2ー1 「慣れ」
ダーウィンさんの信者になってから、どのくらい経ったかは分からないけど、数ヶ月かも。
しっかり記録しておくべきだった。
ソファで横になって、天井を見る。
やることがなく、暇になっている。
射撃は楽しいが、撃ちすぎると火薬の匂いがするから程々にしている。
「本でも読むか……」
二階に上り、自室にある本棚から本を取る。
その本は、魔法関連のものだった。
「魔法は使えないから、いいや」
初めての戦闘のとき、魔法を見た。
感動もしてないし、関心もない。
ただ、すごいなって思った。それだけだった。
魔法関連の本を戻して、別の本を取る。
「なーんかないかなー……これは、魔物図鑑……?」
魔物図鑑か。
父さんのメモ帳に書いてあった魔物について、詳しく書いてあるといいんだけど。
椅子に座って魔物図鑑を見る。
ちなみにヤミネスさんは、寝室で寝ている。
今は昼で、朝早くから掃除や洗濯をしていたらしい。
あとでパンケーキでも作るか。
「さーてと、どんなのがいるのかな?」
内容は、父さんのメモ帳とほぼ同じだったが、魔物の姿が描かれていて、どれがどの魔物かが分かった。
それ以外に有益な情報は特にないかな。
魔物図鑑を本棚に戻して、自室から出て、一階に下り、ソファに座る。
「……ゲームしたいな〜」
この世界に転生してしまったからには、仕方ない。
前世で暇なときは、ゲームや動画視聴、読書とかして暇つぶししてたからな。
「他にやること……血液操作でもしよっかな〜」
すっかり忘れていた自分の能力。
キッチンに向かい、ナイフを持って外に出る。
右の手のひらを斬る。
ヒリヒリとした痛みを我慢して、傷口から血を出す。
ナイフを地面に置いて、血をナイフの形に変える。
「こんなもんかな……いて〜」
真っ赤なナイフを軽く一振りする。
普通のナイフより軽い。脆いのは血の量が原因か?
もう少し血を出して、赤いナイフに流す。
さっきよりも少しだけ重くなった。
あのときの戦闘で、ナイフを作れたの我ながらすごいと思う。
思い出してみたら、初めて作ったときと戦闘のときでは、血の量が違った。
「どれぐらい頑丈なんだろう。試してみるか」
普通のナイフを左手で持ち、赤いナイフを普通のナイフに強く当てる。
ガン、と音が鳴る。
赤いナイフにひびが入っているが、割れてはいない。
「おー……このひび直せるんじゃないかな」
再び血を流すとひびはなくなり、元に戻った。
「へー、いいじゃん。あ、普通のナイフは……よかった。なんともない」
一本だけじゃないから壊れても大丈夫だけど、あまり物は壊したくない。
地面に仰向けになって、青空を見る。
なぜ、人は急に空を見るのか不思議に思う。
前世からどうでもいいことを気にしていた。
「このまま寝よ」
ベッドはヤミネスさんが使ってるし、ソファは今は気分じゃないかな。
外で2本のナイフを持ちながら寝るのも悪くない。
そう思いながら目を閉じる。
「いやダメでしょ!」
目を開けて、起き上がる。
流石にナイフを持って寝るのは危ない。
「赤いナイフは……一応、ここに置いておこう。誰かに奪われるわけないし、そもそも誰も来ないでしょ」
赤いナイフを地面に突き刺し、普通のナイフを持って、家の中に入る。
◇
クナリ村だった場所。
今は、魔族の一つの居場所となっている。
部下たちが懸命に家を建築している。
俺はテントの中に入って座り、部下から送られた報告書を見る。
「エレメン、『超級』冒険者……性別は女性。パーティーは組まずに一人で行動。全六属性の魔法が使える剣士。……厄介な者だな」
『勇者』候補とパーティーを組まなければいいのだが、大丈夫だろうか。
全六属性の魔法が使える者はごく稀だ。
それに魔法使いではなく、剣士である。
もしかしたら、エレメンが『勇者』候補になるかもしれない。
「魔族に対してどう思っているかを聞くのは難しいか。部下たちを殺されては困る」
戦力が減ることもあるが、ただ死んでほしくないというものが一番だ。
「ジェノさん!いますか〜?あ、いた」
一人の男がテントの中を覗き、手を振ってくる。
ため息をして、報告書を置き、外に出る。
「カイラム、どうした?くだらないことだったら、両腕を斬るぞ」
