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恐竜原人の創造  作者: SHIRATORI TOSHIHIDE


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40/43

ーー人生ーー


ーーそれからの青年の人生は、誰が見ても「普通」と呼べる幸せな人生だった。


数年後、彼は結婚し、小さな家庭を築いた。

仕事は順調で、大きな成功を掴んだわけではないが、堅実に努力を積み重ねていった。

やがて手に入れた小さな新築の家には、冬の朝に湯気を上げる味噌汁の香りと、子どもの笑い声が満ちていた。


あの正月を境に、彼はきっぱりとパチンコをやめた。

代わりに始めた自転車の趣味は、気づけば人生の支えになっていた。

休日の朝、まだ街が眠る時間にペダルを踏むたび、冬の空気の冷たさが頬を刺す。

それはあの雪山の朝の感覚とどこか似ていて、青年の胸にかすかな懐かしさを呼び起こすのだった。


仕事に追われ、家族を想い、歳を重ねる日々。

大きな幸運もなければ、大きな不幸もない。

けれど、その穏やかな繰り返しの中に、確かな充実があった。

それは彼があの冬の日に見つけた「生きる」という行為そのものの尊さだったのかもしれない。


昔よりも飲みに出かける回数は減ったが、変わらぬ仲間たちとの集まりは今でも楽しみだった。

互いの容姿の変化を笑い合い、血圧の話で盛り上がり、誰かが冗談めかしてこう言う。

「なぁ、あの恐竜の話、まだ信じてんのか?」


青年は苦笑いを浮かべてグラスを傾ける。

「信じてるも何も、最初から俺が作り話したんじゃなかったっけ?」

そう言って、いつものように場を和ませる。

そのやりとりは、原人に出会う前からずっと続く“お約束の小芝居”になっていた。

誰もそれを深く追及することはない。


あの日の出来事――

そして、実家の庭の奥に静かに眠るあのタイムカプセルのことを、青年は一度も誰かに話すことはなかった。

それは自分だけが知る、世界の秘密。

時の流れとともに、あの冬の記憶は雪解け水のように薄れ、やがて夢の断片のようになっていった。

けれど、心の奥のどこかで確かに、あの声は生き続けていた。


そして、長い年月を経て、青年は老いを迎える。

静かな晩年を過ごしながら、人生を振り返る夜、ふと窓の外を見ると、あの日と同じような青い月が浮かんでいた。

(ああ、あれは間違いなく、本当にあった出来事だったな。)


そう呟くと、彼は静かに微笑んだ。

その表情は、あの冬の朝に見た恐竜原人の優しい瞳とよく似ていた。


やがて、青年はその生涯を全うし、静かに長い旅を終える。

彼の人生は決して特別ではなかったが、確かな意味と温もりに満ちていた。


もちろん――

あのカプセルは、今も地中深く、誰にも掘り起こされることなく眠っている。

その中で、未来へ向けた青年の想いと、原人との記憶は、今も静かに息づいているのだった。

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