2ー9 「男女平等」
死体を見ながらため息をする。
鼓動音は俺以外に二つ。建物の上にいる。
ずっと見てたんだな。
「……そろそろいいんじゃないんですか?」
そう言うと、地面に降りてくる二つの陰。
振り返ると、カイラムさんとチェイさんがいた。
「あっれ〜?隠密を使ってもバレるもんなんだね〜」
「気づいていたのか……」
路地裏に入ってから、気づいていた。
なんか増えたなーって。
「耳がいいもんなんで」
「足音は消していたはずなんだが……」
「鼓動音で分かるんです」
自分の胸を叩く。
「なんだと……!」
「すごいよね〜。鼓動音で分かっちゃうなら、奇襲とかされても大丈夫なんじゃないか」
「分かったとしても、実力差で殺されるかもしれませんからね。自慢には、できませんよ」
「そうかな?僕だったら自慢できるよ!」
両手を広げて明るい声で言うカイラムさん。
自慢できるほどの力を俺は欲してない。
夢探しの途中だから。
「これ、魔物の餌にします?」
「うん、燃やされて地面に埋められるより、餌になってもらう。魔物たちが喜ぶぞー!」
そんなに魔物の餌がないのかな?
「魔物って、普段、何を食べてるんですか……?」
「木の実だよ。今度、見に来たら?ジェノさんに聞いてみるよ」
木の実ね。
この世界の木の実は、どんなのだろう?
「なぜここに来たんだ?路地裏に行っても何もないだろう?今回はあったが」
ズボンのポケットから赤い宝石?を取り出したチェイさんが聞いてくる。
「好奇心?ですかね。あと、音が聞こえたんです。鼓動音と金属の音が。それでここに来たってわけです」
「聴覚が異常なまでに鋭いな」
「魔物の血のおかげなんですかね。寝ている間、父さんに血を流し込まれていたらしいです」
「普通なら、化け物になるか、死ぬかのどっちかだが……そうじゃない人間もいるのか」
転生者だから?それとも奇跡?
生きてさえいれば、俺は十分さ。
「ねえねえ!なんでこの人って分かったの?」
死体の頭を突きながら、聞いてくるカイラムさん。
そういうのやめておいたほうがいいのでは?
「最初から音で気づいてたんですよ。この人から、金属の音が聞こえていたんです」
「すごいな〜」
「気絶させて、返すことは今の俺じゃ、無理なんでこうするしかなかったんです」
人を気絶させることなんて難易度の高いことはできない。
だから、殺すしかなかった。そのほうが簡単だ。
「それにしてもさ、自己紹介。あれ、面白かったよ!笑いそうになったよ!あははっ!」
カイラムさんは、思い出したのか笑っている。
あー、そうか。いたんだもんな。
あのダサくて、バカバカしい自己紹介は聞かれてるか。
「なぜ名前を言わなかったんだ?……ふふっ……」
チェイさん、笑い漏れてますよ。
「なんとなくですよ。で、真っ先に思いついたのが、あれなんです。はあ……」
「あれが二つ名になっちゃったら、面白いなー……ぶふっ!……あははっ!」
腹を抱えて笑っているカイラムさん。
そんなに面白いか?童貞ということを言っただけで。
二つ名が童貞とか不名誉すぎる。
卒業する気は、今はないかな。
ていうか、その運命の人に会えるかどうかで、俺の勇気も大事なんだよね。
「チェイさん、それは?」
チェイさんが持っている物に視線を移す。
宝石だよね?
「袋みたいな物だ。見てな」
宝石が光り、死体に当てると、その死体は粒子となって宝石に入った。
「すごいですね。今まで、そうやって死体を運んでいたんですか?」
「死体専用じゃないが、そうだな。あのゴブリンも他の魔石に入ってる」
宝石じゃなくて魔石か。便利な物だな。
「クロス君って女性派なの?」
いきなりカイラムさんが聞いてくる。
女性派?なんのことだ?
