1ー13 「信者」
数秒間、静寂に包まれる。
食後のほうがよかったかもしれない。
「ダーウィン様と出会ったのですね!どのような方でしたか?」
「え……?」
思っていた反応と違って、困惑する。
疑ってはいると思うけど、興奮していて目を輝かせている。
「ケモ耳少女で優しかった。じゃなくて!疑わないの?俺がダーウィンさんと会ったこと。それに不老不死のことも」
「もちろん疑っていました。ですが、ダーウィン様の特徴を聞いて、本当だったと判断しました」
「あれだけの情報で?」
誰かに騙されないか心配になってきた。
でも、疑うことはできるらしいから安心した。
「はい。クロスさんが嘘をついているようには思いません」
純粋な心が眩しい。
まあ、嘘をついてないのは事実。
ダーウィンさんから言うように言われたからね。
「美味しいです」
パンケーキを再び食べ始めたヤミネスさん。
「はは……はあ……」
俺も食べ始めたけど、なんかあまり美味しく感じなかった。
なんでだろう。
◇
朝食を済ませて、食器や調理器具を洗う。
ヤミネスさんが「手伝います」と言ってきたが、首を横に振った。
断られたことに、ショックを受けたらしく、教会の掃除をするとのこと。
「謎に罪悪感を感じる。……ごめん、ヤミネスさん」
ちなみに断った理由は、洗うのが好きだから。
本当に申し訳ないと思っている。
「このあとは、どうしようかな。射撃は十分だし、寝るぐらいしかないなー」
スマホやゲーム機がないから、退屈になってしまう。
テレビもないから、アニメが見れない。
これは仕方ないね。
「そういえば、本があるはず」
趣味である読書。
どんな本があるのか楽しみになってきた。
全部洗い終わり、タオルで手を拭く。
「食材を買いに行きたいけど、街がどこにあるか分からないんだよね」
この村は、街からどのくらい遠いのか。
ジェノさんに聞いとけばよかった。
家から出て、教会に向かう。
ヤミネスさんに謝ったほうがいい気がする。
教会の扉を開けると、ヤミネスさんがタオルで長椅子を拭いている。
俺も掃除を手伝うか。
◇
瞬きをしたら、ダーウィンさんの部屋にいた。
俺とダーウィンさんは、向かい合うように座っている。
これ慣れないって。
「報酬はどうだった?満足したかい?」
「豪華ですね。びっくりしました」
「それはよかった。暇ならトランプでもする?」
カードをシャッフルしながら聞いてくる。
逃す気ないし、ダーウィンさんの気分で戻ることになってるからな。
付き合うとするか。
「ババ抜きですか?それとも、神経衰弱?」
「ババ抜き。のんびりと楽しもうじゃあないか」
均等に分けられたカードをもらい、数字が同じカードを中央に置く。
枚数は俺のほうが若干多い。
ちなみにジョーカーは俺が持っている。
ジョーカーの絵柄が緑色の狐になっていることを疑問に思う。
ピエロみたいな絵柄じゃなかったけ?
「ボクが先行でいいかな?」
「どうぞ」
俺の手札に手を伸ばして、カードを1枚引く。
「ラッキー」
同じ数字があったらしく、2枚のカードを中央に置く。
次は俺の番か。
こういうのって適当に引いてればいい。
それ以外にあるとは思えない。
「揃った」
運よく揃って中央に2枚カードを置く。
「不老不死のことは言ってくれたかな?」
突然、ダーウィンさんが話しかけてくる。
「はい。ヤミネスさんって詐欺に遭いそうな人で心配になりますよ」
「たしかに。純粋だからねー」
また揃ったらしい。
神様だから俺の手札が分かっているのか?
