2ー2 「お調子者」
耳を疑う。
ジェノさんを見ると、申し訳なさそうな表情を浮かべている。
「その話は長くなりそうなんで、家の中でしましょう」
「んー?分かった!」
カイラムさんが肩を組んでくる。
確信した。この人、陽キャだ。
やばい、陰キャだから、どうしよう。
「はあ……」
ジェノさんは深いため息をしている。
苦労してるんだな。
「それにしても8年経っても、ここは全然変わらないね!」
「……え?」
「なんだと……?」
待て待て、8年も経ってるってマジか?
ていうか、ジェノさんも驚いてる。
「その反応だと、マジで分かってなかったのかな?」
「嘘じゃないですよね……?」
「このタイミングで嘘つくことある?君の体、成長してるよ。気づかなかった?ジェノさんも、なんで驚いてるんですか?まさか、仕事のしすぎで……?」
え、身長伸びてるの?俺、もう18歳なの?
全然気づかなかった。
倉庫に入って射撃して、あとは、家でのんびりしたり、教会でヤミネスさんと一緒に祈りを捧げる。
それの繰り返しだったから。
じゃあ、血液操作の練習は今日が初めてなのか。
地味にショック。
「バカな……8年だと……?」
「ジェノさんには、休みが必要そうですね。ずっと書類と睨めっこしてましたから!」
カイラムさんは、青ざめているジェノさんの肩に手を置く。
必要そうじゃなくて、絶対に必要でしょ。
仕事してて、時が年単位で経ってるって気づかないジェノさんは、いろんな意味ですごいな。
疲れてる様子を感じなかったからさ。
「とりあえず、話をしましょう。ついて来てください」
◇
リビングに入ると、ヤミネスさんが、本を読んでいた。
8年経っても、ヤミネスさんはあまり変わってないか?
身長は少し伸びてて、胸は、ほんのちょっぴり大きくなってる?
何を考えているんだ。消えろ煩悩。
「おはよう。ヤミネスさん」
挨拶をすると、俺たちに気づいて、本を閉じる。
本の表紙には、ナイフとフォークがクロスしていた絵だった。
料理本か?
「おはようございます。クロスさん……と、その方たちは……?」
「読書中にすまない。俺はジェノ。そして……」
「僕はカイラム!よろしくね!ヤミネスちゃん!」
「は、はい。なんで名前を……?」
二人の客人に困惑するヤミネスさん。
視線を俺に向けてくる。
話の前に、先にこの二人について話した。
「なるほど……魔族の方たちでしたか」
意外にも、二人が魔族ということに驚かない。
ずっと、ここにいたからだろうか?
それとも、両親は教えていなかったか。
「驚かないんだ?不思議!ね、ジェノさん?」
「ああ、普通ならば、罵倒してきたり、殺しにかかってくる人間もいる」
うわー、物騒だな。
魔族っていう存在だけで、そうなるのか。
「それは大変ですね……あ、ソファに座ってください。ワタシは、飲み物を持ってきます」
「いや、大丈夫だ。飲み物は……」
「ありがとう!僕、喉渇いてたんだ!嬉しいよ!」
「……ヤミネス、本当にすまない……」
「遠慮しなくていいのですよ」
冷蔵庫には、飲み物だったら、牛乳とブドウジュースしか入ってないけど。
俺は床に座り、ジェノさんとカイラムさんは、ソファに座る。
「さっきの魔族側の戦力の話でしたね」
「うん。どうかな?クロス君は十分強いと思うよ」
過大評価。戦闘は一回しかしてない。
何を根拠に言っているのか。
「その前に、俺たちのこと、ずっと見てたのカイラムさんでしたか?」
「え!よく分かったね!すごいな、完全に気配消してたんだけどなー。バレてたか」
鼓動音が聞こえていたからね。
悪いけど、バレバレだった。
「クロスが危険なのかを確認するため、カイラムに頼んでいたんだ。責めるなら俺にしてくれ」
迷惑だと思わなかったとはない。
責める気はないね。
「怒らないですし、確認って大事ですからね」
「それで……」
「断ります」
カイラムさんには、申し訳ないけど、俺は夢を探してるんだ。
誰かと戦う気なんてないね。
「ちょちょ!早すぎないかな!もう少し考えて……」
「嫌です」
「えー……」
項垂れて落ち込んでいる。
でも、答えは変わらない。
ヤミネスさんが、テーブルにブドウジュースが入ったコップを三つ置き、俺の隣に座る。
「もういいだろう。クロスの答えは出た」
ジェノさんは、カイラムさんの肩に手を置き、慰める。
二人から視線を逸らして、ブドウジュースを飲む。
なんとなくだけど、味が不味くなりそうだったから。
「そっかー……ちなみに理由は……?」
カイラムさんが、ブドウジュースを飲んで聞いてくる。
「夢を探しているんです。俺自身が幸せになれる夢」
この世界で、どう生きていくか。
本当の幸せというものを知りたい。
「そうなんだ。ごめんね!僕、かなり焦ってたのかも!」
笑顔で謝って、ブドウジュースを一気飲みする。
その言葉に、ジェノさんが眉を顰める。
「なぜ焦っている?次の『勇者』候補は、まだ現れていないだろう」
「そうですけど、エレメンの存在を知って、もしかしたら、彼女が『勇者』候補なんじゃないかって思っちゃって」
『勇者』候補?『勇者』じゃなくて?
