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人生迷走者  作者: 相川悠介
第ニ章
15/21

2ー2 「お調子者」

 耳を疑う。

 ジェノさんを見ると、申し訳なさそうな表情を浮かべている。


「その話は長くなりそうなんで、家の中でしましょう」


「んー?分かった!」


 カイラムさんが肩を組んでくる。

 確信した。この人、陽キャだ。

 やばい、陰キャだから、どうしよう。


「はあ……」


 ジェノさんは深いため息をしている。

 苦労してるんだな。


「それにしても8()()経っても、ここは全然変わらないね!」


「……え?」


「なんだと……?」


 待て待て、8年も経ってるってマジか?

 ていうか、ジェノさんも驚いてる。


「その反応だと、マジで分かってなかったのかな?」


「嘘じゃないですよね……?」


「このタイミングで嘘つくことある?君の体、成長してるよ。気づかなかった?ジェノさんも、なんで驚いてるんですか?まさか、仕事のしすぎで……?」


 え、身長伸びてるの?俺、もう18歳なの?

 全然気づかなかった。


 倉庫に入って射撃して、あとは、家でのんびりしたり、教会でヤミネスさんと一緒に祈りを捧げる。

 それの繰り返しだったから。


 じゃあ、血液操作の練習は今日が初めてなのか。

 地味にショック。


「バカな……8年だと……?」


「ジェノさんには、休みが必要そうですね。ずっと書類と睨めっこしてましたから!」


 カイラムさんは、青ざめているジェノさんの肩に手を置く。

 必要そうじゃなくて、絶対に必要でしょ。

 仕事してて、時が年単位で経ってるって気づかないジェノさんは、いろんな意味ですごいな。

 疲れてる様子を感じなかったからさ。


「とりあえず、話をしましょう。ついて来てください」


     ◇


 リビングに入ると、ヤミネスさんが、本を読んでいた。

 8年経っても、ヤミネスさんはあまり変わってないか?

 身長は少し伸びてて、胸は、ほんのちょっぴり大きくなってる?

 何を考えているんだ。消えろ煩悩。

 

「おはよう。ヤミネスさん」


 挨拶をすると、俺たちに気づいて、本を閉じる。

 本の表紙には、ナイフとフォークがクロスしていた絵だった。

 料理本か?


「おはようございます。クロスさん……と、その方たちは……?」


「読書中にすまない。俺はジェノ。そして……」


「僕はカイラム!よろしくね!ヤミネスちゃん!」


「は、はい。なんで名前を……?」


 二人の客人に困惑するヤミネスさん。

 視線を俺に向けてくる。

 話の前に、先にこの二人について話した。


「なるほど……魔族の方たちでしたか」


 意外にも、二人が魔族ということに驚かない。

 ずっと、ここにいたからだろうか?

