2ー7 「貰い物」
宿屋に着き、部屋に入る。
ヤミネスさんに聞いたところ、一部屋で一緒に泊まることになったらしく、ベッドは一つ。
つまり、寝るときは二人で使わなければいけない。
そろそろ異性との免疫力を高めないとね。
テーブルの下にリュックとたくさんの袋を置く。
ヤミネスさんも袋を置く。
「まさか、こんなに貰うとは思わなかった」
「なぜか申し訳ない気持ちになります」
ベッドに座って項垂れる。
ヤミネスさんは隣に座って、手に持っている一つの小さな黒い箱を見る。
それも貰い物だ。たしか、アクセサリーだったかな?
どんなアクセサリーかを本人に聞いたら、「秘密です」と言われた。
めっちゃ気になる。
「見てもいい?」
「はい」
ヤミネスさんが箱を開けると、赤く光っている宝石の指輪が入っていた。
なるほど。指輪か。
「お、綺麗じゃん」
中身のないスッカスカの感想しか出てこない。
綺麗だとは思っているよ。
宝石に詳しくないし、キラキラしてるのは、大体綺麗という感想しか思いつかない。
「ですよね。あの方曰く、『珍しい宝石だから大事にして』と」
「はは―ん……そうなんだ。そんなに珍しいんだ」
欲しかったわけじゃない。
「クロスさんもアクセサリーを貰ったのでは?」
「なんだっけかな?……貰いすぎて忘れた。取ってこよ」
リュックかたくさんある袋かのどっちかだ。
本当に貰いすぎた。
◇
少し時間は遡る。
まだ、街を歩いているとき、また見知らぬ人に話しかけられた。
幼い少女だ。10歳ぐらいだろうか?
「ど、どうも……その、た……助けていただき、ありがとうございます。え、えっと……」
人見知りなのか、話し方が途切れ途切れだ。
誰だって初対面の人と話すときはこうなる。
特に歳上だとね。俺だってそうだ。
「落ち着いて。ゆっくりで大丈夫だから」
「あ、す、すみません……気を遣わせてしまって……人と話すとき、いつもこう、なるんです……すみません」
すごい。陰キャのコミュ障のそれだ。
やっべ、すげえ失礼だった。
「まあまあ。感謝の言葉、ありがとう。んじゃ」
再び歩き出そうとすると、手を掴まれる。
「あ!ま、まま待ってください!」
「どうしたの……?」
掴んでいる手が強まってきていて、結構痛い。
外見と違って力強いな。
「そ、の……私の両親が、お礼をしたいと言っていたので……一緒に、来てくれませんか……?」
またまたお礼か。いいのかな?
遠慮せずに貰っちゃう性格だからさ。
例えば、「これをどうぞ」と言われて、「いえいえ、そんな」と言い、遠慮して最終的に貰うのが普通だが、俺の場合は、「ありがとう」って言って貰っちゃうんだよね。
性格悪いほうかな?
ヤミネスさんを見ると、頷いている。
行きますという意味ね。
「分かった。どこかな?」
「あ、案内します……」
少女について行き、小さな建物に着いた。
他の建物が大きいだけで、これが普通かな?
「どうぞ、お入りください」
少女が扉を開けてくれて、中に入る。
中は、カフェらしい内装だ。
清潔感があって、甘い匂いがする。
カフェじゃないかな?
で、客がいないんだけど、今日は休みなんじゃないかな?
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
店員が聞いてくる。あれ、いたんだ。
この時間帯は、客は来ないのかな。
それで、女の子は人数に含めたほうがいいのかな。
「えーっと……」
「ママ、連れてきたよ」
俺の後ろから出てきた女の子が店員に言う。
ママ?この人が?店員じゃないの?
「あら!そうだったの!ありがとう、ララ」
「えへへ〜」
ララちゃんは、ママに褒められて嬉しいようだ。
かわいいね。
「あのー、すみません……」
「あ、ごめんなさいね。クロスさん、本当にありがとう」
「ええ、はい……それでここは……?」
「カフェよ。今の時間帯はあまりお客さんが来ないの。……そうだ!ちょっと待ってて!今、持ってくるわ!」
何かを思い出したらしく、厨房に入った。
ララちゃんも厨房に入った。
「また時間があったらここに来る?」
「はい、どのような物があるか気になります」
厨房からママとララちゃん、一人の男性が出てきた。
ララちゃんのパパかな?
