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人生迷走者  作者: 相川悠介
第ニ章
25/39

2ー12 「汚い戦い」

 誰だろう?

 このピンチから救ってくれる救世主?


「これはこれは。協会長様。お元気そうで」


 表情が一変して、アランさんは笑顔で挨拶している。

 協会長?


「もう一度聞く。なんの騒ぎだ?」


 淡々とアランさんに聞く。

 気圧されているのか、冷や汗をかいている。

 そんなに怖い人には見えないけど?


「少し……」


「この人に決闘を申し込まれました」


 何か別のことを言われそうだったから、事実を言う。

 協会長さんは、俺を見たあと、アランさんを睨む。

 頬が強張っている。


「歳下を殴り、嘘をつくとはな。お前がそんな奴だったとはな」


「ち、違います!僕は……」


「違う?何が違うんだ?言ってみろ」


「う、それ……は……」


 顔を青ざめ、言葉が出てこないらしく、協会長さんから目を逸らしている。


「言えないのか……そこの君、悪いが話を聞かせてくれ。冒険者協会まで来てくれるか?」


「は、はい」


 ヤミネスさんの手を掴み、協会長さんに近づく。

 協会長さんは、アランさんを一瞥して冒険者協会まで歩いていく。


「僕らもついて行くよ」


 聞き覚えのある声。

 カイラムさんとチェイさんが近づいてきた。

 やっと見つけた。


「カイラムさんにチェイさん!どこにいたんですか?探してたんですよ?」


「そうだったんだ。ごめんよ。早く合流してたら、あんなことにならなかったのに」


 頭を掻いて申し訳なさそうに言う。

 チェイさんが俺の肩に手を置く。


「悪かった。まさか、絡まれるとは思わなかったんだ。よりによって、アランか……厄介だ」


 責めてるように言っちゃった。

 別にそんなつもりはなかったんだ。


「責めてるわけじゃないんです。すみません。……それで、アランさんって、どんな人なんですか?」


「それは冒険者協会で話そう」


 とある建物に入っていく協会長さん。

 近くの看板には、『冒険者協会』と書かれている。


「ここが冒険者協会……」


     ◇


 中は広く、二階に続く階段がある。

 そして、違和感を感じる。


「誰もいない?」


 冒険者も受付嬢もいない。

 この空間は静寂に包まれている。


「今は遠征させている。3日後ぐらいには、帰ってくるだろう。受付嬢には、しばらくの間は休暇をとるようにしている」


「冒険者って言うこと聞かないし、ダル絡みしてくるから、ストレス溜まってるんでしょ。それを解消するためになんだよね?」


「少しでも楽になってくれればいいのだがな」


 階段を上り、協会長さんが部屋の扉を開ける。


「ここが協会長室だ。自由に座ってくれ」


「失礼しまーす」


 協会長室に入り、ソファに座る。

 中々、柔らかい。


「そういえば聞き忘れていた。名前は?」


「クロス」


 協会長さんはカイラムさんとチェイさんを見る。

 二人は頷いて、カイラムさんが肩を軽く叩いてくる。


「この子がクロス君。あのゴブリンを倒した少年」


「少年って……俺、18ですよ?」


「20が大人だと思うよ。僕からしたら、まだ子ども。ちなみに僕は……」


「お前の年齢は知っている。……君は?」


「ヤミネスといいます」


「……クロスとヤミネスだな。俺はフィン。この冒険者協会の協会長だ。よろしく」


 俺とヤミネスさんは頷く。


「それで、決闘についてだが、冒険者同士がするものであって、決闘前にそれぞれ望みを言う。勝者が望みを叶えられるようになっていて、敗者は敗北を得るだけ。……クロスは冒険者ではないよな?」


 『コンバットナイフ』を一瞥して、俺に聞く。

 さっきの間は、これを身につけているからか。


「はい。これは護身用の物なので」


「そうか。……次にアランについてだが、あいつは控えめに言ってクズだ」


 その声には、怒りが含まれている気がする。

 にしても、クズなのか。


「僕もそう思うよ。彼の冒険者として、人間としての行動記録はいいものじゃない。本人はバレてないと思っているけど、バレバレなんだよね」


 カイラムさんは、腕を組んで頷いている。


「例えばだね……冒険者パーティーを組んでいた男性冒険者だけを殺して、女性冒険者に性的暴行。その女性冒険者は、四肢欠損状態で死んでいた。……言っただけで虫唾が走るよ」


