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人生迷走者  作者: 相川悠介
第一章
2/14

1ー2 「転生先について」

 いきなり少女から言われた。

 俺、金木(かねき)(たくみ)は死んだ。そのことにショックを受けるわけはなく、無事に死ねたことに安心した。


「そうなんですね。あちゃー」


 その反応に少女は驚き、俺との距離を詰める。

 ケモ耳を触りたい欲求を抑える。


「ちょっと!?反応薄すぎじゃあないかな!?」


「えー……そうですか?」


「そうだよ!なんか……そのさ……うーん……」


 言葉が出てこないらしく、目を瞑って唸っている。

 あー、ケモ耳触りたい。


「やりたかったこととかないの?」


 目を開け、更に距離を詰めてくる。

 うーん、いい匂いがする。じゃなくて、真剣に答えないと怒られる。


「ないです」


「そ、そんなに人生が充実していなかったんだね。悪かったよ」


 少女は俺から少し離れる。その表情には申し訳ないという気持ちがあった気がする。

 気まずい雰囲気を作らないために名前を聞くことにする。


「まあまあ。それで、あなたの名前は?」


「ああ、自己紹介がまだだったね。ボクの名前はダーウィン。神様だよ」


「神様?」


「そう。ダーウィンさんって呼んでくれると嬉しい」


 神様というのは、自分のイメージだと堅苦しいお爺さんだった。


「ダーウィンさんは、どんな神様なんですか?」


「少しの幸運を与える神様」


「少しの幸運?例えば?」


「キミの世界で例えるなら、ゲームのガチャで欲しいキャラが単発でゲットできる」


「それはすごいですね。少しではない気がしますが」


 友達がゲームのガチャで爆死して、そのゲームをやめたことを思い出す。

 ダーウィンさんはベッドに座り、隣をポンと叩く。

 

