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恐竜原人の創造  作者: SHIRATORI TOSHIHIDE


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ーー人間の真実2ーー


(あなたにお願いがあります。)

(現時点で我々が必要としているのは、暴露でもなく、恫喝でもなく、協調の検証を行うための“協力者”です。あなたのように我々の存在を肯定的に受けとめ、かつ人間としての感情を理解している個体は、極めて貴重です。)


その言葉は、青年の胸を不意に温めた。特別扱いされることへの戸惑いと、選ばれた者としての責任感が同時に押し寄せる。三千年だ、制御だと数字が飛び交う中で、結局最後に残るのは「人と人とを繋ぐ仕事」なのだと、彼はぼんやりと思った。



ーー「こうしてあなたと対話するのに、選ばれた私は今後何をしたらいいのでしょうか?」


(今まで通り、あなたの人生を生きてください。それが我々の望むものです。)


青年は一瞬、肩透かしを食らったような表情を浮かべる。もっと大仰な使命や、世界を変える役割を期待していた自分を恥じる気持ちと、どこか安堵する気持ちが入り混じる。


ーー「何か特別な役割があるわけではないのですね。」


(いいえ。今回の訪問は定期調査です。地表の状況を確認し、自己学習機能の進捗を評価するのが主な目的です。その過程で、開発者の意向を色濃く受け継いだあなたと接触できたのは、我々にとっても稀有な出来事でした。奇跡に近い、という言い方が適切でしょう。)


青年は言葉を探すように息を吐く。期待が外れた寂しさと、同時に自分という存在が誰かの設計図にとって“興味深い観測対象”であるという事実に、胸の奥がざわつく。


ーー「では、このプログラムは私から子孫へと継承されていくのですか? 自分の子どもが同じ運命を辿る可能性は──」


(違います。)

(あなたの中にある“開発者の痕跡”は、あなたの生命が尽きた瞬間に、ランダムに新しい個体へと転送されるよう設計されています。つまり血縁直系に優先して移るとは限らない。確率的な再配分が行われるのです。)


青年はその言葉に肩を落とす。期待していた継承の連鎖ではなく、種の流れの中で偶然として再出現する仕組み。そこにあるのは血統ではなく、確率のネットワークだった。


ーー「つまり、ピラミッド建設時に同じプログラムを持っていた人物の“生まれ変わり”のようなもの、という解釈で合っていますか?」


(概ねその表現で差し支えありません。)

(我々の記録には、古代に同様のプログラムを持つ者がいたことが示されています。その者たちの行為や記録が、いくつかの遺物や壁画として残されたに過ぎません。)

(あなたが現在ここにいること、その思想を形成してきた流れ──それ自体が種々の偶然と設計が織りなす結果なのです。)


青年は視線を落とし、ゆっくりと頷く。誇りと戸惑いが混ざった静かな受容。


(せっかくあなたに会えたのだから、私たちから少し面白い話をしましょう。)

恐竜原人は、これまでより少しだけ砕けた調子で語り始めた。青年をじっと見下ろすその視線には、好奇心が含まれているようにも感じられた。


(あなたは今の私たちを見て、「想像していた姿と違う」と感じましたね? それは正しい。私たちの祖先――進化前の姿が、あなたの描く壁画や伝承に残っているのです。)

(では、あなたは人間がこれからどう進化すると考えますか?)


青年は一瞬たじろいだが、すぐに口を開いた。これまで胸に温めてきた思索を、できるだけ真っ直ぐに伝えたかったのだ。


ーー「いいですか? 僕の考えを聞いてください。人間は、これからさらに進化する。まず生活環境が大きく変わります。地球の気候や環境が変動する中で、人間は天候に左右されない“殻”――シェルターのような生活空間を作るでしょう。労働は高度な人工知能に取って代わられ、肉体を酷使する必要は減る。結果として、体毛は不要になり、皮膚の色合いは変わる。食事も濃縮栄養やサプリメントで賄うので咀嚼は減り、消化器系はスリム化する。運動量が落ちるから体躯は小柄になる。けれど日常的にデジタルな刺激を受けることで視覚と脳は発達し、頭部や手指が変化していく――。その姿は、いわゆる“グレイ”に似るかもしれません。つまり、あの“宇宙人”と呼ばれる形象は、未来の人間の姿の一断面なのではないかと。UFO目撃だって、未来の子供たちが“修学旅行”で過去を覗きに来ているだけかもしれない、と。」


青年の言葉は早口だが理路整然としていた。彼の説明は妄想ではなく、観察と論理の連なりとして響く。恐竜原人は、しばらく黙って聴き、やがて小さな間を置いて答えた。


(……さすがですね。)

(開発者の仕掛けた“遊び心”があなたの思考をここまで導いたのか、我々にも驚きがあります。)

恐竜原人の声は脳裏に直接響き、温度を伴うような確かさを持っていた。だがその言葉は青年を咎めるものではなく、評価する声だった。


(あなたの推測――時空を超えた往還や、未来人が過去を学びに来るという観点は、我々の観測と驚くほど合致します。)

(プレゼントとして申し上げるならば、あなたの直感は正しい。時空移動や時間に関わる技術の初期的な形は、人類が我々より先に獲得する可能性があります。未来のあなた方が、“教え”を遅らせるよりも先んじて技術を発揮し、自らの進化を促す――そんな未来も想定され得ます。)


青年の胸の内に、言い知れぬ高揚が波打った。自分の空想が単なる戯言ではなく、遥かな確度で未来と結びついているという予感。恐竜原人の淡々とした肯定が、それを現実味あるものに変えてしまった。


(ただし一つ、注意しておきます。)

(未来に到る道筋は単一ではありません。あなた方の選択、学習、技術開発の速度が変われば、姿や文化の行く先も変わる。私たちがここに現れたのも、単なる“観測”ではなく、進捗の確認と必要があれば軽微な調整を行うためなのです。)


青年は黙って頷いた。頭の中には、幼い頃に描いた怪物や石板の絵がちらつく。だが今は、それらが未来の可能性と冷静に結びつくのを感じていた。


(それともう一つ。あなたが言った“グレイ”の寓話について)

恐竜原人は少しだけ声音を変えた。説明はより穏やかで確信に満ちている。

(未来人が過去に訪れる“教育的行為”の可能性はあります。だが、それはあなた方が想像する映画的な侵入ではなく、もっと慎重で、観察と断片的な干渉に留まる。未来の彼らが現在の技術や倫理をどのように扱うかは、まだ分かりません。だからこそ、あなたのような“遊び心を残した”個体の存在が重要になるのです。)


青年は胸の内で静かに笑った。大きな発見や劇的な使命が与えられるわけではない。けれど彼の思索が、誰かの“贈り物”と呼べるほどに価値を認められたこと――それだけで、足元がふわりと暖かくなるようだった。

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