姉妹の絆、海に生まれる
船は港を離れ、静かに大海原を進んでいた。
潮風が甲板を駆け抜け、帆を揺らす。朝の光を浴びながら、エルフィナはふうっと深いため息をついた。
エルフィナ(胸を張りつつ、どこか疲れた声で)
「はぁ〜……なんとかテイトを言いくるめられましたわ……。まったく、やれやれですわね〜」
メイ=スケ(のんびりした調子で肩をすくめ)
「テイトさん、めちゃくちゃ困ってましたよぉ〜。ほんと、苦労が絶えない人ですよね〜」
エルフィナ(得意げに)
「そうですわね〜。まぁ……お父様に渡す手紙をちゃんと託してありますから、大丈夫でしょう」
その少し離れた場所で、ティナ=カクがひとり寂しげに海を見つめていた。
彼女の唇から、かすかな呟きが漏れる。
ティナ=カク(小さく)
「……はぁ。ナリアさん……さみしい……」
エルフィナとメイ=スケは顔を見合わせ、声を潜めてこそこそと話し合う。
エルフィナ(小声で、頬に手をあてて)
「ティナ=カク……ナリアさんに気持ちを伝えたのかしら?」
メイ=スケ(にやりとしながら小声で)
「ん〜ん、まだ言ってないみたいですよ〜。……あいつ、恥ずかしがって口にできないタイプですからね〜」
エルフィナ(肩を落とし、ため息交じりに)
「まったく……こちらもやれやれですわね〜」
二人の視線の先で、ティナ=カクは赤くなった耳を隠すように、さらに強く海風に背を向けていた。
潮風が甲板を渡り、波のきらめきが木板を照らしていた。
ルイフェルは腕を組み、並ぶ船員たちの顔を見回しながら、少し不思議そうに口を開いた。
ルイフェル(肩をすくめて)
「しっかしー……船員、皆女子ばかりだな〜?」
女船長(ガハハと豪快に笑って)
「ガハハ! みんな私の妹に似てて、可愛いだろ!?」
ルイフェル(苦笑いしながら首を傾げ)
「いやいや〜……妹はどんな容姿だよー?」
女船長(片手を挙げて数えながら)
「あの子は目が少し似てて〜、あの子はホクロの位置だなぁ〜。……ほかにも言うか?」
ルイフェル(顔をしかめて手を振り)
「いーです……」
女船長(ふっと表情を曇らせ、声を落として)
「……みんな、訳ありな子ばかりさぁ……」
一瞬の沈黙を破るように、女船長は再び笑顔を取り戻し、明るく声を張り上げた。
女船長(両腕を広げて)
「だがな! そんな子らに、仲間が増えたぜぇ!!」
「紹介する――リーザさぁ!! リーザ、皆に自己紹介しなぁ!」
視線を一斉に集められた少女は、胸元の小さな貝殻の首飾りを握りしめ、深呼吸をひとつして前に出る。
潮風に乱れる茶色の髪を押さえながら、青緑の瞳を真っ直ぐに見開き、はっきりと声を上げた。
リーザ(必死に、しかし堂々と)
「はい! お母さんは流行り病で、お父さんも海で亡くなってしまって……身寄りのない私を、お頭が拾ってくれました!」
「恩を返せるように、頑張ります!! よろしくお願いします!!」
少女の声は波音を越え、甲板いっぱいに響いた。
そんなリーザを見て喜んでいた少女がいた
「やった!私の後輩!!!やったやった!!!」
その子は仲がいいコック長のおばさんに声をかけた。
少女 自慢げに
「コック長さん!ビックニュースです!!
私に後輩ができるんですよー!」
コック長
「なんだいマリン!情報遅いね〜」
マリン ちょっとがっかりして
「なーんだぁ〜知ってたんだ〜」
コック長
「そりゃ〜私はみんなのご飯作ってるからねーあの子リーザのことも知ってるよ〜
ちなみにあんたの一つ下だよ年齢!」
マリン
「えー!?ほんと?それじゃ〜妹ってことじゃん!!
やった!ほしかったんだぁ〜妹!」
明るくニヤニヤするマリン
甲板
女船長
「リーザ教えてくれる先輩船員紹介するよー!