「こっちにおいでよ」


 隣に座ると胸がドキドキする。

 だって、ダーウィンさん、めっちゃかわいいんだもん。

 仕方ないよね。


「キミの人生について知りたいんだが、教えてくれるかい?言いたくないなら言わないで」


 ダーウィンさんは、微笑んで俺を見つめる。

 やばいなー、好きになっちゃうよ。

 そんなことより言わないと静かな空間になって気まずい雰囲気になるかもしれない。

 なるべくダーウィンさんの顔を見ないように目を逸らして、嫌々ながらも言うことにする。


「失恋3回、病気の発作で醜態を晒しました。以上」


 簡潔に言った。

 幼い頃から大学生までの話は長い。

 というよりも、話すのが下手なだけだ。


「それだけ?暗いことだらけだったけど、いいことはあるはずだ。何かない?」


「特にないです。人生に迷走していたので」


 自分の発言に項垂れる。

 人生を振り返れば、いいことなんてなかったということに気づく。


 慰めの言葉を求めているわけじゃない。

 だけど、そう思っているだけで心の底では求めているのかもしれない。

 なんか面倒だな。


「どう言えばいいかな……そのお疲れ様?」


 頭を撫でられた。

 同性にも異性にも撫でられたことはなかったから嬉しい。


「ありがとうございます。その言葉だけでも十分です」


「それはよかった」


 そして、今更だが気づいた。

 ダーウィンさんって異世界の神様なんじゃないかと。

 まだ生きていたときに、そんな名前の神様を聞いたことがない。

 それになんで、「転生させることができる神様」ではなく、「少しの幸運を与える神様」なのか。


「今更なんですけど、ダーウィンさんは俺がいた世界の神様じゃないですよね?」


「そうだよ。キミの転生先の世界の神様。それに、キミを転生させることを頼まれた」


「ダーウィンさんは転生させることができるんですか?」


「そういう力を渡されたんだ。ボクの知り合いは大変だからね。手伝うことにした」


 なるほど。

 転生させるのに手伝うなんてあるんだ。


「俺以外にも転生させた人っています?」


「いや、キミが初めてでキミが最後。1回だけって約束をした。転生させるのって結構大変らしい」


 右手を開いたり、閉じたりしているダーウィンさんは、何かを思い出したのか両手を叩く。


「そうだ!キミの転生先について話さないとね。いやー、忘れるところだった」


 何に転生するのか分からない。

 できれば人間がいい。


「どんな世界で、俺は何に転生するんですか?」


「世界は後で説明するよ。転生だが、キミは変わらず人間だ」


 猫や犬じゃなくてよかった。


「それでね、生まれてから10年起きていない子どもに転生する」


「10年も起きてないって、やばくないですか?」


 不安になってきた。

 そんなに長く寝ていて死んでいないのは奇跡とは思わない。失礼だが、不気味に思える。

 ダーウィンさんか他の神様がなんかしたのかな。


「だよね。まあ大丈夫だよ」


「何を根拠に……また人間になれるならいいか」


「次に世界のことだ。今、『勇者』と『魔王』が戦うことになってる。時期が悪かったね」


 いきなりかよ。

 マジで最悪じゃないか。


「ですね。……あの、俺になんか特別な力とかってあるんですか?」


 小説の読みすぎで期待している。

 チート能力じゃなくてもいい。


「あるけど、強いか弱いかっていうと……弱いほうになるかも。キミの成長次第では強くなるかな」


「なるほど……それでその力とは?」


「血液操作だよ」


 俺は口元を押さえて笑いを堪える。

 その様子にダーウィンさんは困惑している。


「えっと……大丈夫?」


「……最高ですよ」


「え?」


 血液操作という力が使えるとは最高だ。中学2年生の頃、RPGゲームをしていたときに操作していたキャラが自分の血液を武器にして戦うところにかっこいいと感じていた。


「血液操作って、血を武器に変化することってできますか?剣とか槍とか」


「できるけど……」


「最高じゃないですか!」


 ハイテンションになり、思わずダーウィンさんの両手を握って顔を近づけてしまう。

 慌てて手と顔を離して、ダーウィンさんの表情を見る。

 怒っているわけではなく、照れているのだろう。

 頬が少し赤く染まっている。


「そ、それはよかった。だけど、血を消費するから気をつけてね。貧血になっちゃう」


「そ、そそうですね。気をつけます」


 自分も頬が赤く染まっているのを感じる。


「……血液操作だけだと物足りないと思わないかい?」


 たしかにそうかもしれない。

 血液操作だけでは、戦闘にならないと思う。


「まあ……欲を言えば武器と戦闘知識が欲しいですね」


「強欲だね。でも、分かった」


 ダーウィンさんが手を差し出してきた。

 その手を掴むと、激しい頭痛と耳鳴りが俺を襲う。


「いっ!?これ、は?」


「もう少し耐えてくれ……離していいよ」


 手を離すと少しずつ頭痛と耳鳴りがなくなっていく。


「だあ〜」


「ごめんね。さっきのは、キミが求めているものをキミに渡した」


 あの短時間でそんなことかできるのか。

 しかし、特に変わったことは感じない。


「転生したら分かるよ。楽しみにしてて」


 俺が求めているもの。

 ダーウィンさんは知っているのだろうか。


「ダーウィンさんにそんな力あったんですね」


「ボクの力もあるけど、渡された力も使ったんだ」


 転生させる力か。

 それより確認してみよう。


「ダーウィンさん、確認のために聞きます。銃という武器を知っていますか?」


「弾丸を装填して引き金を引くと、銃身から弾丸が高速で発射する武器」


 嘘は言っていなかった。

 銃については、俺もそういう認識だ。


「本当に知ってるんですね」


「もちろん。アサルトライフル、スナイパーライフルとかいろいろあるね」


 疑う必要性はないか。

 銃の種類も俺より分かっていそうだ。

 それはそうとして、他にも質問したいことは山ほどある。


「この空間はダーウィンさん専用の部屋ですか?」


「そうだよ」


 部屋としては家具が少なすぎるし、天井が青空という謎の空間。人間の常識と神様の常識は違うということが、はっきり分かった。


「食べ物や飲み物は?」


「あるよ。出そうと思えば出せる」


 ダーウィンさんがテーブルに向けて人差し指を向けると、クッキーやブドウジュースの瓶などが出てきた。


「移動しようか」


「はい」


 ベッドから降りて向かい合うように椅子に座る。

 ダーウィンさんが瓶の蓋を開けて、2つのコップにブドウジュースを入れる。


「どうぞ。味覚は機能してるから大丈夫だよ」


「ありがとうございます」


 ブドウジュースを飲むと甘い味がする。

 普通に美味しい。


「ダーウィンさんってケモ耳はあるのに尻尾はないんですね」


 ピクピクと動いているケモ耳を見る。

 カチューシャではないことは分かる。


「尻尾はボクの力で消した。ちょっと恥ずかしいから」


 見てみたいものだ。

 でも、ケモ耳が本物で見れただけでも十分。


「それでいつ転生を?」


 ゆっくりしていていいのだろうか。

 時間とか大丈夫なのかな。


「もうそろそろかな。今すぐっていうならしてもいいよ」


 ダーウィンさんは、ブドウジュースを飲んで、コップを揺らしている。

 早くしたほうがいいかもしれない。

 それに血液操作が楽しみだ。


「今すぐお願いします」


「りょーかい。じゃあ、もう1回」


 ダーウィンさんが立ち上がり、俺に近づいて手を差し出す。その手を握ると視界がだんだんと暗くなっていく。


「いってきます」


「いってらっしゃい」 

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