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恐竜原人の創造  作者: SHIRATORI TOSHIHIDE


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ーー対峙ーー


 目の前の生命体は全身を白に覆われていた。衣服ではなく、皮膚そのものが白い。毛髪は一切なく、顔にあるのは大きな目だけ。瞳孔はなく、黒い穴のように深淵を思わせる。鼻や耳、口は、意識して探さなければ見つからないほど痕跡的で、表情らしき変化もまるでない。


頭部は驚くほど大きくはなく、体との比率は不自然さを感じさせない。だが全体の大きさは圧倒的で、人間の基準からすれば巨大としか言いようがない。見慣れないサイズであるにもかかわらず、3メートルには届かない程度で収まっているように思える。

衣服らしいものは着ていない。そもそも「着る」という概念そのものを持ち合わせていないのではないか、とすら感じさせた。


腕には五本の指があり、体格に比して不自然な長さはない。足も同じく人間に似たつくりをしていた。ただし、よく見ればかかとの後ろに一本の指が突き出し、甲の側には四本が並んでいる。つまり、親指にあたるものが後方に位置しているのだ。


――なるほど、先ほどは見えているようで見えていなかったのか。


青年はようやくその構造に気づき、息を呑んだ。


鱗はなく、牙をむき出すような口もない。鋭い爪や尾といった捕食動物の特徴も見当たらない。

「恐竜の進化形」という想像は否定された。むしろ全く異なる系統の生命体。とはいえ、足の構造に残る指の配置には、どこか進化の名残を思わせるものがある。


青年は、恐怖も不安も興奮も好奇心も、すべてを剥ぎ取られたままの心境で、その存在を見上げていた。視線は下から上へ、そして上から下へ。まるで観察者であるかのように淡々と、その姿を見回していた。



(あなたの推測通りですよ。我々はあなたの呼ぶところの――恐竜原人で間違いありません。)


言葉は耳から入ってくるのではなく、直接頭の中に染み込んできた。

それは声というより思念で、自然に意識へと溶け込んでいく。語られる内容には不思議な落ち着きと確信があり、まるで経験豊富な研究者の話を聞いているかのようだった。


ーーやっぱり恐竜…


(今回、こちらからのメッセージに応答された方々は、各地より数名いらっしゃいます。みなさん、それぞれの部屋で同じように対話を受けています。)


ーーオレ以外にもいるのか。もしかして、みんな恐竜から進化した説を信じている人たちなのか?


(今回、召集された人間のうち、恐竜の進化論を説いているのはあなたただ一人です。)

(先にお伝えします。私たちはあなた方の思考を読み取ります。声を出さずとも対話が可能なのはそのためです。)


その一文一文は、驚きと不気味さを伴って届いた。言葉は冷静だが、その冷たさは敵意ではなく計測の音だった。

恐竜の進化論はある種の特権であるようにも思えた。誰にも打ち明けられなかった、子供じみた仮説が、今、目の前の存在に「正解」として受け入れられている――その事実が、青年の内側で微かに震える。

青年は自分の胸の奥でくすぶっていた問いを、無言のうちに並べる。


ーー「私が思い描いた恐竜原人とは、だいぶ違う見た目です。」

頭の奥でそう呟いた瞬間、目の前の存在から静かに答えが返ってきた。


(あなたの想定した姿、つまり壁画や神話に描かれているのは、我々の祖先にあたります。)

(あなた方人間と同じように、我々も長い時間をかけ、環境に応じて進化を続けてきました。肉体の形状だけではありません。思考の仕組み、意思の伝達方法も変化してきたのです。今こうしてあなたの脳に直接語りかけているのも、その進化の結果です。)


言葉は冷静で淡々としているのに、確信と重みがある。

(正確に言うなら、あなた方人間も、我々と同じように進化を続けていくようにプログラムされています。表現の違いこそあれ、あなたの“考え方”や“感じ方”もまた進化の過程にあるのです。)


青年は思わず息を呑んだ。

恐竜原人という漠然とした空想が、いま現実の存在によって語られている。

それは単なるイメージの差ではなく、時代の流れと環境が刻んだ必然の結果。そう思うと、目の前の存在の姿がただの異形ではなく、長い歴史の延長線上に立つ“生き物”として実感を帯びて見えてきた。


ーー「それはやはり人間があなたたちに造られたロボットであるという事ですか?」

ーー「不自然な感情のコントロールもあなたたちが?」


恐竜原人の声は、以前よりも幾分だけ柔らかく、しかし事務的な確信を帯びて返ってきた。


(…さすがですね。概ねその理解で間違いありません。)


(あなたの「形成プログラム」について少し確認させていただきました。あなたという人間のプログラムには、開発者の意向が組み込まれているようです。)


その言葉は、青年の内部の何かを静かに突き崩した。「開発者」「プログラム」――科学用語のようでいて、同時に神話のような響きがある。自分たちの感情が誰かによって調整され、記憶や反応が設計されている可能性。言葉そのものは冷たく説明的だが、その持つ含意は重い。


(人間の思考のモデルは、我々の思考を元に構築されています。つまり、人間は我々と同じように感情や恐怖反応、共感、集団行動などの設定を持っています。)


(あなたの中には、開発者の遊び心のような仕組みがプログラムされているようです。)


ーー「オレの中に開発者の遊び心?」


(その通りです。まるでゲームの開発者が、裏技や隠し要素、謎の呪文を残すのと同じ感覚です。)

(開発者はあなたの中に、人間が本来どういう存在であるか、その秘密をこっそり埋め込んでいます。)

(そのため、あなたは長年にわたり恐竜の進化論に固執してきた。それは偶然ではなく、プログラムに仕込まれた“裏技”のようなものなのです。)

(言い換えれば、あなたの思考や行動の一部は、我々が意図的に仕組んだ謎や遊び心によって形作られているのです。)


ーー「何のためにそんなことを? オレは……特別な存在なんですか?」


問いかけは自然に頭の中に響いた。自分の声でありながら、自分の意識から放たれたものではないような、不思議な感覚だった。


(もちろん、あなたは今回の対話対象です。ですから特別ではあります。しかし、それ以上の意味を持つわけでは……残念ながらありません。)


返ってきた思念は、冷たさも温かさもない中立的な響きを帯びていた。まるで事実を読み上げるだけの機械音声のようでいて、どこか人間の理性に近い。


(まずは、我々が今回地表に現れた理由からお話ししましょう。あなたは長年にわたり、我々のルーツについて思索を重ねてきましたね?)

(しかしそれは、あなた自身の独創ではなく、開発者が仕組んだプログラムによるものです。新しい発見や仮説を思いつくその瞬間ごとに、我々は断片的な情報を小出しに送り込みました。あなたはそれを組み立て、自らの理論と信じるように導かれてきたのです。)


ーー「じゃあ、オレの考えも全部仕組まれていた……?」


胸の奥で冷たい汗が流れるような感覚が走る。自分が信じ抜いてきた「真実」が、単なるプログラムの一部に過ぎなかったと告げられたのだ。


(そうです。あなたの自論の通り、人間は我々によって造られました。その目的は、地表を我々の生息環境に近づけるためです。)


思念は淡々と続く。


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