マリン!マリンどこだい?」
マリンが船内から慌ただしく走って来た。
マリン 敬礼する
「はいはーい!船長!!マリン!ただいま来ました!!」
女船長
「あんたはいつも元気だねー!ガハハ
リーザ、先輩船員のマリンだよ〜あいさつしなよ」
リーザ おどおどしながら
「よ,よろしくお願いします。」
マリン 握手をもとめて
「よろしくねー!!」
リーザ びくびくしながら握手して
「は、はい」
マリン
「何して遊ぶー?ねぇーねぇ〜?」
女船長
「おいおい〜先に仕事教えるんだよー終わったら遊んでいいから」
マリン
「そうでしたぁ〜」
いししいと笑う
調理場は朝から忙しく、蒸気と香りが漂っていた。
その中で、ひときわ張り切った声が響く。
マリン(胸を張って)
「今日は初日だし! おねーちゃんが!! じゃがいも剥くの見ててね!! この! おねーちゃんがやります!」
リーザ(少し困った顔で)
「あの、マリン先輩」
マリン(慌てて首を振り)
「いやいや! おねーちゃんだよ〜!」
リーザ(ぴしゃりと、真剣に)
「マリン先輩。私、じゃがいもなら大丈夫ですので……一緒に皮をナイフで剥きましょう。効率早いですし」
マリン(小声でぼそっと)
「うっ……なんかしっかりしてる……」
マリン(それでも意地を張って)
「で、でも! お姉ちゃんが先に実演見せてからねー!」
意気込んでナイフを握るが――ことごとく深く削ぎすぎ、じゃがいもはみるみる小さくなっていく。
コック長おばさん(苦笑しながら)
「マリン〜、相変わらず不器用だねぇ。マリン、ほら、見てみな〜」
指差す方向へ視線をやると――リーザが流れるような手つきで、皮を薄く、均一に剥いていた。
その見事さに、マリンは言葉を失った。
マリン(しゅんとして)
「あっ……」
だがすぐに立ち直り、拳を握って宣言する。
マリン
「次は洗濯〜!」
だが――服を畳めばぐしゃぐしゃに。
対してリーザは整然と美しく畳み、重ねていく。
さらに掃除。
マリンの大雑把な雑巾がけに対し、リーザは隅々まで丁寧に拭き上げる。
マリン(涙目で)
「……今日一日、散々いいところ見せれなかったぁ……」
コック長おばさん(呆れ顔で)
「あんた、普段サボるからだよ〜」
マリン(うなだれて、消え入りそうな声で)
「リーザ……ごめんね。おねーちゃん、なんもできなくて……」
リーザ(きっぱり、しかし強めに)
「おねーちゃんじゃないですから。気に病まないでください、マリン先輩」
マリン(顔をぐしゃぐしゃにして)
「うっ……うっ……うわーーーん!!!」
大粒の涙をこぼしながら、マリンは駆け出していった。
リーザは驚き、ただ呆然とその後ろ姿を見つめるしかなかった。
調理場に、しばし静寂が訪れた。
リーザは戸惑いながら、泣きながら駆けていったマリンの背中を見送る。
その横で、コック長のおばさんが腕を組み、ゆっくりと口を開いた。
コック長おばさん(低い声で、静かに言葉を選びながら)
「……リーザちゃん。あんたは“気にしなくていい”って、軽く言っただけかもしれない。けどねぇ、あの子はあの子なりに必死だったんだよ」
リーザ(驚いて振り向く)
「……必死に?」
コック長おばさん(少し柔らかい眼差しで)
「妹ができたって大喜びしてたろ? あれだけはしゃいでたのはね……それだけ、あの子には“居場所”も“誇れるもの”も少なかったからなんだよ」
コック長は、泣き笑いするように口元を緩める。
コック長おばさん
「マリンはね、サボり癖よりも……ほんとは“誰かの役に立ちたい”って気持ちの方が強い子なんだ。だからさ……次は、あの子がおねーちゃんって言っても、笑って受け止めてやんな」
リーザはハッとして、胸の奥がぎゅっと締めつけられるような感覚に襲われた。
マリンの泣き顔と、「おねーちゃんだよ!」と笑った無邪気な笑顔が、交互に脳裏に浮かぶ。
リーザ(小さく、決意を込めて)
「……はい」
調理場の片隅。
リーザは手を止め、深く一礼した。
リーザ(真剣な表情で)
「コック長さん。……すみません、少しお仕事を抜けます」
コック長おばさん(腕を組み、落ち着いた声で)