「『勇者』って存在してないんですか?それに、次の『勇者』候補……?」
「昔はいたんだが、魔族と違って寿命で亡くなった。『勇者』は、この世から消える前に自分の剣を国王に鞘ごと預け、剣を抜けた者が『勇者』ということにしたようだ。時が経っていき、『勇者』が現れないことに焦りを感じたのか、国王は、剣が抜けなくても剣に触れたとき、手の甲に青い十字架が現れた者が『勇者』候補となると宣言したようだ。そして、『勇者』候補が出てきたということだ」
「めちゃくちゃですね。でも、『勇者』候補が『勇者』になるには、どうすればいいんですか?」
「不明だ」
ジェノさんは、ブドウジュースを飲んで、一息つく。
不明な点が多すぎる。
どこの国?国王は、なんでそんなに焦っているのか?
なぜ、『勇者』は次の『勇者』なんてものを考えたのだろう?
「カイラム、俺が知らない8年の間、人間側で何か大きな動きはあったか?」
「特にないですね。でも、さっき言ったようにエレメンには警戒をしたほうがいいです」
この話聞いても俺には関係ないか。
戦わないし、戦いたくないからね。
まあ、昔のことが少し聞けてよかったかな。
『勇者』のこととか忘れて、これからものんびりと過ごしていこう。
「俺たちは、これで失礼する。どうやら、俺は休みが必要なようだからな。カイラムも今日は休め」
「マジですか!やったー!」
両手を挙げて喜ぶカイラムさん。
嬉しいのは分かる。休暇って大事だもんね。
そうだ。聞き忘れた。
「あの、ここの近くに街とかってありますか?」
「ラバウクという街がある。ここからは、そこまで遠くはないだろう」
まだ、夢探しのスタートラインにすら立ってない。
街があってよかった。
「じゃあさ、明日、僕が案内するよ!明日も休みでいいですよね?」
「分かった。休みでいいぞ」
ホワイトな職場だな。
ジェノさんが優しいだけかもしれないけど。
◇
二人を見送り、ソファに座る。
新鮮な1日だった。
コミュ障を発動しなかった自分を誇らしく思う。
「クロスさん、ワタシもついて行ってもいいでしょうか?外の世界を知りたいのです」
「うん。誘おうと思ってたからね」
「ありがとうございます!」
明るい笑顔に視線を逸らす。
まだ、異性への免疫力が足りない。
前世の失恋のせいだな。
「どうかしましたか……?」
「なんでもないよ。……ヤミネスさん、信じられないだろうけど、8年経ってたらしいよ」
「……え?は、8年……?」
突然のことで困惑している。
そりゃあ、こんな風になるよね。
「クライムさんが言ってたんだ。ジェノさんも仕事のしすぎで気づいてなかったらしいよ」
「そ、そう……なのですね。ですが、体に変化はないような気がします……」
「そんなことないよ。身長伸びてるし、胸も成長して……あ、えー……」
言っちゃったー!やばいって!絶対嫌われた!
「そ、そそうですか。だから、最近下着が……な、なんでもないです!忘れてください!」
そっちもそっちで言ってる!
互いに顔真っ赤で見られないよ。
ジェノさんとクライムさんがいなくてよかった。
「……俺、ちょっと外に出てくる」
「……はい」
外に出る。叫びたいが迷惑になるからやめよう。
深呼吸して地面に座る。
「やらかした〜」




