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「俺の実妹でトップアイドル」の「アイドル女ドルヲタ」と「女ヲタヲタ」してたら、俺の綱渡りドタバタラブコメが走り出したっ!!  作者: 懸垂(まな板)
第二章 俺の初デートがハチャメチャすぎる!

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第十二話 柚季さんの”柚季さん”で充電した俺と、柚季さんは初デートに出掛けるも問題発生!

お待たせして申し訳ありません。長めです!お楽しみください!

 なんとも温かい布団の中。


 温度どうこうを言っているのではない。


 気持ちが満たされていく。

 あの雪さんが、今は俺の彼女さんの柚季さんだ。



 昨晩、柚季さんの”柚季さん”には大変お世話になった。

 充分な準備をしていなかった俺と柚季さんは「最後まで」することはなかった。


 それどころか、俺が日和(ひよ)って、最終到達点は彼女の胸に顔面を埋めることで満足してしまったから、読者諸君たちには本当に申し訳ないことをした。


 初彼女だ。

 少しくらいそんな気分もわかるだろう?

 もちろん見たことない柚季さんの顔を見てみたいという気持ちはあるのだが。


 直ぐに「致して」しまうことは簡単だけど、それよりも彼女を抱いて眠りにつくことが、今の俺にはかけがえのない瞬間だったのだ。


 下手したら苦悶に歪んでしまう顔なんかより、安心した顔を眺めておきたかった。






 俺たちは、朝日が顔を出して部屋が薄明るくなるまでスースー眠っていたようだ。


 目を覚ますと、横で寝顔まで美しく、安らかに眠る絶世の美女は柚季さん。

 小さな身体が寝息を立てて、まるで笑っているかのような顔で、穏やかに息を繰り返す。

 横目ではそう見える。


 俺は思いのほか寝つきが良かった。

 一日、驚天動地の変化があったからだろうか。


 身体は休息を必要としていたらしい。


 

 寝込みを襲ってしまうほど、まだお互いの事は何も知らない。

 けど、寝床を共にできたことはアイドルヲタクからすれば大きな一歩?

 そんなことを思った。





 ここまで、真面目過ぎたな。


 すまん。



 本音は、めっちゃ、悪戯したい……。





 俺は柚季さんに気が付かれないように。

 身体を柚季さんと向かい合わせにして、人形のように整った顔をいつまでも眺めていたい。


 なぜか抱き枕にされている右腕は柚季さんにガッツリホールドされている。

 体勢を整えるのが難しいが、俺のケツを彼女から遠ざけるように……。

 右腕の位置を変えないように……布団の中で移動する。


 起こさないように。

 慎重に……慎重に。


 どうしても初彼女の寝顔を眺めて過ごしたい俺。

 それは……それは……時間をかけて体勢変更に成功した。



 目の前で無防備に眠る柚季さん。


 この方は地元でアイドルをするほど容姿が整っているのだから、少しくらい不細工な寝相をしていることに期待をしていたのだが。


 美しいものは美しいし、多分可愛いものが可愛くなくたって可愛い。

 俺は可愛いに絶対服従のアイドルヲタクなのだからどんな顔でも許せる、推せる。

 


 目の前の血色のいい瑞々しさ溢れる唇は一晩経ったとて艶やかで、触れたくなる魔力がある。


 昨晩、このお方とキスまで済ませた。

 これから何度かは触れ合うこともあるだろうと思うと、妙に恥ずかしい気持ちがぶり返してくる。


 そんな弱気を一旦捨てて、俺は次の任務へと進む。





 左腕を彼女の身体に回してきて、どうしても柚季さんの頬を触りたい。





 このくらいなら怒られないはずだ。


 昨日は恥を忍んで、柚季さんの”柚季さん”に埋まった俺だ。

 今更、ほっぺたをツンツンして遊ぶことくらい許してくれるはず。


 


 そっと、起こさないように彼女の頬に軽く触れてみた。


 昨日。俺の右腕を食べた頬。

 流石、指で触れるとなると、腕の皮膚なんかより何十倍も鋭敏に感触が伝わってくる。




 はっきり言おう。柔らかさは胸には敵わない!


