揺れる想い、動き出す航路
船出港前 ― 王宮玉座の広間
荘厳な柱が並ぶ王宮の広間。
玉座の上で王様がどっかりと腰を下ろしていたが、報告を聞いた瞬間にその顔色が一変した。
王様(身を乗り出して)
「な、なんじゃとー!? エルフィナが……国々を周って行くと!? それは……まことか!」
広間に緊張が走る。
密偵(片膝をつきながら)
「はっ! 間違いなく、そのように……!」
王様(顔を真っ赤にし、玉座の肘掛を叩きながら)
「エルフィナ〜! あの子は賢すぎて困る! わしに“いいよ”と言わせたのは覚えておるが……国々を周るとは、一言も言わなんだ!」
(王様の脳裏に、つい先日のエルフィナとの会話が蘇る)
──回想。
エルフィナ(にこやかに微笑みながら、裾をつまんで優雅に一礼)
「父上、決して大げさな旅ではございませんわ。あくまで近くの港町へ向かい、交易と文化交流の様子を確かめるだけの“親善の視察”ですの。戦いや遠出などではなく、ほんのご近所に立ち寄る程度のことでございます。どうかご安心くださいませ」
王様(当時の自分を思い返しながら頭を抱え)
「ほう〜、そうかそうか、それならば良いではないか……と、わしは言ってしまった……!!」
(我に返り、玉座から立ち上がって大声で叫ぶ)
王様
「……愚か者め、わし!! なぜ信じてしまったんじゃぁぁ!!!」
(両手で頭を抱え、しばし悶絶したあと、決意に満ちた顔で)
王様
「即刻、中止させるのじゃ!!!」
(広間の兵士たちがざわつく)
王様(声を張り上げる)
「テイト! テイトはおるか!?」
近衛大隊長テイト(颯爽と現れ、片膝をついて礼をする)
「はっ! こちらに」
王様(血走った目で)
「おぬし、エルフィナ達と仲良かったのー! 聞いておらなんだのか?」
テイト(真剣な顔で)
「はい。聞いておりません。嘘偽りはございません」
王様(しばし沈黙し、ギリと歯を食いしばりながら)
「そうかぁ……! よし、テイト! わしはおぬしを信用する! エルフィナの船出を阻止し、すぐにここへ連れて参れ!!」
テイト(片拳を床につけて)
「はっ! 御意」
王様(両目に涙を浮かべ、ポケットから取り出した小さなフィギュアをぎゅっと握りしめて)
「エルフィナよ……わしの大事な大事な宝物がぁぁ……! 危ない目にあわぬよう……頼むぞぉ、テイトぉぉ……!」
テイト(額に汗を浮かべつつ、心の中で)
(王様……その“宝物”のフィギュアを握りながら言うのはやめていただきたい……威厳が泣いております……)
王様(子供のように嗚咽しながら)
「必ずじゃぞぉーーー!!!!」
(玉座の広間に王の泣き声が響き渡る中、テイトは静かに立ち上がり、踵を返して王の間をあとにした)
――
⸻
馬車の中。
御者席に腰かけたテイトの横で、元・忍者のメイド服姿のサスケが腕を組んでいる。
テイト
「……今から港に行くぞ」
サスケ(首をかしげて)
「そうですか。理由は?」
テイト(深いため息をつき)
「はぁ……じゃじゃ馬姫が、またやらかしたらしい」
サスケ(片眉を上げて)
「……エルフィナ様、ですか。……また、ですか」
テイト(項垂れながら)
「そうだ……」
サスケ(メイド口調のまま冷静に)
「一回、しばいておきましょうか?」
テイト(慌てて手を振る)
「いやいやいや、だめだ! 絶対に!」
サスケ(涼しい顔で)
「そうですか。では……縛り上げて運ぶ程度で」
テイト(頭を抱えて)
「……おまえ、発想が物騒すぎるぞ!」
その頃、港では──。
エルフィナは少し離れた場所から、ティナ=カクとナリアの様子を目を輝かせて見つめていた。
エルフィナ(小声で両手を合わせながら)
「まぁ〜♡ 青春ですわね〜」
隣にいたメイ=スケが、のんびりと相槌を打つ。
メイ=スケ
「そうですねぇ〜。あの盗賊事件から、いい雰囲気ですよね、二人とも〜」
──ティナ=カクは顔を赤くしながら、ナリアの前でもじもじしていた。
ティナ=カク
「あ、あのですね……ナリアさん」
ナリア(穏やかに)
「はい!」
ティナ=カク(しどろもどろしながら)
「うーんと……いや、その……ははは……」
するとナリアはそっとティナ=カクの手を取り、自分の胸の前に持っていく。
ナリア(少し涙ぐみながら)
「……わかりますか? 私の胸の鼓動」
ティナ=カク(真剣に)
「はい。……わかります」
ナリア
「私は……あなたといると胸が高鳴って、暖かい気持ちになるんです。あなたがいないと……私は……私は……」
ティナ=カクは彼女を抱き寄せ、強く抱きしめる。
ティナ=カク
「ナリアさん。無事に帰ってきますから……!」
ナリア(頬を赤らめて)
「……はい。待ってます。必ず無事に」
二人はお互いをまっすぐ見つめ合い──。
その様子に、少し離れた場所で見ていたエルフィナが興奮して飛び跳ねた。
エルフィナ(頬を赤らめてメイ=スケの目を手で隠しながら)
「まぁ〜♡ これは♡ 口と口がぁ〜♡ きゃー!もうすぐラブロマンスですわ〜♡」
メイ=スケ(冷静に)
「……自分の手で、自分の顔を隠してください。見えませんからぁ」
エルフィナ(完全に舞い上がってメイ=スケの顔に抱きつきながら)
「きゃ〜〜!これはもう〜!尊すぎますわぁ〜♡」
メイ=スケ(困り顔で押されながら)
「だからぁ……見えないんですって、エルフィナ様ぁ〜」
だがその瞬間──。
エルフィナ(残念そうにため息をつき)
「あっ……はぁ〜……いいところで……」
メイ=スケ(顔を覗き込み)
「どうされました?」
エルフィナ(悔しそうに地団駄を踏みながら)
「荷物を持った天使ちゃんが……ティナ=カクにぶつかってしまったのですわ……!」
メイ=スケ(あっさり)
「……さいですかぁ〜」
ティナ=カク(怪訝そうにこちらに向かってくる
「どしたんです? 二人とも?」
メイ=スケ(口を開きかける)
「エルフィナ様がのぞい……」
エルフィナ(慌てて遮って大声で)
「あーあー!! 喉が変ですわー! わぁー!」
(こっそり耳元で小声で)
「……スケ、あとでパフェ! パフェ食べに行きますわよ!」
メイ=スケ(すぐ反応して)
「はいっ!」
ティナ=カクは不思議そうに二人を見て、首を傾げるのだった。
女船長の船──甲板。
波を切る音と船員たちの掛け声の中、アーシアがふと視線を上げた。
アーシア(目を見開いて指差す)
「……あれは? ルイフェル様! あそこをご覧ください! 霧が立ちこめて……禍々しい気配がします!」
ルイフェル(鋭く目を細め)
「ん……!? あの影は……船か……?」
(視界の先には、濃霧の中からゆっくりと浮かび上がる巨大な影。その輪郭は確かに船の形をしていた。しかし、どこか歪み、異様な気配を放っている──)
ルイフェル(低く唸るように)
「ただの船じゃない……これは……」
アーシア(思わず一歩引きながら)
「ルイフェル様……!」
つづく




