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「俺の実妹でトップアイドル」の「アイドル女ドルヲタ」と「女ヲタヲタ」してたら、俺の綱渡りドタバタラブコメが走り出したっ!!  作者: 懸垂(まな板)
第一章 俺と雪さんはめでたく結ばれました

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第八話 美少女と、美少女を生んだ美女と、俺の美人な彼女さん(実家でのお泊り)


「もうやたら彼女ですってオーラ出すけどいい?」

「あ、うん」


 家の扉を開ける前、柚季(ゆずき)さんであり雪さんである彼女が言ってきた。

 それも満面の笑みつき。言っていて恥ずかしく感じないのだろうか?

 こっちの方がドギマギして困る。ドギマギ?魔法少女かなんかか?


「ただいま」


 中からぱたぱた走ってきた母ちゃんが手をタオルで拭きながら駆け寄ってくる。

 炊事をしていたのだろう。頭が上がらない。

 

 そして流石、恋乃実を産んだ母だ。こういう嬉ししそうな時の顔が恋乃実にそっくりだ。

 いや、恋乃実が母ちゃんにそっくりなのか?まあいいや。

 母ちゃんもアイドルが出来ると思える、瞳が柔らかく潰れた狐のようなとろとろの笑顔。


「こんばんは。さっ、あがって〜」

「おじゃまします!っ!?」


 雪さんのヲタク(りょく)を俺は認めているのだ。

 俺は見逃さなかった。

 雪さんの表情がピクッっと反応していたことに。


 この母ちゃんの顔を見てコノミの面影を感じないはずは無い。最新のコノミのアップロード画像を眺めては、今日を清く正しく生きていく栄養にしている雪さんだ。多分マドマギ……ドギマギしたはず。


