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恐竜原人の創造  作者: SHIRATORI TOSHIHIDE


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ーー宝探しーー


――自分の中に“特別な何か”がある。

それを見出したのは、あの奇妙な存在だけだった。

学生の頃に抱いていたような探究心、そしてほんの少しの誇りが、胸の奥で息を吹き返す。


ーー「……わかりました。普段のようにしてて大丈夫ですか?食事をしたりしても?」


アーモンドミルクを一口すすりながら問いかけると、

原人の声は一瞬の間を置いて、静かに応じた。


(通常の行動をしていただいて構いません。

ですが、今回は“会話”というよりも、あなたに“行っていただきたい場所”があります。

仕事もすでに長期休暇に入られていますから、コピーの用意も必要ないと判断しました。)


ーー「……コピーの用意、ね」

青年は苦笑を漏らす。

まるで自分の生活をすべて把握され、行動の先を読まれているようだ。


仕事以外の自分なんて、取るに足らないとでも言いたげな口ぶり。

だが、たしかにいまの自分は暇を持て余している。

雪も落ち着き、外出にはちょうどいい。

もし行くべき“場所”があるのなら――それはそれで悪くない。

少なくとも、無駄にパチンコ屋で時間を潰すよりは。


それでも、すべてを見透かされたような感覚が拭えない。

通信の向こうの存在は、やはり人間ではないのだと、改めて思い知らされる。


(今回はあなたにお願いしたいのは――そうですね、“宝探し”としましょう。)


ーー「え? え? なに? 宝探し?」

青年はアーモンドミルクを飲みかけたまま固まった。

耳慣れたはずの穏やかな機械音声が、まさかそんな単語を口にするとは思わなかった。


(そうです。せっかくですので、休日らしく“楽しめる”ようにと考えました。)

(あなたの持つ特別なプログラムが作用すれば、比較的容易に見つかるはずです。……いかがでしょうか?)

(あなたの行動予測によると、今後数日は自由に行動可能と判断できます。)


ーーわかってるから、言わなくてもいいんじゃないかな。

その言葉が頭に浮かんだ瞬間、青年はなんだか恥ずかしさに似た感情に襲われた。

人間の生活リズムすら逐一分析されていると思うと、どこか居心地が悪い。


ーー「その言い方はちょっと無いんじゃないですか? でもまぁ、その通りですけど。」

ーー「でも現実世界で本当に探せるような物なんですか? 開発者の記憶があれば見つかるとか?」


(やはり解釈が速いですね。)

原人の声が、わずかに満足げに響く。

(こちらからいくつかの情報を提供します。その情報をもとに、あなた自身の感覚で見つけ出してほしいのです。)

(制限時間は――48時間とさせていただきます。)


ーー「48時間? そんなに長いってことは、すごく遠い場所にあるとか……?」

思わず天井を見上げながら呟く。

ーー「でもまぁ、年末年始までの暇つぶしと考えたら……たまには遠出もありかもな。」


(承諾ありがとうございます。)


青年がまだ「承諾」と言葉にすらしていないのに、原人はすでに結論を受け取っていた。

その間合いに、まるで“思い直す可能性”すら計算済みだと言わんばかりの確信が滲む。


青年は息を吐いて、苦笑した。

ーー「……相変わらず先回りが得意なんですね。」


カップをテーブルに置くと、ゆっくりと立ち上がった。

どこか、心の奥がくすぐったくなる。

再び“非日常”が手招きしているような――そんな予感が、静かに広がっていった。



(それでは、始めていきましょう。)


原人の声は、いつもの穏やかさを保ちながらも、どこかに“儀式の始まり”のような荘厳さを帯びていた。

(この地球には、いくつもの不可解な現象が起きた場所や、古くから語り継がれる言い伝えが存在しています。)

(それらの多くは、宇宙人の仕業、妖怪の仕業、あるいは未確認生物――UMAの仕業と呼ばれてきました。)


ーー「クイズ形式なのか。しかもかなりオカルトちっくだな。」

青年は少し身構えながらも、どこか心が躍るのを感じていた。

原人の声が続く。

(その中には、我々“恐竜原人”に関わる場所も存在しています。あなたの中にある開発者のプログラムには、必ずそれが記されているはずです。)

