表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「俺の実妹でトップアイドル」の「アイドル女ドルヲタ」と「女ヲタヲタ」してたら、俺の綱渡りドタバタラブコメが走り出したっ!!  作者: 懸垂(まな板)
第一章 俺と雪さんはめでたく結ばれました

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/14

柚季さんと密室でアレコレおっぱじまりました(前編/〇中編/後編)

中編です。お楽しみください。


「そろそろ、ねよっか。たかはるくん」


 どうした柚季(ゆずき)さん。

 そんなしおらしい顔で俺の事を見つめないでくれ。


 確かに一夜を共にする覚悟で居てくれてるのは嬉しいけど、その期待に応えられるわけではない。

 いや、そもそも期待されているのか疑問だけど。


 でも、安心感?許し?そんな感じのものが少しでも心に無いと普通、女性って男の横で寝ないものだろ???

 そのくらいは御年、齢二十二になった俺でもわかる。


「うん」

 冷静を装って、雪さんに返事した。


 俺はいつもの自分のベッドに入るが、雪さんは足元の客用寝具を使って布団で寝る。

 とてもではないが、シングルベッドで二人……なんて夜は常識的にやってこない。


 ふわふわアンドもこもこ……のパジャマに身を包んだ柚季さんが布団に入り、寝心地を確認している。


「あー。気持ちよく寝れそう。ありがとう」

 どうやら審査には合格したようで良かった。


「ごめんね。硬いかもしれないけど、ゆっくりしてください」

 突然の来客でこのような用意ができる我が家の装備、恐るべしである。


「いろいろあった一日だったなぁー。ちょっと疲れたかも」

 雪さんが下から、ベッド上の俺を寝転んで、見つめながら言う。

 上目遣いの柚季さんの顔が幼く見えて、ドキッとしてしまった。


 風呂上がりに就寝前の安らかな顔。

 反則が過ぎる。


「明日の予定は?直ぐに帰っちゃうの?」

 俺は肘をついてベッドの上で横寝をしながら、明日の予定を聞いた。


「どうしようか。もっとゆっくりしてたいんだけど、明後日には仕事があるから絶対大阪には居ないといけないなぁ。大学の授業は無いから、実際ゆっくりできるんだよね。孝晴君は?」


「俺は大学の授業が夕方から。朝はゆっくり起きて学校に行くかな」


「じゃあさ……明日、初デートしない?」

 目を輝かせながら言う柚季さん。


 枕は自分のものだと言わんばかりに顔を埋めてこっちを見ている。

 ……仲間になりたそうにこっちを見ている。


 もう彼女だが。答えはもちろん「はい」




「いいよ。どこか行きたいとこある?」

「わたし、お天気カメラのとこいきたい。江の島!」


 ちょっと甘えた声で案が出てきた。

 きっと、「ひらがな」の「わたし」だ。

 先生、執筆で正確に頼むぞ?


「じゃあ、早起きして整理券だ」

「整理券?なんの?」


 柚季さんは寝転びながら足を楽しそうにパタパタしている。


「プロは生しらす丼一択。整理券貰って店の入場予約する感じ」

「え~美味しそう!いく!」


 良かった。

 我が彼女さんは海鮮もイケる口らしい。


「じゃあそれで。晴れたら砂浜から富士山見えるよ?晴れるといいね」

「晴れらしいよ!やった~ぁ!」

 既に天気を調べてくれていた柚季さんが画面を見せてくる。


 良かった。

 この笑顔が曇ると俺も困る。


「明日の予定も決まったところでそろそろ電気消そうか」


「えー。せっかく孝晴君と居られるのにもう終わりぃ?」

 何か悪戯な目がこっちを見ている。

 

 勘弁してくれ。襲うぞ。


「こうさ、私、彼女じゃん……。もっとこう、なんていうの……?話してたい」


 困った、固まった。


 多分柚季さんなりに表現を柔らかく、誘ってくれたのだろう。


 今は枕に沈む柚季さんの顔は見えないが、耳が次第に色づいていく。


 なんとなく、求めているものはわかった気がした。

 けど、考えが一人走りしていて、違っていたらこちらがめっぽう恥ずかしい。

 彼女に具体的な明言をすることは差し控えるべきだ。


 取りあえず、謝っとこう。

 でも、「ちゃんとわかってるよ」って、なるべく伝わるように。


「ごめんね、下手くそで。初めての彼女だからさ」

 

 雰囲気作りってどうしたらいいの?

 そんなこと、学校で教えてもらったことないけど、どうしたらいいの!