「ひえ〜、怖いですね。それは勘弁してほしいです」
脅しではないことを分かっていて、わざとらしく怖がり、ニヤニヤと表情を浮かべている。
カイラムは、固有魔法『変化』が使えて、ここから近い街、ラバウクにある冒険者協会で冒険者をやってもらっている。
なぜかというと、情報が必要だからだ。
ちなみに、報告書はカイラムが書いた物だ。
今のところ、『変化』のおかげで魔族ということは、バレていない。
「それで?」
「クロス君のことについてですよ」
一応、クロスのことを観察するようにカイラムに頼んである。
恩人ではあるが、危険人物かどうかを確認する必要がある。
「……聞かせてくれ」
「彼は安全ってことです!」
「……なぜ、そう思った?」
「なんとなくですよ。警戒しなくても大丈夫ですって!」
カイラムに頼むべきじゃなかった。
「クロスの観察は、他の者にさせる。お前は冒険者協会で情報収集を続けろ」
「あれれ〜?もしかして、役立たずでした?」
「そんなことはない。あいつを警戒しなくてもいいということは分かった。それだけでも十分だ」
「相変わらず優しいですね!」
肩を叩かれる。
「話は変わるが、お前は、エレメンと会ったことがあるか?」
「ないですね。神出鬼没の『超級』冒険者。警戒するべきは彼女のほうでは?」
その通りだな。
ここに来る可能性がある。
「そうだな。今のところは大丈夫そうだが……」
「はいはい!提案があります!」
全く、元気な奴だ。
「……言ってみろ」
「クロス君をこっち側に……」
「却下だ」
恩人に迷惑をかけたくはない。
「えー?理由は?」
「無関係な者を戦わせるわけにはいかない。それに、クロスは、まだ子どもだ」
「でも、クロス君って人を殺したことありますよね?ジェノさん、言ってたじゃないですか」
言うべきではなかったな。
だが、俺の意思は変わらない。
「クロスが勝てたのは奇跡だ」
「はーん……」
嫌な予感がする。
カイラムが考え込んでいることは、なんとなくだが察しがつく。
「じゃあ、僕は……」
「待て。どこへ行くつもりだ?」
「クロス君のところですよ。本人に聞こうと思いまして」
止めようとしたが、最終的には行かせてしまう自分がいて嫌になる。
「俺も行く。お前が何をしでかすか分からないからな」
「なんで、しでかす前提なんですか?ま、いいや」
◇
赤いナイフを抜き取る。
さてと、これを壊すか、壊さずに自室に置いておくかの二択。
「どうしよっかな〜」
これを壊してもまた作ればいいだけ。
でも、作るには血を大量に消費しないといけないし、貧血になっちゃう。
ナイフを嗅いでみると血の匂いがする。これって、放置しておくと液体に戻るのかな。
「斬れ味はどうだ……?」
試しに手のひらを斬ろうと思ったけど、誰か来た。
人数は二人。戦闘知識はあるから、大丈夫だと思う。
鼓動が聞こえるほうを向くと、ジェノさんと男性。
男性は黒い髪に赤い瞳。緑の半袖にボロボロの黒い上着を羽織っている。
警戒はしなくていいかな。
「やっほー!初めましてクロス君!僕はカイラム!よろよろー!」
手を差し伸べて握手を求めている。
元気だな、この人。しかも、初対面だぞ。
握手しておくか。
「はい、どうも。それで何か?」
「うわっ!そのナイフ真っ赤だね。ちょっと貸して!」
ナイフを強引に取られた。
ジェノさんを見ると、視線を逸らしている。
「ジェノさん……」
「すまない」
俺を見ずに謝る。何しに来たんだ。
「その……カイラムさん?そろそろ……」
カイラムさんのほうを見ると、ナイフに人差し指を当てて、何かしている。
指先は青く光っている。そして、ナイフが砕け散った。
「あ……ごめーん!」
笑顔で謝っている。謝意が感じられない。
ジェノさんは、俺に頭を下げている。
「本当にすまない。あとで、しっかり叱っておく。だから、許してほしい。頼む」
「大丈夫ですよ」
「ありがとう!ジェノさん、クロス君が優しくてよかったですね!」
「……そうだな」
頭を上げて、カイラムさんを目を鋭くして見ている。
その視線を無視して、俺の肩を叩く。
「ねえねえ!僕たちの……魔族側の戦力になってくれるかな?」




