夢の中の天使と、浪費する悪魔
──光に包まれた世界。
アーシアは、目を開けた。
そこは見知らぬ草原。白い花が風に舞い、空は金に輝いていた。
その中に、ひとりの少女が立っていた。
銀に光る髪。自分とよく似た顔立ち。
でも、背中には──まばゆい翼。
「……あなたは、誰?」
少女は微笑み、唇を動かした。
だが、声は届かない。
なにかを伝えようとしているようだった。
でも、それは風に流され、霧の中に消えた──
「……っ!」
アーシアはベッドで跳ね起きた。汗が額を流れている。
「はぁ……夢……? でも、あの人……」
そのとき、足元にぬるりとした気配。
「……ウルワ?」
毛玉のような魔物──ウルワが、アーシアの顔を心配そうにのぞき込んでいた。
つぶらな瞳が潤んでいる。
「……ありがとう。大丈夫よ。ちょっと変な夢を見ただけ……」
ウルワがそっと、アーシアの頬をぺろりと舐めた。
「ふふっ……優しいね」
そう呟いたあと、アーシアはふと窓の外を見た。
陽が差し始めている。
「アーシアーッ!!」
部屋の外からルイフェルの怒鳴り声が響いた。
「おはようございます……どうされました?」
「このブーツ! 汚れた! 拭いたのにちょっと黒い! もうダメだ! 新しいのを買う!」
「拭いたの、わたしですけど……!? それに、昨日買ったばかりでは……」
「ダメなもんはダメなんだよ! 女のこだぞ、あたし!」
ルイフェルはすでに屋台の通りを指差していた。
「ほら見てみろ! ヒール付き、5cmアップの神ブーツ!」
「ぐぬぬ……!」
アーシアは財布を抱きしめ、頭を抱えた。
「せっかく……夜鍋して……布細工作って……」
その後──
アーシアが涙を浮かべながら、再び内職を始める傍らで、ルイフェルは新しいブーツを履いて、ポージングしていた。
「どう? これ、勝てる気しかしないわ!」
「なんで戦いじゃなくてオシャレ重視なんですか!? 魔物と戦うんですよ!?ねぇノーム様……!」
「ふぉふぉ……アーシア殿、聖女も苦労が絶えませんのぉ」
ノームはふよふよと浮かびながら、微笑んだ(ように見えた)。
そして、アーシアの脳裏に再び、夢の中の「少女」の面影がよぎった。
「……あの人は、誰? もしかして……私の過去に関係あるの?」
ふと、ルイフェルが振り返る。
「ん? なんだよ、難しい顔して」
「いえ……なんでもありません」
だけど、アーシアは知っていた。
自分の中で、何かが目覚めようとしているのを──