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その一

 四

 自分が窮地に陥った時、にたりと笑って、腹と眉とに力を入れる。

 このとき戦っている相手は、目の前に居る取るに足らない俗物ではありません。信じたものをあきらめさせようと躍起になっている世の中と、信じたものが自分の外では通じないのではないかと絶えず惑う、弱い自分なのです。

 退()けません。


 七

 生きるにあたって必要なものは、元来技術ではなく覚悟でしょう。技術は必要ではありますが、それは次々に起こる用事をこなす事ができるだけです。何かを創りあげる事はできません。覚悟している人だけが、結局何事かを()すのです。


 十

 策の巧拙において劣った時、やられたとは思うがそれほど苦しまない。だが、自分が為すべき事をせずに居て他人が先んじてそれに手をつけた時には、敗北の感じが強くする。そして、弱き人を顧みる事において自分が人に遅れをとった時には、立てなくなる程の衝撃がある。


 十二

 一位の栄誉もあれば、完走する栄誉もあります。けれど、僕達が今迄感動した事というのは、主に、否、完全に後者に属します。もしかしたら、本来感動というのは、何かの程度の高い次元に対して湧く感情ではなく、もっと本質的に情感に根ざしたものに対して感じるものなのかも知れません。


 十三

 私は余裕をもって生きている人が好きではありません。何と()うか、十二分に安全な所から、『今度はこれを試してみよう』とて幾つかの選択肢の中から適宜選んで()るのを見ていると性に合いません。自分自身がそんな生き方をして来なかった事に拠るのでしょうか。私と通底するところが無い様に感じるのです。これは偏った見方なのでしょう、屹度(きっと)

 しかし人生の大切な分岐点には常に選択の余地などあり得ず、運命的にそなえられた一本の道があるだけの様に思えるのです。理論的に得失を予想計量してどれかを選ぶというのは、漱石が虞美人草に書いた様に、『生か死か。それだけが悲劇である』の悲劇ではなく喜劇、則ち人生の重大事ではない様に思うのです。


 十六

 人は何故一肌脱がずに生きている事が出来るのだろうかね。心にもない言葉を口にして生きる事が出来るのだろうかね。私にはそのいずれも出来そうにありません。私の目から見て、それは生きている様には見えません。

 そういうものが目につく時には、私は嘗て読んだ本の世界に還りたくなります。倉田百三、ドストエフスキイ、魚住折蘆、モーパッサン、ゴーゴリ、ポー……。皆、教養を積むとか事業を行うとかいう次元ではなく、直ちに現在、今の瞬間の生の意義を捜し求めて、懸命で余裕の無い、怖い位の生存を実践した人達です。意識して選択して、そう生きた訳ではありません。それしか道が無かった、そうせざるを得なかったのです。猛烈に緊張した時間が連続し、それを生きた証として記録しました。私の心の故郷のひとつです。

 以前書いたと思いますが、『現実の世の生存は希薄である。本の世界を恋い慕うて何が悪い』という気持ちになります。私は、自分が経験したこういう世界と対比すると、普通に社会で生きる事が甚だしい苦痛となるのです。今の私には昔とは比較にならぬ程の数の友人がいます。妻たる君を含めてね。だから全くの独りだった頃とは違います。けれども、どうしてもこういう気持ちになる事があるのは許して下さい。


 十九

 そういえば、あなたの憧れをまだ聴いた事がありません。それを聴かせてくれませんか。人がそれを喋る時、或いはまたそれを求められて拒絶する時、どちらの場合も、隠しても隠し切れないその人の本質が見えますから。

 ブログは毎日更新しています。

https://gaho.hatenadiary.com/

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