 だが、いつでもどこでも手出しできるとなると、ほっぺたでもいい気がした。


 ハリ、艶、弾力。だけど綿菓子のようなふわふわとした感触、触りごこち。

 ぷにぷにともまた違う。



 そこに頬が在って、そこに頬は無いのかもしれない。

 それほどまでに、現実を受け入れがたい代物だということを伝えたかった。


 

 彼女を起こさないように、軽くつまんでみる。

 

 

 女性の顔だ。

 傷つけてはならぬ。

 そのくらいの教養や良心は俺にだってある。



 つまむと確かにそこに「頬」が在る。

 同時に白く透き通っていた肌に血色が出て、赤みが落ちてくる。


 彼女の眉間がピクリと動いた。






 「んん……んんっ……」




 柚季さんは喉元から曇った音を出す。

 瞼が意志を持たないまま、微かに開いた。






 「いたずら……しないで……」

 

 もぞもぞと布団の中で動く華奢な身体。

 首をおもむろに動かし、悪戯していた左手が彼女の唇に捕まる。

 

 はっ!?えっ!!!????





 俺は我が目を疑った。

 眠気なんてぶっ飛んでいった。

 


 彼女の唇が俺の左手に軽く口付けした後、元のように枕元に帰っていく。


 

 なんだこの可愛い生物は!!

 駄目よ?と言わんばかりの彼女の制止のキスの方が悪戯過ぎて、果てる数秒前。

 


 「嫌よ、嫌よは好き」と習ってきた俺。




 暗に彼女の許しに、舞い上がってしまう。







 次は彼女の頬を、人差し指の側面で撫でてみる。

 スベスベとした肌は自分のものとは大違い。いつまでも撫でていたくなる。




 「きもちぃ……もっとそうして」


 柚季さんは言ってくる。

 

 こうなれば、失うものは何もない。






 彼女の(とろ)けた寝顔を見ながら、気が済むまで愛でてみた。



◇◆◇◆



「おはよう。孝晴くん。寝覚めはどう?」

「最高」

「なら良かった」


 ぼさぼさの髪を自分の手で透きながら、むくりと起き上がった柚季さん。


「もうちょっと寝てたいけど、俺らをシラス丼が待ってる」

「ふふっ。上機嫌だね、孝晴くん」

「そりゃ、男として成長しましたので」

「よかったねぇ……」


 小さなあくび一つして柚季さんは老婆のような口調で、しみじみ言ってくれた。



「おはようのチューは?」


 柚季さんが当たり前のように言ってくる。

 俺はこんな光景、慣れていないというのに。


「口ゆすいでからの方が良くない?俺、幻滅させちゃうよ?」

 寝起きの口内はバイ菌だらけだとテレビかなんかで見た。




「なら、はいっ」


 眠たい目の柚季さんが近づいてきたかと思ったら。

 俺の頬に伝わる柔らかなものがひとつ。


 いやふたつ。


 吐息とともに触れてきた。




 頬は軽く湿った。


「つぎ。孝晴くんの”ばん”……ほらっ」


 ぴたぴたと彼女と人差し指がアピールしているのは彼女のほっぺた。

 同じことをせがんできている。




「ね?」


 してくれないの?と物憂げに顔が曇るものだから、快晴を連れてくる必要がある。


 俺は、さっき思う存分楽しんだ彼女の頬に口付けた。




「よくできましたっ。おはよっ!」


 元気よくベッドから出ていった柚季さんは朝からクシャっと笑って言う。





「お母様にも、コノミちゃんにも内緒だからね?わかってる?」

「……うん」


 俺は抜け殻のような声で彼女に返事した。

 

 新しい朝が来たのだ。


 希望の朝だ。


◇◆◇◆


 リビングに二人で降りると、バッチリメイクを決めた母ちゃんと、恋乃実が仲睦まじく朝食の準備をしている。姉妹みたいな母娘。


 漂う匂いから今日の朝食は洋風テイストのようだ。


 父さんに柚季さんを紹介したかったが、既に家には見る影もなかったのが残念だ。

 柚季さんも寝起きの顔で父さんに挨拶するのは恥ずかしがっていたし、丁度良かったのかもしれないが。


「おはよ~。よく眠れた?まだ寝てても良かったのに~」

「あっ、柚季さん!おにぃ!おはよう!」

 二人がこちらを向いて朝の挨拶をする。


「おはようございます!お世話になりました~。ぐっすりです。洗面台、お借りしますね」

 さっきまで蕩けていた顔だったのに、すっかりスイッチの入った柚季さん。

 