 圧倒的にクズだな。救いようがないぐらいにね。


「それだけじゃない。『初級』冒険者を囮にして、依頼を達成したあと、その『初級』冒険者は用済みとして殺されている。まだあるが、これ以上は言いたくないな」


 ヤバすぎる。

 ヤミネスさんは青ざめて震えている。

 手を握ると少し安心したのか、震えが弱まっていく。


「冒険者を辞めさせないんですか?協会長の権利で」


「それができたら、とっくにやっている。協会長……俺には、そんな権利はない」


 目頭を押さえて、ため息をしている。

 そっか。なら、殺すしか方法がない。

 俺じゃなくてもいいんだけど、これってチャンスなんじゃないかな。


「……今から冒険者になることって可能ですか?」


 視線が俺に集中する。慣れないんだって。


「クロス君、無茶はダメだよ!」


「仮になったとして、お前はどうするつもりだ?」


「決闘で勝ちます」


 内心、めっちゃ怖い。

 でも、放っておいて被害者が増えるなら止めないと。

 偽善者のすることだって分かってる。


「あいつに決闘を挑んで勝てた者はいない。『超級』が決闘をしてくれたら助かるんだがな……」


「そもそも、決闘で負けたら、ヤミネスちゃんがどうなるか分からないよ!二人には被害者になってほしくない」


 フィンさんとカイラムさんが必死に止めてくる。


「負ける前提はやめてほしいですね。俺なりに考えはあるんですよ?」


 項垂れたフィンさんが聞いてくる。


「……はあ、冒険者になるのか?」


「はい」


「まだ引き返せる。本当に冒険者になるのか?」


「はい」


「……分かった。冒険者になるには、簡単な依頼を達成する必要があるが、特別になしだ。クロス、今日からお前は『初級』冒険者だ」


 フィンさんは真剣な眼差しで俺を見る。

 今日から冒険者か。勢いでなっちゃったよ。


「ちょっと!クロス君!君は夢を探していたんじゃないのかい?自分が幸せになる夢を!」


 両肩を掴まれ、カイラムさんが訴えてくる。

 その通りだね。


「何事も経験しておいたほうがいいって、誰かに言われたんです」


 この世界にはいない、前世の両親に言われた。

 その言葉は、怠惰な俺にとって天敵みたいなもの。


「それは……そうかもしれないけど……」


 肩から手を離すカイラムさん。

 卑怯なことをしてしまったな。


「クロス、さっき言ってたその考えで勝てるのか?」


「当たり前ですよ」


 チェイさんの問いに自信を持って答える。


「クロスさん……」


「ごめんね。だけど、大丈夫だよ」


 不安な表情をしているヤミネスさんの両手を握る。

 ダーウィンさん、あなたの力を頼りにしてます。


「決闘は今日、行う。カイラム、クロスたちを闘技場に案内してくれ。俺はアランを呼んでくる」


「……分かった」


 そうして、カイラムさんについて行って闘技場に向かった。


     ◇


 闘技場は円形の巨大な建物だ。

 前世で見たことある気がする。

 観客席には、たくさんの人が座っている。

 オーディエンスね。


「健闘を祈っています」


「ありがとう。任せて」


 十字架を握ってヤミネスさんが応援してくれる。

 絶対に負けない。負けられない。


 ヤミネスさんは、カイラムさんとチェイさんの二人に守られる感じで観客席に向かう。

 二人には、申し訳ないな。


「両者、前へ!」


 立会人のフィンさんの声が響き渡る。

 中央に向かって歩く。

 めっちゃ緊張するよ。

 オーディエンスの声が聞こえる。

 それは、全部歓喜の声。

 決闘を見るのをこんなにも楽しむ人がいるんだな。


 前から不敵に笑うアランさんが現れる。

 ひえ〜、怖い怖い。


「決闘者アラン、望みはなんだ!」


「この男から全てを奪う!」


 観客席から興奮した声があがる。

 全て?マジかよ。それは困るな。


「決闘者クロス、望みはなんだ!」


「決闘者アランの拷問」


 再び、観客席から声があがる。

 楽しそうだな〜。


「両者、構え!」


 腰から白銀の剣を抜き、構えるアランさん。

 対する俺は、『コンバットナイフ』を鞘から抜いて、構える。

 普通の人は俺の勝率低いって考えて、アランさんが勝つ、つまらない決闘だなって思うだろうな。


「始めっ!」


 フィンさんの声があがると、アランさんが一気に距離を詰めて斬りかかってくる。


「楽にしてあげよう!」


 それはありがたいね。

 『コンバットナイフ』を地面に放り投げ、剣の一閃が俺の体を襲う。


「がはっ!」


 いってええええええええええ!

 マジ痛い!ヤバいって!ヒリヒリどころじゃないって!


 胴体の傷口を右手で押さえて、後ずさる。

 血が止まらない。

 地面が赤く染まっていく。

 観客席からは、戸惑いの声があがる。


「どういうことだい?」


 眉を顰めて、俺を見るアランさんは困惑している。

 それはそうなるよね。

 わざと斬られたんだもん。


「まあいい。立会人、勝負は……」


 アランさんは俺に興味をなくしたのか、フィンさんのほうを見る。

 敵を目の前にして、よそ見しちゃダメだよ。


「ふっ!」


 右脚に力を入れて、アランさんの股間に蹴りを入れる。


「あっ!?あああああああああああ!」


 観客席から声があがる。その声は引いているもの。

 絶叫をあげ続けるアランさんは剣を手放して、股間を押さえて、座り込む。

 右手にある大量の血を消費して、赤いナイフを作り、アランさんに向ける。


「そこまでっ!」


 フィンさんの声があがる。決闘終了。

 悪いね、オーディエンスの諸君。

 鳥肌が立つような、かっこいい戦闘シーンがなくて。

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