結界に揺れる想い
女船長の船 ― 甲板
突如、霧の中から巨大な一隻の船が現れた。
錆びついた鐘の音がゴォォン……と不気味に響き渡り、鎖に繋がれた無数の幽霊が空を漂い始める。
――オォォオォオオーーーッ……!
黒く濁った波しぶきを立て、幽霊船はまっすぐこちらへと迫ってきた。
⸻
ミャーリ(全身を震わせながら)
「あ、あれは……幽霊船にゃーー!」
アーシア(青ざめて声を震わせる)
「ひっ……幽霊……!? ル、ルイフェル様ぁ……!」
天使ちゃん(涙目でノームを抱きしめて)
「ノームさん、ど、どうしたらいいんですかぁ〜!? こわいですぅ〜!」
ノーム(短く唸りながら)
「心配せんでええ! 来るならわしが追い払ってやるわい!!」
ひめな(鋭い視線で霧を見据え)
「……感知。ルイフェル。幽霊を動かしている“主”がいる」
ルイフェル(眉をひそめ、息を整えて)
「よし! そいつを叩く……!」
アーシア(半泣きで袖を掴み)
「あ、あの……ルイフェル様……行ってしまわれるのですかぁ〜……」
ルイフェル(困ったように微笑んで)
「すぐ片付けて戻るから。……なぁ、アーシア」
(ひめなが黒い槍へと変幻し、闇の光を帯びた魔槍“デビルマスター”となる)
ルイフェル(槍を握り直し)
「――飛ぶぞ、ひめな!」
ひめな
「了解」
(翼を広げたルイフェルは霧の中へ一直線に突撃していった)
アーシア(両手を胸に当てて、震えながら見送り)
「ど、どうか……ご無事でぇ〜……」
⸻
女船長(口元を歪め、舵輪を蹴飛ばすようにして立ち上がる)
「まだ出航前だってのに……どえらい歓迎じゃないか! ――だが、船は壊させないよ!!」
(船長の怒声に、甲板の船員たちが一斉に走り出す)
女船長
「あんた達! 魔除けの札を船内の至る所に貼りつけな!!」
船員たち(声を揃えて)
「はい! 船長!!!」
⸻
エルフィナ(毅然と一歩前に出て)
「わたくし達も手伝いましょう! この船を守るのですわ!」
メイ=スケ(顔を青くしながら)
「ひぃ〜……こ、怖いですけど……はぁ〜い……」
ティナ=カク(鋭い目で頷き)
「はい! すぐに取りかかります!」
ナリア(勇気を振り絞って)
「わ、私も……やります!」
(彼女たちはそれぞれ札を手に取り、甲板や船内の柱へと走っていった。
船全体が魔力の光に包まれ、幽霊たちの近づく速度がほんの少し鈍る――)
霧の中 ― 対峙
ルイフェルはひめなを握りしめ、霧を突っ切って飛んでいた。
白く濃い霧が肌を刺すようにまとわりつき、視界はほとんどゼロに近い。
ルイフェル(額に汗を浮かべて)
「すげー霧だ! まるで目隠しして飛んでるみたいだ! 見えねー!」
ひめな(冷静に、鋭い声で)
「……大丈夫。霧の向こうに……いる。確実に」
ルイフェル(槍を握る手に力を込めて)
「よし! そいつをぶっ飛ばすだけだ!!」
――次の瞬間。
霧の向こうから、巨大な影がゆっくりと姿を現した。
三メートルを超える悪魔。灰紫の半透明な肌は海霧に溶け込み、骸骨の顔に青白い炎の双眸が燃えている。
錆びついた鎧が身体に食い込み、海藻や貝殻が張り付いたまま腐臭を放っていた。
背中から垂れ下がるのは、黒鉄の鎖。
その鎖には呻き声をあげる幽霊たちが絡みつき、無理やり引きずられるように宙を漂っていた。
ドゥーム(低く、不気味な声で)「……愚かな、者よ。我が名はドゥーム。
鎖に縛られし亡者どもは、すべて我が糧……抗うことなど許されぬ」
――ヂャリン、ヂャリン……シュルルルッ!!
鎖が一斉に伸び、ルイフェルたちへ襲いかかった!
鋭い金属音が霧を切り裂き、不気味な軌跡を描いて迫る。
ルイフェルは体をひねってなんなくかわした
一方その頃、船の甲板では――。
突如、港町の少女が危険を顧みずに駆け上がってきた。
ミャーリ(驚きの声で)
「あの子は……!? リーザ?」
アーシア(慌てて前に出て)
「知っているのですか? 危ないですよ! これから幽霊がこちらに来ます!!」
リーザ(必死に、涙目で)
「幽霊さんに……攻撃しないでください! ……お父さんがいるかもしれないんです!!」
その子は
茶色の髪を潮風に乱されながら、青緑の瞳で必死にこちらを見つめる少女――胸元には小さな貝殻の首飾りが揺れていた。
天使ちゃん(首をかしげながら震えて)
「お父さん……?」
ミャーリ(顔を曇らせて小さくうなずく)
「そう……リーザちゃんのお父さんは、海で……」
アーシア(しゃがみ込み、優しく語りかけて)
「安心してください。結界と浄化しかしません。攻撃はしませんよ」
リーザ(縋るように)
「……ほんと?」
アーシア(微笑んで)
「ほんとうです。だから、そばに来てください」
その時、霧が船を丸ごと飲み込み始めた。
冷たい空気に包まれ、視界は真っ白に閉ざされる。
――カラン、カラン……。
錆びついた鎖の音と共に、甲板に無数の霊が現れる。
空気を切り裂くように呻き声が響き、霊達はアーシア達を襲わんと迫るが、光の結界に阻まれ、触れることはできなかった。
リーザ(息を呑み、震える声で)
「あれは……! わたしがあげた首飾り……!」
アーシア達の目に、ひとりの霊が映る。
胸元には、小さな貝殻の首飾り。
リーザ(叫ぶように)
「あれは……お父さん! お父さんです、聖女様!!」
だが霊の顔は苦悶に歪み、鎖に操られるように苦しげに襲いかかってくる。
リーザ(涙をあふれさせ、結界から飛び出す)
「お父さん!! お父さーーん!!!」
アーシア&天使ちゃん(同時に)
「だめ! 危ない!!」
リーザが駆け出した瞬間、他の霊が一斉に襲いかかる。
その刹那――。
リーザの前に立ちはだかり、両腕を広げて庇ったのは……首飾りをつけた霊だった。
リーザ(震える声で)
「……お父さん……」
霊は優しい笑みを浮かべたが、次の瞬間、顔が苦痛に歪み、鎖に引きずられていく。
他の霊と共に、闇の中へと無理やり連れ去られてしまった。
リーザ(必死に手を伸ばして泣き叫ぶ)
「あぁーー! お父さんーー!! お父さん!!
助けて! お父さんを! 助けてぇぇーーー!!!」
泣き崩れるリーザを、アーシアが後ろから抱きしめ、必死に落ち着かせようとする。
アーシア(涙声で)
「もう大丈夫……大丈夫ですよ……」
その傍らに、霧を裂いてルイフェルが降り立った。
ルイフェル(悔しげに唇を噛みしめて)
「……取り逃した。霧と共に……奴らは消えた……」
霧は静かに船を包み、再び不気味な静寂を残していった。
――つづく
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