 それとも、両親は教えていなかったか。


「驚かないんだ?不思議!ね、ジェノさん?」


「ああ、普通ならば、罵倒してきたり、殺しにかかってくる人間もいる」


 うわー、物騒だな。

 魔族っていう存在だけで、そうなるのか。


「それは大変ですね……あ、ソファに座ってください。ワタシは、飲み物を持ってきます」


「いや、大丈夫だ。飲み物は……」


「ありがとう!僕、喉渇いてたんだ!嬉しいよ!」


「……ヤミネス、本当にすまない……」


「遠慮しなくていいのですよ」


 冷蔵庫には、飲み物だったら、牛乳とブドウジュースしか入ってないけど。


 俺は床に座り、ジェノさんとカイラムさんは、ソファに座る。


「さっきの魔族側の戦力の話でしたね」


「うん。どうかな?クロス君は十分強いと思うよ」


 過大評価。戦闘は一回しかしてない。

 何を根拠に言っているのか。


「その前に、俺たちのこと、ずっと見てたのカイラムさんでしたか?」


「え!よく分かったね!すごいな、完全に気配消してたんだけどなー。バレてたか」


 鼓動音が聞こえていたからね。

 悪いけど、バレバレだった。


「クロスが危険なのかを確認するため、カイラムに頼んでいたんだ。責めるなら俺にしてくれ」


 迷惑だと思わなかったとはない。

 責める気はないね。


「怒らないですし、確認って大事ですからね」


「それで……」


「断ります」


 カイラムさんには、申し訳ないけど、俺は夢を探してるんだ。

 誰かと戦う気なんてないね。


「ちょちょ!早すぎないかな!もう少し考えて……」


「嫌です」


「えー……」


 項垂れて落ち込んでいる。

 でも、答えは変わらない。


 ヤミネスさんが、テーブルにブドウジュースが入ったコップを三つ置き、俺の隣に座る。


「もういいだろう。クロスの答えは出た」


 ジェノさんは、カイラムさんの肩に手を置き、慰める。

 二人から視線を逸らして、ブドウジュースを飲む。

 なんとなくだけど、味が不味くなりそうだったから。


「そっかー……ちなみに理由は……?」


 カイラムさんが、ブドウジュースを飲んで聞いてくる。


「夢を探しているんです。俺自身が幸せになれる夢」


 この世界で、どう生きていくか。

 本当の幸せというものを知りたい。


「そうなんだ。ごめんね!僕、かなり焦ってたのかも!」


 笑顔で謝って、ブドウジュースを一気飲みする。

 その言葉に、ジェノさんが眉を顰める。


「なぜ焦っている?次の『勇者』候補は、まだ現れていないだろう」


「そうですけど、エレメンの存在を知って、もしかしたら、彼女が『勇者』候補なんじゃないかって思っちゃって」


 『勇者』候補?『勇者』じゃなくて?


「『勇者』って存在してないんですか?それに、次の『勇者』候補……?」


「昔はいたんだが、魔族と違って寿命で亡くなった。『勇者』は、この世から消える前に自分の剣を国王に鞘ごと預け、剣を抜けた者が『勇者』ということにしたようだ。時が経っていき、『勇者』が現れないことに焦りを感じたのか、国王は、剣が抜けなくても剣に触れたとき、手の甲に青い十字架が現れた者が『勇者』候補となると宣言したようだ。そして、『勇者』候補が出てきたということだ」


「めちゃくちゃですね。でも、『勇者』候補が『勇者』になるには、どうすればいいんですか?」


「不明だ」


 ジェノさんは、ブドウジュースを飲んで、一息つく。


 不明な点が多すぎる。

 どこの国?国王は、なんでそんなに焦っているのか?

 なぜ、『勇者』は次の『勇者』なんてものを考えたのだろう?


「カイラム、俺が知らない8年の間、人間側で何か大きな動きはあったか?」


「特にないですね。でも、さっき言ったようにエレメンには警戒をしたほうがいいです」


 この話聞いても俺には関係ないか。

 戦わないし、戦いたくないからね。


 まあ、昔のことが少し聞けてよかったかな。

 『勇者』のこととか忘れて、これからものんびりと過ごしていこう。


「俺たちは、これで失礼する。どうやら、俺は休みが必要なようだからな。カイラムも今日は休め」


「マジですか!やったー!」


 両手を挙げて喜ぶカイラムさん。

 嬉しいのは分かる。休暇って大事だもんね。


 そうだ。聞き忘れた。

 

「あの、ここの近くに街とかってありますか?」


「ラバウクという街がある。ここからは、そこまで遠くはないだろう」


 まだ、夢探しのスタートラインにすら立ってない。

 街があってよかった。


「じゃあさ、明日、僕が案内するよ!明日も休みでいいですよね?」


「分かった。休みでいいぞ」


 ホワイトな職場だな。

 ジェノさんが優しいだけかもしれないけど。


     ◇

 

 二人を見送り、ソファに座る。

 新鮮な1日だった。

 コミュ障を発動しなかった自分を誇らしく思う。


「クロスさん、ワタシもついて行ってもいいでしょうか?外の世界を知りたいのです」


「うん。誘おうと思ってたからね」


「ありがとうございます!」


 明るい笑顔に視線を逸らす。

 まだ、異性への免疫力が足りない。

 前世の失恋のせいだな。


「どうかしましたか……?」


「なんでもないよ。……ヤミネスさん、信じられないだろうけど、8年経ってたらしいよ」


「……え?は、8年……?」


 突然のことで困惑している。

 そりゃあ、こんな風になるよね。


「クライムさんが言ってたんだ。ジェノさんも仕事のしすぎで気づいてなかったらしいよ」


「そ、そう……なのですね。ですが、体に変化はないような気がします……」


「そんなことないよ。身長伸びてるし、胸も成長して……あ、えー……」


 言っちゃったー!やばいって!絶対嫌われた!


「そ、そそうですか。だから、最近下着が……な、なんでもないです!忘れてください!」


 そっちもそっちで言ってる!

 互いに顔真っ赤で見られないよ。

 ジェノさんとクライムさんがいなくてよかった。


「……俺、ちょっと外に出てくる」


「……はい」


 外に出る。叫びたいが迷惑になるからやめよう。

 深呼吸して地面に座る。


「やらかした〜」

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