1ー11 「射撃」
どうやら本当に十字架が鍵だったらしく、倉庫は開いた。
真っ白な空間にヤミネスさんが床で寝ている。
待たせすぎたか。
ヤミネスさんに近づき、肩を揺らす。
「ヤミネスさーん、起きてー」
「……んー、あともう少し……はいっ!?クロスさん!?」
ゆっくりと目を開けた、ヤミネスさんは俺を見て驚き、顔を真っ赤にして起き上がる。
「ごめんね。人が来てて、すぐに帰らせようとしたんだけど、話が長くなっちゃって」
「ここに人が……そうなのですね。何を話していたのですか?」
『魔王』の幹部が来たなんて言ったら、怖がるからやめておこう。
「迷い込んじゃったみたいで、ここから出る道を教えてたんだ。俺は説明が下手だから、それで……」
分かりやすい嘘だと分かっていてもなんとか誤魔化そうと頑張って考えたんだけど、いけるか?
「なるほど。それなら仕方ないですね」
納得したようで微笑んでいる。
その笑顔に罪悪感が俺を襲う。
「んで、これは?」
黒いテーブルを見てヤミネスさんに聞くが、首を横に振っている。
テーブルの上には、白紙とペン、白紙の大きさと同じ蓋のない箱がある。
「何か書けばいいのか?試しに……」
ペンを持った瞬間、何かの情報が大量に脳に入ってくる。
処理が追いつかない。
「―――さん―――――――――」
ヤミネスさんの声が、ノイズ混じりで聞き取れない。
体は思うように動かなく、白紙にペンが届かない。
「ヤミネス、さん……か、かか体、を……叩いて、くだ……さい……」
か弱く震えた声でヤミネスさんに頼む。
後ろにいるから見えないけど、躊躇ってるのかな?
「―――」
バシッと強く背中を叩かれる。
すると、まるで体に巻きつけられた鎖が解けたようになり、体を自由に動かすことができる。
情報が処理できたのか頭も大丈夫になった。
「はあー……疲れた」
ペンを机に置き、深呼吸をして座り込む。
汗がすごい流れてる。
息をするのも一苦労だ。
「何があったのですか⁈」
ヤミネスさんは、汗まみれの俺の背中をさする。
心の中では、「汚い」とか「くっさ」とか思ってそう。
それを言われたら心が砕ける。
「……よく分かってない。けど、仕組みは分かったかも」
「仕組み……?」
「白紙があるでしょ?そこに何かを書けば、あの箱にその何かが出現する」
「なるほど……ですが、なんでもというわけではありませんよね?」
「そう。白紙には、武器の名前を書くためにある」
「武器、ですか……」
そういえば、ダーウィンさんが倉庫に行けば報酬が手に入るとか言ってた気がする。
ゆっくりと立ち上がり、再びペンを持つ。
「もう大丈夫ですか?」
「大丈夫。ありがとう」
目を閉じて、さっき入った情報を見る。
戦闘知識、銃、爆弾、ナイフ。
白紙に書けるのは武器だけ。
目を開けて、試しに『グロック17』と書く。
日本語で書いたけど大丈夫かな?