 雪さんがうちのリビングに入る。


「これ……良かったらご家族でどうぞ!」


 一旦、雪さんは思い違いを感じたのだろうか、冷静に手荷物を母ちゃんに渡してくれる。

 さっき俺とカフェで買った洋菓子。俺が「母ちゃんはおやつが大好きだ」と吹き込んだので、雪さんが「お世話になるのだから」と言って勝手にレジに持ってった。


「気を遣わなくて良かったのにぃ〜」

「いえいえ。そんなわけにもいかないので……いきなりお邪魔してすみません」

 雪さんはぺこりと一礼した。


「改めまして、孝晴(たかはる)さんとお付き合いをさせていただいています。雪村柚季(ゆきむら ゆずき)といいます。よろしくお願いします」


 次は丁寧なお辞儀を彼女がした後。


「息子と仲良くしてくれてありがとうね!母の大崎(かえで)です!たかちゃんには勿体無い美人さんだぁ……」


 母よ。そういう明け透けのない言葉は心の中だけに留めておいてくれ。

 いや、確かに自分でもびっくりするが、こんな美人さんがそんなこんなで今日から俺の彼女だ。


「さっきまでこの子に彼女さんがいるって知らなかったからビックリしてるんだぁ。たかちゃんも隅に置けないわねぇ」


 うふふっ、と笑う母ちゃんは楽しげだった。

 そりゃそうだ。俺もさっき出来た人生初めての彼女だ。


「母ちゃん。柚季さん困ってるし。この辺にしておいてくれると助かる」

「ああ、私ったら。ごめんなさいね」

「!!!!!????」


 てへっと、舌を出してグーを自分の頭にコツンとぶつけるお茶目な母ちゃんだ。

 そして、恋乃実が小さい頃からこんな母の姿を見せられて育った結果、今では恋乃実やコノミの癖にもなっているポーズ。雪さんは露骨に驚いた顔をした。


「私、夕飯の準備があとちょっとだから、二人でゆっくりしててくれる?」

「あ、お母様。お手伝いしましょうか?」


 雪さんがキッチンに立つ姿を一瞬想像するとたまらなかったのだが、今はもっと大切なことが……。俺はそんな妄想をかき消してタイミングを伺っていた。


「いいのいいの。もうちょっとだから、ね?」

「では、お言葉に甘えて……」

「それでよろしい!若いお二人にあとはお任せしまーす!」

 そう言い残すと母ちゃんはリビングへ消えていった。


 と、思ったら、遠くから聞こえてきた。


「あっ、おにいちゃーん。みーちゃんすぐ帰ってくるって!」

「あーい」


 軽く、返事はしておく。タイムリミットはもう秒読みらしい。


「孝晴くん、お兄さんなの?」

「そう。可愛い妹がいます」


 リビングに飾ってある家族写真を指差すと、雪さんは近づいていった。

 家族写真は、もう十年以上前のもので、自分や恋乃実に今の面影すらない。

 小さい頃の家族集合写真。確か、恋乃実の誕生日の時の写真。


 ちょっと待てよ。

 ご丁寧に、「七月七日」とケーキに書いてある。

 

「この写真……私、どこかで見たことあるかもしれない」

 横で眺める雪さんがポツリと呟いた。

 そういえばこの写真、運営に渡したって前に言ってなかったっけ?恋乃実……。

 イベントの生い立ち動画を演出するときに演出家さんが欲しがってるとかなんとか言って。。


「まさか!でも、だとしたら、前世も柚季さんと俺は繋がっちゃってましたか。ははっ」

「そうかもね!」

 ちょっと笑ってくれた彼女が愛おしい。

 軽く話題を流しておいたその視線の先、雪さんがある一枚に気が付いた。


「あっ!KARENの武道館ライブの時の生写真じゃん。どうして飾ってるの?お気に入り?」

「遠目で見てわからないと思うんだけど、実は直筆サインとコメント入りを引けたんだよ。自慢。」

 

 KARENの物販では生写真が販売される。1セット1000円ピッタリの5枚入り。確か、武道館ライブの時の最新弾は全120種だったと思う。大人気で今回で第5弾だ。

 たまに、KARENメンバーの直筆サインが封入されているからコレクターズアイテムである他にサイン入り生写真が欲しいファンはこぞって何セットも、何十セットも購入する。

 いわば、ヲタクホイホイだ。

 そして、物販の光景から生写真は「積むもの」だ。

 積読(つんどく)とかと用法が一緒のアイドルヲタク用語だ。ぜひ、覚えておいてくれ。

 

 補足だが、恋乃実がリビングの机で楽しそうに結構な枚数にサインをカキカキしている姿を昔から沢山見てきたから、あれはスタッフさんが嘘ついて筆跡を真似て書いているものではない。

 諸君も信じてほしい。

 まさか、我が家のリビングで作成された直筆サイン入り生写真が、俺の手に渡って、最終的にリビングに飾られるようなことになるとは生写真本人も思ってないだろう。いや、生写真は人じゃなかった。

 

 雪さんが視線を写真立てへ移して観察している。


「サインはわかるけど、コメントがあるの?」

「手に取って、こう、光に反射させるように斜めから見てみて」

「ほんとにっ!?失礼します……」


 雪さんは写真を大切に手に取ってくれた。


 コノミの写真はライブ中のもの。可愛い笑顔でマイクを持って歌っているコノミの写真。


 だが、ライブ中ということもあり背景は真っ暗だ。


 そこに、コノミが遊び心で書いたのだろう。

 ハートマークと「あ!見つかっちゃったっ?」と書かれた文字が実は落書きされている。

 光に当てて、写真を凝視すると、油性ペンの筆跡を見つけることができるのだ。


 雪さんが生写真に気を取られている間に、ここは立て直し、時間稼ぎが必要だ。

 「俺の妹の秘密」を打ち明けるタイミングを再検討したい。

 

 じっくりと眺めだす、雪さんの顔がパッと明るくなった。


「うわ~ほんとだ!!見つかっちゃった?って、コノミちゃんらしくて好きだなぁ。絶対楽しんで書いてるよね!!??」

 