(まずは――そこに、行っていただきます。)


青年は一瞬、言葉を失った。

恐竜原人という存在が、まるで“地球のオカルト文化”の一部として軽やかに語られることに、妙な感覚を覚えた。

ーー彼らはかつて神話の根幹に触れた存在。それが今、まるで休日のゲームのように“宝探し”へと姿を変えている。

だが、それがまた、どこか人間らしい。

原人が人間を生み出したのなら、その“遊び心”もまた、受け継がれたものなのかもしれない。


青年はソファにもたれ、頭の中で地図を広げる。

ーー「古くからの怪異の地…まず妖怪系は全国にあるけど、恐竜原人と結びつくとは思えない。これは却下だな。」

ーー「可能性が高いのはUFO関連。福島、広島、長崎…虚舟の伝説は茨城の舎利浜。あと石川、高知、長野、三重、沖縄、甲府、千葉……キリがない。」


コーヒーの香りが冷めていく。思考がどんどん深みに入っていく。

ーー「……待てよ。多くのUFO伝説は“乗り物との遭遇”だ。だが原人は調査を目的にしていた。人間に直接害を及ぼさず、地表の変化だけを伴う現象……」

ーー「そういえば高知の介良事件は地震の後だったな。でもあれは人間に恐怖を与えすぎている。違う……原人の出入りではない。」


その瞬間、ふっと、何かが“頭の中に降りてくる”ような感覚に包まれた。

霧が晴れるように思考が一点に収束していく。


ーー「……長野、松代か。世界最古のピラミッドとも言われる皆神山。」

ーー「ピラミッドでいえば青森の大石神もあるし、四国の剣山も有力だ。けど……松代だ。昭和40年の群発地震――あれが関係しているはずだ。」


ーー「どうですか? 松代の皆神山では?」


青年の中で確信にも似た直感が点いた。

その答えに、原人の声が少しだけ柔らかくなる。


(――素晴らしい。やはりプログラムは正常に働いていますね。)

(それでは、急ぎましょう。)


その一言で、室内の空気が変わった。

どこか見えないベールが動き出す。

現実と非現実の境界が、またひとつ溶けていくように――。


青年は立ち上がり、無意識に窓の外を見た。

雪はもう止み、遠くの空が薄く光を帯びている。

「宝探し」などという言葉ではとても足りない。

これは、きっと“何か”に導かれる旅の始まりなのだと、胸の奥で確信していた。



48時間以内に見つけなければならないらしい。

しかも、今年は例年になく雪が多い。松代までの移動だけでも一苦労だ。


ーー(冬じゃなければスムーズにいって二時間半ってところか……。

峠道や白馬越えはこの時期は無謀だな。やはり高速で行くしかないか。)


テーブルの上のコーヒーはすっかり冷え切っていた。

青年は残りのアーモンドミルクを注ぎ、かき混ぜながら一口だけすすった。

舌に触れる冷たさが、現実を確かめるように身を引き締める。


マグを片手にキッチンへ移動し、飲み干したカップとグラスを静かに洗う。

蛇口から流れる水の音が、妙に遠く聞こえた。

一息つく間もなく、一張羅を脱ぎながらクローゼットへ向かう。


ーー(雪山に行くと思えば、動きやすさ重視だな。

長野の寒さは甘く見ちゃいけない……。)


普段はほとんど出番のないフィルジャケットを取り出す。

厚手のインナー、撥水パンツ、手袋。

車社会のこの町では雪装備を整えるのは簡単なことだったが、

今日はその手慣れた準備が、妙に儀式めいて感じられた。


玄関で靴を履き、エンジンをかけるために外へ出る。

ドアを開けた瞬間、冷気の上澄みに太陽の陽気が薄く重なった風が頬を撫でた。

冬の空気独特の透明な香りが鼻を刺し、肺の奥まで冷たく染みわたる。


ーー(行くしかない。何が待っていようと。)


青年は息を吐き、白い煙の中へ足を踏み出した。


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