それとも運がいいだけなのか。
「これ言うの失礼だと思いますけど、勝手に不老不死にさせるのっていいことなんですか?」
カードを1枚引いたけど、揃わなかった。
ダーウィンさんは、肩をぴくりと動かす。
「……まあまあ。ボクは神様だから許してくれるかも?」
「なんで疑問系なんですか……」
神様だから許されることってあるけど、限度はあると思う。
「ヤミネスちゃんの反応はどうだった?」
恐る恐る聞いてくる。
「特に何もなかったです」
「ほ、本当に……?怒ってなかった?」
「大丈夫でしたよ」
「よかった〜」
たった一人の信者だもんね。
嫌われたらショックだよな。
「そうだ。タクミくん、ボクの信者になる気はあるかい?」
「分かりました。よろしくお願いします」
「まあ……え?」
カードを引く手をテーブルに置いて、驚いている。
何もそんなに驚くことじゃないと思うけど。
冗談で言ってたのか。
「こんなによくしてくれたんです。信者になりますよ」
「やった!ありがとう!タクミくん!」
手札を置いて、立ち上がり、俺のほうに向かって走り、抱きついてくる。
すげえいい匂いするし、柔らかいし、心臓に悪い。
嬉しいのは伝わったから、早く離れてほしい。
「ほら、続けましょう」
「はいはーい」
俺から離れて椅子に座って手札を持って嬉しそうに笑っている。
「信者が増えることって、そんなに嬉しいこと……ですよね」
「もちろんだよ。信者がいればいるほど、ボクたち神様は持っている力が強くなって、信者にそれ相応の恩恵を与える」
「質より量ってことですか?」
「そうなるね。……また揃った」
シェイハ村の人たちは、ダーウィンさんの信者だった。
だけど、ヤミネスさん以外、殺されちゃったんだよな。
「じゃあ……やっぱりなんでもないです」
数字が揃って中央に2枚カードを置く。
俺が2枚、ダーウィンさんが1枚となった。
「何かな?言っていいんだよ?」
「……シェイハ村の人たちは、ダーウィンさんの信者だったじゃないですか。でも、殺されて激減しました。だから、少しの幸運になったんじゃないかなって」
煽っているわけじゃない。
ダーウィンさんの力は幸運だ。
シェイハ村の人たちは、全員信者だった。
なら、豪運で死ぬことはないかと思った。
「その通り。少しの幸運になっちゃったんだ。みんなが殺されたのは、しつこく勧誘したのと運に頼りすぎたからだ。なんでも運で解決なんてできるわけがない」
「ヤミネスさんは違いましたよね。よく生き残れたと思いましたよ」
「たしかに。あれは驚いたよ。絶望的状況だったのに」
ダーウィンさんがジョーカーを引かずに終了。
勝者はダーウィンさん。
少しだけ悔しい。
「ダーウィンさんが、ヤミネスさんを死なせなかったんじゃないんですか?」
「いや、ヤミネスちゃんは運がよかっただけだよ。ボクは何もしてない」
中央にあるカードを集めて、トントンとカードを整える。
「そうですか……ところで、なんでジョーカーが緑色の狐なんですか?」
ジョーカーをダーウィンさんに渡す。
「タクミくんの世界だと違うのか。まあ、特になんの意味もないかな。次は神経衰弱をやろう」
「……はい」
ダーウィンさんが指を鳴らすと、テーブルにカードが並べられていた。
手で並べるの面倒だったんだろうな。
「次はタクミくんからでいいよ」
「分かりました」
最初だから適当にめくるか。
そう簡単に揃わないからね。
カードを2枚めくるが、揃わなかった。
「まあ、最初ですから」
「次はボクかー」
そうして、神経衰弱は始まった。
俺は全然揃わないのに対して、ダーウィンさんは、めっちゃ揃う。
これは負け確だな。諦めよう。
結果、俺はカードを取れずに完全敗北。
「勝てないですねー。あ、ダーウィンさん、知ってますか?」
「何かな?」
「ジョーカーは切り札なんですよ」
「……そうなんだ」
それを聞いたダーウィンさんは、トランプをテーブルに置いて、ジョーカーを見て呟く。
なんかやらかしたか?
「ダーウィンさん?」
「ああ、なんでもないよ。そろそろ戻る?」
「はい、お願いします」
「またねー」
◇
誰かに肩を叩かれてる。
「クロスさん?どうしましたか?」
ヤミネスさんが、首を傾げている。
「これからのことについて考えてた」
「これから……?」
「どうやって生きていこうかなって。あと、ダーウィンさんの信者になることにしたよ」
「そうなのですね!」
十字架を持って笑顔になっている。
これなら、少しはダーウィンさんの力になれてるかもしれない。
信者は無理に増やすことは、しないほうがいい。
嫌われるのは嫌だし、殺されるのもごめんだ。
「祈りを捧げるか」