 雪さんは写真を元通りに立てて、こちらを向くと直ぐに雪さんの鼻息が荒くなった。

 コノミのコノミらしさが溢れたファンサービスなのだ。俺も、当てたときは驚いた。

 と、その時……。



 とうとう最後まで、俺の暴露は間に合わなかったようだ。

 

「ただいま~!!!」

 元気な恋乃実が帰ってきた。


 雪さんが固まる。


「……え?」

 

 まだ、玄関の扉が元気よくバタンとしまっただけ。

 でも、俺ら家族はおろか、雪さんも常日頃から聞き倒しているあの元気な声が家に響く。


 パタパタ、トントン。廊下に恋乃実の足音が響く。


 マズいっ!!!!

 リビングの扉が開く。「みんなのおりひめ」は俺の彼女に直ぐに気が付いた。




 「あーーっ!!!おにぃの彼女さんですね!!!」


 雪さんがリビングの扉へ振り返る。バタバタと近づいてくる恋乃実。


 「はじめまして!妹の恋乃実って言います!よろしくお願いします!!」


 恋乃実の手が雪さんの右手を掴んで握手する。

 ぶんぶんと効果音が聴こえてきそうな勢いで振って離さない。

 

 俺は振り返って見えなくなった雪さんの表情を伺いに、正面へ回り込んだ。


 「はへっ…!??!????!!??????」

 恋乃実を見て固まるコノミ推しの女ヲタ、雪さん。

 

 間に合わなかった……。


 「え!!???コノミちゃん!?え????え?えええ!!!!???」

 

 「あ!私の名前を知ってくれてるんですね?ありがとうございます!」

 恋乃実が笑顔を向けて雪さんを見つめる。


 「えええ????ふぁ??えぇ???なんで?……なんで?」

 雪さんは事態が飲み込めていない。


 「って言うかあれ?いつも応援してくれる女性の方だよね?ってことは、おにぃ?雪さん?」


 コノミが彼女の正体に気が付いた。流石、ファンを丁寧に殺していく我が推しだ。

 今日イベントで飛んで行った黄色い歓声は届いてたらしいぞ、雪さん。よかったね。

 そして熱狂的なヲタクなのは今だから言えるが、我が食卓でも話題に上がったことがあるぞ。


 ……じゃ、なかった。。。。



 その刹那。


 一日の標準コノミ摂取量を超過した雪さんは、白目をむいてリビングにぶっ倒れた。


◇◆◇◆


「おにぃ!ちゃんと説明してあげないとかわいそうだよ!!!」

「ごめん。タイミングがなくてうっかり」

「うっかりじゃないって!柚季さん……大丈夫かなぁ……」


 今、雪さんはコノミの膝を枕にして、母ちゃんが急いで持ってきた濡れタオルを額に載せ、伸びている。

 コノミの膝枕。起きた瞬間にまた雪さんは気を失ってしまいそうな光景ではあるが、幸運なことにどこかをぶつけたわけでもなく、気を失っただけ。


 たぶん……安静にしていれば大丈夫だ。


「ごめんって」


 俺は雪さんが無意識に恋乃実の膝を堪能している間に、大方の説明を終えた。

 彼女が根っからのコノミの大ファンである雪さんであり、俺の彼女の柚季さんであるということ。


 パタパタとうちわで雪さんを仰ぎながら、不服そうな目を恋乃実は向けてくる。

 雪さんと恋乃実の体格は似たり寄ったりだったので今の光景はどちらがお姉さんか忘れてしまいそうだったが、眼福の極みだった。美少女の膝に沈む美女。生きててよかった。

 