「ああ〜いいよ。あの子なら、船の端のあまり使われないトイレに籠ってるはずさ。悲しい日には、いつもそこで泣くんだよ」
リーザ(目を見開き、小さくうなずいて)
「……ありがとうございます!」
彼女はエプロンを外すと、駆け出すように調理場を飛び出した。
――
船の奥、薄暗い通路の先。
人の気配を感じさせない、あまり使われないトイレの前にたどり着く。
中から、すすり泣く声が微かに聞こえてきた。
マリン(泣きながら)
「……グス……おねーちゃん失格だぁ……う、うう……」
リーザは胸を締めつけられる思いで、そっと扉をノックした。
コンコン。
中で泣いていた声がぴたりと止まる。
マリン(慌てて涙を拭きながら)
「あっ……ごめんなさい。すぐ……グス……出ます……」
リーザ(扉越しに、声を震わせながら)
「だ、大丈夫です。……リーザです。そのままで……聞いてください」
しばし沈黙が落ちる。
リーザは拳を握りしめ、勇気を振り絞った。
リーザ(必死に)
「マリン先輩、ごめんなさい。私……ほろうのつもりで言ったんです。でも逆に……マリン先輩を傷つけてしまったみたいで……ほんとに、ごめんなさい」
さらに数秒の沈黙。
船の揺れと遠い波音だけが響いた。
リーザ(恥ずかしそうに、小さく)
「……ごめんね。……おねーちゃん」
ガチャ――。
錆びた扉がゆっくりと開いた。
そこに立っていたマリンは、涙で顔をぐしゃぐしゃにしていた。
だが次の瞬間、満面の笑顔に変わり――勢いよくリーザに飛びついた。
マリン(泣き笑いで抱きつきながら)
「うわぁぁん! リーザぁぁぁぁ!!!」
リーザ(驚きながらも、心が温かくなり)
「わっ……!」
その抱擁は強すぎて、少し苦しいくらい。
けれど、リーザの胸に広がったのは、確かな幸せだった。
リーザ(心の中で)
(……これが、本当のお姉ちゃん、なのかも……)
薄暗い通路から戻る途中。
涙で頬を赤くしたマリンと、まだ気恥ずかしさの残るリーザ。
そんな二人を、甲板へと続く階段の影からニヤニヤと覗き見ている人物がいた。
エルフィナ(得意げに)
「み〜てましたわよ〜。二人とも♡」
リーザ(はっとして慌てて姿勢を正す)
「はっ! ご、ご覧になってしまいましたか……第五王女エルフィナ様!」
マリン(目を丸くして)
「えっ!? こ、この人……王女様なの!?」
エルフィナ(胸を張って)
「はい! わたくしは王女ですわ。ふふ……二人は今、姉妹になったのですわね? ならば――戸籍的な問題も心配いりません! このトライヤ王国の王女であるわたくしが、正式に“姉妹”として認めます!」
リーザ&マリン(同時に)
「えっ!?!?」
マリン(跳ねるように喜び、涙目で笑顔になり)
「じゃあ……本物の姉妹に!? やったぁぁぁ!!! ついに家族ができたーっ!!」
リーザ(頬を赤らめ、恥ずかしそうに)
「そ、そんな……照れくさいですが……ありがとうございます……」
エルフィナ(満足げに頷き、裾を翻して)
「お邪魔しましたわ。じゃあ、仲良くしてくださいね♪」
――すると後ろから、のんびりした声が飛んできた。
メイ=スケ(欠伸混じりに)
「……いやぁ〜マジで邪魔ですよ〜、エルフィナ様ぁ〜」
ティナ=カク(ピシッと背筋を伸ばし、眉をひそめて)
「こら! エルフィナ様に向かってなんという言い草を! 失礼だろう!」
エルフィナ(くすくす笑いながら手を振り)
「まぁ〜まぁ〜。堅苦しいのはナシですわ。さぁ、行きましょう♪」
そう言ってメイ=スケとティナ=カクを伴い、エルフィナは廊下の奥へと消えていった。
残された二人は、顔を見合わせる。
マリン(肩をすくめながら)
「なんか……騒がしい人達だね〜」
リーザ(少し困ったように、しかし優しく)
「そ、そんなこと言っちゃ……ダメだよ。……お、おねーちゃん」
マリン(満面の笑顔でリーザを見つめ)
「えへへっ♡」
リーザも思わず笑みを返し、二人の間に新しい絆が芽生えた瞬間だった。
――つづく。
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