 俺は柚季さんが洗面台に消えていったあと、二人に伝える。


「今日、二人で出かけるから」

 


 母娘は顔を見合わせた後、四つの瞳がキラキラと輝いている。


「おにぃ、柚季さんとデート!!??」

「まあ、そんなところ?」


「きゃぁ~~~!!??聞いた?お母さん???おにぃ、デートだって!!!」

「うんうんっ。聞いた聞いたっ!デートだってよ、みーちゃんっ。追っかけちゃう??」

「わーっ!!楽しそう、こっそり追いかけちゃう??」

「いやもう、こっそりになってないから。恥ずかしいしそっとしておいてくれよ……」


 暴走し始めた乙女二人から、俺は逃げるように朝の支度を始めた。



◇◆◇◆



「では……お世話になりました!またお邪魔します」

「いつでもいらっしゃいね、柚季ちゃん。孝晴の事、よろしくお願いしますっ」

「柚季さん、またねっ!」

「また!」


 柚季さんのキャリーバッグを引いて俺は家から出発する。

 

 二人の顔が見えなくなり、我が家も見えなくなり……。

 


 柚季さんはそろりと俺の左手を取ってきた。


「がら空き。つっかまーえたっ!」

「!!??」


 直ぐに指を絡めてくる柚季さん。

 左手は彼女に持ち上げられ、満足そうに見せつけられる。


「初!恋人繋ぎ!ねっ??」


 にぎにぎと小さな手が居心地の良い場所を探す。


「これなら、(はぐ)れないね」


 俺は照れて、呆れるように笑った。



◇◆◇◆


 公共交通機関を乗り継ぐ。

 次の電車は湘南モノレール。


 行き先は、湘南江の島行き。



 普段の街並みとは目線が数十段上がった風景を楽しみながら、およそ十五分。

 終着駅の「湘南江の島」へ到着した。


 動きにくいので、柚季さんの大荷物は駅のロッカーにしまい込み、身軽にした。


「少し歩くよ?」

「おっけー!デートスタートっ!」


 再度、彼女に握られた左手がゆらゆら揺れている。

 その笑顔に癒されながら、二人で北西へ向かう。



 目的地は江の島。



 大通りに出て、国道134号線が俺らの行く手を横切る。

 海を眺めながら、信号待ちをしているとき。




「えっ!?ちょっと待って。孝晴くん……」


 柚季さんの表情が明るいまま、驚きを示していた。

 視線の先。


「どうしたの?柚季さん」

「ファンの人がいる……」

「え?コノミの??」

「うん……。いや、そうなんだけどね。私のファンでもあるの」


 言ってる意味がわかった。

 KARENではコノミ推し。

 

 でも、柚季さんも推しているDD(ディーディー)(=誰でも大好き)アイドルヲタクが近くにいるということに。

 それも、地方アイドルに目をつけ、情報を追いかけているという猛者。

 


「柚季さんは、見つかったら嬉しくはないよね?」

「私は良くても、ファンの人に悲しい思いをさせてしまう可能性は……ある……かも」

「何か変装出来たりする?」

 

 柚季さんに問いかける。


「これくらい?」

 

 柚季さんはサングラスを手持ちから取り出す。


「江の島なら、サングラスしてても不自然ないね」

「そうかも……。じゃあ!ここからは、お忍びデートということで……!!」


 調子が戻った柚季さんは、ユズキであることがバレないように変装を開始する。

 「しーっ」っと聞こえてきそうな人差し指を立てた彼女。


 その表情ひとつひとつがサングラスに覆われて隠れてしまうことは残念だったが致し方ない。

 アイドルを彼女に持つということは、そういうことだ。






 こうして、俺らのコソコソ、ドキドキッの初デートは始まったのでした。 




(第十三話へつづく)

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次回、てんやわんやの初デート始まります!

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