「んっ……」


 雪さんが息を漏らすと(まぶた)がゆっくり開く。


「柚季さん。大丈夫ですか?ここがどこだかわかりますか?」

 恋乃実が目線を落として柚季さんに話しかける。

「あれ。私、孝晴君の家に行った後。。。」


 雪さんが目を開くと、目前には太陽様菩薩様と崇めたコノミの顔が下から映ったに違いない。

 自分で置き換えて考えても、破壊力が高ぎる。


「コノミちゃん。コノミちゃんだ……」

「はい。みんなのおりひめ、コノミちゃんですっ」

「って、なんで……」

 雪さんが恋乃実の膝枕の上で休ませてもらっていることに気が付く。

「!?!?っ!!」


 間髪入れずに、雪さんが起き上がる。


「ごめんね!!!足、大丈夫かな!!??アザとかつけてない???寝心地最高だったっっ!!」

「大丈夫ですよ!ありがとうございますっ!!!良かったですね!!」

 

 めちゃくちゃ気持ち悪い美人の柚季さん。

 恋乃実が雪さんに気を遣わせまいと振舞ってくれた。


「ちょっと、落ち着いて考えさせて」

 柚季さんは頭を押さえて目を瞑る。


 ここだ。このタイミングで白状しよう。懺悔しよう。


「柚季さん。ごめん!俺の妹はコノミ。みんなのおりひめで俺らの推しのコノミです!」

「!!??」


 雪さんが目をひん剥き、俺の顔と恋乃実の顔を行ったり来たりして、次第に冷静になる。


「あの。。わたし……大ファンです。いつもありがとうございます」


 雪さんが推しに会った時にこうなるのかと思いながら、様子を微笑ましく見守った。


「こちらこそ、応援ありがとうございますっ!!そして、おにぃの彼女さんなんですね?いつも、おにぃがお世話になっています!私も、お姉ちゃんが出来たみたいで嬉しいです!!」

「おねえちゃん……コノミちゃんが、おねえちゃん……だってさ。孝晴君……私、今日死んじゃうのかな?」

「いや、強く生きてください。マジで。これからも妹の応援をお願いします」

 意外と推しに会った時の準備はできていたらしい雪さんの様子に安堵した。




 それからというもの。


 俺らは、母ちゃんお手製の美味しいディナーに舌鼓を打った。

 その間、雪さんとコノミは、既に柚季と恋乃実として打ち解けてきたようで安心した。

 

 夕飯を終えた後、柚季さんに母ちゃんがお風呂を勧める。

 恋乃実が「柚季さん!一緒に入ろ!!!」と愛嬌の暴力をかましていたが、ファンとして一線を越えるわけにいかなかったのか「ごめん!流石に心の準備ができてない!」と頭を下げた彼女を見るなり「また今度ね!」と声をかけていた。


 俺も、風呂に入る。

 まさか彼女が出来た初日から「彼女で出汁を取った風呂」に入ることになるとは思わなかった。

 少しだけ興奮してしまったことはここで諸君に謝っておく。すまん。


 風呂上がりの団らんの事。

 今日は帰りの遅い父さんとの挨拶は明日ということになり、就寝の準備をする。


「柚季ちゃんは、みーちゃんと一緒に寝る?」

 次は母ちゃんが柚季さんを殺しにかかる。


「女子会しちゃう?」

 恋乃実がたまらず、柚季さんに話しかけると彼女はのぼせたような顔になった。


「流石にマズいです!!大好きな推しと寝るなんて、できません!!」

「女の子どうしだし大丈夫だよ~?」

 恋乃実の顔がちょっと照れてる。可愛い。

「いや、ほんっ!!うっ!!……ほんとうにまずい!!!」

 焦った柚季さんが舌を噛んだ。可愛い。


 確かに、雪さんとコノミを同じ部屋に寝かせるわけにもいかない。

 明日の朝、懐柔(かいじゅう)されてしまったコノミを見る羽目になるかもしれない。


「じゃあ、やっぱりおにぃの部屋に布団敷いてあげるべきだよ、お母さん!」

「そうねぇ。彼女さんなんだし、一緒に寝たいわよねぇ?」――


 どうして、こうなった!!??



 彼女になった柚季さんと一つ屋根の下。

 初日から突然、一部屋で夜を明かすことになった。どうなる、俺!!??


(第九話へつづく)

お読みいただきありがとうございました。

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執筆の励みになります!次話更新は不定期です。

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