表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/148

揺れる想い、動き出す航路

船出港前 ― 王宮玉座の広間


荘厳な柱が並ぶ王宮の広間。

玉座の上で王様がどっかりと腰を下ろしていたが、報告を聞いた瞬間にその顔色が一変した。


王様(身を乗り出して)

「な、なんじゃとー!? エルフィナが……国々を周って行くと!? それは……まことか!」


広間に緊張が走る。


密偵(片膝をつきながら)

「はっ! 間違いなく、そのように……!」


王様(顔を真っ赤にし、玉座の肘掛を叩きながら)

「エルフィナ〜! あの子は賢すぎて困る! わしに“いいよ”と言わせたのは覚えておるが……国々を周るとは、一言も言わなんだ!」


(王様の脳裏に、つい先日のエルフィナとの会話が蘇る)


──回想。

エルフィナ(にこやかに微笑みながら、裾をつまんで優雅に一礼)

「父上、決して大げさな旅ではございませんわ。あくまで近くの港町へ向かい、交易と文化交流の様子を確かめるだけの“親善の視察”ですの。戦いや遠出などではなく、ほんのご近所に立ち寄る程度のことでございます。どうかご安心くださいませ」


王様(当時の自分を思い返しながら頭を抱え)

「ほう〜、そうかそうか、それならば良いではないか……と、わしは言ってしまった……!!」


(我に返り、玉座から立ち上がって大声で叫ぶ)


王様

「……愚か者め、わし!! なぜ信じてしまったんじゃぁぁ!!!」


(両手で頭を抱え、しばし悶絶したあと、決意に満ちた顔で)


王様

「即刻、中止させるのじゃ!!!」


(広間の兵士たちがざわつく)


王様(声を張り上げる)

「テイト! テイトはおるか!?」


近衛大隊長テイト(颯爽と現れ、片膝をついて礼をする)

「はっ! こちらに」


王様(血走った目で)

「おぬし、エルフィナ達と仲良かったのー! 聞いておらなんだのか?」


テイト(真剣な顔で)

「はい。聞いておりません。嘘偽りはございません」


王様(しばし沈黙し、ギリと歯を食いしばりながら)

「そうかぁ……! よし、テイト! わしはおぬしを信用する! エルフィナの船出を阻止し、すぐにここへ連れて参れ!!」


テイト(片拳を床につけて)

「はっ! 御意」


王様(両目に涙を浮かべ、ポケットから取り出した小さなフィギュアをぎゅっと握りしめて)

「エルフィナよ……わしの大事な大事な宝物がぁぁ……! 危ない目にあわぬよう……頼むぞぉ、テイトぉぉ……!」


テイト(額に汗を浮かべつつ、心の中で)

(王様……その“宝物”のフィギュアを握りながら言うのはやめていただきたい……威厳が泣いております……)


王様(子供のように嗚咽しながら)

「必ずじゃぞぉーーー!!!!」


(玉座の広間に王の泣き声が響き渡る中、テイトは静かに立ち上がり、踵を返して王の間をあとにした)


――


馬車の中。

御者席に腰かけたテイトの横で、元・忍者のメイド服姿のサスケが腕を組んでいる。


テイト

「……今から港に行くぞ」


サスケ(首をかしげて)

「そうですか。理由は?」


テイト(深いため息をつき)

「はぁ……じゃじゃ馬姫が、またやらかしたらしい」


サスケ(片眉を上げて)

「……エルフィナ様、ですか。……また、ですか」


テイト(項垂れながら)

「そうだ……」


サスケ(メイド口調のまま冷静に)

「一回、しばいておきましょうか?」


テイト(慌てて手を振る)

「いやいやいや、だめだ! 絶対に!」


サスケ(涼しい顔で)

「そうですか。では……縛り上げて運ぶ程度で」


テイト(頭を抱えて)

「……おまえ、発想が物騒すぎるぞ!」



その頃、港では──。


エルフィナは少し離れた場所から、ティナ=カクとナリアの様子を目を輝かせて見つめていた。


エルフィナ(小声で両手を合わせながら)

「まぁ〜♡ 青春ですわね〜」


隣にいたメイ=スケが、のんびりと相槌を打つ。


メイ=スケ

「そうですねぇ〜。あの盗賊事件から、いい雰囲気ですよね、二人とも〜」


──ティナ=カクは顔を赤くしながら、ナリアの前でもじもじしていた。


ティナ=カク

「あ、あのですね……ナリアさん」


ナリア(穏やかに)

「はい!」


ティナ=カク(しどろもどろしながら)

「うーんと……いや、その……ははは……」


するとナリアはそっとティナ=カクの手を取り、自分の胸の前に持っていく。


ナリア(少し涙ぐみながら)

「……わかりますか? 私の胸の鼓動」


ティナ=カク(真剣に)

「はい。……わかります」


ナリア

「私は……あなたといると胸が高鳴って、暖かい気持ちになるんです。あなたがいないと……私は……私は……」


ティナ=カクは彼女を抱き寄せ、強く抱きしめる。


ティナ=カク

「ナリアさん。無事に帰ってきますから……!」


ナリア(頬を赤らめて)

「……はい。待ってます。必ず無事に」


二人はお互いをまっすぐ見つめ合い──。


その様子に、少し離れた場所で見ていたエルフィナが興奮して飛び跳ねた。


エルフィナ(頬を赤らめてメイ=スケの目を手で隠しながら)

「まぁ〜♡ これは♡ 口と口がぁ〜♡ きゃー!もうすぐラブロマンスですわ〜♡」


メイ=スケ(冷静に)

「……自分の手で、自分の顔を隠してください。見えませんからぁ」


エルフィナ(完全に舞い上がってメイ=スケの顔に抱きつきながら)

「きゃ〜〜!これはもう〜!尊すぎますわぁ〜♡」


メイ=スケ(困り顔で押されながら)

「だからぁ……見えないんですって、エルフィナ様ぁ〜」


だがその瞬間──。


エルフィナ(残念そうにため息をつき)

「あっ……はぁ〜……いいところで……」


メイ=スケ(顔を覗き込み)

「どうされました?」


エルフィナ(悔しそうに地団駄を踏みながら)

「荷物を持った天使ちゃんが……ティナ=カクにぶつかってしまったのですわ……!」


メイ=スケ(あっさり)

「……さいですかぁ〜」


ティナ=カク(怪訝そうにこちらに向かってくる

「どしたんです? 二人とも?」


メイ=スケ(口を開きかける)

「エルフィナ様がのぞい……」


エルフィナ(慌てて遮って大声で)

「あーあー!! 喉が変ですわー! わぁー!」


(こっそり耳元で小声で)

「……スケ、あとでパフェ! パフェ食べに行きますわよ!」


メイ=スケ(すぐ反応して)

「はいっ!」


ティナ=カクは不思議そうに二人を見て、首を傾げるのだった。


女船長の船──甲板。

波を切る音と船員たちの掛け声の中、アーシアがふと視線を上げた。


アーシア(目を見開いて指差す)

「……あれは? ルイフェル様! あそこをご覧ください! 霧が立ちこめて……禍々しい気配がします!」


ルイフェル(鋭く目を細め)

「ん……!? あの影は……船か……?」


(視界の先には、濃霧の中からゆっくりと浮かび上がる巨大な影。その輪郭は確かに船の形をしていた。しかし、どこか歪み、異様な気配を放っている──)


ルイフェル(低く唸るように)

「ただの船じゃない……これは……」


アーシア(思わず一歩引きながら)

「ルイフェル様……!」



つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