ママとパパの手には、袋がある。
「あなたが、クロスさんか。妻と娘を助けてくれてありがとう。俺はここの店長でな。……本当にありがとう。これを受け取ってくれ」
店長は俺に、ママはヤミネスさんに袋を渡す。
「はい……これは……?」
「果物だ。いろいろ入ってる。命懸けで助けてくれたのに、これぐらいしかなくて、すまない」
「謝らないでください。すごく助かります。ちょうど食材が足りなかったので」
「そうか。それならよかった」
店長は安心したように息を吐く。
「それでは、俺たちはこれで。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
お礼を言い、扉を開けてカフェを出る。
リュックに貰い物を入れて背負う。
重くなってきた。
手には、袋があるし、これ以上はないでしょ。
「さて、次はどこを……」
「あれ?あなたは、あのときの……」
歩き出そうとした瞬間、声をかけられる。
待ってくれ。人違いじゃないのかな。
頼む。そうであってくれ。
声が聞こえたほうに振り向く。
すると、女性が手を振っている。
周りには、ヤミネスさん以外いないし、俺か?
女性は近づいてくる。
「あなたがクロスさんね!私、あなたを探してたの!来て来て!恋人さんも!」
「ちょ……」
「……恋人……」
腕を掴まれて、連れて行かれる。
ヤミネスさんも頬を赤くしてついてくる。
あの場所に人ってそんなにいたっけ?
ついて行くと、女性は止まり、建物を指差す。
「ここが私の店。宝石店よ」
「宝石……?」
「……え?」
「あははっ!その表情、いいわね。じゃあ、入りましょう」
中に入ると、宝石がたくさんあった。
その他にも、アクセサリーがある。
「すごい……これが……」
「宝石……」
「そうよ。ささ、何か選んで。無料だから、お金は結構よ。何がいい?」
宝石が無料で貰えるって、やばいな。
こんな経験、初めてだ。
「えっと……あー、じゃあ、これでいいです」
適当に選ぶか。
宝石のこととかアクセサリーにあんまり興味ないし。
「早くない?いいの?」
頷くと「分かったわ」と言って、緑のブレスレットを取って、黒い箱に入れて、渡してくれた。
「ありがとうございます」
「こちらこそ〜」
そう言うと、女性はヤミネスさんのほうへ行く。
俺はリュックの整理でもしておくか。
手を振って見送ってくれる女性。
俺とヤミネスさんも手を振って、宿屋に向かう。
もう疲れた。休みたい。
◇
そして現在。
袋からヤミネスさんと同じ箱を取り出す。
ヤミネスさんの隣に座って、箱を開ける。
入っていたのは、緑のブレスレットだった。
「ブレスレットでしたか。綺麗な色ですね」
「そうだね」
宝石でできてるブレスレットって聞いたことがなかったな。
それに緑を選んだのは、多分、ダーウィンさんを思い浮かべたからかな。
イメージカラーが緑だった。
「まだ付けなくていいか。なんか抵抗感がある」
「そうですね」
箱を閉めて、ヤミネスさんの箱を取って、袋の中に入れる。
この量、馬車に入るか心配だな。
外はまだ明るい。散歩でもしよう。
「ちょっと散歩してくるね」
「すみません。ワタシ、少し睡眠を……」
「分かった。ゆっくり休んで」
◇
今の気分は最高。
いい物たくさん貰っちゃったからね。
散歩なんてする機会、あまりないからウッキウキ。
(はあー、最高だ)
前世とは違う空気。
車や自転車は通ってないから、二酸化炭素排出されないし、クラクションの音も当然ない。
信号機なんて物もない。
何度でも言おう。最高だ。
魔物の血のおかげで体力は十分あるし、身体能力は上がっている。
だから、疲れを感じない。
あの疲れは、人とのコミュニケーションで疲れたんだ。
前世は、人と話すことは、滅多になかったな。
共通の話題が少なかった。
話はあまり盛り上がらなかったな。
そんな感じで歩いていると、路地裏から物騒な音が聞こえる。
無視したいけど、路地裏ってワクワクするんだよね。
見るだけならいいはず。バレなきゃいいんだ。




