑している。
「スクアルドさんほど、上手くできてないですけどね」
「手枷付けるのに、少し手間取いましたよ」
謙遜しなくてもいいんだがな。
近くにある拷問器具を見る。
ナイフ、ハサミ、棍棒などが置いてある。
拷問するのは、いつぶりだろうな。
「いつでも可能です」
「どうしますか?もう殺っちゃいますか?」
楽しそうだな。
気持ちは分かるけどな。
「こいつが起きるまで我慢しろ。……はあ」
吊られているアランの腹に拳を入れる。
「ごほっ!」
「バレないと思ったか?ゴミがよ」
経験の差だな。
こいつ、とっくに起きてやがった。
「ちょちょ!」
「ずるいですよ!」
「あとは、テメェらの好きにしろ。それでいいだろ?」
顔を見合わせて、ハイタッチしている。
ストレス溜まってんのか?
「拷問だからな。こいつから情報を聞き出すんだぞ」
「分かってますって!」
「どんなの聞けばいいんですか?」
フィンに聞いておけばよかった。
有益な情報か?
こいつにそんなものがあるのか?
うーん、これまで犯してきた罪を聞くか。
他にないな。
「犯してきた罪を全部だ」
「分かりました!」
「どうする?先行は譲ってやるぜ」
「よっしゃあ!」
遠くで見ているか。
壁に寄りかかってアランを見る。
青ざめていて、死にたくないって顔してるぜ。
棍棒を持った門番の一人が、目の前に立つ。
「ようよう。これから、聞きたいことが、たくさんあってな?お前がしてきた罪を全部言えよ。嘘だったら、ぶん殴るぜ!」
「ひいっ!」
イケメンが絶望してやがるぜ。
まあ、中身は最悪だがな。
こうなるのは、当然の報いだ。
「今まで、どんぐらいの女に手を出した?」
「ぼ、僕はそんなこと……がっ!」
門番がアランの腹に棍棒を強く当てる。
早速嘘つきやがった。
「最初から嘘かよ。ダメだって。正直に言おうぜ?」
「わ、分かった。……10人ぐらい?だよ……」
「ぐらい?数えてないんだな?それに多い。……クズが!」
棍棒を床に強く叩きつけ、もう一人の門番に渡す。
音がすげえ響くな。
「次、殺した人数は?」
「殺す……?えっと、ど、どのくらいかな……?」
「覚えてないってか。はあ……ナイフにするか」
棍棒を置き、ナイフを持つ。
アランの太ももに刺す。
「ああああああああ!」
うるせえ。
この部屋、声が響きやすいんだからよ。
叫ぶのやめてほしいぜ。
「スクアルドさん、このゴミ、生かしておく必要なくないですか?」
「まあ待て。楽に死ぬより、苦しんで死んでもらいたいんだよなあ。貸してくれ」
ナイフを受け取り、足の指を一本ずつ斬っていく。
「あああああ!いだい!いだいいい!」
「いいか?これは拷問だ。あれぐらいで、くたばってもらっちゃあ困るんだ」
淡々と言いながら、足の指を全部斬り終える。
本当なら手の指も斬りたかったが仕方ない。
「もうダメっぽいな。前の奴は、頑張ってたぞ?情けねえよ。……あとは頼んだ。終わったら、報告してくれ」
「「了解」」
ナイフを置いて、二人に任せる。
拷問部屋から出て、地上に出る。
あんまりスッキリしなかったな。