「『グロック17』……?」
ヤミネスさんが、文字を見て首を傾げる。
読めているということは、この世界の文字になっているということか。
それと疑問に思うのは無理はない。
この世界には、銃という武器が存在していない。
『グロック17』
オーストリアにあるグロック社が開発した自動拳銃。
装弾数17。
口径9mm。
銃身長114mm。
作動方式ダブルアクション。
全長204mm。
重量705g。
銃口初速379m/s。
有効射程50m。
銃知識が浅かったから助かった。
「これで待ってればいいのかな?」
ペンを置いて待っていると、黒い文字が消えて箱が光る。
「「うっ!」」
あまりの眩しさに目を閉じる。
光は一瞬で消えて、目を開けると箱に黒い銃があった。
「それが『グロック17』ですか……?」
「そうだね。すげえ……」
銃を取ってみると少し重い。
試し撃ちしたいけど、場所がないんだよな。
「クロスさん、文字が!」
ヤミネスさんの言葉で白紙を見る。
白紙に黒い文字が表れる。
「なになに……『試し撃ちをしますか?したいのなら丸をしたくないのならバツを下の空欄に書いてください』」
そんなのしたいに決まってるじゃん。
迷うことなくペンを取り、空欄に丸を書いた。
文字は消えて、瞬きをしたとき、真っ白な空間は多くの色で染められていた。
「……え?な、何が……?え……?」
「すげえ……」
ヤミネスさんは困惑していて、俺は驚いている。
地面は黒い鉄板、壁だろうか灰色の鉄板が左右にあり、天井は黒い鉄板があり、一つの照明がついていて光っている。
テーブルはさっきよりも横に長くなっていて、俺とヤミネスさんがいるところから約50メートル先には人型の的が1個ある。
テーブルの上には、変わらず白紙、ペン、蓋のない箱があった。
「んじゃ、早速試し撃ち……したいけど……」
「幻……?ではないですよね」
困惑し続けるヤミネスさんをどうするか。
一緒に試し撃ちをするか、先に家を探索してもらうかのどっちかだ。
「ヤミネスさん、先に家に行ってみる?それとも、ここで一緒に試し撃ちする?」
「えーっと……家に行ってきます」
「分かった。じゃあ、終わったら俺も家に行くから」
「はい。それでは待ってますね」
後ろに向かい、扉を開けてゆっくりと閉める。
ヤミネスさんにとってここは、つまらないかもしれない。
「よーし、どんなもんかなー」
テンション上がってきた。
人型の的に銃を向ける。
まずは、片手で撃つ。
引き金を引くとバンッ、と銃声が鳴り響く。
薬莢が飛び出し、地面に落ちる。
銃弾は的の右肩あたりに当たった。
狙いは頭部だったんだけどな。
銃を撃った反動が想像以上に強い。
ゲームセンターのとは全然違う。
「次は両手で」
銃弾は的の左胸あたりに当たる。
うーん、何がダメなんだろう。
「エイムがダメダメなのは、この世界でも同じか。片手より両手のほうが撃ちやすいかも」
銃弾はまだ残ってる。
的の頭部に当たるまで撃ち続けるか。
銃を撃つたびに薬莢が飛び出す。
的には当たっているが、ヘッドショットができない。
それにしても銃声がうるさい。
聴覚を鋭くしてたら気絶してる。
撃ち続けていると銃弾が出てこなくなった。
弾切れか。弾倉がないからどうしよう。
そう思っていると白紙に文字が表れる。
「えー、『試し撃ちを続けますか?続けるのなら丸を続けないのらばバツを空欄に書いてください』」
迷わず丸を書く。
すると、丸は消えて箱に弾倉が一個出現した。
空になった弾倉を外し、箱にある弾倉を挿入する。
「目標はヘッドショット」
狙いを定めてひたすらに撃ち続ける。
弾切れしたら、空欄に丸を書き、弾倉を外して、新しい弾倉を挿入する。
「まだまだ……ヘッドショットするまで終わらない」
そして、どのくらい経ったのだろうか。
気づいたら、薬莢塗れの地面に仰向けに倒れていた。
頭は痛いし、両手も痺れている。
「だあー、もう!全然ダメ!はあ……けほっ」
火薬の匂いが充満していて、呼吸するたび、咳をする。
「ヘッドショット難しすぎでしょ……けほっ……どう……けほっ……すれば……けほっ」
ゆっくりと起き上がり、テーブルを掴んで、立ち上がり、置いてある銃を持つ。
「もう少しだけ頑張ってみよう。けほっ」
弾倉を外して、新しい弾倉を挿入する。
目を鋭くして、的の頭部に銃を向ける。
的は頭部以外に当たっていて、ボロボロの状態。
「……」
焦らず集中して的の頭部を見る。
そして、引き金を引く。
すると、弾丸は的の頭部に当たった。
「は……はは……けほっ……やっと……けほっ……ヘッドショットでき……たあー……」
テーブルに銃を置き、座り込んで項垂れる。
全身汗でぐっしょり。
少し吐き気がする。
達成感があって、俺は満足だ。
「こんなところで寝ちゃダメか。……片付けないと」
面倒だと思いながらも、ゆっくりと立ち上がり、白紙の空欄にバツを書く。
すると、銃が消えた。
それだけじゃなく、地面に転がっていた薬莢も消え、火薬の匂いも消えて、空間が真っ白になっていく。
「……家に行くか」
銃に関して間違いがあった場合は、指摘してくれると助かります。