「どういう意味ですか?」
「昔さ、クロス君って人を殺したでしょ?その人って女性だったじゃん?君が殺してるの女性ばっかりだからさ」
それを女性派っていうのか?変なの。
「相手が女性なだけであって、男性も殺すこともありますよ。人殺しは避けたいんですけどね」
「これから、戦争が始まる可能性があるから、無理かもね」
夢探しの邪魔だな。特に戦争は。
「戦争に巻き込まれるんですか?嫌なんですけど……」
「そこは安心して大丈夫じゃないかい?どこかに隠れてればいいだけだろう?」
見つからなさそうな場所か。
倉庫は大丈夫なんじゃないかな。
入れる条件は十字架だしね。
「そうですね。じゃあ、宿屋に戻ります。カイラムさん、ありがとうございます」
「どういたしまして!ゆっくり休むんだよ〜」
二人に手を振って、宿屋に向かう。
「ちょっと待ってくれ」
チェイさんの声で歩みを止めて、振り向く。
「なんですか?」
「変なことを聞くが、お前はこれから先、女性や子どもを殺すことはあるのか?」
「え……?」
「チェイさん?何を……?」
カイラムさんも質問の意味が分かっていない様子。
適当に答えるか。
「殺します」
「……そうか」
「女性や子どもを殺したら、人は憤慨する。でも、男性――それも大人が死んだとしたら?男性はどうでもいいのか?よくあるんですよ。例えば、正義の味方が言いそうな『奴らは女性や子どもを平気で殺す連中だ。許せない』なんてこと。その中に男性が入っていない。不平等だと思いませんか?」
「そうだけど……」
「それに、やらしいことを考えてないのに、女性の後ろを歩いているだけで周囲の人から怪しまれる。理不尽だと思うんですよ。全く、世界は男性に厳しいですね」
「お、おう。……そうかもな……?」
やべ。二人とも若干引いてる。
でも、事実なんだよね。
前世でも男性が、女性の近くにいるだけで怪しまれて、少し空気を吸っただけで逮捕されたなんてことがあった。
嫌になっちゃうよ。
「お前の考えは分かった。悪く……ない考えだと思うぞ。な?カイラム?」
「は、はい。クロス君の考えに僕たちは口出ししない。君が考えていることは、正しいと思うよ?男性に厳しい……うん。厳しいね……」
やっぱり引いてる。好感度下がっちゃたかな?
「話は終わりでいいですか?」
「ああ、止めて悪かったな」
「じゃあねえ〜」
「では……」
変なこと言っちゃったな。
◇
路地裏から出ていく、クロス君を見て、焦りを感じた。
彼が闇堕ちなんかしたらと思うと怖い。
「あの思想、合ってるかもしれないですけど……危険でもありますよね?」
「難しいことだな。それぞれの考え方はあるが、あれは……うーん……」
難しい表情を浮かべて困惑してる。
生きてきた中で、聞いたことのない思想だったからな〜。
「なんであんなことを聞いたんですか?」
「どういう奴か見極めたくてな」
「優しいと思いますけどねー。クロス君の大切なものがなくなって、彼が――」
「それ以上は言わないほうがいい。実際に起きてしまうかもしれないからな。やめておこう」
深く息を吸って吐くチェイ君。
僕の考えてることは分かってるらしいね。
「俺たちもここから出よう。胃薬を買いに行くが、お前はどうする?」
「薬局って飲み物売ってましたっけ?」
「売ってるな」
「じゃあ、ついて行きます。喉渇いちゃった〜」
僕たちも路地裏から出て、薬局に向かう。
「冒険者にダル絡みされたら、どうするんでしょうね?殺しちゃうんですかね?」
「無視すると殴られるし、話しの内容次第では、喧嘩に発展する。クロスの隣には、ヤミネスがいるからな。彼女狙いでダル絡みはあるだろう。クロスは……殺すかもしれないな」
「ですよねー、冒険者してる僕は、今まで何回もそういう現場にいましたから。運が悪いな〜」
「殺した奴はいたのか?」
「いなかったですね。気絶させたり、仲間の同調圧力で追っ払ったりなんかで解決してましたよ」
「……ダル絡みされなければいいのだがな」
「そのときは、僕たちがなんとかすればいいだけですよ!」
そうだよ!
クロス君とヤミネスちゃんには、僕たちがいる。
「例えば?」
「えっと……どうすればいいんでしょうね?」
「はあ……」
ど、どうしよう。そこまで考えてなかった。