 俺の中の小さな天使ちゃんが頭の中で怒っている。


「なら、同じだね。私も初めての彼氏さん」


「(!!!????!!!!?????)……そう?なの?」


 思ってもみなかった言葉。

 続く言葉のイントネーションと言い、喉の調子と言い、音声と言い。

 全てがオカシイ四文字が口内で反響した。


「そうだよ~。ドッキドキの初彼氏さんだよ」

 こんな可愛らしいお方に、悪い虫は寄ってたかるはずなのに、遊び歩いていないのだろうか。

 もとより、ガードは高めな印象であるから、その予想は裏切っていなかったが。 


「だから、私と話しているときはカッコつけたりしなくていいよ。そのままの孝晴君が好きだからさ。なんて言うか、私、笑ってるところが好き」

「突然!?今、告白されてませんか?おれ……」

「え?もっと話せるよ、孝晴君の好きなところ。ポストしようか?」


 雪さんは毎月土曜日の晩あたりで狂ったようにコノミ好き好きポストを始めることがある。


 多分酔い散らかして一人で想いが溢れた状態。

 息をするようにコノミの好きなところをネットの海に吐き続けている。


「ちょ、恥ずかしいから辞めて」

「多分、孝晴君が思ってるより孝晴君が好きだよ?わたし。でも、ゆっくり伝えていくから、私たちのペースでお付き合いしようね。ね?」

「ありがと」


 あー、もう。どうにでもなってしまえ。


 いい彼女過ぎる。


「というわけで、おやすみのチューしよっか」

 

 忘れていた。

 俺の彼女は愛嬌大爆発の雪さんだ。

 天真爛漫を絵に描いたようなお方。


「大丈夫。ちゃんと歯磨いたし!」

「いや、そういうことじゃなくてですね?」

「カフェと違って、誰も見てないし」

「根に持ってた?」

 リップサービスかと思ったけど、本当にキスしたかったんだな、柚季さん。


「もう、逃げ道ないよ?」

「ここ、俺の実家だし」

「隣、恋乃実ちゃんの部屋だっけ?」

「そうだけど……」


「なんか悪いことしてるみたいだね」


 いきなり小声で言ってくる柚季さん。

 思わず息をするのも忘れた。


「恋乃実が起きて、入ってきたら?」

「えー。孝晴君の部屋って……」


 柚季さんがドアの方を見る。

 あっ、と思った時には遅かった。


 起き上がり、のそのそと近づいていった柚季さんが、丁寧にドアにカギをした。

 しかも、廊下に施錠音が響かないように狙って、ゆっくり反時計回りに……。


 ドアノブに軽く触れ、施錠できているか、さっと確かめる柚季さん。


 もう、逃げられない!!??


「これで、密室には私たちだけ。誰にも邪魔はされません」


 声のトーンが一段と下がった柚季さんが言う。


 俺の心臓が活発に血液を全身へ送っているのに、気が付いた。

 何か、こう……、柚季さんの正論へ返答する糸口を探したい。


 柚季さんは布団に戻らずに、ゆっくり俺の方に近づいてきた。




 ごめん。諸君。

 カッコつけて、本音とか建て前とか並べてきたけど。



 この顔は守りたいと思ってしまう顔。

 不安を与えたくない顔だった。



 ゆっくり、距離を取って俺の横に腰かける柚季さん。

 ベッドが軋みながら柚季さんを受け止める。



 左に身体が傾くが、俺も彼女と必要な距離を取るように、背筋に力が入る。

 心の平穏を保っておくための距離。

 

「ひょこ……ぴとっ……」

 彼女が口で効果音を発しながら、横に「ひょこ」っと近づいて「ぴとっ」っと、くっついてきた。

 

「あったかいねぇ」

 柚季さんが俺の方にもたれてくる。


 左から伝わる熱。


 感触はふわふわと柔らかい。


 多分パジャマの柔らかさじゃない。


 自分の脳が、全力で血液を受け取り、総力でパジャマの下、柚季さんの身体の感触を知覚しようとしている。


「改めまして孝晴君。雪村柚季です。これからよろしくね」


 左頬に綿のような柔らかな感触が掠め、彼女の温もりを伝えた。

 離れていくモノの正体が直ぐにわかる。


 頬が一瞬。


 ほんの一瞬だけ、湿ったから。



 自分だけいい思いをして、彼女をないがしろなんてできなかった。


 柚季さんの方を向くと、綺麗な瞳が俺を映して揺れていた。

 上ずった視線がじっと見つめてくる。

 

 薄目になる彼女にその意味がわかる。




 もう、逃げるなんて許されない気がした。

 鼓動が跳ね上がる。

 

 彼女の艶のある唇に向けて、意志を持って、同じものを優しく重ねた。



 

 時が止まったかのような時間。

 彼女に鼻息がかかって、嫌な思いをさせないように、息を止めた。

 

 薄く愛らしく見えた彼女の唇は瑞々しくて、柔らかで。

 胸が熱い。心がキュッと締め付けられる。

 

 でも、心地が良い。





 惜しむように解放すると、彼女がゆっくりと目をあけて。




「君は大崎孝晴君。今日から私の彼氏。よろしくね」



 柚季さんに、第一声を盗まれた。



 潤んだ瞳が一層、庇護欲を掻き立てるものだから、もう、もう……。


「柚季さん。今夜は上で寝てくれない?」

 布団に寝かせるなんて勿体ないと思ってしまった。


「せっかくお母様が敷いてくれたのに悪いね。でも……賛成っ」

 優しく綻んだ笑顔は、今日から自分のものと思うとなんだか照れくさい気分になった。


 雪さん改め、俺の彼女。

 柚季さんとピッチを駆け巡るのは、また次の話で。


(第十一話へつづく)

後編は本日22:00ごろ更新予定です。

良ければ、ブックマークと評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